読書して考えよう 分野別

ヨーロッパのあゆみ

2009-11-21「パリ 都市統治の近代」喜安朗(岩波新書)
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はごたえ:かため
あじつけ:濃いめ
そざい :都市統治機構

 17世紀の王権による統治から19世紀の統治まで。パリのポリスの変遷を軸にした都市構造の変化。


内容について
 王による統治と共和制を行き来する歴史の中で、パリは重要な舞台となる。貴族とブルジョアと民衆が入り混じり、さまざまな商品が流れ込む。民衆の蜂起があり、結社が作られる。
 大きな歴史変化のうちにあって、警察機構はどのように起こり、どのように変遷していくのかを追う。
 日本の警察機構は明治になって設立され、現在に至るまでその意義はほとんど変化していないように私は思うが、警察の起源をたどればこうした都市統治につながるのであろう。ひとがひとを治めていくということが歴史的にどう変化してきたのかが興味深い。またあわせて都市としてのパリの発展の経過もみのがせないところ。

この本にもとづく随想
 とはいえ、王政時代のパリでの生活がどんなだったのかなどということに興味を持つのは、一般にはかなり特異なひとということになりそう。「ナポレオン フーシェ タレーラン」を読み、ダルタニャン物語(鈴木力衛訳)(私が読んでいるのは文庫版ですが)を読み始めていなければたぶんこの本は読んでいないと思う。
 一冊の本にとどまらずに、そこからつながった興味をさらに広げていくのも読書の楽しみの一つだと思う。

2008-3-30 「ベーダ英国民教会史」高橋博(講談社学術文庫)
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 8世紀に書かれた、英国キリスト教史。当時の英国政治事情と、歴史把握と、キリスト教伝道がどんなふうにされていたかがわかる。

この本にもとづく随想
 7つの王国に分かれていたイングランド。信仰が勝利をもたらし、聖人は奇跡を起こし、天使や精霊が目撃される。
 7王国やら、超自然の存在やらと、某ファンタジー小説はこうしたものをふまえていたのかとあらためて感心。キリスト教も精神的な教えというよりも、現世利益と死後の安心という生活に直結した、証明されなくてはならない事象として人間に浸透していく。
 ここまで現世的な側面がキリスト教にあるのかということを、実証しているところがとても読んでいて楽しい。
 ファンタジー小説と比べると読みにくいのは当然で、小説のほうが現代読者に配慮したさまざまな工夫を凝らしている。その差に注目して現代小説とは何かという考察につなげるのも面白い。

おすすめ度:★★★
 死が身近であっただけに、当時の人たちは宗教に直裁で正直だと言える。人間の基本的な生き方・考え方があからさまに見えてくるのが面白い。現代とはかけ離れた世界の話であるから、そのあたりを自分なりに補いつつ読めないと辛い。

2007-6-17 「死を与える」ジャック・デリダ(ちくま学芸文庫)
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 死は個人にとって不可避で、それを誰かに譲ることも、あるいは代わりに死ぬこともできない。それでも”死を与える”という表現があるということは、何を意味するのか。といったところで始まるヨーロッパ文化の根底にある宗教についての考察。

気に入り度:◎◎◎
 独自の視点と切り口。一般的な概念が無いところでの思考を表現するので、日常的な言葉を使いながらも、普通の使い方とは意味が違い、それを説明しながら説明するので、まわりくどく意味がとりにくいという印象になる。
 哲学をするには不可避な現象だが、一時にすべてを理解するのは私としてはあきらめてかかることにした。そこここに、示唆に富む言葉があり、それはそれで面白い。
 責任と宗教の関係などが、最初のほうに出てくるのだが、これ一つとってもヨーロッパ文化は一神教につよく関係していると思える。

