読書して考えよう 分野別

生活・社会・文化

2007-10-22「ベースボールの夢―アメリカ人は何をはじめたのか」内田隆三(岩波新書)
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 ベースボールの発祥から、1920年代のベーブ・ルースまで。アメリカの歴史と深く関わるベースボールの変遷からアメリカ社会の変化を透かし見える。

気に入り度:◎◎◎◎
 あれこれと聞きかじった覚えのある、ベースボールの変遷が貴重な図や写真とともに紹介されている。

おすすめ度:★★★
 ベースボールの歴史の話が楽しく語られている。

2007-10-22「金融NPO―新しいお金の流れをつくる」藤井良広(岩波新書)
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 営利を目的としない、自分たちが必要と考える文化や産業のために、お金を集めて融通しようとする金融NPO。その日本での実態から国外の例まで。

気に入り度:◎◎◎◎
 NPOということがそもそもわかりにくい。NPOが統一された目的を持つのではなく、目的も手段も特に類型となるようなNPOは存在していないようだ。
 NPOは特定の概念ではなく、経済の主流である営利企業の立場から見たときに、非営利の傍流的経済活動を一括して、経済の仕組みに連接するための枠組みだと理解した。集団自体が利益を求めないからと言って、その活動は必ずしも善意に基づいたものにならないし、他者から見て意味を成しているかどうかを保障するものでもない。
 その意味のうえで、金融を目的としたNPOという観点からの説明を試みたのが本書だが、営利を目的としない金融の意味がわかった。営利活動にみるような社会的選択がまだ不十分なだけに、活動自体に類型を読みにくいところが社会的に認知されにくい原因の一つであろう。

おすすめ度:★★★★
 NPOとは何なのか、本書を通じてわずかながら理解できたような気がする。

2007-10-22 「外国人犯罪者―彼らは何を考えているのか」岩男寿美子(中公新書)
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 法務省との共同研究としてまとめられた服役中の犯罪者を対象とした大規模アンケート調査の結果。比較の対象として日本人犯罪者があるので、日本人犯罪者の傾向もわかる。但し、質問は外国人・日本人の差を確認するための目的から導かれた内容にとどまる。

気に入り度:◎◎◎◎
 犯罪防止の観点から、犯罪者がどうして犯罪にいたるのかを確認することは重要であり、統計資料を提供する本書はその意味で貴重だ。犯罪者の心理として私が違和感を持ったのは、服役することが罪の償いであり、それによって罪が消えるという考え方。職業的な犯罪者ともなればそうした見方もあるのかとは思う。
 アンケートの結果をどう犯罪防止につなげるのかはこれからの課題。自分が犯罪に巻き込まれないための指針は直接的には得られなかった。間接的には、確信して犯罪を犯す人の存在を知ることができた。

おすすめ度:★★★★
 法務省との共同研究というように、服役者への大規模アンケートということだけでもめったにない貴重な資料になっている。結果の解釈には深く踏み込んでいない。

2007-10-22 「ル・コルビュジエを見る―20世紀最高の建築家、創造の軌跡」越後島研一(中公新書)
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 20世紀最高の建築家とされるル・コルビュジエの業績を概観する。世紀の名作サヴォア邸に至る過程と、その後の変化。

気に入り度:◎◎◎◎
 ル・コルビュジエの何がそんなにすごいのか、読後の今もいまひとつわからないが、それは私が他の建築に無知だからだと思う。都市空間の全体利用をにらんだ住宅の企画・設計をしていて、成果を挙げていたというところはさすが。建てる側の経済的・社会的事情もさまざまに異なる中で、独特の解決策を生み、それが時代を先取りしているところがたぶん偉大な建築家のありようなのだろう。

おすすめ度:★★★
 住空間を建築という視野から見ることがどういうことなのかがわかる。社会に応じた建築を提供することは価値を表現することであって、独自の価値を生み出していくこととは違う。そこが、私が技術的には関心しても建築にいまひとつ強く惹かれない理由のように思う。

2007-8-7 「太平洋戦争と新聞」前坂俊之 (講談社学術文庫)
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 フィリップ・ナイトリー「戦争報道の内幕」の大東亜戦争日本版。新聞報道が国家統制の中、どう歪んでいくかを示す。満蒙権益拡大を目指す昭和初年から、戦争終結まで。

気に入り度:◎◎◎
 メディアは簡単に国家に抑圧されてしまうのだ、というのが最初の印象。400ページを越える本の中で、すでに冒頭で新聞は消極的抵抗に追い込まれる。白紙の紙面を出さざるを得ないというのは、抵抗だとしても消極的なものだ。抵抗の姿勢ではあると思うが。
 その後は、段階を追った抑圧があるが、私にはもはや過程でしかなく興味を惹かれない。
 当時の皇国論理とか、帝国時代のあらたまった言い回しとかは例として参考になる。
 国内の動きとかは、他の歴史物に比べてよくわかる気がする。歴史の副読本としての意味はある。

おすすめ度:★★★
 冒頭ですでに抑圧されて消極的抵抗しかできない新聞が描かれる。抑圧される過程はもはや過程としての意味しかない。この意味で抑圧の過程を検証するかという当初の期待からは外れる。当時の言論界における威圧的な言語表現の例が豊富な点で参考になる。副読本としては良いかも。

2007-7-18 「実録・アメリカ超能力部隊」ジョン・ロンスン(文春文庫)
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 アメリカ合衆国は超能力を軍隊に活用しようとしているか、YESだ。十分な成果は得られているか、NOだ。というあたりがまずは常識的判断。そしてその実態は、となるとよくわからないので、本書も社会的価値を持つことになる。
 1983年の機密軍事超能力スパイ部隊、ジム・チャノンの第一地球大隊というあたりから始まる超能力部隊構想と9.11をふまえた現在への影響を、独自の調査で追求する。

気に入り度:◎
 事実は少なく、伝聞と憶測は多い。人間が何かを信じるとすれば、どんなことを信じるかという例としては興味を引くところもある。

おすすめ度:★★
 どんなに少なくても、この分野の情報が欲しいということなら得るところはある。検証の手がかりとして、またひとは何をどう信じることがあるかという例について知りたいのなら役に立つこともあるだろう。

2007-7-18 「ゆたかな社会 決定版」J.K.ガルブレイス(岩波現代文庫)
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 生産性の向上を目指して組み立てられた経済理論をもとに作り上げられた社会が、豊かになった今、どんな課題を抱えているのか。初版から40年後に改定された第5版。
 前半部分では、社会と経済理論の発展をたどることから、経済理論の入門書としても適当。

