読書して考えよう 分野別

アジアのあゆみ

2007-10-22 「夏王朝 中国文明の原像」岡村秀典(講談社学術文庫)
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 中国では存在が公認されている夏王朝。考古学と文献学の最新成果をもとに、その実像に迫る。

気に入り度:◎◎◎
 古代夏王朝が、想像していたほど荒唐無稽のものでもないという気持ちになる。少なくともそれに相当する時代の遺跡や遺物は多くあるわけで、そうした古代中国のありようや研究方法には感心されられる。古代の酒器、武器、宮殿の規模や配置など。

おすすめ度:★★★
 専門性が高いが、夏についての常識や古代の器物に興味があれば、研究の成果を知る良い手がかりになる。

2007-6-26 「南京難民区の百日―虐殺を見た外国人」笠原十九司(岩波現代文庫)
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 1937年11月、上海を制圧した日本軍は南京への攻略を開始。12月、南京占領。占領後、翌年1月までに非戦闘状態で死亡したり被害にあった民間人の数は3万をくだらないとされる。
 その間の全体像解明の試みの結果が本書だ。

気に入り度:◎◎◎◎
 様々な資料を駆使しても、解明できない部分は残る。それでも、複数の独立した資料が、同様のことを示していればその出来事の信憑性は高まる。南京占領時の出来事を時系列的に、意味を持って並べる点で、少なくともそこで起きた出来事をみずから確認するための手がかりとして意味がある。
 南京占領は、戦略的に見れば誤りと判断されるのではないかと思う。無為に多数の犠牲者を出したことは国際非難を招いて、政治的な不利をもたらした。
 当時の人たちの行為を、現在の価値基準を当てはめるだけで判断することは慎まなくてはならないが、起きた結果と現在との関係を考察する上ではそこに何があるのかを知ることが重要だ。本書は事件全体のまとまった印象をもたらし、当時の軍隊のありようをうかがうにおいて貴重だ。

おすすめ度:★★★★
 南京大虐殺があったのかなかったのか、ないとする立場に身をおくにしても、学問的方法論から反論するには、あるとする立場から学問的方法論で構成された全体像を把握しておく必要がある。南京大虐殺についての議論は、現代とのつながりにおいて避けていられない。

2007-4-8 「「国語」の近代史―帝国日本と国語学者たち 」安田敏朗(中公新書)
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 明治の国家近代化による統一、大東亜共通言語としての運用、と「国語」が政治的にどう位置づけられてきたかを示し、またその後の変遷をたどる。政治と「国語」の関連は見通し良くまとめられているが、統合と整理の中で国語自体がどう変化したかについての記述は乏しい。丸谷才一編著の「国語改革を批判する」などを併読すると一層考察を深めることができるだろう。

気に入り度:◎◎
 国語改革は政治的にも重要な歴史事件だと思うが、国語から失われた要素が日常生活においては政治的な意味以上に重要だと思う。その意味で、政治的な意味合いだけを強調する本書は、読者に全貌を伝えきっていないと思える点で不満が残る。

おすすめ度:★★★
 言語が政治的な材料になることに気付くのは重要だ。その上で、「国語」から取り去られた要素が何であるかを知れば、その意味をより深く考えることができると思う。

2009-12-9 「紫禁城の栄光―明・清全史」岡田 英弘、神田 信夫、松村 潤(講談社学術文庫)
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 明と清の歴史を、シナと中国という観点から語る。シナとはこの場合漢民族の国家、中国は満州、漢、モンゴル、チベット、ウイグルのいわゆる五族による国家を指す。
 一般に、元が明に滅ぼされたとされた後、モンゴルはどうなっていたのか、アジア大陸をめぐるさまざまな文化集団が、明・清の時代にどう活動していたのかを通じて、国家の興亡を描くその方法は、初版から40年を経ようという今も強い説得力を持つ。
 この本においては紫禁城は栄光の象徴であって、特に紫禁城について詳しく書いたものではない。

気に入り度:◎◎◎◎
 国家というのはいたずらに興きたり亡んだりするものではない、ということを実感させられる。また、永続する国家組織というものは幻想に過ぎないのかとか考えさせられる。チベットと中国の関係、満州とモンゴルの違いなど、漠然としかわかっていなかったものが明瞭に示されている点でも認識を改めた。

おすすめ度:★★★★
 世界の中の力関係に多少とも興味があるなら引き込まれる。東アジアの歴史的構造認識をあらたにさせられる。紫禁城は地図程度の登場なので、紫禁城について知りたいのならたいして役に立たない。清の政治組織構造を歴史的経緯に照らして解き明かしていくところは、八旗がどのようなものかをわかりやすく示してくれている。