おすすめ度:★★★
 難解だが、本書でなくては得られないような考察に触れられる。ともあれ読み通して、自分の中に何が残るのか試してみるのも良い。

2007-5-30 「古典ギリシア」高津春繁 (講談社学術文庫)
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 ギリシアとはどんな土地で、どんな人が住み、どういう種類のギリシア語が話され、芸術にはどんなものがあり、といったギリシア文化の土台の話だけで一冊の本になっている。昭和21年に出版されたものだけに読み始めのあたりでは当時風の言い回しがいくらか気になった。

気に入り度:◎◎◎
 文化を理解するためには、そこに含まれる一つ一つの概念とそのつながりの独自性に留意する必要があることに気付かせてもらった。

おすすめ度:★★★★
 興味深い内容を多く含むが、ギリシアの個々の哲学や学術・芸術にある程度触れた後のほうが一層触発されるところが多いように思う。

2007-5-30 「西洋近世哲学史」量義治 (講談社学術文庫)
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 8年間放送大学の教材だった本。トマス・アクィナスからヘーゲルまでを、キリスト教的な神との対峙という観点を軸にして概観する。

気に入り度:◎◎◎
 理性や意識、個人などの裏に絶対的存在を予期することで、西洋近世哲学が見通し良く整理されることを示す点に、強い好感を持った。

おすすめ度:★★★★
 独自の哲学観をふまえているとはいえ、広く偏らずという教科書的なまとめ方をする限りは、踏み込んだ議論にはならない。万能の書物があるはずもないから、それをわきまえた上で読むのが良い。

2007-4-17 「ヨーロッパを見る視角」阿部謹也(岩波現代文庫)
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 1995年の岩波市民セミナーでの講演をまとめたもの。ヨーロッパでは12世紀頃までは”世間”の中で生きていた人間が”個人”や”市民”として変わっていったとの史観から、”世間”が継続する日本と対比する視点を解説する。

気に入り度:◎◎◎
 ヨーロッパに残る”世間”の痕跡。という視点は興味深いが、それにとどまらずに当時の社会生活の解説などを取り込んでいることで、話題としての発散を感じる。焦点を”痕跡”に絞って、さらに深めた議論を期待したいが、研究自体がそこまで進んでいないのだと思う。難しい主題だからやむをえない。

おすすめ度:★★★
 いくらか散漫な印象がある。貴族や都市での生活、村落の様子や古い伝説など、教養的な話題が多く含まれる。

2007-3-16 「処女懐胎―描かれた「奇跡」と「聖家族」」岡田温司(中公新書)
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 聖母マリアとその家族に関する、教義や捉え方の変遷を、主に絵画の意匠の変化から読み取る。マリアが無原罪であるという表現は、どう工夫されたのか、マリアの父ヨセフの取り扱いは、時代によりどう変わるかなど。
 宗教絵画が教義を表すために、どんな要請を受けて、どんな表現になるかなどは、美術的観点から宗教絵画を見るうえでも心得ておくほうが良い。

気に入り度:◎◎◎
 抽象的な性格のある宗教教義を、いかに絵画に置き換えるのかについて、さまざまな工夫がなされる、というあたりは人間の創造性の一面を見るようで面白い。
 本書の主張のもうひとつ、教義は社会の変化に影響されている、というのは当然の事実についてのあらたな実例という意味で記憶に値する。
 前著「マグダラのマリア」が教義上の変遷に焦点を当てていたのに対して、技術的・文化的な論点がより多く取り込まれているようだ。そのぶん散漫な印象もあるが、論点としてはこちらのほうが好き。

おすすめ度:★★★
 キリスト教・絵画、両者への興味が無いと読み通すのは辛いだろう。

2007-3-04 「オリエント急行の時代―ヨーロッパの夢の軌跡」平井正(中公新書)
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 1883年のオリエント急行開通記念列車は、どのような列車で、どのような国を、どのような政治・社会状況のもとで走ったのか。また、それ以降のオリエント急行は歴史的社会変化にどう追随したのか。
 オリエント急行の歴代車両構成とか、室内調度の変遷とか、時期毎の代表的ディナーメニューとか、機関車とかは特別詳細に触れられていない。ヨーロッパを中心とした歴史や文化の変遷と、それがオリエント急行に与えた影響が主題。
 時代の象徴だった鉄道の隆盛と衰退をオリエント急行に託して語っていると見るのが良い。