気に入り度:◎◎◎◎◎
 歴史的に経済理論が生産性の向上を目的として発展し、現代社会はその目標を達成して、新たな課題が持ち上がっているように見える。経済社会の発展が300年の歴史を持つに至る今、著者の問題提起から50年を経ても、その方面での社会の劇的な変化は無い。
 社会は豊かさを増し、著者の問題提起は一層あきらかになったようだ。著者の提案する解決策を現代社会は適用できるのかどうか、興味深い。
 一つの時代にとらわれない、広範な視野を提供してくれた点で気に入っている。

おすすめ度:★★★★★
 生産性向上を至上の価値とする現代社会への疑問に、経済理論の面から応えるという正統で納得のいく一冊。

2007-7-18「エスペラント―異端の言語」田中克彦(岩波新書)
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 人工語エスペラントの広範な紹介。言語哲学、他の人工語との比較、基本文法、国際的普及状況、社会主義とのかかわりの歴史など。

気に入り度:◎◎◎◎
 作られてから100年を経たエスペラント。社会的に及ぼした影響の広さに驚く。エスペラントに関わる人物に宮沢賢治、北一輝、大森栄などが挙げられるあたりで、日本の歴史との深いかかわりを感じさせる。

おすすめ度:★★★
 世界共通語という理想がどう社会に受け入れられていくのか、というあたりが興味深かった。エスペラントは今日目覚しく普及しているでもなく、興味を持てるかどうかは読者しだい。エスペラントの概略を知るための要点を尽くしていると思う。

2007-5-30「アラビアンナイト―文明のはざまに生まれた物語」西尾哲夫(岩波新書)
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 18世紀初頭にヨーロッパに紹介されたアラビアンナイト。アラビアでの成立は9世紀ということだから、異本も数多く存在する。そこにヨーロッパ側の事情が絡んで錯綜し、世界文学化していく過程が紹介される。

気に入り度:◎◎◎◎
 アラビアで語られた寝物語だから、中国の話が出てきても確かにおかしくない。私には意外なアラビアンナイトの多様な性質と、その受け入れ方。
 巻末に本書に登場する主な物語の要約があるから、知らない物語のあらすじもわかってお徳。

おすすめ度:★★★
 18世紀以降のヨーロッパ文化史と、ヨーロッパオリエンタリズムの様相が楽しい。

2007-5-30 「余は如何にして基督信徒となりし乎」内村 鑑三(岩波文庫)
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 自身の日記をもとにした、回心の告白。

気に入り度:◎◎◎
 著者の「代表的日本人」から興味を持って、その一番有名な著作を読んでみようと思い立った。内側から見たキリスト教的信仰とはどのようなものかにも興味があった。
 日本での信仰活動、アメリカでの文化的衝撃、アメリカでの信仰活動と大きな区切れがある。日本での現世的利益により信仰を得るに至る経緯はわかりやすくまた、当時の大学生活を伝える意味で興味深い。アメリカでのとまどいもわかる。その後の信仰を深める段階では神学的書物の題名が次々に挙げられて共感を覚えたとされているが、それらのどこにどう共感したかは、私には本書から推し量ることができない。
 回心の実像、特に抽象的に信仰を深めていく部分については、容易に窺えないということは納得できる。

おすすめ度:★★★
 渡米後、神学書をひもといて信仰を深めていくその内容については、本書に詳細が語られているわけではない。日本での学生生活とその時期の回心については、当時の雰囲気を伝えていて興味深い。神学的な意味で中身のある文章ではなく、回心の過程もキリスト教徒以外には無意味に思える。
 異教徒としての日本人が本書から得るのは、その時代の暮らしぶりと、著者の心情だろう。読みやすく、当時の情熱が伝わってくる意味で、古典として長く読まれるにふさわしい。

2007-5-30 「科学とオカルト」池田清彦 (講談社学術文庫)
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 オカルトを起源とする科学だが、科学がオカルトから分離するにあたっての差異とは何か。いまあらためて科学とオカルトが混同される理由、現代社会への洞察。

気に入り度:◎◎
 歴史認識や科学の意味についての解説はわかりやすいが、現代社会への洞察を語る上では、論証を欠いた主張からの演繹が多い。緻密な論証を展開するのではなく問題提起に終わる点が不満。

おすすめ度:★★★
 歴史認識としては正当だと思うから、論証を欠いた点について批判的な視点を持って対応すれば、科学のあり方について考える材料を得ることができると思う。

2007-5-30 「古典ギリシア」高津春繁 (講談社学術文庫)
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 ギリシアとはどんな土地で、どんな人が住み、どういう種類のギリシア語が話され、芸術にはどんなものがあり、といったギリシア文化の土台の話だけで一冊の本になっている。昭和21年に出版されたものだけに読み始めのあたりでは当時風の言い回しがいくらか気になった。

気に入り度:◎◎◎
 文化を理解するためには、そこに含まれる一つ一つの概念とそのつながりの独自性に留意する必要があることに気付かせてもらった。

おすすめ度:★★★★
 興味深い内容を多く含むが、ギリシアの個々の哲学や学術・芸術にある程度触れた後のほうが一層触発されるところが多いように思う。

2007-4-17 「ヨーロッパを見る視角」阿部謹也(岩波現代文庫)
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 1995年の岩波市民セミナーでの講演をまとめたもの。ヨーロッパでは12世紀頃までは”世間”の中で生きていた人間が”個人”や”市民”として変わっていったとの史観から、”世間”が継続する日本と対比する視点を解説する。

気に入り度:◎◎◎
 ヨーロッパに残る”世間”の痕跡。という視点は興味深いが、それにとどまらずに当時の社会生活の解説などを取り込んでいることで、話題としての発散を感じる。焦点を”痕跡”に絞って、さらに深めた議論を期待したいが、研究自体がそこまで進んでいないのだと思う。難しい主題だからやむをえない。

おすすめ度:★★★
 いくらか散漫な印象がある。貴族や都市での生活、村落の様子や古い伝説など、教養的な話題が多く含まれる。

2007-4-8 「シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う」I・イリイチ(岩波現代文庫)
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 歴史学者の立場から、現代社会・経済をながめて、経済成長によってなにが破壊されるかを示すエッセイ集。シャドウ・ワークの他にヴァナキュラーな価値の話など、現代生活が当然としているものが、いかに当然でないかを気付かせてくれる。

気に入り度:◎◎◎◎
 普段意識していないもの、そこにあることすら気付かないものを気付かせてくれた点で、おおいに気に入っている。ヴァナキュラーな価値は、しかし守るべきものかどうか、そこまでは教えてくれない。
 新しいとされる考え方にも、歴史的に必ず先駆ける者がいるという歴史観も新鮮。すでに思考を尽くして道をつけているひとがいたのであれば、それをふまえてさらに考えを進めるという方法論は、思考の節約と効率の意味で適切だ。

