<世界の名作>日韓題名比較 051123


つい最近、僕の「韓国語<通訳・翻訳>小事典」<日韓編>で「ジュラシックパーク」のことを書きました。「ジュラシックパーク」は韓国では「쥬라기공원」(ジュラ紀公園)となります。これは面白いと思いました。そこで「世界の名作」の題名の日韓の翻訳の違いを羅列してみようと思い立ちました。
原語との比較など僕にできるはずもなく、また、訳者による若干の違いも当然あることと思いますが、「なるほど、こう言うのか」と僕自身が楽しんでいければと思います。例によって、ぼちぼち書き足していきます。
ソウル在住の人にとってはあたりまえすぎて面白くないページになるだろうと思いますが、まぁ、とにかく始めてみることにします。順不同です。いずれ整理します。

日本語

韓国語

韓国語の直訳(日本語と同じ場合は省略)
ゲーテ 괴테  
若きウェルテルの悩み 젊은 베르테르의 슬픔 若いウェルテルの悲しみ
サン=テグジュペリ 생테그쥐페리  
星の王子さま 별의 왕자님 / 어린 왕자  日本語と同じ/幼い王子
별의 왕자님という訳は1985年の本で見ました。原題は「プチ・プリンス」なので어린 왕자が意味としたらピッタリです。最近はほとんど어린 왕자だと思います。日本語の「星の王子さま」というのは訳者内藤濯氏の飛躍した名訳です。별의 왕자님はその完全な模倣ですね。日本では「幼い王子」じゃ売れないよね。こんなところに文学の翻訳の面白さがあります。ところで今打ち直したんですが、最初「星の王子様」と「様」を漢字で変換していました。「様」ではサマにならない。この辺の芸の細かさが日本語のよさでもあります。
シェイクスピア 세익스피어  
真夏の夜の夢 한여름밤의 꿈  
お気に召すまま 마음내키는 대로 心が趣くままに
マクベス 맥베드 マクベドゥ
マクベスのthで思い出しました。通訳レベルでの外来語の韓国語訳の定番3つ
  マッカーサー → 맥아더    トルコ → 터키    ホワイトハウス → 백악관(白堊館)
thに関して、もう一つ。イギリスの元首相サッチャーさん。つづりはThatcherで韓国語では대처となります。
ハムレット 햄릿 ヘムリッ
スタインベック    
怒りの葡萄 분노의 포도 憤怒の葡萄
スタンダール 스탕달  
赤と黒 적과 흑  
적も흑も漢字音そのままですが、これで通じるんですね。しかもそれぞれ과で結べるほど独立した単語として扱われています。日本語では紅白とは言っても、紅と白(こうとはく)とは言いませんからね。漢字語の音読みと訓読みのある日本語と、音読みしかない韓国では、漢字語に対する語感に微妙に差があります。
父と子(ツルゲーネフ) 아버지와 아들 父と息子
二都物語(ディケンズ) 두 도시 이야기 二つの都市の話
脂肪の塊(モーパッサン) 비곗 덩어리 脂身の塊
赤毛のアン(モンゴメリ) 빨간 머리 앤 赤い髪の毛のエン
風と共に去りぬ(ミッチェル) 바람과 함께 사라지다 風と共に消えていく
日はまた昇る(ヘミングウエィ) 해는 또다시 뜬다
武器よさらば(ヘミングウエィ) 무기여 잘 있거라 武器よちゃんといなさい
「잘 있거라」 と「さらば」ではかなりちがいますね。でも考えてみれば、韓国語で「さようなら」にあたる訳語が見当たりません。「안녕히 〜」を使うとますます遠ざかるようですし……。
チャタレイ夫人の恋人 채털리 부인의 사랑 チャタレイ夫人の愛
居酒屋(ゾラ) 목로 주점 一杯飲み屋
嵐が丘(ブロンテ) 폭풍의 언덕 暴風の丘
三人姉妹(チェーホフ) 세 자매 三姉妹
桜の園(チェーホフ) 벚꽃 동산 桜の丘
可愛い女(チェーホフ) 귀여운 여인  
ここで注意したいのは귀엽다と예쁘다の違いです。귀엽다は行動や様子が愛らしく、ほほえましい感情を与える様子。예쁘다はより女性的で美しさも含めていう場合が多いようです。チェーホフの作品では、男によく適応する女のことですから귀엽다なんでしょう。ついでに곱다はより滑らかさ、柔和さに比重がかかり、아름답다は一番意味範囲が広く一般的。
人間の絆(モーム) 인간의 굴레  
不思議の国のアリス(ルイス=キャロル) 이상한 나라의 앨리스 異常な国のエリス
「이상한 나라의 〜」を直訳で「異常な国の〜」と訳しましたが、実はこれが問題なんです。韓国語の「이상한」には日本語の「異常な」という、きつい響きと、「不思議な」「摩訶不思議な」「奇妙な」「へんてこりんな」「ちょっとおかしい」「とんでもない」などの訳語の可能性があるということを知っておかなくてはなりません。
漢字語は、そのまま置き換えですむ場合も多いのですが、この「이상한」のように、ちょっと語感にずれが生まれる場合があります。日韓、韓日の両方の作業の時、漢字語をそのままにしないよう、より自然な訳語がないかしっかり検討しないといけません。
カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー) 카라마조프네 형제들 カラマーゾフ家の兄弟たち

