「ドゥームズデイ・ブック」コニー・ウィリス ハヤカワSF文庫<SF1437>、<SF1438> 2003 原作1992
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amazon.co.jp (上) (下)この世界ではパラドックスの無い時間旅行が実現している。時間旅行者を過去に送り込もうとすると、自動的に送り込み先がずれて、旅行者はパラドックスを起こさない時刻に出現することになる。
この場合のパラドックスとは何か。例えば、歴史上の有名人物を本来まだ生きているはずの時間で殺してしまうと、未来自体が変化するのでパラドックスだ。
しかし、歴史に残らず近いうちに死んでしまうような人の前に、時間旅行者が現れて話しかけても、未来には影響しないからパラドックスとは言えない。さて、これで良いだろうか。パラドックスの判定とは人間の記録のあるなしによるのだろうか。時間旅行者は、過去の空気を吸い、食物を食べる。なにがしかの物質を放出するとともに、原子や分子の位置を移動させる。
精密な記録装置が宇宙全体の原子配列を記録しているなら、時間旅行者の登場の前と後で宇宙は変化したことになるのではないか。それに、機械装置であるタイムマシンが、人間が保有する知識の状態によって、旅行先をずらすというのでは説得力が不足している。そうなると、パラドックスを起こさない時間旅行とは、もともと歴史の中に時間旅行者が存在する時間旅行のことになる。ある人物が時間遡行するのは、かつてある場所と時間に、その人物が存在したからに他ならない。キヴリンが14世紀に時間遡行したということからは、すでに700年前に明らかになっていた運命に従って21世紀でキヴリンがタイムマシンに乗り込んむということが必要になる。
そのように、パラドックスを起こさない時間旅行は運命の唯一性を証明するものに他ならない。過去である14世紀の人たちだけでなく、未来にある21世紀の人たちも同じ運命の手の中にあることになる。
そんな設定を持った物語を楽しく読むことができるだろうか。私が楽しんだのは、各種の小技。当初に投げかけられる、時間旅行の状況を表すフィックスの数値のどこが異常だったのかとか、あの疫病はどこから来たのかとか、なぜキヴリンの座標がずれてしまったのかとか。14世紀に猛威を振るった黒死病の状況について、知らない人なら興味を覚えるんでしょうけどねえ。
初稿:2003.4.30