おすすめ度:★★★
 読む上で、前提を求める本書は難解ではある。見えないものを見せてもらえる点で、それを押してでも読む価値がある。

2007-3-16 「処女懐胎―描かれた「奇跡」と「聖家族」」岡田温司(中公新書)
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 聖母マリアとその家族に関する、教義や捉え方の変遷を、主に絵画の意匠の変化から読み取る。マリアが無原罪であるという表現は、どう工夫されたのか、マリアの父ヨセフの取り扱いは、時代によりどう変わるかなど。
 宗教絵画が教義を表すために、どんな要請を受けて、どんな表現になるかなどは、美術的観点から宗教絵画を見るうえでも心得ておくほうが良い。

気に入り度:◎◎◎
 抽象的な性格のある宗教教義を、いかに絵画に置き換えるのかについて、さまざまな工夫がなされる、というあたりは人間の創造性の一面を見るようで面白い。
 本書の主張のもうひとつ、教義は社会の変化に影響されている、というのは当然の事実についてのあらたな実例という意味で記憶に値する。
 前著「マグダラのマリア」が教義上の変遷に焦点を当てていたのに対して、技術的・文化的な論点がより多く取り込まれているようだ。そのぶん散漫な印象もあるが、論点としてはこちらのほうが好き。

おすすめ度:★★★
 キリスト教・絵画、両者への興味が無いと読み通すのは辛いだろう。

2007-3-10 「代表的日本人」内村 鑑三(岩波文庫)
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 日本ではぐくまれた信念のもとに、偉大な生涯を送り、後世にも影響を及ぼしている日本人を、西欧諸国に紹介することを目的として書かれた著作。維新、統治、殖産、学問、宗教を代表する5人が選ばれている。
 それぞれの記述は、著者なりの解釈のもと理想化されているように思える。それは、著者の精神的土壌に対する自己認識のありよう、決意を反映しているかのようだ。

気に入り度:◎◎
 キリスト者として自分を位置づけ、自己のあり方を確立しようとする著者の意図・自己弁護が、著書の対象にされ、選択・美化された人たちの生き方の記述に反映しているように感じられる。それは、著者および当時の時代意識の反映でもあるから、そのようなものを知る一端になりうる。
 史実を知ろうとするのであれば、本書だけによらない心構えが必要。

おすすめ度:★★
 読みやすく、読者の自意識に訴える文章ではある。自己探求の一端としてこのような著作に触れるのも良いが、幅広く書物を選ぶ気持ちをあわせ持つことが大切と思う。

2007-3-04 「オリエント急行の時代―ヨーロッパの夢の軌跡」平井正(中公新書)
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 1883年のオリエント急行開通記念列車は、どのような列車で、どのような国を、どのような政治・社会状況のもとで走ったのか。また、それ以降のオリエント急行は歴史的社会変化にどう追随したのか。
 オリエント急行の歴代車両構成とか、室内調度の変遷とか、時期毎の代表的ディナーメニューとか、機関車とかは特別詳細に触れられていない。ヨーロッパを中心とした歴史や文化の変遷と、それがオリエント急行に与えた影響が主題。
 時代の象徴だった鉄道の隆盛と衰退をオリエント急行に託して語っていると見るのが良い。

気に入り度:◎◎◎◎
 新しいヨーロッパの象徴としての鉄道、というのは同時代感覚なので、一般にわかりにくい。その雰囲気を伝えるという意味で好きだ。

おすすめ度:★★★
 オリエント急行はあこがれの象徴。その思い入れの程度によって、本書の受け取り方が変わってくると思う。

2007-2-22 「武士道」新渡戸稲造(岩波文庫)
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 義を武士の掟の最も厳格な教訓と位置づけて、武士道の徳目である勇、仁、礼、誠…と解き明かしていき、各種の習慣、現在とのかかわり、その行く末へと話が展開する。もともと宗教によらない日本の道徳のありようを外国人に説明するために書かれたものとして、欧米の古典から多くの例を引きつつ、武士道を解説する。

気に入り度:◎◎◎◎
 道徳の発生を過去の長期の戦闘に求めるという論は、説得力がある。また、相互の生存共栄を約束するものとしての武士道は、その時代の中で合理性を持つ。社会が人とのつながりで治められるのではなく、法によって治められるようになったことで、武士道は衰退せざるを得ない。
 とはいえ、あらゆる行為を法が規定するものではないから、歴史的規範は社会生活において相変わらず効果を発揮するだろう。この意味で武士道をわきまえておくことは現代に生きるうえでも有用であろう。
 一方で、武士道は人間同士の誓いに淵源を持つことから、アウトロー社会の掟としての親和性がある。そうした人たちには歴史的正当性が無いということをこの際あらためて自覚しておくことにしたい。

おすすめ度:★★★
 武士道とはどんなものかを、現在の我々にわかりやすく説いてくれる点は良い。過去の物語や時代劇を見るための前提としても、また現代の社会習慣を理解するにも役立つ。
 本書は武士道の姿勢・考え方を示すもので、その点でまさに正統だが、基本情報にとどまる。情報の使い方は読者しだいだから、読者の姿勢によって有用性の程度は異なるだろう。

2007-2-12 「法哲学入門」長尾龍一(講談社学術文庫)
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 法哲学者を自認する著者が、法哲学について書こうとしたらこうなったという本。哲学の本質は知救心の暴走だそうで、法に関わる哲学にはこんなものがあるというような内容が含まれている。

気に入り度:◎◎◎
 法は正義をどう反映しているのか、という疑問を持っていたのがこの本に引かれた理由で、確かにその回答がなされている。とはいえ、普段から私が感じている以上の深遠な回答ではなかった(と思う)。法が社会的習慣を反映している以上、法のありようも千差万別種々様々ということだろう。そんな様々な内容からうかがい知れることが、歴史の中でだれによってどう語られているかについて硬軟取り混ぜた形で展開されている。
 実践を目指した哲学というのは、こんなふうなのだなあという実例にもなっている。
 「現在多くの人々は、何ものかを「拾う」ために読書をする。」という原本あとがきに示された見解は、その通りだと思うが、思うと悲しい。

おすすめ度:★★
 哲学とはともあれ考える習慣から生まれるものだから、考えるための材料が豊富に含まれる点は良い。とはいえ、知救心の暴走という形で哲学している本書は、題名を根拠に多くを期待すると落胆を招くのではと思う。

