「ニュートンズ・ウェィク」ケン・マクラウド ハヤカワSF文庫<SF1575> 2006.8 原作2004
amazon.co.jp「シンギュラリティ・スカイ」(ハヤカワSF文庫<SF1567>)とともに、特異点(シンギュラリティ)を下敷きにした作品らしいというのは早川書房の作品紹介でわかる。科学技術の集積がある段階で突発的で巨大な変質を人類社会にもたらすことを特異点と呼ぶようだが、2作品にそれ以上の共通点は無い。とはいえ特異点の発生が21世紀初頭付近だから、ワームホールだとか時空円錐だとか生命延長だとかに関係したガジェットが扱われる点では似てしまう。
人間の価値基準や考え方までが変わってしまうのが特異点。不死で、超光速飛行ができて、どんな道具や食物も簡単に作れて、人間のコピーや合成もできるとなれば、変質は容易に予想できる。ともあれ、これまでSFが予想していたような楽しい道具がなんでも取り出せるところが特異点のすばらしいところ。
とはいえ、予想のつかない変容をもたらすのが特異点の本質だから、その未来を描くことは特異点前の世界に身をおく読者にとってはほとんど意味を持たない。つまり、読者と共通する価値観を持った人間は、特異点後の宇宙においては完全に時代遅れで、存在しないはず。
そこが作品作りの難しいところで、登場人物の持つ価値観は当然ながら読者に近い。その結果何が起きるかは2つの作品でまるで違っている。でもってこの2つ以外の結末は私には予測できないから、この2作品は特異点後の世界を描いた典型的な作品と言うことができる。それが楽しいかどうかは別問題だが。それはともかく、なかなかすてきな癖のあるカーライル一族の描写を軸にして展開するなんでもありの宇宙活劇は読み飛ばすのには適している。2作品を比較すると私はこちらの結末が好き。
稲妻みたいな矢印を持ったファインマンの表象は「ファインマンさん最後の冒険」の56ページにある。
初稿:2006.10.7