ロード・メイヤーのパレード(The Lord Mayor's Show)

 11月半ばの土曜日にLord Mayorのパレードが開かれる。往々にして「ロンドン市長」と訳されてきたのだが、これは誤解を生む表現である。しかし、では、Lord Mayorをどう訳せばよいかというと、はっきり言って適訳がない。そもそもLord Mayorというのは、The City of Londonの「市長さん」ということになるのだが、このThe Cityという存在自体が日本人にとっては実にわかりにくいのである。

 1986年にThe Greater London Council(GLC・大ロンドン市庁)という広域の自治体をサッチャー女史が目の敵にして(というのは労働党の牙城だったから)廃止して以来、ロンドンの地方自治体は、東京で言えば23区に当たるレベルのみになった(※)。それが、32のborough(区)とこのThe Cityであって、The Cityはしばしば「The Square Mile」と言われるとおり、イングランド銀行やロンドン証券取引所、セント・ポール寺院などを含む、およそ1マイル(約1.6キロメートル)四方の地域の行政を基本的には担当している。日本で、ロンドンの金融の中心「シティ」として紹介される所であるが、金融の中心であるのみならず、歴史的に見てロンドンの中心であり、このThe Cityにあるセント・メアリー・ル・ボー教会の鐘の聞こえる範囲で生まれたのが本当のロンドンっ子でぃ!、とも言われる所である。東京で言えば、まあ日本橋のような所だろうか。

 さて、そのThe Cityであるが、通常の行政としての機能面からすると、The Cityと他のboroughとの間に大きな違いはない。ただし、警察はthe Metropolitan Police(ロンドン警視庁/いわゆるScotland Yard)の管轄ではなく、the City of London Police (City Police) という自前の警察組織を有している。しかし、政治・行政面での最も大きな違いは、boroughは公選制のCouncilによって運営されるのに、The Cityは、その名もthe Corporation of Londonという、中世以来のGuild(ギルド)組織が運営しており、「市長」もThe Cityの諸ギルド(Livery Companies)のメンバー約26,000の選挙で選ばれるということである。東京で例えれば、23区の中で唯一中央区だけが日本橋や銀座あたりの企業や老舗の旦那たちで運営されているようなもので、奇妙である。とは言え、Corporation of Londonは、金融をはじめとするイギリス経済の中心部の統治主体であることから、単なる一基礎自治体では済まされない影響力を有していると言われ、「市長」も任期1年で名誉職の色彩が濃いものの、海外へのビジネス関係のミッションなどで、イギリス・ビジネス界を代表する顔ともなる。ともかく、その「市長」の就任のパレードが毎年11月に行われるのだ。


1998年のThe Lord Mayor's Showのパンフレットの表紙
(クリックすると行程を示した見開きページが表示されます)

 The CityのシンボルはDragon(竜)で、The Cityの主立った境界には竜の銅像などがある。中世以来、The Cityは王権から高度の自治権を認められており、現在でもイギリス国王は事前の許可なくThe Cityの域内に立ち入ることができない。一方で、The Cityは国王へ忠誠を誓うこととされており、このパレードも、馬車に乗ったLord Mayorが、Guildhall(ギルドホール)というCorporation of Londonの本拠を出発して、The Cityの西の境界を超えてすぐのRoyal Courts of Justice(王立裁判所)の前まで行き、そこで馬車を降り、the Lord Chief Justice of England と the Master of the Rolls という高位の裁判官の前で王権への忠誠を誓うというのが本筋である。

 というと、The Lord Mayor's Showはさぞや、古式ゆかしいものなのかと思いきや、確かに馬車や馬の隊列などそういう部分ももちろんあるのだが、パレード全般は協賛企業のデコレーションをした車とかがずらずら続くので、何だか日本の地方都市のお祭りのパレードみたいな、いささか締まりのないものであった。

 夕方にはこのShowの一環でFireworks(花火)がテムズ川であるのだが、実際見に行ったところ、私は隅田川の花火はテレビ東京でしか見たことがない(笑)ので実際の人出は知らないが、たぶん隅田川とはまったく比較にならないほど少ない。花火自体はまあまあだったけど、色彩が単調な気がするし、花火の上がる高度が低い。そして何より、5時に始まった花火が5時10分に終わってしまったのには笑った。これじゃ、テレビ東京が特別番組を組むことはできない(笑)。

 というわけで、パレード自体はそれほどすごいとは言い難いのだが、それでも、まぎれもなくロンドンの秋を代表する風物なのである。

パレード点景(写真をクリックすると大きな画像が表示されます)

※ ロンドンの広域自治体は、労働党のブレア政権の下でThe Greater London Authority (GLA)として装いも新たに復活した。2000年の5月にはロンドンで有史以来初めて(!)の市長選挙(イギリスの地方自治制度においては合議制のCouncilの議員を選ぶというのが伝統的な在り方であり、単独の市長を直接選挙することはなかった)が行われ、二大政党の労働党、保守党がそれぞれ推した候補でなく、ケン・リビングストン(Ken Livingstone)というかつての大ロンドンの労働党の顔が、ブレアの労働党と袂を分かち無党派として選挙に出て圧勝した。今後は、日本でも「ロンドン市長」と言えば、まさにこちらのThe Mayor of Londonを指すことになろう。いずれにせよ、同年7月から始動したGLAが、今後どうロンドンを運営していくのか、中央政府との関係、はたまたCorporation of Londonやboroughとの関係がどうなるかなど見所はつきない。

(2000.11.19)
(2000.12.3補訂)


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