気に入り度:◎◎◎◎
 新しいヨーロッパの象徴としての鉄道、というのは同時代感覚なので、一般にわかりにくい。その雰囲気を伝えるという意味で好きだ。

おすすめ度:★★★
 オリエント急行はあこがれの象徴。その思い入れの程度によって、本書の受け取り方が変わってくると思う。

2007-1-21 「十二世紀ルネサンス」伊東俊太郎(講談社学術文庫)
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 ヨーロッパ世界で現在につながる文化の基盤が築かれたのは、12世紀。その端緒は、ギリシャ・ローマの古典を受け継いだアラビア世界からの文化の輸入にあった。
 アラビアからの文化はどのような経路もたらされ、どんな人物によって担われ、どんな種類のものがあったのか。当時の貴重な図版等を含む。

気に入り度:◎◎◎◎
 14、15世紀に起こるとされるいわゆるルネサンス。その前提として、アラビア文化の影響、あるいはアラビア世界を通じたギリシャ・ローマの古典の流入があった、ということは知っていたが、その実態となるとなるほどこうだったのかと思わされる。
 ヨーロッパ文化に与えたアラビア文化の影響もこれまた大きなものがあるようだ。

おすすめ度:★★★★
 わかりやすく、興味を引く語り口。中世暗黒ヨーロッパに、いきなり花開くルネサンスという図式がいまひとつ信じられなかったが、この本のおかげで歴史の連続性についてあらためて信じることができる。

2007-1-12 「ローマ人の物語〈15〉ローマ世界の終焉」塩野七生(新潮社)
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 ローマ人の物語最終巻。1年1冊のペースで15年かけてローマ史を書くという著者の構想が完成した。最後のローマ人といわれる将軍スティリコの戦い、ローマの劫略と西ローマ帝国の消滅、いわゆるヨーロッパ暗黒時代における蛮族国家の変転まで。
 第1巻から続く、著者独自の歴史を見る視点は最終巻まで変わらなかった。ローマとは何であったのか著者はようやく”わかった”と言うが、一読者としてほとんど著者の書いたものだけを通じてローマに接していた私には、いろいろと納得の行かないところがある。とはいえ、それは著者の問題ではなくて私の問題だ。長大な歴史作品を完成した著者に対しては賛嘆の声を送りたい。

気に入り度:◎◎◎◎◎
 ローマとは何で、なぜ起こりなぜ滅んだのか、それは解釈の問題だから、現象だけを見ていたのではわからない。思索のための糸口は、多くこのシリーズに語られている。ローマ時代には蛮族世界の限界は知られていなかったが、現代は地球全体の状況が知られるようになった。その意味で、歴史は決して同じ繰り返しにはならないものの、ひとつの巨大帝国の歴史は人間のあり方を知る上で大きな手がかりになる。
 当然のことながら、ローマの外から来る蛮族の全体的統計情報はありえないから、その規模や切迫した精神状態などを数値的に裏付けるのは困難だが、これはもちろんやむをえない。

おすすめ度:★★★★
 当然ながらシリーズの最初からの通読を勧める。15巻、15年を通じて著者の姿勢が貫かれている点はすばらしい。面白いかどうかは、著者の姿勢に共感できるかどうかにかかる。細部を知って初めて全体が見通せるのであり、手早く結論を知りたいという態度では15巻を読みきることは難しい。じっくりと、こだわりながら巨大な物語を味わって行こうとする気持ちが必要だ。

