読んだ本

岩波現代文庫

2007-7-18 「ゆたかな社会 決定版」J.K.ガルブレイス(岩波現代文庫)
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 生産性の向上を目指して組み立てられた経済理論をもとに作り上げられた社会が、豊かになった今、どんな課題を抱えているのか。初版から40年後に改定された第5版。
 前半部分では、社会と経済理論の発展をたどることから、経済理論の入門書としても適当。

気に入り度:◎◎◎◎◎
 歴史的に経済理論が生産性の向上を目的として発展し、現代社会はその目標を達成して、新たな課題が持ち上がっているように見える。経済社会の発展が300年の歴史を持つに至る今、著者の問題提起から50年を経ても、その方面での社会の劇的な変化は無い。
 社会は豊かさを増し、著者の問題提起は一層あきらかになったようだ。著者の提案する解決策を現代社会は適用できるのかどうか、興味深い。
 一つの時代にとらわれない、広範な視野を提供してくれた点で気に入っている。

おすすめ度:★★★★★
 生産性向上を至上の価値とする現代社会への疑問に、経済理論の面から応えるという正統で納得のいく一冊。

2007-6-26 「南京難民区の百日―虐殺を見た外国人」笠原十九司(岩波現代文庫)
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 1937年11月、上海を制圧した日本軍は南京への攻略を開始。12月、南京占領。占領後、翌年1月までに非戦闘状態で死亡したり被害にあった民間人の数は3万をくだらないとされる。
 その間の全体像解明の試みの結果が本書だ。

気に入り度:◎◎◎◎
 様々な資料を駆使しても、解明できない部分は残る。それでも、複数の独立した資料が、同様のことを示していればその出来事の信憑性は高まる。南京占領時の出来事を時系列的に、意味を持って並べる点で、少なくともそこで起きた出来事をみずから確認するための手がかりとして意味がある。
 南京占領は、戦略的に見れば誤りと判断されるのではないかと思う。無為に多数の犠牲者を出したことは国際非難を招いて、政治的な不利をもたらした。
 当時の人たちの行為を、現在の価値基準を当てはめるだけで判断することは慎まなくてはならないが、起きた結果と現在との関係を考察する上ではそこに何があるのかを知ることが重要だ。本書は事件全体のまとまった印象をもたらし、当時の軍隊のありようをうかがうにおいて貴重だ。

おすすめ度:★★★★
 南京大虐殺があったのかなかったのか、ないとする立場に身をおくにしても、学問的方法論から反論するには、あるとする立場から学問的方法論で構成された全体像を把握しておく必要がある。南京大虐殺についての議論は、現代とのつながりにおいて避けていられない。

2007-4-17 「ヨーロッパを見る視角」阿部謹也(岩波現代文庫)
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 1995年の岩波市民セミナーでの講演をまとめたもの。ヨーロッパでは12世紀頃までは”世間”の中で生きていた人間が”個人”や”市民”として変わっていったとの史観から、”世間”が継続する日本と対比する視点を解説する。

気に入り度:◎◎◎
 ヨーロッパに残る”世間”の痕跡。という視点は興味深いが、それにとどまらずに当時の社会生活の解説などを取り込んでいることで、話題としての発散を感じる。焦点を”痕跡”に絞って、さらに深めた議論を期待したいが、研究自体がそこまで進んでいないのだと思う。難しい主題だからやむをえない。

おすすめ度:★★★
 いくらか散漫な印象がある。貴族や都市での生活、村落の様子や古い伝説など、教養的な話題が多く含まれる。

2007-4-8 「シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う」I・イリイチ(岩波現代文庫)
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 歴史学者の立場から、現代社会・経済をながめて、経済成長によってなにが破壊されるかを示すエッセイ集。シャドウ・ワークの他にヴァナキュラーな価値の話など、現代生活が当然としているものが、いかに当然でないかを気付かせてくれる。

気に入り度:◎◎◎◎
 普段意識していないもの、そこにあることすら気付かないものを気付かせてくれた点で、おおいに気に入っている。ヴァナキュラーな価値は、しかし守るべきものかどうか、そこまでは教えてくれない。
 新しいとされる考え方にも、歴史的に必ず先駆ける者がいるという歴史観も新鮮。すでに思考を尽くして道をつけているひとがいたのであれば、それをふまえてさらに考えを進めるという方法論は、思考の節約と効率の意味で適切だ。