2006-2-8 「西太后―大清帝国最後の光芒」加藤徹(中公新書)
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 現代中国人が抱く中国のイメージは西太后の時代にあるとする著者が、その時代を解説する。私は西太后には”暴君”的な印象しか持っていなかったのだが、単なる暴君や愚者が47年間も大国支配できるはずもなく、それなりの才能を持っていたらしい。
 現代中国の精神風土に大きな影響を持つ、西太后の時代とはどんな時代だったのかを知る手がかりとして良い。また、政治における贅沢の効用についても納得させられるものがある。

2005-11-12 「シュメル―人類最古の文明」小林登志子(中公新書)
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 確認しうる世界最古の文明の様相ということで興味深く読んだ。楔形文字といっても、複数の言語で採用されているために、各言語を知らないと読めないとか、神と人間のありようとかが興味深かった。
 序文に一冊丸ごとシュメル文明という本は珍しいとあるが、さまざまな話題が取り上げられていて、一般の興味を引くシュメル関連の話題はすべて尽くされているような感がある。そのためかいくらか散漫な印象がある。

2005-10-19 「サウジアラビア―変わりゆく石油王国」保坂修司(岩波新書)
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 テロとイスラムは、現在社会の関心事だ。ところで、サウジアラビアってイラクじゃないしパキスタンとも離れているから、いくらか関心領域からは外れているよね。なんて思っていたら、アル・カイーダもパレスチナ問題もこの国が深く関わっている。
 王族政治で、国家歳入の大部分が石油に依存している。それでいて、持続する状態を維持しているのだから、日本を標準的な国家として考える私には想像できない世界だ。そのあたりの仕組みがどうなっているのかから初めて、国民の生活のありよう、イスラムとのかかわり、社会の変化の方向を示す本書は、世界に関わるイスラムの現状を理解するおおきな前提条件の一つを解き明かしている。

2005-8-6 (土)「閔妃(ミンビ)暗殺―朝鮮王朝末期の国母」角田房子(新潮文庫)

 明治維新と前後して李王朝の王妃となった閔妃。日本は、欧米各国と清、ロシアを相手にして朝鮮半島での利権確保に動く。
 陸奥宗光、伊藤博文、勝海舟、福沢諭吉らが具体的にどんな動きをしたのかがよくわかる。
 日清戦争が朝鮮半島を戦場として戦われたことは、この本ではじめて知った。福沢諭吉の脱亜入欧の思想がどうした文脈で語られていたのかも私には目新しかった。
 政治的局面打開の手段として、他国の王妃暗殺が行われたのはその時代の思想を象徴する出来事と言える。当時を理解するうえで貴重な手がかりになる本だ。
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2005-7-9 (土)「古代中国の文明観―儒家・墨家・道家の論争」浅野裕一(岩波新書)

 黄河流域はもともと鬱蒼とした森林地帯だった。文明の発達は人間に恩恵をもたらしたが、自然破壊の結果もまた、人間が引き受けることになった。そうした状況に生まれた中国諸子百家の思想。
 文明と自然はどう向き合っていくのかという観点の違いからみると、儒家、墨家、道家が対比的に理解できる、という話。これらの思想を理解するうえでは興味深い話だったが、現代文明に対して自分がどう向き合っていくのが良いのかについての示唆を期待していた私としては、肩透かしされた気分がある。話は最後まで三者の対比にとどまる。
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2005-6-25 (土)「酒池肉林―中国の贅沢三昧」井波律子(講談社学術文庫)

 最高の贅沢とはどんなことなのか。長い文明の歴史を持つ中国ならではの贅沢にこそその答えがあるだろうという興味のもとに読んだ。「史記」、「紅楼夢」、「金瓶梅」、「資治通鑑」というあたりが主な資料となることから、残念ながら私にとって新規な内容は多くなかった。ともあれ、貴族たちの贅沢が、競い合うことで洗練の度合いを増すとか、蘇東坡のものにこだわらない考え方、というあたりには感心した。
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2005-6-12 (日)「ドキュメントヴェトナム戦争全史」小倉貞男(岩波現代文庫)

 ヴェトナム戦争と言えば、ゲリラ、枯葉剤、泥沼、厭戦、反戦、ドラッグと連想が働くが、それはアメリカ的な視点に過ぎない。本書は1945年のハノイクーデターから、アメリカ撤退後の第三次インドシナ戦争までを主にヴェトナム側の立場から記述していく。
 史実だから、感想を述べるのは難しいが、ひとつには共産主義の理想と民族主義の関係、いまひとつには、国家規模において全体像を掴むのが如何に難しいかといったあたりが印象に残る。ゴ・ディン・ジェム、グエン・カ・オキ、ロン・ノル、ポル・ポトといった権力者たちがどんな統治をしていたかというあたりも私には興味深い。
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2005-5-26 (木)「戦国策」近藤光男(講談社学術文庫)

