実は過去を見るのは簡単で、例えばビデオテープを再生すればそれは過去を見ていることになる。
本を読めば、それは確実に過去からの情報伝達であって、自分の記憶を思い起こすのも同様に過去の再生に他ならない。そう考えると、過去を呼び出すことは
(1)現在を記録する
(2)記録から情報を取り出すことから成立している。この他に、
(3)過去に情報やものを送り込む
(4)送り込んだ情報やものを過去と相互作用させるという、狭義のタイムマシン(航時機:広義であればビデオテープもタイムマシンと呼べるよね)も思いつくが、原理がわからないのでひとまずおいておく。
意図した記録についても、高精度高密度立体超小型記録装置とかは未来技術として考える価値は十分だが、より驚異(センス・オブ・ワンダー)をもって受けとめられるのは、意図しなかった記録や痕跡から過去を再生することではないかしら。
どんな痕跡をもとに再現を試みるのかが驚異を大きくする鍵になる。
まずは、光。光はその瞬間の光景を記録してどこかに飛んで行っちゃう。宇宙空間なんかでは光を遮るものが(あまり)ないから大昔の記録を残した光が宇宙を飛んでいる。たとえば120億光年むこうからいまこの場に到着する光は、120億年前の記録を含んでいる。120億年前は、宇宙の誕生の時なのでこれを再現できれば宇宙誕生の状況がわかるはずだ。もちろん100億年前でも80億年前の様子でもわかってしまう。
実際の所、ハッブル宇宙望遠鏡はそれだけの能力があって、宇宙進化論に決定的な影響をもたらしているらしい。1999年7月に打ち上げられたチャンドラX線宇宙望遠鏡はX線領域で同様の観測をしている。ここから先は空想科学の領域だが、我々が過去に何かしたときの光も壁にぶつかったり拡散したりでほとんど再生不能の状態なんだけど、それを再生する装置を想像する。量子論上の壁、つまりある一定限度を超えて混じり合ってしまったエネルギーはもうどうやっても分離できないということはおおいに考えられるので、まじめに考える必要は無さそうだなあ。光だけでなくて大気中に発散する音も同じ。
化石とか、昔の道具や絵画から、当時の様子を再現するのもまた過去の再生といえる。絵の具などがその後の化学変化で変色したものを、現在の状況を頼りに過去の状態を推定するとか。
この場合の科学手法は、結果をもとにその原因を推定することであって、原因と結果の間は特定の物理・化学法則が働いていることを前提とする。当然のことだが、痕跡が多く残っているほど再生の精度はあがると期待できる。そこで、ふたたび空想科学になるが、人間のしぐさや表情や行動からその人の思考を再現することができるようになるかもしれない。そうなるとビデオテープに記録されたその人の行動記録から人格を再現するとか、過去の記録が全然意図しない形で再現されるなんてことがありそう。あ、それを言うならこうやって文章を残すのも同様の危険があるのか。(2000.2.6)