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- 惑星バラヤーを統治する貴族階級であるヴォルの一員、マイルズ・ヴォルコシガンをを巡る物語。
人間の居住惑星がワームホールでつながり、独自の文化を持つようになった上に、相互に軍事対立している。マイルズは持ち前の機略を使って、バラヤーの利益に貢献していく。シリーズと言っても、最初の4冊は歴史的背景を同じくするそれぞれ主人公が違う物語。物語が書き継がれるうちに、マイルズが活躍する話が増えて全体の主人公になってしまったということだと思える。
ところで、マイルズは肉体的にひ弱で、宇宙活劇の主人公としては異色だ。母親のコーデリアが妊娠中に毒ガス攻撃を受けて、解毒剤の副作用のせいで、背が低くて骨がもろくなってしまった。数メートルの高さから飛び降りただけで、確実に骨折してしまう。そのために知略を使っての活躍が光る。
とは言っても肉体的戦闘に巻き込まれないわけでもなく、肉体的な不利はかえって物語の緊迫感を増す効果を与えている。
- 不幸を背負うマイルズ
- マイルズは自分の存在意義に悩む。領民に対して責任を持ち、惑星の軍事階級として働かなくてはならないにもかかわらず、鍛えられた軍人としての一般的な貢献の道は最初から閉ざされている。
このシリーズにはマイルズの他にも、そうした自分の存在に悩む人物が多く登場する。「ミラー・ダンス」で活躍するマイルズの替え玉として育てられたクローンのマークは典型的だ。マークはマイルズの替え玉とは違う自分を証明しようとして窮地に陥り、それを通じて自分自身と向き合う。マイルズの母親コーデリアも、女性としてバラヤー社会では一段低い位置に置かれることに不満を持ち、なおかつ息子のマイルズを健康に出産できない苦しい立場に置かれる。その他にも、最初から不利な条件を割り当てられた人物は多い。
その一方で、マイルズの従兄弟のイワンは、自分の地位や立場を疑問を持たずにこなしていける恵また人物だが、のほほんとした性格で、マイルズに対比され道化扱いされている。ということで、さまざまに不幸を抱えた人物たちがいるが、出生の際に重い障害を受け、なおかつ多大の責任を負うことを期待されるマイルズは、作中で一番不幸な人物だ。どうやら、シリーズの中でマイルズが主人公の地位を獲得したのは、その不幸が際立っていたためらしい。
では、不幸な人間が物語の主人公として、なぜ適切なのかといえば、逆境をはねのけていく話が、読者の共感を呼ぶからだろう。マイルズは出生の最初から不利な立場にいたために、不利を逆転する方策に長けていて、”マイルズだからできる”逆転劇も大きな違和感無しに受け入れることができる。
また、自分の欠陥を意識した人間は、他者の欠陥や失敗に対して理解を示したり、物事の裏を読むことにも長けているというのも、話としては受け入れやすい。
- 一般論としての不幸の効用
- 基本的に、挫折しない人間いない。そうは言っても多く挫折すれば良いというものではなく、挫折ばかりしているのは経験に学んでいない証拠だとも受け取られかねない。いずれにしても、他人の不幸なんてものは、当事者以外にははかりしれない部分があって、結局は自分の中で解決していくしかない。
自分が不幸だからといって、他人の不幸を願うのは不当だ。あるいは、自分が比較的幸福だからといって、それは偶然の恩恵かもしれず、自分が他人より優れていることを証明するものでもない。だから、不幸を売り物にされるのは困る。自分のことを他者が親身になって心配してくれるのは嬉しいし、そうできる人間は魅力的だ。その上で、逆境を跳ね返して良い結果をもたらすことができれば、それはまさしくヒーローの名に値する。自分の不幸に甘えず、それを具現化するマイルズ・ヴォルコシガンは、やはり物語の主人公としては圧倒的な適性を備えていると言える。(2004.6.5)