2007-02-10「悪文―裏返し文章読本」中村明(ちくま学芸文庫)
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 文章について日ごろ気になっていたことをまとめた26章。良い文を中身があってそれを読み手に伝える文と位置づけた上で、悪文になるさまざまな状況を解説する。

気に入り度:◎◎
 あらためて、文が悪くなる原因がいくつもあるということに気付かされる。日ごろ自分が注意を配っているのはそのうちのほんのいくつか。普段書いている文ではあまり気にしなくて良い注意もあると思うから、話題の半分くらいは直接の参考にはならない。
 生活していくうちには、いろいろな文に出会うわけで、いろいろな悪文を読み解かなくてはならない機会もある。悪文の原因については、すぐには役に立たないにせよ心得ておくに越したことは無い。

おすすめ度:★★
 さすがその分野の専門家と思える、さまざまな悪文の原因が挙げられている。悪文になる原因も、文の性格によってさまざま。普段の生活で、これほどさまざまな性格の文に会うことはない、という意味で直接的に身にしみて感じるところのあるものは一部にとどまる。
 とはいえ、いつそうした性格の文を相手にしなくてはならなくなるかは予断を許さないから、心得ておくにほうが良い。
 当然ながら内容は、話題の選び方にも読者への配慮が感じられ、読みやすい文だ。

2007-02-02「中世日本の予言書―〈未来記〉を読む」小峯和明(岩波新書)
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 過去の日本で、予言は政治の方向付けを変えるほど重要な存在だった、としても過去の人たちの考え方や信条にかかわる問題だから、歴史的に取り扱うのは難しい。それを資料でどう裏付け、歴史認識につなげるのかという課題への取り組みを語る。
 取り扱われるのは5世紀末の人である宝誌和尚が書いたとされる「野馬台詩」。それに加えて<聖徳太子未来記>が中心だが、それ以外のさまざまな未来記についても触れられる。
 時代が下がるにつれて、未来の記述が過去になり、それに伴ってどう取り扱いが変わるかなども論じられる。

気に入り度:◎◎
 書名に「未来記」とありさえすれば、なんでも未来記として括ってしまってよいかという問題も一方にある、と著者の言うとおり、未来記は現実でないものと関わるだけに視点を定めるのが難しい。
 ともあれ、12世紀から13世紀にかけての神々の逃亡と談合の話などは特に興味深い。また、江戸期において「野馬台詩」が一般教養化していて、さまざまなパロディのネタになっていたなどというのは意外ですらある。現実と希望が交錯する未来記という素材をもとに当時の信条や考え方に踏み込んでいくというのは方法論として期待が持てる。

おすすめ度:★★
 未来記という素材は今後の研究発展に期待を持つに十分だが、まだ取りまとめ方にいまひとつの感がある。個々の成果にはおおいに興味を惹かれるものがある。

2007-1-17 「現代建築に関する16章 〈空間、時間、そして世界〉」五十嵐太郎(講談社現代新書)
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 建築に関するあれこれということで、各章の関連は希薄だが、現在の建築動向が語られている。話題としては、個別の建築、巨大建築、都市設計、時間・空間とのかかわりとしだいに大きくなっていくように思える。

気に入り度:◎◎◎
 自宅の維持管理に役に立つ情報をと期待していたのだが、個人住宅は範囲から外れていたようだ。ビル全体を巨大スクリーンにするような話も出てくるが、自分の家の外壁をスクリーンで囲うなどはやりたくないので、本の主題からはずいぶんとずれてしまった。
 ともあれ、都市空間がどのように創造されるか、また時代認識の反映のされ方など、生活者として興味深い話題も多い。意外に建築は時代の後を追っているようなところがあるという印象を受けた。建築は具体性を要求されることからそのような結果になってくるのだろう。建築は設計者の現実認識の結果を強く反映しているようだ。

おすすめ度:★★★
 空間を区分して生活するものとして、また多数の人間が関わる都市居住者として、建築の考え方に親しむことは、現実の理解をより深めるものだと思う。とはいえ、話題が多岐にわたることから、本としては散漫な印象を持った。

2007-1-12 「復元安土城」内藤昌(講談社学術文庫)
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 織田信長の居城として、本能寺の変の約3年前に天主が完成、本能寺の変とともに灰燼に帰す安土城には、その役割・運命ともに興味を引かれる。
 資料の収集・吟味、現地調査を経て安土城を復元するその試みの過程をしるしている。城の構造図や立面図を含み、また関連資料についてのまとめがあり、見通しが良い。復元した上で、安土城の持つ政治的意味、信長の構想と歴史的意義についての考察がなされている。

気に入り度:◎◎◎◎
 歴史的建築物の復元過程が、これほどにさまざまな要素を含むとは思っていなかった。構造・内装・外装を含む検証には結局のところ曖昧さがある。例えば外壁のどれだけの部分が漆喰だったかとか、窓枠がどう装丁されていたかなど、詳細に踏み込んでいけば必ずどこかでわからない部分が出てくる。
 そうした明確な部分と不明確な部分を切り分けて、復元結果を評価しなくてはいけないことを改めて思った。

おすすめ度:★★★
 資料の検証過程が綿密に示されており、また復元の結果にも説得力を感じる。城の構造がこれほどまでに政治的意図を反映するのかという点でも興味深い。専門的に詳細である点で、一般読み物として見た場合には興味が付いていかないところがある。

2006-8-13 「オルガスムスのウソ」ロルフ・デーゲン(文春文庫)
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 オルガスムスとはどんなものかということを、現代医療・科学のさまざまな視点で論じ尽くしている感がある。人間以外の実験動物にそのようなものがあるかとか、アンケートの結果ではどうかとか、心理学で唱えられたさまざまな説は十分な裏づけがあるかとか、事実と確認できない説明が社会的にどんな影響を与えているかとか。
 これまで自分が信じていたさまざまなことが、整理されて説明されている。冒頭の生物学的方法論を適用する部分は実証的だが、社会への影響を論じていくあたりになると、さすがに発散的になってくる。ともあれ、その時どんなことが起きているのかについての生理的説明は実生活で生きてくることがありそうだ。

楽しんだところ:
 性についての知識は、興味本位で取り扱われたり、ハウツー的に取り扱われたりと、統合的で一貫性のある印象で捉える機会が少ない。根拠の乏しい怪しい知識を前提に、体験的に物事を捉えていくことを否定するものではないが、私としては探求された科学的知識が世の中にあるのであれば、それを踏まえたうえで生活に役立てて生きたいと思う。
 統一的で一貫した印象が得られたという点で良かった。また、世の中に言われていることで、自分としては疑わしいと思っていたことの真偽に関する主張も知ることができて、自分の生活を見直す上での手引きになる。
 おおっぴらに議論する生活習慣が無いところで、本という手段が一定の役割を果たす、というのも割と珍しい体験だと思う。