2006-1-4 「キリストの勝利 ローマ人の物語XIV」塩野七生(新潮社)
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 コンスタンティウス帝からテオドシウス帝まで。タイトル通りこの時期に、キリスト教がローマ皇帝の権威を越える。
 しかし、キリスト教の浸透をローマの滅亡・溶解・解体の原因だとするわけではなく、帝国はさまざまな困難への対応を余儀なくされている。歴史においてはさまざまなことがおきるのだが、それがローマを主題として語られるというこれまでの流れにそった叙述。
 私には、初期キリスト教史として、また近代ヨーロッパにつながる民族移動史として興味深い。古代キリスト教最大の神学者と呼ばれる聖アウグスティヌス登場に先立つ1世代前に聖アンブロシウスがどのように教義を整えたのかとか、フン族やゴート族、アングロ族など近代ヨーロッパにつながる部族がどんなふうにローマに浸透してきたのかとか。

2005-12-6 「プラントハンター」白幡洋三郎(講談社学術文庫)
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 17世紀から現在に至るプラントハンターとその仕事を紹介。国家事業としてのプラントハンティングとはどんなものだったのか。それが、現在の社会にどう影響し、歴史とどう関わったか。
 日本からも多くの植物が西欧に運ばれ、文化的な影響を与えた。これを文化の簒奪と見るのは現在的な視点であって、当時は別の感覚で捉えられていたようだ。植物を通じて、世界は意外に早い時期から深くかかわっていたということに感銘を覚えた。

2005-11-23 「西洋音楽史―「クラシック」の黄昏」岡田暁生(中公新書)
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 西洋音楽通史。グレゴリオ聖歌から20世紀ポピュラーまで。一般にもわかりやすいよう、いわゆるクラシック音楽からみた音楽史ということで、クラシック趣味(他のジャンルよりも良く聞くという程度)である私向きかと思った。
 西洋音楽の祖先がグレゴリオ聖歌だということは聞きかじっていたが、それがバロック時代にどうつながるかは私には目新しいところ。以降17世紀から19世紀への聴衆層の変化と対応させた音楽の変化、20世紀でのクラシックの解体まで、自分の聴いていた音楽と対比させつつ納得しながら読めて、あらためてそれらの関連がわかったと思う。このあとどんな曲を聴くかという指針も得た。

2005-10-22 「友情を疑う―親しさという牢獄」清水真木(中公新書)
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 友情とは何かという、哲学的考察。古来、キケロやアリストテレスから、モンテーニュ、ルソーにいたるまで哲学者は友情を考察の対象とした。現在における友情とは何か。
 私はいわゆる「おともだち」や「友人」の意味については日ごろから疑問に思うことがあって、それで手に取った本だ。歴代の思想紹介の後は当然現代における友情の意味についての考察があると期待したのだが、残念ながら歴代思想を通じて現在を評価することで終わっていた。それにしても、ルソーの思想がフランス革命に影響して、それが現在の社会構造に関わってくるというのは興味深かった。自分で友情の意味を考えようとするなら、歴代思想の変化は参考になる。

2005-10-14 「中世ヨーロッパの城の生活」J.ギース、F.ギース(講談社学術文庫)
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 ウェールズのチェプストー城の研究をふまえて、城の変遷と生活を紹介する。チェプストー城は11世紀から17世紀まで利用されており、その間の事情は複雑だからひとくちに城の生活を語るわけにはいかない。もちろん、それほどロマンチックなものでないのは読む前から予想していた。時代とともに城も変遷していくというのは、私はこの本ではじめて意識した。学術色の強い内容だから、興味を持たないと読み通すのは辛いと思うが、ヨーロッパの歴史と文化について独自の内容を含む。

2005-7-16 (土)「ゾルゲ事件 獄中手記」リヒアルト・ゾルゲ(岩波現代文庫)

