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SFして考よう



 「スターシップ〈2〉海賊」マイク・レズニック ハヤカワSF文庫<SF1750> 2010.3
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はごたえ:やわらかめ
あじつけ:淡白だが深み
そざい :宇宙海賊 商売

 軍人から宇宙海賊に転じた一行だが、義侠心の強さがあだで無辜の市民を襲うわけにはいかない。一計を案じてお宝を手に入れたものの胡売屋との交渉は思うようにいかない。


内容について
 宇宙は広く、獲物を見つけるのも大変なら、それを追い詰めるのもまた大変。肉体派の悪い宇宙人と頓智対決のウィルソン・コール。

この本にもとづく随想
 素人海賊が難しいというのはよくわかるが、それがそのまま面白い物語になるかというと、そうではない。超兵器の対決ではなくて頓智になってしまうのがレズニックの持ち味ではある。そのほうが(相対的な意味だが)現実味はある。
 (2010.4.29)

 「オペレーション・アーク〈3〉 セーフホールド戦史」デイヴィッド・ウェーバー ハヤカワSF文庫<SF1746> 2010.2
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はごたえ:やわらかめ
あじつけ:潮風味
そざい :海戦、文明復興

 ついにチャリスに襲い掛かる連合ガレー艦隊。迎え撃つのはガレオンと、偵察衛星。


内容について
 チャリス側も十分な数のガレオンを用意できなかった点では、力が拮抗している。相手の位置がわかると、戦闘はとても有利に。

この本にもとづく随想
 準備が行き届かないところは、作戦と、政治的配慮がものをいう。読みどころは国民の信頼をつなぎとめるための対応にあるかも。
 (2010.3.1)

 「彷徨える艦隊〈5〉戦艦リレントレス」ジャック・キャンベル ハヤカワSF文庫<SF1740> 2010.1
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はごたえ:ふつう
あじつけ:適度な香辛料
そざい :宇宙戦艦隊、よみがえる英雄

 故郷星域へと近づくギアリー率いるアライアンス艦隊。艦隊内の反対者がついに直接的な破壊工作。シンディックの主要艦隊をほぼ壊滅させ、もはや帰還のための資源はぎりぎり。


内容について
 シンディック領域をさまよい進む宇宙艦隊。できすぎた、単純そうな設定で、それでも政治やら内部規律やら敵性宇宙人やらと話をつなげてこられるのはすごい。完結まであと1巻のはず。

この本にもとづく随想
 ハイパーネットの安全確保のあれは、ちょっとできすぎ。資源を使い果たしてなお敵予備艦隊を撃破できるのかと心配させておいて、なるほどそういう展開もあるのかと妙に納得。
 (2010.1.16)

 「オペレーション・アーク〈2〉 セーフホールド戦史」デイヴィッド・ウェーバー ハヤカワSF文庫<SF1737> 2009.12
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はごたえ:硬軟
あじつけ:田舎風
そざい :海戦、文明復興

 燃焼機関や電磁波の利用が禁じられた世界でも、技術改良の余地はある。マーリンはチャリスに新規技術を与える。チャリスの革新技術を恐れた他国と教会が図り、対チャリス包囲の動きが広まる。


内容について
 マスケット銃や火縄をどう変えるかとか、ガレー船に対するガレオン船の優位は何かとか、ガレー船をガレオン船に変えていくとどんな問題が起きるとか、軍事技術史の講釈が入る。
 国家間の確執と陰謀が進む。

この本にもとづく随想
 戦争は技術革新によって常にそのあり方を変えていく。これに国家戦略を絡めて、文明復興と宇宙からの脅威を加えた歴史的戦略SF。技術、戦争好きなら楽しくなる。
 (2010.1.3)

 「新任少尉、出撃! 海軍士官クリス・ロングナイフ」マイク・シェパード ハヤカワSF文庫<SF1736> 2009.12
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はごたえ:幅があるがやわらかめ
あじつけ:ありふれた中に独自風味
そざい :植民惑星、軍事

 表紙の印象よりはもう少しおとなのミリタリー。


内容について
 新任少尉のクリス・ロングライフが出撃。まあタイトル通り。惑星政府の政治・軍事における名門家系に生まれたクリスであるから、政治の裏事情を知り、軍の情報ネットからも知る立場に無い情報を得られる。活劇の主人公としては恵まれすぎで、そのせいでお話が進むが、それでもなお自己の決断が必要な状況になる。
 あちこちで異なる任務に就くが、ばらばらのお話ではなくて、全体を通じてあきらかとなるまあその。

