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海外の現地建設工事も、規模が大きくなると民家を借り上げて出張員の宿舎とする。宿舎生活は、ホテルに比べて費用節減はもちろんのこと、リラックスした生活環境が得られる。その一方で、防犯面ではホテル生活よりリスクがある。その土地に根を下ろしたホテルに比べ、工事期間中だけその土地に仮住まいする企業の出張者の場合は、信用できるサーバント(使用人)の雇用が難しい。サーバントに関するトラブル例を紹介する。
1) 盗難事件
1986年、宿舎で深夜に泥棒に入られ、多額の現金を取られたことがあった。翌朝、地元警察による事情聴取で、「頭が重くないか?」と聞かれた。「どういう意味か?」と問うと、「泥棒はクロロホルムを使い、就寝中の相手をさらに深い眠りにしてから、仕事にかかる者が多い」との説明であった。この種の盗難事件は、90%を超える確率で、サーバントがらみというのが、警察や上流社会の常識のようである。
この事件の泥棒は、常時施錠されている屋上のドアから侵入しており、施錠部は壊れていなかった。警察はドアの施錠忘れがあったかどうかも含めて、屋内からの手引きがあったと決めつけて、我々の宿舎のサーバント全員を警察へ連行し、10日間の留置と取り調べを行った。
インドでは現在も拷問まじりの取り調べが主流との事である。留置2〜3日目から、サーバントの親戚がやってきて、「警察へ行って、雇用主として、サーバントたちを疑っていないと明言して、彼らを助けてやってくれ。彼等は警察の過酷な取調べで、毎日泣いている」と頼むようになった。要請されるまでもなく、毎日、警察へ面会に行ってサーバントたちには励ましの声をかけていた。署長にも、「うちのサーバントは正直者ばかりだから…」と弁護していたが、「あなたは日本人でインド事情をよく知らない。 これは警察の仕事だから任せておいてもらいたい」との回答があり、それ以上立ち入る訳にはいかなかった。
事件はうやむやに終わり、サーバントたちも無事釈放されたが、防犯面の反省点は多々残った。
盗難事件を機に、再発防止についてインドの知人に相談した。弁護士の知人の弁として「夜警員を雇うと共に、サーバントの一部を、他のカースト(階級)に入れ替えてはどうか」とのアドバイスがあった。インド事情に不案内の者には分かり難いことだが、サーバントを雇う場合、ふたつの方法があるという。ひとつは、同じカーストの人間で固めることである。これは仲良し集団でありチームワークの面では問題ないが、サーバントの出来心や失敗をかばい合うことになりがちである。ふたつめは、運転手、コック、掃除人、洗濯夫などの人種や階級を意識的に混成にすることである。人種や階級が異なると、表面的にはうまくやっていても、心底は相手を信頼しておらず、それがお互いの監視機能として働き、不正に対するチェックに役立つというのである。 しかし、混成チームにすると、各人が相手の悪口をワンサと持ってくる。使う側は、大抵がどうでも良いような内容の告げ口にうんざりさせられることになる。
駐在員の家庭と違って出張員宿舎の場合、昼間、日本人が会社へ行って、宿舎には誰もいなくなる。なにもかもサーバントまかせの放任主義はどうかと思う。盗難事件後はサーバントをある程度の混成チームとして、その取りまとめ役に、サーバントには関係のないカーストの現地人を宿舎責任者として雇うようにした。
2) 飲んべえサーバント
盗難事件ほど深刻ではないが、海外の宿舎生活では、日本の生活にない些細な体験談も発生する。飲んべえサーバントのいる宿舎では、出張員のウイスキーの目減りが問題となるトラブルが多い。ある現場で、几帳面な出張員が、サーバントによるウイスキーの盗み飲み防止策として、ボトルの残量面に、マジックで線を引いて「飲んだら分かるぞ」と無言の意思表示をしたことがあった。しかし、飲べえサーバントは酒の誘惑に負けて、一杯失敬した後、マジック線を引き直して知らぬ顔をしていたという。飲まれた形跡があっても、確たる証拠のないものを咎める訳にはいかない。そうかといって、貴重なウイスキーをサーバントに失敬されるのも面白くない。
そこで、出張員は一計を案じた。まともにマジック線を引くのではなく、ボトルをひっくり返してその時の液面に印を付け、目減りをチェックする方法である。飲んべえサーバントも、この作戦には見事に引っかかった。しかし、この手もすぐにサーバントに覚えられた。サーバントはウイスキーを盗み飲みした後、ラム酒など、国産の安物地酒を補給して、ボトルの液面を一定に保つという策に出て、その後も出張員とサーバントの知恵比べは続いたという。
3) こそ泥サーバント
我々の出張する開発途上国のサーバントたちにとって、出張員や駐在員の持つカメラやラジカセは言うに及ばず、日本製品は何でも宝物に見えるらしい。悪い人はどの世界にもおり、欲しい物が目の前にあると、理性のコントロールが本能欲求に負けて、出来心が生ずるのは自然の成行きである。
しかし、出来心を起こしたサーバントも、雇い主の品物を失敬したことがバレると、クビになることは分かっているので、出来心を実行する場合はそれなりの努力をする。ある品物が欲しくなった場合、衝動的にそれを失敬するのはシロウトである。そんなやり方はすぐにバレる。 その道のベテランは、狙ったものの場所を徐々に変える方法を取る。
応接間にある物なら、これを10日間位かけて台所近辺に移し、これでも雇い主が何も言わなかったら、さらに日数をかけて物置に移動する。 2〜3ヶ月たっても、「あの品物はどこへいった…」と言われなければしめたもので、完全に忘れ去られた品物と判断して、自宅へ持って帰っても発覚せぬ、という読みである。 目出度し、目出度しで片付く。
人生は性善説を信じて生活する方が幸福であるが、習慣、宗教、文化等の異なる海外諸国で生活する場合、世の中には性悪説という言葉もあるということを念頭において、物事への対応が必要である。 サーバントに出来心を起こさせないウイスキーの管理とかサーバントへ思いやり教育を試みるのも、海外生活をエンジョイする賢者の知恵であろう。
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