読んだ本 2005年11月・12月


2005-12-30 「ラッセルのパラドクス―世界を読み換える哲学」三浦俊彦(岩波新書)
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 ウィトゲンシュタインが指摘した(と私は思っているが)ように、人間はパラダイムによって隔てられていて、相互理解を阻まれているが、それ以前の問題としてそれぞれの人間は自分なりの論理を持たなくては、自分なりに世界を解釈することができない。
 ラッセルは、論理学の構築に貢献した人物だと思っていたが、この本でその突き詰めた思想がどのようなものだったかを知ることができたと思う。
 数学の集合論で、集合の集合が禁じられている理由、またそれによって起こる矛盾をどう回避できるのかをより深く理解できた。
 センシビリアは、観測可能性と置き換えても良いように思うが、観測ではなくて知覚が世界を構築することにつながっていくのだからやはりセンスという観点が重要なのであろう。わかったように思っている、あるいは単純だと思える論理学も、世界を記述する手段として考えるときには深い思索を必要とするのだといこうとを知ることができて良かった。

2005-12-26 「マッカーシズム」リチャード・H・ロービア(岩波文庫)
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 1950年から1953年にかけて、アメリカ合衆国内で共産主義者に対するすさまじいほどの追求が行われた。その中心にいたのが上院議員のマッカーシー。彼は何をし、何をもたらしたのか。
 この本は、マッカーシーの動機や、信条、政治姿勢をジャーナリストの立場から報告するもので、そのときアメリカ合衆国社会に何が起きていたかについての情報は乏しい。書かれた時が1959年だから、その時期の読者は社会に何が起きていたのかはよく知っていたのだろうと思う。
 自分が期待した内容とは異なっていたが、アメリカ合衆国的民主主義の弱みと、結果的に時間はかかったものの自浄力を発揮する基本的な強みを語る意味で、また州選出の上院議員というものがどのような存在であるのかを示す意味で、民主主義がどう機能するかの具体事例を知ることができたのは良かった。

2005-12-18 「回想 沈黙の団塊世代へ」かわぐちかいじ(ちくま文庫)
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 団塊の世代という世代感を背景にしたかわぐちかいじ自伝。戦争世代との関わり、教育、学生運動、成年雑誌などの自己の生い立ちを通じて、団塊の世代を相対化し、世代的特徴を反省する。
 権威を否定することで、自らも権威から離れ、永遠の子供であろうとする団塊世代というのは私の抱く印象と近い。かわぐちかいじの個人史としては、「沈黙の艦隊」における作画の変化(目が大きくなり、演出を意識する)や新人時代の取り組み方が興味深かった。

2005-12-6 「プラントハンター」白幡洋三郎(講談社学術文庫)
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 17世紀から現在に至るプラントハンターとその仕事を紹介。国家事業としてのプラントハンティングとはどんなものだったのか。それが、現在の社会にどう影響し、歴史とどう関わったか。
 日本からも多くの植物が西欧に運ばれ、文化的な影響を与えた。これを文化の簒奪と見るのは現在的な視点であって、当時は別の感覚で捉えられていたようだ。植物を通じて、世界は意外に早い時期から深くかかわっていたということに感銘を覚えた。

2005-11-23 「西洋音楽史―「クラシック」の黄昏」岡田暁生(中公新書)
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 西洋音楽通史。グレゴリオ聖歌から20世紀ポピュラーまで。一般にもわかりやすいよう、いわゆるクラシック音楽からみた音楽史ということで、クラシック趣味(他のジャンルよりも良く聞くという程度)である私向きかと思った。
 西洋音楽の祖先がグレゴリオ聖歌だということは聞きかじっていたが、それがバロック時代にどうつながるかは私には目新しいところ。以降17世紀から19世紀への聴衆層の変化と対応させた音楽の変化、20世紀でのクラシックの解体まで、自分の聴いていた音楽と対比させつつ納得しながら読めて、あらためてそれらの関連がわかったと思う。このあとどんな曲を聴くかという指針も得た。

2005-11-19 「日本文化の形成」宮本常一(講談社学術文庫)
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 当初日本に住んでいた縄文人はどこへ行ったか。また、大陸や島伝いに日本に来た人たちはいつごろどんな経路をたどったか。日本から大陸への移住の様相はどんなだったか。どのような文化がいつごろ伝わってきたか。
 そうした問いに、各地を踏査して得た経験と、多数の文献を通じて著者が到達した全体像を示す。民俗学の方法を示すとともに、過去を探る上での豊富な示唆を含む。

2005-11-12 「シュメル―人類最古の文明」小林登志子(中公新書)
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 確認しうる世界最古の文明の様相ということで興味深く読んだ。楔形文字といっても、複数の言語で採用されているために、各言語を知らないと読めないとか、神と人間のありようとかが興味深かった。
 序文に一冊丸ごとシュメル文明という本は珍しいとあるが、さまざまな話題が取り上げられていて、一般の興味を引くシュメル関連の話題はすべて尽くされているような感がある。そのためかいくらか散漫な印象がある。

2005-11-4 「信長と十字架―「天下布武」の真実を追う」立花京子(集英社新書)
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 標題どおり、キリシタンと信長がどう関係していたかを主題とする本だが、冒頭の「天下布武」の意味を中国の故事や源頼朝にさかのぼって考察するところでは、主題との関連がなかなかあきらかにならない。
 キリシタンと信長が政治的・軍事的意味で深く関係していたという証拠は乏しい。しかし本書の示すようにさまざまな資料を突き合せたとき、その関係が確信されてくるというのは、歴史研究の醍醐味であろう。だが、確信が確証に変わるには更なる事実の積み重ねが必要で、本書の示す内容は確信の域にとどまる。
 そのような本の評価は、歴史研究の醍醐味を間近に感じさせてくれると見るか、単なる仮説の披瀝と見るかで、変わってくる。歴史研究の方法を示すとともに、当時のキリシタン布教に関わる資料を提示してくれる本としてとらえるなら、その価値を認めることができる。

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