この本にもとづく随想
 日本の戦闘ゲームは、主人公の成長が主題で、アメリカの戦闘ゲームは戦場と向き合うことが主題だなんて書いてあるゲーム評を読んだばかりだが、このお話は主人公成長型。平時におけるリーダーの姿勢が、戦闘の結果に大きく影響するなどというのは一般社会的教訓としてもなかなか良いですね。
 (2009.12.19)

 「オペレーション・アーク〈1〉 セーフホールド戦史」デイヴィッド・ウェーバー ハヤカワSF文庫<SF1734> 2009.11
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はごたえ:ちょっとがさつく
あじつけ:お袋の味を売りにした都会料理風
そざい :文明復興、調整者

 破壊された人類文明。孤立した植民惑星。長期的課題。使命を担った生存者。戦争。
 はじめからそれがやりたいのだろうと見当はついたが、100ページでここまで持ってくるのは豪腕。最初から死ぬ運命にあった、いち准佐がやけに書き込まれていると思ったら、なるほどそういう展開ですか。


内容について
 惑星植民地を抱える地球連邦は異星人の攻撃の前に滅亡寸前。人類を滅ぼさないためのオペレーション・アークが発動。人類が存続する惑星セーフホールドだが、これを見守るはずの宇宙軍は意見の相違から壊滅してしまう。8世紀が経過し、国家間の軋轢が高まる。
 本の帯には全3巻とあるが、それはたぶん「オペレーション・アーク」のことで、セーフホールド戦史はまだ続くように思える。
 原書が出たのは2007年ということだから、著者の最新作に近い。

この本にもとづく随想
 ウェーバーとくれば、オナー・ハリントンだが、有無を言わさぬ宇宙規模の侵略者とくれば著者のデビュー作「反逆者の月」の主題だし、失われた植民地で立ち往生した宇宙文明代表が戦争指導するのは「反逆者の月3」。
 デビュー作と違うのは、植民地側の精神文化的発展を含めているところか。精神文化の発展が宗教的各種の試行錯誤に限定されているように書かれているのはちょっと心配。宗教に比べて期間は短いものの哲学の系譜も忘れて欲しくない。
 (2009.11.26)

 「ベガーズ・イン・スペイン」ナンシー クレス ハヤカワSF文庫<SF1704> 2009.3
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 ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞作を含む短編集。それぞれはけっこう長い。

おすすめ度:★★★
 私の好みからは外れる。遺伝子操作から生まれる超人類とか、不可思議な地球外知性体との戦いとか、日常の発想からはちょっと出てきそうもない可能性を示すという点ではおおいに感心したが、物語の結末が社会的連帯意識の確認だったり、社会的制約からの離脱困難の確認だったりと、日常性への回帰に向いている。
 現実はそれほどにキビシイもので、まあ辛口で現実味が強く取り込まれているといえば良い評価にもなる。期待するものによっては不完全燃焼を感じるかも。ものごとへの新鮮な視点に読書の重点を置くひとにはお薦め。

この本にもとづく随想:
 スペインの乞食たちというのは、貧しい国で他者からの施しにすがっているひとたちはこの世のどんな役に立つのだという、豊かな側から見た問題提起。”やつらは何の役にも立たない”というときの”役”はある種の価値基準の提示なので、つまり優越する側の価値基準を劣勢な側に押し付けている。
 押し付ける側はしばしばそれに気付かないのだが、押し付け側に超人類を置いて、押し付けられる側に旧人類を置く。これでSFになるためには何が必要かというあたりで作者に共感するかどうかが作品の評価に直結する。
 (2009.4.24)

 「スターシップ-反乱」マイク・レズニック ハヤカワSF文庫<SF1706> 2009.4
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 おんぼろ宇宙艦に降格して着任した英雄ウィルソン・コール。乗組員のすべてが勇敢ではあるが何らかの経歴上の問題を持っているという。
 さすがはレズニック。ありそうもない設定ではあっても、戦闘直前の宇宙艦で艦長が死亡したところで冷凍状態から100年ぶりに目覚めたかつての英雄、なんていうよりもよほど納得しやすい。
 問題は、何も起きそうにない辺境星域でどんな事件があるのかだが、ここはちょっと難しい。タイトルにあるとおり、いずれコールが反乱を起こすのであろうと期待しながら読み進んだが、わりと軍務に誠実な対応が続く。