2006-2-19 「カラー版 絵の教室」安野光雅(中公新書)
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 絵本作家として有名な安野光雅によるNHK人間講座を下敷きにした本。物事の観察とか、遠近法の実験とか、ゴッホの話とか全体として統一した主題を追い求めるような内容ではなく、安野光雅が絵について考えるあれこれといった内容。ともあれ、絵描きとしての視点を持つ安野の物事への傾倒の仕方は、私のそれとはいくらか違う。それでもその突き詰めていく姿勢についつい引き込まれてしまうところが読んでいて嬉しい。

楽しんだところ:
 安野はこだわりを持って描く人だとは以前から気が付いていた。それでも、職業としての画家であることと、絵にこだわりを持つこととは必ずしも両立しない。とことんのめりこんでいくという姿勢はプロではなくアマチュアの特典だ。
 この本で見せる遠近法の誕生に関わる追求などは職業としての枠を超えているように思う。職業画家でありながら、趣味としての絵画もこなすところが安野の魅力のようでもあると思う。但し、趣味の追求の話は同趣味の人間にしか通じない。この本の扱っている範囲は、楽しめたが私の趣味にはぎりぎり沿う程度。
 趣味と職業の違いなどという考察に私の頭は向かってしまったが、おかげて思いもよらない知見を得るにいたった。

2006-1-22 「イヌイット―「極北の狩猟民」のいま」岸上伸啓(中公新書)
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 文化人類学的見地からみた、現在のイヌイットの生活状態。スノーモービルをあやつり、ライフルでアザラシを狩るひとびとが果たしてイヌイットの名に値するのかといった疑問を持ちつつ読んだ。
 良く言えば文化的適応、悪く言えば伝統破壊。ひとは誰でも自分の好むように生きられるとはいえ、また産業汚染で否応無く世界のほかの部分と関わらざるを得ないとはいえ、厳しい自然とだけ向き合って生きる生き方がこの世から消えていくのはいくらか寂しく思う。
 自分の属する文化の側から、別の文化の変遷を見ることで、自分のありように対する反省材料にもなる。

2005-12-18 「回想 沈黙の団塊世代へ」かわぐちかいじ(ちくま文庫)
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 団塊の世代という世代感を背景にしたかわぐちかいじ自伝。戦争世代との関わり、教育、学生運動、成年雑誌などの自己の生い立ちを通じて、団塊の世代を相対化し、世代的特徴を反省する。
 権威を否定することで、自らも権威から離れ、永遠の子供であろうとする団塊世代というのは私の抱く印象と近い。かわぐちかいじの個人史としては、「沈黙の艦隊」における作画の変化(目が大きくなり、演出を意識する)や新人時代の取り組み方が興味深かった。

2005-11-23 「西洋音楽史―「クラシック」の黄昏」岡田暁生(中公新書)
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 西洋音楽通史。グレゴリオ聖歌から20世紀ポピュラーまで。一般にもわかりやすいよう、いわゆるクラシック音楽からみた音楽史ということで、クラシック趣味(他のジャンルよりも良く聞くという程度)である私向きかと思った。
 西洋音楽の祖先がグレゴリオ聖歌だということは聞きかじっていたが、それがバロック時代にどうつながるかは私には目新しいところ。以降17世紀から19世紀への聴衆層の変化と対応させた音楽の変化、20世紀でのクラシックの解体まで、自分の聴いていた音楽と対比させつつ納得しながら読めて、あらためてそれらの関連がわかったと思う。このあとどんな曲を聴くかという指針も得た。

2005-11-12 「シュメル―人類最古の文明」小林登志子(中公新書)
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 確認しうる世界最古の文明の様相ということで興味深く読んだ。楔形文字といっても、複数の言語で採用されているために、各言語を知らないと読めないとか、神と人間のありようとかが興味深かった。
 序文に一冊丸ごとシュメル文明という本は珍しいとあるが、さまざまな話題が取り上げられていて、一般の興味を引くシュメル関連の話題はすべて尽くされているような感がある。そのためかいくらか散漫な印象がある。

2005-10-19 「サウジアラビア―変わりゆく石油王国」保坂修司(岩波新書)
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 テロとイスラムは、現在社会の関心事だ。ところで、サウジアラビアってイラクじゃないしパキスタンとも離れているから、いくらか関心領域からは外れているよね。なんて思っていたら、アル・カイーダもパレスチナ問題もこの国が深く関わっている。
 王族政治で、国家歳入の大部分が石油に依存している。それでいて、持続する状態を維持しているのだから、日本を標準的な国家として考える私には想像できない世界だ。そのあたりの仕組みがどうなっているのかから初めて、国民の生活のありよう、イスラムとのかかわり、社会の変化の方向を示す本書は、世界に関わるイスラムの現状を理解するおおきな前提条件の一つを解き明かしている。

2005-10-14 「中世ヨーロッパの城の生活」J.ギース、F.ギース(講談社学術文庫)
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 ウェールズのチェプストー城の研究をふまえて、城の変遷と生活を紹介する。チェプストー城は11世紀から17世紀まで利用されており、その間の事情は複雑だからひとくちに城の生活を語るわけにはいかない。もちろん、それほどロマンチックなものでないのは読む前から予想していた。時代とともに城も変遷していくというのは、私はこの本ではじめて意識した。学術色の強い内容だから、興味を持たないと読み通すのは辛いと思うが、ヨーロッパの歴史と文化について独自の内容を含む。

2005-10-14 「日本の庭園 - 造景の技術とこころ」進士五十八(中公新書)
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 自宅の庭造りの参考になればと読んだ。結果として、日本庭園の見方がわかり、また庭に外部の景観を取り込む”借景”の方法論もわかった。庭の主題は時代によって変遷があり、自分で庭を作るのなら何をやっても良いのだが、確かに悪趣味と見られるようなつくりは避けたいと思った。
 著作の後半は、日本の有名庭園の紹介になっていて、著作としてはまとまりがないが、基本の方法論をふまえたうえで、あとは個別に庭をながめるのが理解を深める方法であるという著者の主張なのだと思う。

2005-6-25 (土)「酒池肉林―中国の贅沢三昧」井波律子(講談社学術文庫)

