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アーロンは、ジェクトが大嫌いだった。
そもそも、1000年前のザナルカンドからやってきたということ自体がうさんくさい。
おまけに口が悪く、ちゃらんぽらんで、年甲斐もなく妙に子供っぽい行動をとる。
そればかりか、大酒飲みで、酒癖が悪く、ブラスカの迷惑になるようなことばかりするのだ。
僧兵として律を護ることを誇りとしているアーロンにとっては、この破天荒な俺様野郎が、目障りこの上なかった。
だというのに、ブラスカがこの男を妙に気に入っているらしいので容認するしかないのが辛いところだ。
「ブラスカ様! こんな酒びたりな男をお許しになるなど、シンを倒すという崇高な使命のさまたげになるとしか思えませんっ!」
酒に酔ったジェクトが問題を起こしたあと、アーロンはジェクトを旅のメンバーから外すよう進言した。
もう、我慢の限界だった。
だが、ブラスカは寛容な態度でジェクトを許し、ジェクトもまた、酒を断つことを誓ったのだ。
旅に出た召喚士の決定事項に、ガードは意を唱えることはできない。
ブラスカがジェクトを許したのであれば、アーロンには従うしかなかった。
それから三日後の夜のことだった。
「よう、アーロンの旦那」
ブラスカの休む焚き火の側から離れ、丘の上の木にもたれて大剣の手入れをしているアーロンの傍らに、だらだらとガニ股で歩く男の足音が近づいた。
「履き物を引きずって歩くのはよせ。耳障りだ」
ジェクトのほうなど見向きもせず、アーロンは冷たい声で言い放った。
「うへぇ」
変な声を出して、ジェクトはその場で立ち止まる。
「相変わらず、イーコちゃんぶってんなぁ、お堅い僧兵さんはよぉ」
アーロンは手を休め、肩越しに声の主を見上げた。
「おっと。元、僧兵さんだったっけな。お互い道を外れた者同志。仲良くやろうぜ?」
その言葉に、アーロンのこめかみがピクリと緊張する。
「いっしょにしないでもらおうか」
アーロンの手にした大剣が、手首を返した拍子にチャキッと音をたてた。
銀色の光沢を放つ刃に月明かりが反射して、ジェクトの目を射る。
「おいおい、やたらと凄むなよ。そんなデカイ獲物振り回すヤツとまともにやり合いたくねーぜ」
「だったら、俺にかまうな。たとえブラスカ様がお許しになっても、俺は、貴様など認めるつもりはないんだからな」
「っちゃ〜。食えねぇ若造ってな、まさに、おまえさんのことだぜ。こっちがせっかく歩み寄ろうとしてるってぇのに、その態度はなぁ……」
「ふん」
アーロンは、鼻で笑った。
「まぁたまたぁ、その、人を小馬鹿にしたような、『ふん』はよせよ。『ふん』は」
アーロンは、首をねじ曲げてジェクトを振り返った。
「なにが歩み寄るだ。貴様が歩み寄りたいのは、こいつだろう?」
右の腰に下げた巨大な徳利を撫でて、アーロンはニヤリと笑う。
酒断ちしてから三日。ジェクトが、酒の匂いにふらふらと吸い寄せられて来たのは明白だった。
「ばっ……。ばっか野郎。俺様はなぁ、一度こうと決めたことは、絶対、貫き通すんだよっ。そんなもん、欲しいんじゃねぇや」
「だったら、道を外れた堅物の元僧兵になど、用はないはずだ」
ニベもなく黙り込んだアーロンの傍らで、ジェクトはなおも食い下がる。
「そうじゃなくてよ。おまえのことも知りてぇから仲良くしよーぜ、って言ってんだよ、俺は」
「ガードは召喚士を護るためのものだ。互いになれ合う必要はない」
「そうかぁ? たとえばイザってときによ。スタンドプレイはチームワークを乱すもとだがよ、格好良く決まった連携プレーは、チームを盛り上げるもんだぜ?」
「ブリッツの選手だとか言っていたな。貴様にチームプレーができるとは、とても思えんな」
「なに言ってやがる? 見せてやりてぇなぁ〜。俺様のジェクトシュート! なんたって、俺様は大スターだからなぁっ!! はっはっはっ……!」
ジェクトは胸を張る。
アーロンは、やれやれと首を振った。
「その口でチームワークなどとほざくとは、驚きだ」
ジェクトは、ガクッとずっこけて話題を戻した。
「だからなぁ、俺のことじゃなくて、おまえのことも少しは話せよ、な?」
「ふん」
ジェクトはポリポリと首をかいた。
「また『ふん』かよ……。ったく、愛想のねぇこって」
アーロンは、大剣を握ったまま、すっくと立ち上がった。