おすすめ度:★★★★
 そつのない展開だが、だからどうしたというところも。著者の作品化の大部分が含まれるバースライト・ユニバースの一部。この主題であと4冊書かれているらしい。

この本にもとづく随想:
 宇宙史もの、と言っても全体を貫く強い考え方があるわけではなく、まあいろいろあるよねというのがバースライト・ユニバースだと思う。シリーズの一部という効果は、本の作品世界の状況がいくらか他の作品と照らして理解しやすくなるという程度。
 作品に何を期待できるかと言えば、単品としての面白さだが、これはどちらかというとレズニックが好きかどうかによりそう。破綻したところは特にないから、読むのも良いでしょう。
 (2009.4.13)

 「真紅の城砦―新訂版コナン全集〈5〉」ロバート・E. ハワード 創元推理文庫<F ハ-1-15> 2009.3
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 新訂版コナン全集5。あとひとつで全集完結。王となったコナン。おなじみの戦いと勝利。

おすすめ度:★★★★
 コナン作品を作品世界の時系列に並べて全集とする今回の試み。コナンはついにハイボリア世界の王となった。
 もともと時間的にばらばらに発表されたコナン作品を、作品世界の時系列に並べなおして全集とする今回の試み。同時的に作品に触れられなかった読者としてはそれこそが同時的に作品を読んできた読者と同じ視点に立つ最適な方法と思える。
 今回はついに王となったコナンの活躍。

この本にもとづく随想:
 もともとひとり働きの戦士が王になってどうなることやら。一時には海賊の首領をしていたこともあったが、部下は全員死亡なんてこともあった。それでも意気盛んで略奪やら襲撃やらをしていたコナンが、国を率いてどうなるかと思っていると、たちまち陥る個人的危機。
 軍団を率いて戦争やら防衛やらに気を配るのもつかの間、みずからの膂力を頼りに危機を打開する必要があるのは、やはりコナンなところ。

 剣(肉体?)と魔法とはなるほどこういうものかと、時代の力強さを感じる。

 (2009.4.7)

 「銀河北極 レヴェレーション・スペース 2」アレステア・レナルズ ハヤカワSF文庫<SF1645> 2007.12
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 レヴェレーション・スペース完全版短編集の後半。「カズムシティ」で描かれた事件を契機に人類史は後退局面へ。そんなわけで、時代が進んでもかわりばえしない社会がだらだらと続く。そのぶん凝った(微細な状況の差が結果に大きく影響する)事件もあるようで、前半の短編と同じようなできばえの作品群が続く。

おすすめ度:★★★
 レナルズの作品がどんなものかは、短編集第1巻で大体見当がつきそう。あれが好きならこちらも好きになれると思うが、飛びぬけてすごい話があるわけでもない。

この本にもとづく随想:
 「カズムシティ」は人類発展の契機ではなくて、停滞の契機だったらしい。遠い将来を扱ったこの本の最後の(今のところ宇宙史の最後の)作品と、最近の人類発展振りがかみあわなくて、どこかに後退期を入れないとつじつまが合わなくなった、という事情はわかるが、私としては認識がさらに深まっていく世界を期待したい。同じ未来史に含まれなくてもいいのだから、そうした作品ができたようなら思わず”買い”なんだけどねえ。
 (2008.2.2)

 「火星の長城 レヴェレーション・スペース 1」アレステア・レナルズ ハヤカワSF文庫<SF1630> 2007.8
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 レヴェレーション・スペース完全版短編集の前半。レヴェレーション・スペースは啓示空間で、別に「啓示空間」という長編があって、要するに舞台を同じくする宇宙史。もう一つの長編「カズムシティ」に至るまでの短編が収められている。
 「啓示空間」にも「カズムシティ」にも読み辛そうな印象を持ったが、これはこの手の長編がシリーズとして特定の前提を置かないと理解しづらいということにもよる。レナルズの長編を読む前提として、手に取った。

おすすめ度:★★★★
 レナルズ入門としては、たぶん最適。この第1巻だけを読めば「啓示空間」も「カズムシティ」も読む準備が整ったと言えそう。但し、私はこの手のごちゃ混ぜ宇宙は好きでないから、よほど読む物が無い状態にならない限り手を出さないと思う。

