K7:フランスへ来たばかりの頃、これこれのミュージシャンがニュー・アルバムを出した、コマーシャルでやってる、という場面をテレビで見ると、決まって「CD:○○フラン」「K7:○○フラン」と出ている。「K7」って、いったい何だ? Kはフランス語では「カ」、7は「セット」と発音する。これでわかるだろう。カセット・テープのことなのだ。実にくだらない語呂合わせだが、これがけっこう市民権を得た表現で、有名店舗でもカセット売場にはK7と書いてあることがある。 その一方で、電化製品の単語は全然簡単にしてくれない。日本語ならビデオと言えば、テープのこともデッキのこともカメラのこともあるのだが、フランス語では、デッキは必ず「マニェトスコープ」と言わなければならない。ちなみに、ヘッドホンは「カスク」という。これは兜・ヘルメットのことである。

2000年と1999年:突然だが、世紀末である。あまり実感はないが。エッフェル塔の正面には、「2000年まであと○○日」という大きなカウントダウンが出ている。日本で言う2000年と、カトリックの国での千年祭(ミレニアム)とでは、やはり意味合いが違う。ぼくは2000年をこの国で迎えることになるが、さてどんな大騒ぎが待っているだろうか。何しろ普通の大晦日でも殺人的騒ぎなのだ。去年の大晦日はシャンゼリゼにいたのだが、人混みなのに爆竹ははじける、花火は飛ぶ、ワインの瓶が空を飛んでは落ちて割れるし、シャンペンは降ってくるし、恐ろしいものなのである。ところで、1999年というのは英語で言うと「ナインティーン・ナインティナイン」と、たいへん語呂がいいのだが、フランス語では「ミル・ヌフサン・キャトルヴァン・ディズヌフ」という。フランス語では90という言い方はなく、80+10というのである。19という言い方もなく、10+9というのである。さらに80という言い方もなく、4x20というのである。だから、4(キャトル)x20(ヴァン)+10(ディス)+9(ヌフ)=99となる。なんじゃこりゃ、という感じである。

パリの地名:パリは世界の中心であるから、パリには世界がある。この発想はすごい。どういうことかというと、ヨーロッパの都市は多かれ少なかれそうなのだが、通りの名前に世界の地名を付ける。世界の人名を付ける。だから、イタリア広場があり、マドリッド通りがあり、ジョルジュ・サンク(イギリス国王ジョージ5世)があり、ガリバルディがあり、ビル・アケムがある。人名の方は、聖人以外ではさすがに自国人が圧倒的に多い。パリも含め、フランスの街では、一番広い通りが「ビクトル・ユゴー通り」であることがしばしばある。外国人は芸術家が多く、うちの近所にはバルトーク広場とかカザルス公園とか、音楽家が多い。他には戦勝がらみも多いようだ。ところで、こちらではあらゆる小道、袋小路に至るまで必ず名前が付けられているが、パリ名物・犬の×××だらけのしめった裏道に自分の名前を付けられた人々は、さぞかし無念だろう。

アッシュ(H):フランス語ではHは発音しない。ホテルがオテル、ヘンリーがアンリになるのを見ての通り。これが日本人の名前だといろいろこっけいなことになる。知る限りでは、「橋本さん」は「あしもとさん」、「花子さん」は「あなこさん」、「日立」は「いたち」、最近、日本から来たお客さんで「ひびきさん」という人に会った。この人はフランスでは「いびき」と呼ばれてしまうわけだが、本人は知らぬが「おとけ」というやつだ。かようにフランス人はHを読む習慣がないが、実は読まないのではなく読めないのだ。外国語ではHを発音しなければ、とわかっていても、本当に発音できない人がすごくいる。というわけで、Hを発音しにくそうに話せば、あなたもちょっとフランス人を気取れるというわけだ。(しかし「マイ・フェア・レディ」のロンドン下町階級も同じだった気がする)

モガンとエーヌ:上の記事とも関連するが、外国人名を自分の国の読み方でするのは、フランスに限ったことではない。言語に関連してわれわれが一番苦労することの一つである。モガンとは誰か。サマセット・モームである。英語でしばしば飛ばすghをそのまま読むのでこうなる。アンリ・エーヌとはハインリヒ・ハイネである。これは最も変わり果てる例として有名である。ただし、実はハイネは結局フランスに帰化した人物で、だからエーヌが本当だと言えなくもない。同様の事はオスカー・ワイルドにも言える。彼もいろいろあって故国を離れ、パリで死んだ。デザインも大きさも異常な墓が、やはりペール・ラシェーズにある。彼はフランスでは「オスカル・ヴィルド」と呼ばれる。同じ場所に墓があるショパンは、逆にフランス語読みが日本に入った例である。「ド・ヴァンシ」はわかるだろうか。これは前に「レオナール」を付けるとわかる。ダ・ヴィンチのことである。もちろん、現在は母国の読み方を尊重するのが普通である。誰もアメリカの大統領を「クラントン」をは呼ばない。でもスポーツのチャンネルとかだと、アナウンサーのレベルにもよるのか、変なことも起こる。F1のシューマッハーは「シューマアー」と、つぶれたシューマイのような呼び方をされている。日本のゴール・キーパーは「カワグシ」という人だそうだ。ぼくが初めて聞いたとき、見当も付かなかったのが「メヌーミ」。まさかこれが「舞の海」だとは・・・。

