虹の旅人
彼は、自分が自然に虹の中を進んでいくのを感じた
ゆっくり、ゆっくり
彼の意思に関わらず、彼の身は虹の中を進んでいった
最初の赤い光の中を通るうち、彼は赤色を愛するようになった
深く、深く、愛するようになった
ずっと赤い光の中にいたい
彼はそう願うようになった
これから先、赤より好きな色に出会うなんて信じられない
赤を抜け出たら、自分はもう終わりだ
なんとか赤にとどまろう、彼は必死でもがいた
しかし彼の意思とは裏腹に
彼の身はゆっくり、ゆっくりと橙色の光へ近づいていった
絶望感が彼を襲い、やがて全てをあきらめた頃
彼の身は橙色の光に包まれていった
彼は赤を失った
気がつくと、橙色の光の中に彼はいた
赤を失って以来、自分が何をしていたのか思い出せない
彼は、よどみ無く続いている流れに身を委ねた
流れに身を任せていくうち、彼は初めて橙の光に気付いた
橙に包まれながら、しだいに彼は橙を愛するようになった
彼は、橙を手放したくなかった
しかし彼の身は、間もなく次の黄色にさしかかろうとしていた
彼はもがいたが、彼の身は進むことを止めなかった
橙を失ってどのくらい経っただろう
彼は黄色の中にいた
彼は黄色がどうしても好きになれなかった
失った赤が、橙が頭をよぎった
しかし、彼には赤が、橙がどんな色だったか思い出せなかった
ただ、愛していたことだけを覚えていた
やがて彼の身が緑に吸い込まれようとした時
彼はすでに黄色を深く愛するようになっていた
しかし、緑が目前まで近づいても
彼はもがくことをしなかった
かわりに彼は、心の中を黄色で満たした
やがて彼の身は、最後の菫色の中へと入っていた
しばらくして、彼は菫の光を受け入れた
彼の心の中で、五色の光が輝いていた
彼の最も愛した藍色は彼の心を豊かに照らし
残りの四色は藍に彩りを与えた
彼は心の藍を楽しみながら、菫の中を進んでいった
菫を進み、やがて彼の長い旅が終わろうとした時
彼の心は満たされ、目からは涙が溢れた
彼は、虹を受け入れた
しばらくすると虹は消え、彼は空のもくずとなった
空には、
彼の人生だけが残った。
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