この本にもとづく随想:
 作品「火星の長城」で、情報機械と人間精神の融合が人間の認識に何をもたらすのかという思弁が、作品の主題になっているのは私としては大いに楽しめる。この時代はまだそうした融合が始まったばかりだから、ほんのわずかな最初の変化だけが取り上げられている。この調子で、時代が下るにしたがって起きる巨大な変化まで描かれていく(その上で読者の支持を得ている)のならば、すごいことになるなあと期待を持ってしまった。
 短編集全体としては、そうした歴史の大きな流れに沿った人間精神の変化を扱うのではなく、時々の技術と生活の乖離がもたらす登場人物の葛藤が描かれる、ということで大きな歴史的流れとはあんまり関係ない宇宙小話。最後の話「ダイアモンドの犬」は構成も良くできているしガジェットも楽しいのだが、誰が何のために作ったかわからない”試練の塔”が登場という最初の設定からうかがえる、面白ければなんでもありという姿勢は評価できないなあ。

 最後の作品は長編「カズムシティ」と時期がかぶっていて、これがどうやら人類史の転換期であるようだから、この後は思弁性の高い作品が数多く登場ということになるのかもと期待しつつ第2巻へ。

 (2008.2.2)

 「盗まれた街」ジャック・フィニイ ハヤカワSF文庫<SF1636> 2007.9 原作1955
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 作品の映画化に伴う再出版。1950年代のアメリカの町を襲う宇宙からの侵略。迎え撃つのは結婚に一度失敗した、中産階級のおじさん(と美人で幼馴染でやはり離婚暦のあるおばさん)。
 ひそやかに侵攻する異形の生命体を相手に、そして何も変わりませんでしたという定番の結末に導くことはできるのか。

おすすめ度:★★★
 古典です。定番です。他の作品を読むための前提になります。

この本にもとづく随想:
 火星人よりも恐ろしい相手に、太陽系を越える宇宙的なスケールを背景に、襲われたある街。というか、他でも似たような街があちこちで襲われていたようだが。
 それにしても、すでに人間社会に深く浸透した侵略者たちを相手に、いったい何ができるのか。
 でもって、襲われたのがイギリスではなくてアメリカだったのが良かったのかもしれないなあ。文化的背景が無いと結末に納得するのは難しいかも。
 とはいえ、ウェルズの二番煎じでは誰も納得しないところで、似たような始まりと、似たような終わりでありながら、全然違った物語にするというのはやはり偉業というにふさわしい。
 (2008.1.30)

 「軍犬と世界の痛み―永遠の戦士フォン・ベック〈1〉」マイクル・ムアコック ハヤカワSF文庫<SF1632> 2007.9 原作1981
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 17世紀、キリスト教徒であり、前の歩兵団長、二挺拳銃(1発撃つと弾込めが必要)の使い手、ウルリック・フォンベックはルシファの手下として聖杯の探索におもむく。
 特に邪悪でもないフォン・ベックがなぜ地獄の主ルシファに見込まれたのか、その理由は不明ながらも、フォン・ベックに対するルシファの説得力はさすが。著者のメッセージはむろん聖杯の正体に反映されているが、いくらかあからさまに過ぎる。
 リアリティの強い(我々の世界と論理の多くを共有する)世界で、永遠の戦士がどうやって活躍できるのかが見ものだが、と言ってもちょっと現実から隠れたところに普通の人間には見えない世界が広がっている、というのは好き嫌いがありそう。

おすすめ度:★★★★
 永遠の戦士が、どこへどう行き着くのかを知るにはフォン・ベックの運命を見極めることが大事かも。

この本にもとづく随想:
 地獄の公爵アリオッホは、この地獄の階層では当然ルシファの下位に位置づけられる。そしてまた、ルシファを地獄行きにした神もまた世界の中に組み込まれる。そのあたりを永遠の戦士全体に対して、どう整合させていくのか、アリオッホとは一味違うルシファの邪悪さがどう表現されるかというのが読む前の期待だ。
 歴史小説は、その時代に生きた人の価値観をいかにもな形に(かつ、現代の読者にウケるようにして)描き出さなくてはならないから、作品としては難しい。その意味ではフォン・ベックの全体像はいかにも現代人的だが、それがまた彼がルシファに見込まれる原因の一つだから、ある種の突然変異(あるいは永遠の戦士の家系の特徴)なのだろう。
 その他の人物も開明的過ぎるようだが、まあやむをえない。私の興味は、他の戦士たちの世界とこの作品世界がどうつながるかに集中する。
 全体として破綻の無い構成は、さすがに著作に慣れきった頃のムアコックと思うが、いくらか力技が過ぎるところも。テーマ性の強い作品だからそれもやむをえない。