 最高の贅沢とはどんなことなのか。長い文明の歴史を持つ中国ならではの贅沢にこそその答えがあるだろうという興味のもとに読んだ。「史記」、「紅楼夢」、「金瓶梅」、「資治通鑑」というあたりが主な資料となることから、残念ながら私にとって新規な内容は多くなかった。ともあれ、貴族たちの贅沢が、競い合うことで洗練の度合いを増すとか、蘇東坡のものにこだわらない考え方、というあたりには感心した。
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2005-6-21 (火)「さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学」山田真哉(光文社新書)

 そう、それは確かに不思議だ。しかし、現実世界のことだから納得のいく説明ができるはず。ほとんど人が入らないような場所にあるフランス料理店もやはり不思議だ。そうした身近な疑問に会計学の原則を当てはめて説明してくれる本書は、私にとって興味深い。
 それから、本書はどうやればお金を稼ぐことができるかを教えてくれる。これもありがたい。少なくとも(まっとうな)さおだけやがどうしてお金を稼いでいるのかがわからないひとは、お金を稼ぐ方法の一つに気付いていない可能性がある。お金を稼ぐ方法はひとつでも多く知っておくほうが良い。
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2005-6-11 (土)「自由とは何か」佐伯啓思(講談社現代新書)

 我々は他者に拘束されて生きている。あるいは生き続けようとすれば拘束を受け続けなくてはならない。それなのにこの社会は自由な社会だと言われる。自由とは拘束を受けないことだという定義と、今の状態は矛盾している。そうした事をどう整理すれば良いかという指針を本書から読み取れた。
 バーリンの二つの自由の概念、「誰が私を支配するか」と「私はどこまで支配されるか」を知ることができたのは良かった。自由が、集団としての価値を反映したものであることもうまく論証できている。
 自由は目的ではなく手段であるという議論もまた良い。しかし、最後の自由を越えた生き方については論証が破綻している。自由を超えた目的までこの本に求めるのは過剰な期待だと思うからそれはかまわない。
 この本は現代社会における自由の意味が整理できていない私に、貴重な示唆を与えてくれた。
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2005-5-18 (水)「茶の本―英文収録」岡倉天心(講談社学術文庫)

 岡倉天心が1906年に英文で発表した本の翻訳。西洋に”茶”を紹介する本だから、”茶”のことを知らない私の入門書として良いかと思って読んだ。
 天心自身の思想と、茶の話が渾然としていて、天心も茶も知らない私としては区分けして捉えることはできなかった。それでも、固形茶、抹茶、煎茶という茶の三段階の発展やそれに対応する茶器の話、何者かを言わずにおくことで、見るものがその思想を完成する機会を与えられるという道教の思想と茶の関連などについて得るものがあった。
 なにによらず、一冊の本だけに頼った知識蒐集は常に危険なことをわきまえているのであれば、茶に触れるための手がかりとしては良いように思う。それにしても、小泉八雲がラフカディオ・ハーンであるように、岡倉天心もてっきり外国人だと思い込んでいた私は不明を改めなくてはならない。
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2005-5-10 (火)「少年期の心―精神療法を通してみた影」山中康裕(中公新書)

 神経症的症状を呈する少年少女たちを、主に箱庭療法を通じて治療した臨床例の記録。治療を通じて、少しずつ変化していく少年少女の経過も興味深いものではあるが、私としては子供にとってどういうことが問題になりうるかが、親としての立場から気になる。
 家庭や親が、無理をしている部分で、子供にしわ寄せが行って子供が神経症的症状を呈する。それで、治療のためには家庭や親が押さえ込んでいた問題と向き合わざるを得ない。子供の側でもそれなりの合理化が進む。
 ”正常な”家庭が、あらゆることに円満であるとはとうてい言えないわけで、その意味では親としてはできるだけ偏った生活をしないようにしようという程度の教訓しか得られない。ともあれ、子供は親の従属物ではない、そうあってはいけないということは受けとめられる。
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2005-3-29 (火)「ヨーロッパ市民の誕生―開かれたシティズンシップへ」宮島喬(岩波新書)

 世界各地に植民地を開いたヨーロッパには、それらの土地から大量の人々が流れ込んでいる。国家は民族単位でも文化単位でもない存在として存立しなくてはならない。また、民主主義を標榜するヨーロッパは、国外からの移動者を含む住民の声を無視するわけにはいかない。変貌を続けるヨーロッパの実像を追う。
 ある意味では、何の回答もない現状報告だが、問題点の列挙はされている。ひるがえって、アジアの中の日本を考えるに、これまた類似の問題をかかえている。ともあれ、移動者の数は圧倒的にヨーロッパ(各国)の方が多く、問題の進展があるから、日本の将来を展望する上での参考にはなる。
 世界を民主主義的な意味で平等なものにするには、解決しなくてはならない問題が無数にあるのだなあと感じた。
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2005-3-11 (土)「ポストコロニアリズム」本橋哲也(岩波新書)

 1492年を契機として500年の間、世界は植民地主義の収奪を受けていたのであり、今の世界は人間にとって公平な社会ではない。相互理解だけでもすでに難しい課題だ。一般論としてはサイードの言う普遍性を意識を持った知識人として行為することが解決への道だろうが、そもそも普遍の立場から他者を知るのは困難なことだ。
 とりあえず、著名なポストコロニアリズムの理論家3人の思想と行動を知るのは、出発点として悪くは無い。その結果、自分に見えていなかった世界の状況にある程度目を向けることができる。世界をいくらかでも良い方向に持って行こうとするには、まず問題を認識する必要があるという意味で啓蒙を受けた。
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2005-2-26 (土)「生きる意味」上田紀行(岩波新書)

 私は自分が生きる意味についてはわかっているつもりで、この本はそれを相対化するために読んだ。つまり、自分のわかっていることと社会はどう対応するかを知りたかった。
 著者は、今の日本人が生きる意味を失っているのは、日本の社会構造に問題があるとする。ただ、社会構造が悪いと言っても生きる意味を失っている人の役には立たないから、それはあくまで自説の説得力を増すために言うのであろう。要はいかに自分の非互換性に目覚めるかである。自分の非互換性は、自分で気づくしかない。ただし、そのためにどんな方法をとりうるか、あるいは多くの人がそれに気づくためにはどんな社会を作っていくべきか、自己の葛藤と、そうした覚醒とはどんな関連があるかを述べる。
 私としては、自分の考える方向がそれと違わないこと、そのことをもとに社会と今後どう関わっていくことができるのかについて、示唆を得ることができた。
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2004-12-14 (火)「小説の終焉」川西政明(岩波新書)