最後の「たち」がついているところが韓国語らしいですね。日本語は複数形はなじみにくいですから。その点韓国語は들をよく使います。翻訳の時に注意しないといけませんね。

車輪の下(ヘッセ) 수레바퀴 밑에서 車輪の下で
ドクトル・ジバゴ 의사 지바고 医師ジバゴ 
의사 지바고は何だかショックだな。と同時に語感というものの持っている力のすごさにうなってしまいます。う〜ん、ふ〜ん、의사 지바고か。だいたい日本人はカタカナ語に弱いんですよね。最近の映画なんか、原題をそのままカタカナにしたものが多くて……。でも「ドクトル・ジバゴ」と「医師ジバゴ」をじっと眺めていると、そもそも翻訳なるものは、万人を納得させることは不可能だと思えてきます。間違いでないのに、これだけの隔たりがあるとは!
イワンの馬鹿(トルストイ) 바보 이반 馬鹿イワン
エデンの東 에덴의 동쪽 エデンの東側
第3の男 제3의 사나이   
男を사나이としているところがちょっとイメージに合わないな。남자の方が……。他にも次のような面白い記事が。'보니와 클라이드'는 '우리에게 내일은 없다', '부치 캐시디와 선댄스 키드'는 '내일을 향해 쏴라'로 바뀌었는데 알아두어 나쁠 건 없겠다.これは完全に日本の影響だね。思えば最近は原語をそのままカタカナ書きした映画のタイトルが増えて、「明日に向かって撃て」だの「俺たちに明日はない」だの、日本独自にタイトルを考え出す面白みがなくなったんでしょう。日本でピッタリするタイトルがつくとそれを韓国でも使うということがあったんですね。
クレヨンしんちゃん 짱구는 못 말려 才槌頭は止められない
장구머리でさいづち頭。それをニックネームとして짱구。これがしんちゃん。
となりのトトロ 이웃집 토토로 となりの家のトトロ
もののけ姫 원령공주 怨霊公主
もののけと怨霊はちょっと違うんだけどな。
白鳥の湖 백조의 호수 白鳥の湖水
くるみ割人形 호두까기 인형  
眠れる森の美女 잠자는 숲 속의 미녀 眠る森の中の美女
舞踏への勧誘 무도회의 권유 舞踏会の勧誘
そういえば韓国には「〜への」にあたる助詞がないんですよね。「森浦への道」はたしか原題は「삼포에 가는 길」、有名な参考書「大学への数学」なんて韓国語にどう訳すのかな「대학에 이르는 수학」とでも? ところでこの曲の作曲者はウェーバ。韓国語では「베버」。
火の鳥 불새  
はげ山の一夜 민둥산의 하룻밤  
売られた花嫁 팔려간 신부 売られていった新婦
韓国語には「花嫁」にあたる言い方がありません。漢字語辞典参照。
ハンガリー舞曲 헝가리 춤곡  
ツァラトゥストラはかく語りき 차라투스트라는 이렇게 말했다 チャラトゥストゥラはこう言った
こうしてみると日本語の名作の命名には効果的に文語体が用いられていますね。
蝶々夫人 나비 부인  
プッチーニ作曲のオペラ。原題は「マダムバタフライ」。この3つのタイトルの語感の違いがなんとも愉快。
かもめのジョナサン 갈매기의 꿈 かもめの夢
確かに内容はかもめの夢にちがいありません。ジョナサンじゃ売れないと判断したんでしょうね、韓国の翻訳者は。