10+10=20:ずいぶん前に聞いた、非常にくだらない話。最初聞いたときは、なまじフランス語を知ってるがゆえに、ぼくは大笑いした。フランス語みたいに聞こえるギャグ、というもので、「10と10で20(ジュトジュデ・ニジュ)」「イカ10本、ゲソ10本(イカジュポン・ゲソジュポン)」。

卑弥呼さま:ラテン系の言葉を初めて学ぶ人が驚くことのひとつに、あらゆる名詞に性別がある、ということがある。これはありとあらゆる場合に付いて回るので、たいへんやっかいである。慣れると語尾でおおよそ見当は付く。「男性らしい」あるいは「女性らしい」語尾、というものがあるのだ。これは名前、すなわち氏名の「名」の方、フランス語で言う「プレノン」でよくわかる。ジャンの女性形はジャンヌであるし、クロードの女性形はクローディーヌである。ミシェルとかパスカルというのは男にも女にもいて、カタカナだと同じになってしまうが、フランス語で書けばおのずから区別がつくようにできている。どうしても区別できないのもいくつかあって、一番多いのがドミニクという名前。 聞くところでは、近年、特に女の子に名前を付けるとき、一目で女性とわかるような、短くてかわいらしいものがはやっているらしい。人気があるのがソフィー。逆に、はやらなくなった「いかにも古くさい名前」も存在する。こないだその話になったとき、興味があったので、フランス人の女性に例えばどんな名前か聞いてみた。ぼくもある名前を念頭に置いた。そしたら、ぴったり一致したのでおもしろかった。その名は「ジュヌヴィエーヴ」。こりゃ確かに重いよなあ、古風だよなあ(笑)。ぼくもジュヌヴィエーヴという女性はひとりも知らない。確か「シェルブールの雨傘」のヒロインがこの名前だったと思う。ちなみにサント・ジュヌヴィエーヴというのは、他ならぬパリの町の守護聖女である。参考までに、男で古くさい名前ナンバー・ワンは、あくまで彼女の主観だが、「アレクサンドル」だそうだ。これも何となくわかる(笑)。

:ぼくのパソコンはフランスで買ったものなのだが、ひとつたいへん苦労していることがある。実はフランスのキーボードの文字配列は、英語の標準、そしてそれは日本の標準でもあるのだが、それと違うのである。具体的には、AとQ、ZとWが逆になっている。あと、MがLの右にある。記号類は全然違うのだが、文字に関してはそれだけである。ぼくの場合苦労がさらに多いのは、日本語で立ち上げた時は、これを日本のキーボードと見なさなければならない、ということである。つまり、Aを打つ時はQを打たなければならない。ぼくはフランス語も使うので、自分が今何語を打っているか、常に指に意識させなくてはならない。 さて、たいへん打ちやすい場所にQがいるのは、フランス語ではQをよく使うからである。例えば、英語ならCで済むケースで、QUEになるのが多い。MusicはMusiqueになるのである。逆に、英語ではWは頻繁に使うが、フランス語では外来語でしか使わない。だから左下にあるのだろう。

:(上からの続き)フランス語を叩いていて何が腹立たしいかというと、文字数がやたらにあるのに読んでみるとべらぼうに発音が短い、ということである。こんなにいっぱい書いたのに読んだらそれで終わりかよー、というこのむなしさ。上のMusiqueを見ると想像つくだろう。おまけに、書いても読まない字が山のようにある。読まないなら消しておけ、と言いたいのだが、フランス人のことだから何百年もほっておいたのだろう(笑)。「ポトフ」という短い言葉が「ポ+オ+フ」という3つの単語からできてるというのが信じられるだろうか。おまけに単独で「ポ(pot)」なら読まれない最後のtが、次の母音とつながって生きてくるのだ。「クーデタ」も「クー+ド+エタ」の3語である。極めつけは有名な「ケスクセ」。「これは何ですか」という超初心者フレーズだが、これは「ク+エ+ス+ク+ス+エ」という実に6つの単語からできている(Qu'est-ce que c'est?)。どうしてこんなになるまでほっておいたんだ、と言いたい。

シャネルの5番:常々不便に思うことは、フランス語の単語の短さ。日本語の五十音に対応する単語が、すべてあるような気がする。つまり、「キ」やら「モ」やら「ベ」やら「ポ」やら、一音節の単語が多くて、これを速く話されたらなかなか聞き取れない。鼻が「ネ」で目が「オ」だと言われても、ちょっとなあ、という感じである。で、腰は「キュ」だって? 短すぎる・・・。 ぼくの前の家は、日本語で書くと「グルネル河岸」。セーヌに面しているので「通り」ではなかった。これを日本の人に言うとき、なかなか1回で伝わらなかった。河岸、は、フランス語で「ケ」(笑)。「ケッ・グルネル」と言っても、「は?」という反応が返ってくる。ちなみに、この単語は駅のホームにも使う。「3番ホーム」なら、quai 3 である。だけど、これを「ケの3番」と読まないでほしい(笑)>うちの奥さん。