 日本の小説は誕生から今までの120年で終焉を迎えた、という驚くべき主張を掲げる著者が、小説に取り上げられた主要な主題毎にその主張を検証する。
 「私」、「家」、「性」など日本の小説が主題としたそれぞれについて、作家と作品の推移を取り上げている点で、日本の小説を概観することができる点で優れた著作だ。個々の小説を単独のものとして読みがちな私としては、作家間の関連や、その時期の作家の主張などを作品とつなげることで、新たな視点で作品を眺めることができる。
 小説が終焉したかと言えば、私はそうは思わないし著者自身もそれを信じているようには思えない。確かに書き尽くされた多くの主題があるが、個人や信仰、国際関係など尽くされていない主題もまだ多い。
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2004-12-6 (月)「住まいのつくり方―建築家といかに出会い、いかに建てるか」渡辺武信(中公新書)

 著者4冊目の中公新書。これまでの三部作で著者の考え方は書き尽くしたが、今回は真の意味での”ハウ・トゥ本”を書くということで4冊目の本書となったとのこと。
 家を建てる上での3つの選択とか、工法の比較とか、はじめの1/3くらいのところまでは確かにハウ・トゥとして直接的に参考になる内容だが、それ以降はこんなことのためにはこうすればという意味でのハウ・トゥからは離れて著者の考え方の展開になっている。
 建築家としての視点から”住む”あるいは”生活する”ことをながめるとき、なるほどこんなふうになるのかとか、興味深いところは多いが、延床面積の坪単価が80万円程度の住宅が前提となっているので、私としてはいささか腰が引けてしまうところがある。とはいえ、著者の示す3つの選択のうちの”建築家に頼む”という選択肢がどのようなものであるかは良くわかったような気になるので、あとの2つ(住宅メーカーに頼む、工務店に頼む)を含めた検討の土台としての考察材料としては有用だろう。
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2004-10-30 (金)「病的性格―10の類型とその行動」懸田克躬(中公新書)

 シュナイダーの成果をもとに、病的性格−他人や自分を強く悩ますような異常性格−の類型を紹介する。ひとはいろいろな性格を持つことがあるのだなあ、ということはわかるのだが、そうした性格のひと(または自分)とどう付き合っていけばよいのかという示唆が得られるわけではない。
 類型を心得ておけば、ひとと付き合う上でその類型に沿って考えられるから便利ではあるが、人の性格をそのように割り切ることの危険は、著者自身示唆するところ。
 性格の病的異常ということがあり、状況によっては専門家の治療が必要な場合がある、ということを知ることができた。
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2004-10-10 (日)「民間暦」宮本常一(講談社学術文庫)

 柳田邦夫を師と仰ぐ著者が、昭和17年から27年にかけて著した民俗学的研究成果。全国のさまざまな民族行事を比較検証し、その本来の姿を探る、というものであるようだが、残念なことに明確な結論を得るにはいたらない。
 私が興味を持って読めたのは、農業活動の中でどのように稲や麦が作られ活用されてきたかというところ。各種の神事にかかわる記述については興味が離れた。
 その理由を考えるに、もはやそうした神事が私の生活とほとんどかかわることがないためだと思う。著作の中身が悪いわけではなく、こうした研究に対しては自分の周囲との差異を意識しながらでないと興味をつないでいけない。中盤以降は読み飛ばしてしまった。
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2004-9-2 (木)「対象喪失―悲しむということ」小此木啓吾(中公新書)

 愛情や依存の対象を失っても悲しむことがうまくできないと、ひとは精神病理的な反応を起こしてしまうらしい。本書はフロイトが提唱した「悲哀の仕事」を下敷きにして、現代社会において、悲しむことをうまく悲しめていない人たちの心のありようを解き明かす。
 こうした本を読むことの第一の目的は、自分自身の中にある、ある種の整理されない感情をどう扱えばよいのかの指針を得るところにあると思う。ひとは両親と離れ、愛する者と離れ、ついには死によって自身が生きることからも離れることを意識して、生きていく状況にある。そうした悲しみとどう向き合うのか、あるいは向き合わないことがそのひとにどう影響していくかについて、本書は現代の精神科医の立場から解説されている。
 別離は現代に生きる人間すべてにとっての課題であるという意味において、そのことが人間の行動にどう反映してくるのかを知ることは、自分の生き方を考える上で必要なことであろう。
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2004-7-19 (月)「著作権の考え方」岡本薫(岩波新書)

 著作権は今では「経済問題」だと著者は言う。私はホームページを個人的に作っている関係で、著作権に無知でもいられないからと読むことにした本だが、むしろ個人の枠を越えて、著作権ビジネスはどうなっていて、ビジネスを良好に展開するためには著作権にどう対応すれば良いのかというのが題名にある”考え方”が意味するところだったようだ。
 本書の中盤までは日本の著作権法の解説で、私が思った以上に複雑な著作権の説明が、構造的に要領よくされている。単に説明だけで新書の半分を要するとは、やはり著作権法はそれなりに複雑だ。
 著作の意図はしかし、本書の後半に重点を置いているようで、著作権法の性格と、ビジネスにおける紛争を招かない著作権法の活用、それに加えて日本社会の立法に対する姿勢が説明されている。著作権法は複数者の利害を定めるものであるから、当事者全員がそれに不満を抱く、文化庁は法改定にあたって当事者間の調整を行っている、などは私にとって耳新しく、かつ衝撃的だった。
 日本には契約観念が浸透しておらず、個人が法に対する適切な対応をしきれていない実状が、著作権法をめぐる話題でよく理解できた。著作権を巡る経済事情はあらたなビジネスの創設を促しているようでもある。情報ネットワークを利用した大規模ビジネスを考えるのなら、了解しておかなくてはならない内容であろう。
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2004-7-14 (水)「「しきり」の文化論」(講談社現代新書)

 文化論的に「しきり」を扱って、それを建築に適用することであらたな建築デザインを提案する著作かと期待したのだが。
 著者は、自己と他者、自国と他国といった対比から「しきり」の概念を引き出し、分類することはしきることだと言う。このあたりは建築を前提とした議論ならば許容範囲だが、私の感覚とはずれていて、一般的な意味での文化論としては肩すかしのように感じる。例えば湯豆腐を食べるときにトウフとハクサイを意識して食べることと、それをトウフとハクサイをしきっていると捉えることは等価だとは思えない。ともあれ前半では、ひとは何をしきり、何をしきらないかという文化論的な話題が展開される。
 後半は具体的な建築における仕切の話になり、第三章では歴史的話題、第四章では現代的話題が取り上げられる。とはいえ最新の話題は個人住宅で1960年代、オフィスで1980年代のものだから、十分に定説化した議論の範囲に留まっていると言える。
 日本の古い住宅と新しい住宅でのしきり方の違いをまとめて紹介しているという点では、自分の住み方を考える上で参考になると思う。
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2004-6-19 (土)「大阪ことば学」(講談社文庫)