窓際のトットちゃん 창가의 토토 窓際のトット
「トットちゃん」の「ちゃん」は接尾辞ではなく、「トットちゃん」というひとつの固有名詞なのにね。
子連れ狼 아들을 동반한 검객 息子を同伴した剣客
掲示板にて、よしもとさんに教えてもらいました。「家族連れ」も「가족동반」って言いますから、「〜連れ」は「동반」と置き換えるしかなさそうです。それにしても、ああ。息子を同伴した剣客の、なんと辛気臭いことか。これじゃ人斬れないね。場にふさわしくないくそまじめさは、笑いをさそうものですが、「息子を同伴した剣客」はそれほどこっけいなネイミング。コメディーなら使えるね。
オペラ座の怪人 오페라의 유령 オペラの幽霊
千と千尋の神隠し 센과 치히로의 행방불명 センとチヒロの行方不明
神隠しが翻訳しにくいのはよくわかるけど、行方不明となると、この映画のもっている神々の国の不思議さが出ないな。それに千と千尋の関係も漢字がないとわからない。いやこれは翻訳不可能なことか。
ゴッドファーザー 대부 代父
ゴッドファーザーと代父のこの語感の違い。日本では、代父じゃ絶対売れないよね。
猫の恩返し 고양이의 보은 猫の報恩
「恩返し」と「報恩」,「神隠し」と「行方不明」,どうも韓国語は硬いというか,漢字を排斥しようとしている割りに,漢字語に頼りっぱなしのところがあって,その辺の感覚がよくわかりません。恩返し系の昔話もみな「報恩」ですね。そうすると子供のころから「보은」という音に慣れ親しんでいるから彼らには違和感が無いのかも知れません。漢字語の認識と受け入れの仕方が日本語とかなり違っているようで,興味を覚えます。
ムンクの「叫び」 뭉크의 '절규' ムンクの「絶叫」
韓国語の「叫び」の意味としては「외침」「부르짖음」もありえますが,「절규」がぴったりのようにも感じます。
ムンクの作品は「声にならない叫び」も含めて,心の底からの「叫び」という感じがします。それに対し「절규」はどうなんでしょう。少なくとも日本語の「絶叫」では「声にならない絶叫」とはちょっといいにくい感じです。韓国語の「절규」はどうかその微妙なところは分かりませんが,ムンクの絵を見ながら,「叫び」と「절규」の響きの違いを楽しんでいます。「叫び」と「절규」では絵の鑑賞にも差が出てきて面白いです。「叫び」は「声も 出ない恐怖感,心の叫び」,「절규」は「声を限りに叫んでいる」そんな味わいの違いです。原題は‘The Scream’で「絶叫」に近いのかもしれません。
猿の惑星 혹성 탈출 惑星脱出
「君,猿の惑星の俳優にならなれるよ」,と生徒に言おうとしましたが,なかなか通じません(ひどい教師ですね)。それで調べると次のようなことが分かりました。英語の原題は「PLANET OF THE APES」でまさに猿の惑星です。どうして韓国語の題名が「惑星脱出」と意訳,変訳されているのかは分かりませんが,ストーリーに合っているのは事実です。원숭이はなぜか韓国にいないので,원숭이に対するイメージが日本のものと少し違うのかも知れませんね。詳しいことは分かりませんが,「猿の惑星」が「惑星脱出」だとは驚きでした。