おすすめ度:★★★
 読む上で、前提を求める本書は難解ではある。見えないものを見せてもらえる点で、それを押してでも読む価値がある。

2005-7-16 (土)「ゾルゲ事件 獄中手記」リヒアルト・ゾルゲ(岩波現代文庫)

 リヒアルト・ゾルゲはドイツ人で、モスクワにあるコミンテルンのために日本で非合法な情報収集に当たっていた。本書はゾルゲが逮捕された後、調査の一環で本人が書いた手記だ。
 事実の確認がその目的だから、特定の主題を持つものではなく、何を汲み取るかは読者しだいだ。ゾルゲの卓越していたと言われる知性と独特の視点から、日本社会がどう捉えられているかにも私は興味があるが、本書には含まれない。
 私が特に興味深く思ったのは、当時(1940年頃)の共産主義の組織すなわちコミンテルンと各国共産党の関連と推移、スパイ活動の実態、およびゾルゲのような人間がどうして共産主義を信奉するに至ったかだ。
 世界史の一大潮流としての共産主義を理解しようとする立場からは貴重な情報を示すものだと思う。
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2005-6-12 (日)「ドキュメントヴェトナム戦争全史」小倉貞男(岩波現代文庫)

 ヴェトナム戦争と言えば、ゲリラ、枯葉剤、泥沼、厭戦、反戦、ドラッグと連想が働くが、それはアメリカ的な視点に過ぎない。本書は1945年のハノイクーデターから、アメリカ撤退後の第三次インドシナ戦争までを主にヴェトナム側の立場から記述していく。
 史実だから、感想を述べるのは難しいが、ひとつには共産主義の理想と民族主義の関係、いまひとつには、国家規模において全体像を掴むのが如何に難しいかといったあたりが印象に残る。ゴ・ディン・ジェム、グエン・カ・オキ、ロン・ノル、ポル・ポトといった権力者たちがどんな統治をしていたかというあたりも私には興味深い。
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2005-4-8 (金)「日本人の戦争観―戦後史のなかの変容」吉田裕(岩波現代文庫)

 日本人は戦争が嫌いらしい。自分で戦争するのもいやだが、自分たちの戦争責任について考えるのもいやであるようだ。嫌うのと思考停止はまた違うが、日本人の戦争嫌いは思考停止に近いように思う。
 1950年代、60年代には戦記や戦記マンガが流行った。日本人の戦争観は終戦以来変化しているのか、それとも変化していないのか、本書はそれを検証する。
 変化はもちろんある。但し、変わっていない部分もある。現在の日本の戦争観のどこにひずみがあるのか。資料的あとづけを追う本書のような試みはそれを知るために大変有用だ。本書は10年前にまとめられたもので、今回の出版にあたってその後の10年の動きがあとがきとして追加されている。
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2004-3-31 (水)「時間の比較社会学」真木悠介(岩波現代文庫)

 ひさびさに私にとって衝撃的な本に出会った。現代社会に生きる我々は、時間を永遠の未来に続く直線的なものと捉えるのが常だが、その他の捉え方があるのか、あったとしてそれが死を恐怖するニヒリズムを克服できるほど、我々に説得力を発揮するだろうか。
 著者の方法は、いわゆる原始共同体における時間の観念、万葉集、古今集、古事記といった古代日本の書物に見られる時間の観念、西欧社会の歴史に沿った時間の観念の変化を見ていくことだ。
 万葉、古今のそんな解釈があるのかという驚きだけでもこの本を読んだ価値があると思った。著者独自の解釈だけによるものではないから、もちろんすでに知っている人はいるだろうが、著者は特に時間の観念に絞って解説を加えている。
 原始共同体、古代日本、西欧世界と話題が跳んでいくのはアクロバットのようであるが結果としてそれなりの説得性を発揮している。
 私の中でニヒリズムが克服されるかどうかはもう少し時間を置かなくてはわからないが、生き方の姿勢としてあらたな指針を得たと思う。
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2003-12-21 (日)「言語の思想―国家と民族のことば」田中克彦(岩波現代文庫)

 1975年にNHKブックスとして出版された田中克彦の一般書籍デビュー作。ソビエト連邦圏、モンゴルといった、私にはなじみのない地域の言語事情の話が多く語られているのはいささか予想外だが、それだけではなく母語と国語の違いから「母国語」という言葉がへんだとか日本語の規範主義に対する反省とか多くの話題を含む。
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