 リヒアルト・ゾルゲはドイツ人で、モスクワにあるコミンテルンのために日本で非合法な情報収集に当たっていた。本書はゾルゲが逮捕された後、調査の一環で本人が書いた手記だ。
 事実の確認がその目的だから、特定の主題を持つものではなく、何を汲み取るかは読者しだいだ。ゾルゲの卓越していたと言われる知性と独特の視点から、日本社会がどう捉えられているかにも私は興味があるが、本書には含まれない。
 私が特に興味深く思ったのは、当時(1940年頃)の共産主義の組織すなわちコミンテルンと各国共産党の関連と推移、スパイ活動の実態、およびゾルゲのような人間がどうして共産主義を信奉するに至ったかだ。
 世界史の一大潮流としての共産主義を理解しようとする立場からは貴重な情報を示すものだと思う。
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2005-3-29 (火)「ヨーロッパ市民の誕生―開かれたシティズンシップへ」宮島喬(岩波新書)

 世界各地に植民地を開いたヨーロッパには、それらの土地から大量の人々が流れ込んでいる。国家は民族単位でも文化単位でもない存在として存立しなくてはならない。また、民主主義を標榜するヨーロッパは、国外からの移動者を含む住民の声を無視するわけにはいかない。変貌を続けるヨーロッパの実像を追う。
 ある意味では、何の回答もない現状報告だが、問題点の列挙はされている。ひるがえって、アジアの中の日本を考えるに、これまた類似の問題をかかえている。ともあれ、移動者の数は圧倒的にヨーロッパ(各国)の方が多く、問題の進展があるから、日本の将来を展望する上での参考にはなる。
 世界を民主主義的な意味で平等なものにするには、解決しなくてはならない問題が無数にあるのだなあと感じた。
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2005-3-11 (土)「ポストコロニアリズム」本橋哲也(岩波新書)

 1492年を契機として500年の間、世界は植民地主義の収奪を受けていたのであり、今の世界は人間にとって公平な社会ではない。相互理解だけでもすでに難しい課題だ。一般論としてはサイードの言う普遍性を意識を持った知識人として行為することが解決への道だろうが、そもそも普遍の立場から他者を知るのは困難なことだ。
 とりあえず、著名なポストコロニアリズムの理論家3人の思想と行動を知るのは、出発点として悪くは無い。その結果、自分に見えていなかった世界の状況にある程度目を向けることができる。世界をいくらかでも良い方向に持って行こうとするには、まず問題を認識する必要があるという意味で啓蒙を受けた。
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2005-1-3 (月)「最後の努力 ローマ人の物語 13」塩野七生(新潮社)

 ディオクレティアヌス帝とコンスタンティヌス帝。ディオクレティアヌス帝ではローマに二人の皇帝(正帝)と二人の副帝が置かれる。だが、ローマの分裂はいま少し先だ。コンスタンティヌス帝はふたたびローマ唯一の皇帝になる。
 物語完結まで2巻を残す本書は、ついにローマ滅亡の実態を示すところまで来た。芸術は衰退し、都市ローマは首都としての役割を果たせなくなり、キリスト教が公認される。ローマ帝国時代とそれに続く中世を歴史の断絶とししてしか捉えていない私にとっては、興味深い事実が次々と展開される。
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2004-11-24 (水)「レオナルド・ダ・ヴィンチ―芸術と生涯」田中英道(講談社学術文庫)

 万能の天才と呼ばれるレオナルド・ダ・ヴィンチについて、その本質を画家としての立場に見た上で、彼が認識していた世界とその生涯を解き明かす。
 「三王礼拝」の意匠から読み取られるレオナルドの持つ世界観が、「岩窟の聖母」や「聖アンナと聖母子」を経て、いわゆる「モナ・リザ」と「聖ヨハネ」に向かってどう結実していくのかが、残された手記やデッサンに関わる考察を交えて、検証されている。
 15、16世紀の政治情勢を背景に、ミケランジェロをはじめとする他の芸術化とのかかわり、また古代ローマ哲学の系譜の中に、レオナルド・ダ・ヴィンチの思想と生き方が示される。
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2004-10-21 (木)「バルチック艦隊―日本海海戦までの航跡」大江志乃夫(中公新書)