 「まず、隗より始めよ」、「漁夫の利」、「遠交近攻」などの成句の出典である戦国策486章から100章を選んで紹介するもの。戦国策は紀元元年頃にまとめられたが、そのもとは春秋時代にさかのぼる竹簡。何事も原典を知るのは大切なので読むことにしたが、戦国擾乱の春秋時代がどんな時代であったかの雰囲気を感じることができた。
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2005-4-21 (木)「甘粕大尉」角田房子(ちくま文庫)

 大正12年、活動家大杉栄殺害の罪を受け除隊、その後満州で暗躍、満州で比類ない権力を振るうにいたる甘粕正彦。
 実に訳のわからない話であるが故に、その時期なにが起きていたのかは探求に値する。張作霖爆殺から満州国建国、太平洋戦争へとむかう時代精神と、関東軍、陸軍中央のありようが、甘粕正彦を焦点として描き出される。
 自己の栄達を目的とせずに行動する人間は強い。それは強烈な天皇崇拝を抱いていても同じだ。個人の信念がどれだけのものを呼び込んでくるのかという、個人のありかたについても考えさせられる材料を含んでいる。
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2005-2-25 (金)「東アジア共同体―経済統合のゆくえと日本」谷口誠(岩波新書)

 標題の東アジア共同体についての関心もさることながら、むしろその雛形として参考にされるべきEUや世界経済の状況についての関心から読むことにした。世界貿易の現状をアジアの視点から眺めるという意味では、それなりによくまとまっていると思う。
 東アジア共同体という点では、やはり経済の立場からその必要性と課題が整理されて示されている。ただ、必要性から実現につなげる上で避けて通れない政治的選択や文化的な融和に関わる提言は本書の範囲には含めていないようだ。
 必要性という点では、確かに経済の視点だけで判断すべきなのだろうが、私のような素人の立場からはあまりに技術的に偏った断定のように思えてしまう。というか、私の関心は政治や文化を含めたところにあることを改めて意識した。経済の専門家の視点がどういうものかについて、うかがい知ることができた点はよかった。
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2005-2-10 (木)「楊貴妃伝」井上靖(講談社文庫)

 開元の治を果たした玄宗皇帝に召された楊玉環は、唐帝国の権力の中枢へと入り込む。さまざまな者たちがそれぞれの権力を振るうそこでは、みずからもまた権力を身に着けなければ、生き延びることは難しい。
 唐という巨大帝国を維持する権力は、また個々の思惑を超えた存在でもあった。栄華を極めながらも、貴妃も、皇帝もみずからの運命を制御できない。李林補、高力士、安禄山、楊国忠の行動により、帝国はどう変わっていくのか。
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2005-1-14 (金)「古代インド」中村元(講談社学術文庫)

 本書は「現代を通じて発見されたインド古代史」であると著者は言う。そのとおり、古代インドのそれぞれの相がどう現代のインドにつながっているかを、本書は述べている。
 ここで描かれているのは、インド先住民のインダス文明から紀元5世紀頃のグプタ王朝滅亡まで。それにスリランカとネパールの事情が加わる。紀元5世紀はインドでの仏教の消滅と重なる。
 本書はまた、インド文明と重なる仏教の興隆に多くの筆が使われている。バラモン教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、イスラム教は仏教とのかかわりにおいて取り上げられている。すなわち、仏教に視点をおいたインド文化史になっている。仏教の教義の変化が、インド社会の変化とどう関連するのかが本書の主題であり、教義やストゥーパや仏像の変化などその意味で興味深く読める。
 仏教にヒンドゥー的要素がどう反映されているのかについて、私には特に興味深かった。
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2003-12-27 (土)「司馬遷の旅―『史記』の古跡をたどる」藤田勝久(中公新書)

 司馬遷の「史記」の舞台となった中国各地を、司馬遷自身の旅と重ね合わせる形での著者の訪問記録。「読者のみなさんは、中国の地図をひろげ、ゆっくりと旅をするように本論を読んでいただければとおもう。」と著者の言うとおりだが、「史記」に親しみのない私としては、土地ごとにちりばめられた史記のエピソードはいささか断片的に過ぎる印象だった。おそらくはじっくりたどれば、あるいは同じ著者による「司馬遷とその時代」から入っていけば、もっと深い楽しみ方ができていたように思う。
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