 特別な超能力もない、いわゆる普通の人間が、どう地獄の神々とその使徒たちと伍していくのか、そのあたりが楽しみどころ。

 (2008.1.30)

 「雄牛と槍―永遠の戦士コルム〈2〉」マイクル・ムアコック ハヤカワSF文庫<SF1641> 2008.1 原作1973、1974
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 コルム後半三部作。リンの眼とクウィルの手という、圧倒的な魅力の仕掛けもなく、あらたなコルムの冒険がありうるのかという不安を感じる後半三部。
 未来からの召還に応えてあらたな戦いに挑むコルム。今度の相手は神ではなくて、異形の存在。それでも人間の力ではとうていかなわない。地精の助けを借りた戦いの行方はいかに。

おすすめ度:★★★★
 前半三部作についで良くまとまっている。永遠の戦士のありようがほの見える。

この本にもとづく随想:
 コルムの動機はもはや私闘ではない。やみくもに戦いと、人類の救済を求めてみずから召還に応じる。戦うことを自分の運命と定めて戦うヒーローというのはなにか怪しい。

 ものごとは予定調和的に、魔法の道具やら、異世界の生物やらを巻き込んで、危機に陥るコルムを都合よく助けていく。それこそがアイルランド神話の面白さと、楽しむべきところ。それでもコルムがいなければ物事はうまく働かないのであるから、コルムこそが事態を変化させるかなめの存在だ。それこそが永遠の戦士なのか。何か大きな変化が必要なとき、その変化を実現させるべく何者かによってそこに置かれ、不要になれば取り除かれる。

 戦い続ける宿命を担うとはまさにそのことであり、それを知りながらも自分の意思を通すものこそ永遠の戦士の条件にかなうのだろう。

 世界がどうあろうと自分の行き方を通す、それは美しいが、戦いこそが仕事というのでも良いのかなあ。

 (2008.1.27)

 「剣の騎士―永遠の戦士コルム〈1〉」マイクル・ムアコック ハヤカワSF文庫<SF1641> 2007.11 原作1971
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 コルム前半三部作。混沌の神々を、騎士、女王、王の順番に倒していくという主題がはっきりした構成の永遠の戦士。行き当たりばったりに書き継がれるエルリックとは対照的。そのぶん著者の表現したい世界が良くわかる。
 ムアコックが魅力を感じる神話的・伝奇的世界にどっぷりとのめりこめる。作品全体の鍵になるリンの眼とクウィルの手の怪しさが嬉しい。

おすすめ度:★★★★
 ムアコックの作品の中では美しくまとまっている。美しければ良いというものではないけど。

この本にもとづく随想:
 人間の挑戦を受ける神々、はある種の自然力の源泉としてあらわされ、ひとは実体不明のちからを神に仮託することで、それに挑戦しやすい条件を作り出す。この意味で神はひとの想像力の産物であって、強大な力を持つとは言っても、いったん具現化してしまえば打倒されることもある。
 ムアコックが作品中にほのめかすように、混沌の神々も人間が作り出した存在なのかもしれない。打倒できる相手とはいえ、それができるのはやはり半神的な者であって、しかも打倒する側として人間的な条件を備える必然がある。

 人間が神を打倒するには、さまざまな条件を整えなくてはならない。時には、怪異の助けを借りることも。この結果、神を倒すという大きな目標を達成した側も、相応の犠牲を払うことになる。その犠牲を覚悟しながら、やはり神を倒すという目標をあきらめられない強い動機が倒す側には必要だ。
 この三部作でのコルムの初期の動機は、個人的復讐と同族探しであり、世界の救済などという高邁なものではない。それがいつのまにか複数の次元界を神々の支配から解き放つ結果にまでつながる。
 コルムは私闘を通じて、本当の相手は敵を作り出した宇宙の根幹に関わるものであることを知り、最終的には宇宙を救う役割を果たすことになる。

 むかしばなしに源泉を持つ物語のおもしろさは、ドミノ倒しに似た形でものごとが動き始め、ついに思いもよらぬ結末に至るところ。ドミノがあますところなくすべて倒れ切って、静かな美しい形が残されているというのがこうした物語の完成度を評価する基準になる。ムアコックの作品の中でも、その意味で特によくできた作品だと思う。

 (2008.1.27)

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