 このタイトルからだと、日本海海戦に臨む際のバルチック艦隊事情を紹介するものと思ってしまう。ところが、本書が記述するのはピョートル大帝以前にさかのぼるロシアの海洋政策の歴史だ。その歴史から生まれたバルチック艦隊は、日本海海戦のはるか前から存在し、日本海海戦でその歴史を閉じる。バルチック艦隊の敗北は、歴史的必然性を帯びていることが読み取れる。
 日本海海戦の詳細な経緯への期待を強く持って本書を開いた意味では、タイトルに裏切られたとの思いがあるが、海洋政策から見たロシアの小史として興味深く読んだ。エカテリーナ二世やアレクサンドル一世の統治下がロシアの膨張期であり、ナポレオン戦争とのかかわりもあって活気のある時代だと思うようになった。
 ヨーロッパの辺境にあって、アジアとも深く交わり、やがては社会主義革命を迎える、入り組んだロシアの歴史を知る意味で得るところが多かった。
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2004-2-27 (金)「はじめての死海写本」土岐健治(講談社現代新書)

 死海文書と言えば、その一部が公表された1960年代にセンセーショナルな取り扱いをされたことで印象が深い。発見場所が”死海”という冥界を連想させる名前であるし、そこに古代の予言書などがこの時期、(まあ、世界は常に危険な状況にあるのだが)発見されたことが、ある種の神の意志を示していると解釈して、来るべき世界の終わりに向けて神がこの時代に向けた特殊なメッセージを含んでいることを期待する人がいてもわからなくはない。
 この本はそうしたキワモノではなくて、1991年に写本の全容が公開されたことを受けて、発見の経緯と総合的な解説を行うもの。
 興味深いのは、紀元前後に死海付近で活動していたクムラン宗団とユダヤ教やローマとのかかわり。本には死海文書に関わる網羅的な手引き書の雰囲気がある。
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2003-12-23 (火)「迷走する帝国−ローマ人の物語XII」塩野七生(新潮社)

 ローマはいかに起こり、いかに滅ぶかを語るローマ人の物語全15巻のうちの第12巻(毎年一作ずつ刊行予定)。今回は軍人皇帝が多数即位する紀元3世紀。ローマはあらたに興ったササン朝ペルシアと、強力な遠蛮族の攻勢にさらされる。帝国の状態にはっきりと影が差してはいてもローマはまだ強かった。
 緻密な調査結果を塩野の視点から展開して読者を引き込む、独自の様式は今回も健在。
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2003-12-15 (月)「ローマ帝国の神々」小川英雄(中公新書)

 ローマはその周囲を含むさまざまな文化圏からの神々が祭られる世界でもあった。ということで、トトやセラピスなどのエジプト神から私には妙に懐かしいキュベレ、あるいはゾロアスター系のミトラスなど、神々の系譜とその信仰のありようが、系統的にまとまっている。
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2003-12-13 (土)「スペイン内戦」川成洋(講談社学術文庫)

 1936年から1939年まで、スペインは内戦状態にあった。国際旅団が結成され、各国から義勇兵が参加した。
 1937年のゲルニカ爆撃はその中で起こった。1936年のナチス・オリンピックのボイコット運動の一環としてバルセロナ人民オリンピックが企画されたが開催日直前にスペイン内戦が始まってしまう。
 なんてことは、私は全然知らなくて、ともかく第二次世界大戦の前にそんなことが起きていたのだなあと読んだ。世界から義勇兵が集まって軍を組織するというのはとんでもないことだ。それにしてもナチス、共産党、共和国と入り乱れての戦いで、どっちが義勇軍でどっちが国王軍なんだか、前提知識皆無の私には読み取れなかった部分もある。これだけ混乱していると全体を統一する視点はとりにくい。誰が参戦してどこで死んだかすらわからない戦いというのは確かに凄まじい。
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