その夜気を斬り裂きそうな冷たい輝きが眼前に迫って、ジェクトは思わず飛び退いた。
「お、おい、アブねぇって」
アーロンは、ニッと笑った。
「こいつはな、村正という」
巨大な刀をジェクトの鼻先に差し出して、アーロンは言った。
「ムラマサ?」
「そうだ。泰平の世を滅ぼす邪刀とも、魔物の生き血を吸う妖刀ともいう。つまり、こいつは、血と酒を好むというわけだ……」
言うやいなや、アーロンは腰の徳利から酒をぐいっとあおると、かざした白刃にその飛沫を勢いよく吹きかけた。
「うわっ! もったいねぇっ!」
散った酒飛沫をかき集めるように、ジェクトは両手で宙をかき回す。
次の瞬間、アーロンの赤い外套が目の端に翻ったかと思うと、ジェクトの背後で、肉の裂ける音と共に真っ赤な血しぶきが上がった。
「おわ?」
慌てて振り向くと、刀を振り抜いたアーロンの後ろ姿の向こうに、巨体の獣が崩れ落ちていくのが見えた。
「あっら〜。すげ、早えぇの……」
「ふん」
何度目かの『ふん』をジェクトに投げかけ、アーロンは大剣を担ぐと、スタスタとブラスカの休んでいるほうへ向かって歩き出した。
「ガードが持ち場を離れてどうする?」
振り返りもせず、アーロンはジェクトに言う。
ジェクトは「ああん?」と首をひねって、「先にブラスカのもとを離れたのは、どっちだよ?」と言いかけた言葉をひっこめた。
ブラスカのもとにジェクトを残して、あの、お堅いアーロンが持ち場を離れた。
それは、口ではああ言ってはいたが、少しずつジェクトの存在を認めつつあるということに他ならない。
ジェクトは、ブラスカのもとに戻っていくアーロンの後ろ姿を見送りながら、「でへへ」としまらない笑いを両頬に浮かべた。
「……ったぁくよ。判りやすいんだか判りにくいんだか、フクザツな野郎だぜ、あいつはよ」
ボソボソとひとりごちて、ジェクトはことのほか嬉しそうにアーロンのあとに続いた。
それから10年――。
電飾の乱れ飛ぶザナルカンドに再演のベルが鳴り響いていた。
シンとシンクロする瞬間、全ての物語は幕を開ける。
ふわりとアーロンのまとった血の色をした外套が風にはためいた。
アーロンは、ザナルカンドの夜景を見下ろす高見から、再び物語の幕が上がるのを眺めていた。
極彩色のネオンに彩られた空にうごめくかつての友を見上げ、男は腰に下げた徳利を掲げ上げた。
「どうだ……、羨ましいか? 貴様の代わりに、あびるほど飲んでやったぞ」
――てやんでぇ、この猫っかぶり野郎! 俺様はおまえのそういうところがなぁ……!
アーロンは、目を伏せて静かに微笑んだ。
気にくわない男だった。
顔を見るのも嫌気がさしたこともあった。
だが。
あの男は、最高のガードだったと、今、アーロンは思っていた。
生涯かけてただ一人の、友であったかもしれないと、思っていた。
「ふっ……。もうすぐ、心おきなく酒を酌み交わせるな……」
空ににじむその巨体が、激しく胴震いした。
まるで、あの男が笑っているようだった。
そうして……。
本懐を果たせなかった男達の雪辱の物語は、今、再び幕を開ける――。
(2001.09.01.Lei
Tojoe.)
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……って、勝手に親父たちの物語にすり替えてます(笑)
わっはっはっはっは。
いや、なんとなく、小咄書いてみたくて〜。
仕事、うっちゃったまま、熱にうかされたようにこんなん書いちゃダメですね(^^;
ええ、私、最初のムービーが、とっても好きなんです。
アーロンの登場するシーンって、いかにもって感じじゃないですか。
あそこが気になって気になって……物語を進めると、やっぱり〜って感じで。
ツボストライクでした(笑)
ルカシアターにて、ムービーを鑑賞しつつご賞味ください(笑)
やっぱ、アーロンさんは「ふっ……」とか「ふん」が似合います(ははは)
あっ。村正ですが、あれはですね、徳川幕府に仇なす妖刀と呼ばれて銘を潰されたりした刀です。幕末には倒幕派が好んで帯刀したそうですね。まさに泰平の世を滅ぼす妖刀ってイメージで。スピラの安定を崩すためのひとつの要素、みたいな。
でも、村正の作り方って……そりゃぁないんじゃないかい? ってくらい、面倒なんですけど……。ユーザーに挑戦してる? そうなの? この小咄は、改造で村正が出来るって知らないときに書きました。なので、グラフィックを見てません。悪しからず。 |