 常々私は、地方言葉には独自の発想があると思っていたが、それが具体的にどんなものかわかっていなかった。本書は大阪ことばについて、そのところをうまく説明してくれている。
 「言うて」は「言う」の連用形命令法で、これに終助詞が付加して「言うてえな」と「言うてや」になる、などという説明は、つまりは大阪ことばの発想が、それだけの使い分けを必要とする文化的背景を備えていることになる。さらに本書ではその使い分けにおける意味の違いにまで踏み込んで解説してくれている。
 動物園のトラの檻の前に「かみます」という看板を置くとか、和田アキ子のフマキラーCMとか楽しい話題もたくさん。
 これを読むと、なんとなく大阪ことばがわかった気になり、自分でも話せるのではないかと思ったりするが、やはりそれは間違いであろう。
 ことばと文化の理解が一筋縄ではいかないことを示す一例としても読める。
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2004-6-3 (木)「逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす」金子勝、児玉龍彦(岩波新書)

 ”逆システム学”ということばからは”リバース・エンジニアリング”を連想したので、全体論的な取り組みによる構造解明の方法かと思ってしまったがそうではなかった。要素還元論でも全体論でもなく、多重フィードバックに注目する方法論を提唱するものだった。
 経済、あるいは生物系という複雑系は、多重化されたフィードバックによって全体の調整がなされている。特定の構造にだけ注目し、それを反応させることで、系全体を制御しようという試みはうまく行かないことが多い。
 とはいえ、例えば人体はフィードバックだけで構築されるものではなく、その前提には当然各種器官の存在がある。逆システム学は従来の構造を否定するものではないが、構造だけに注目するのではもはや全体を制御するには足りない状況が生まれているという認識を示す。
 逆システム学提唱の前提には、逆システム学的方法論による旧来の方法論に対する批判があるわけで、それは本書において経済学と生物学における最新動向の紹介とそれに対する反省としてあらわれる。あらたな方法論に対して批判的な読者であっても、ここに書かれた現状分析には共感するものがあるだろう。
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2004-5-19 (水)「民俗学の熱き日々―柳田国男とその後継者たち」鶴見太郎(中公新書)

 柳田国男の業績をどう評価できるのか、私はこれといった印象を持てないでいる。その著作に対して散漫な印象を持っている。民俗学の成果に対する簡便な解説書を知らない。
 柳田の著作を単に自分のインスピレーションの源として以上に捉えることができるのかどうか(そう捉えるためにはどんな見方をすればよいか)、を明らかにできればという期待を持って読んだ本だが、私の疑問はあいかわらず保留のままだ。ともあれ、柳田を焦点とした文壇の流れについて、あるいはプロレタリア文化運動とのかかわりについていくらかの知見を得ることができたと思う。
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2004-5-13 (木)「メルヘンの知恵―ただの人として生きる」宮田光雄(岩波新書)

 メルヘン(=民話)は時代を経て語り継がれてきたものだから、その中に人生の知恵が含まれるのは当然のことだ。本書は4つのメルヘン、「皇帝の新しい着物」、「いさましいちびの仕立屋」、「二人の兄弟」、「死神の名づけ親」について著者なりの人生の知恵を読みとる。
 最初の三作品からは、経験から次々と学ぶことで自分の思い込みを正して、より完全な自分に近づく(べきだ)ということを読みとる。最後の作品は、死と真摯に向き合えということか。
 若いうちは思い込みで行動しても、その経験から教訓をくみ取り、やがては十分な成長を迎えることができる。成功するものは、教訓を学んだものであり、学ばなければ何も変わらない。もっともなことであり、メルヘンの裏付けがあれば説得力が増す。
 私には、この物語で語られる成功には多分に偶然的なものがあるところが気になる。真摯に行動し、幸運に恵まれて、初めて成功する。運は望んでどうなるものでもなく(誰もメルヘンの主人公ほどの幸運には恵まれないだろう)、学ぶものは経験の中からしか得られないとすれば、つまりは真摯さの奨励に尽きるということになる。
 一所懸命に生きようという気持ちにさせてくれる本だ。
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2004-5-5 (水)「オウム法廷〈13〉極刑」降幡賢一(朝日文庫)

 カバーに[最終巻]と書かれた本書は、一連のオウム裁判のうち、最後の一審判決となった教祖松本智津夫の最終盤の法廷に焦点を当てる。また、教団医師中川智正と、サリン製造者土屋正実の最終盤法廷の様子を含む。
 起訴された教団の犯罪のすべてに関わった松本であるから、その最終弁論と判決は、オウム事件の総括といえる。
 この一連のシリーズは、オウム事件の解明に迫るとともに、併せて日本の裁判がどのように行われるかを実例として伝えており、その意味でも興味深い。
 だが、オウム事件の解明は実際にどこまで進んだのか。本書にも書かれているとおり何が”どのように”行われたかは明らかになったものの”なぜ”それが行われたのかについては十分に明らかであるとは言えない。まして、オウム真理教団上層部という殺人集団を生みだしてしまった、あるいはそれに苦しめられた多くの人たちを長い間放置してしまった我々の社会の問題点と改善方法を明らかにするに至るものではない。
 オウム事件が我々の社会に対して突きつけられた課題だとすれば、その解決のためにはまず基本的な事実として、膨大な労力をかけて事件の解明を続けた裁判の記録をおろそかにはできない。その意味で一連の裁判を横断的に、時系列で伝えるこのシリーズは適切な出発点を提供するものだろう。
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2004-4-11 (日)「江戸の旅文化」神崎宣武(岩波新書)

 私の想像以上に、江戸時代に庶民はたくさん旅をしたらしい。そのことを受け入れ側としての宿屋や、御師(おし、おんし)の側の状況から描く。
 特に御師というのが、神職から転じた総合旅行業で、自宅(といっても大きなものだが)で神楽奉納までやっていたというのが私にとってはあらたな認識。
 講を組んだ庶民が、伊勢の御師をめざして旅をし、御師の館で供応(二の膳付き)を受けるとともに神楽の奉納までする。その費用は数十両、江戸中期では御師の数600から700家というのだから、江戸期の旅行は相当に盛んだったと思わざるを得ない。本書はその他に、善光寺や厳島、湯治の旅、みやげものの起源などにも触れる。
 御師による斡旋旅行の方法が、現代の我々の旅のイメージにも強く影響していると思われるあたりが特に興味深い。
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