早起き弁護士・夜更かし弁護士
2005.3.21
![]()
弁護士は一体いつ仕事をしているのか? 弁護士にも「経営者・雇用主」(ボス弁)と「従業員」(イソ弁)がいますし、個々人の生活もバラバラですから一概にはいえませんが、おおざっぱに分けると弁護士の仕事時間は3つのタイプに分けることができます。しかも、その内2つは非常に幅のあるものです。今回は、弁護士の執務時間の実態を見てみましょう。
| 今回の事案 | ||
| 中島さん、今度は従業員とのトラブルを抱え込みました。今日は昼から大口取引先との企画検討会があるので、出社するなり彦一弁護士に電話をしますが、「まだ事務所に入ってません」という事務局の返答です。結局10時半までねばりましたが彦一弁護士は事務所にでてきません。秘書の話っぷりからすると、朝一番の裁判がある訳でもないようです。企画検討会が終わった夜に電話をすると「彦一は午後から地方に出張です」。しかたなく彦一弁護士のボスの大田弁護士をお願いすると「本日はもう事務所はでました」、とつれない事務局の返答。 その日は結局彦一弁護士とも大田弁護士とも連絡が取れずにふてくされた中島さん。「朝はいないし、夜もいないし、一体先生はいつ仕事してるんだい」と不満げに飲む酒もおいしくありません。そういえば最近新しく入った弁護士のメールアドレスを教わってたなと、寝る前に若手の宮崎弁護士にメールで相談の申込をしました。翌朝のメールチェックで中島さんはまた驚きます。「返信メールが午前6時30分発信??あの若い弁護士はそんな時間から事務所にいるのか」。 |
||
| その1 弁護士の執務時間 | |
弁護士といっても、所属している事務所にはいろいろな種類がありますし、個々人によっても生活リズムは違います。でも大きく分けると朝型と夜型に分かれ、いわゆるサラリーマン時刻で仕事をしている人は少数派でしょう。 弁護士事務所は午前10時から午後6時を執務時間としているところが多いのですが、これは裁判所が原則午前10時から開廷だというのにならっているからだと言われます。実業家からすると「午前が勝負」「朝8時からの1時間が勝負を決める」などとビジネス書になっているくらいですから、いったいどんな業界なのかいなというところかもしれませんが、なんとなくこのようなスタイルが法律事務所には定着しているようです。もっとも法律事務所といっても、渉外事務所のように法廷案件(裁判)が少ないところでは全然違うようですが(第一渉外事務所は24時間明かりが消えないのですから)。 事務所の執務時間が10時〜6時が多いといっても、その事務所の弁護士が常に10時〜6時で仕事をしているのかというとそれもまた違います。イソ弁の多くは10時には仕事を開始して、夜はその日の仕事が終わる頃(8時9時?)には帰るのが多いようです。ですが、それ以外には全く社会の時間を無視しているような弁護士がほとんどです。彦一弁護士は完全な夜型です。宮崎弁護士は完全な朝型です。大田弁護士は・・・・フレックスタイムでしょうか。 |
|
| その2 朝型弁護士 | |
宮崎弁護士の1日をみてみましょう。 朝5時には宮崎弁護士は身支度をしています。少し目覚めが早い日には家を出るまでの時間にメールチェックをして返信をしたり、あるいはちょっとした書面の作成などを自宅で済ませてしまいます。昨日のうちにやりきれなかった仕事や、何日もかかる仕事に取り組んでいるときには、朝家を出るまでにコツコツと作業をしているのです。朝6時、そろそろ街が目覚め始めた頃、宮崎弁護士は自宅をでます。まだrushhourにもならないうちに事務所につくと、その日やらなければならない案件のデスクワークを片付けていきます。裁判所に提出する書面や、契約書などの作成をひととおり仕上げた頃には秘書のデスクに書類の山が出来上がっています。午前10時になると法廷が始まるので、裁判所へ出て行ったり、あるいはお客様との打合せが始まります。デスクワークはそれまでに済ませてしまわないとならないのです。 会社でもお役所でもどこでも同じですが、「電話」と「来客」というのは仕事の能率を引き下げる要因です。集中してレポートを仕上げていても、途中でお客様からの電話がくれば作業が中断しますし、頭の中の回路も一旦停止してしまいます。来客となれば益々で、お客様が帰ったときには、やっていた仕事が頭の中から抜けてしまっているものです。ですので会社によっては午後の2時間は一切電話を取り次がないという扱いをしているところすらあるのです。弁護士も同じですが、こちらは電話や打合せ、法律相談などが仕事の中に当然に入ってきますので、「電話に出ない」などというわけにはいきません。そのため、午前10時から午後5時ころ、通常の会社が実働している時間帯は、集中した事務処理作業などできもしないのです。10分15分時間がとれればまずまずで、一本の電話が終わると矢継ぎ早に次の電話、そして来客の時間、となってしまうのが常です。こんな中で落ち着いて書面を作るのは無理です。ですので、お客様は仕事をしていない時間帯(電話も来なければ来客もない)でなければデスクワークもできないのです。宮崎弁護士はそのデスクワークの時間を朝7時から9時30分に集中してやっているのです。 とはいえこのタイプの弁護士は少数派です。サラリーマンでも自営業者でも同じですが、1日に仕事を出来る絶対時間数というのは限られているのですから、朝7時に仕事を始めて夜の11時までというのは頭も体も持ちません。ですから朝型の弁護士は、夜の8時頃にはさすがに家に帰って休まなければ翌日に響きます。ところが弁護士にとっては夜の時間の「仕事」も少なくないのです。サラリーマンなので仕事が終わってからでなければプライベートな相談の打合せが出来ないお客さんがいるとか、あるいは接待交際というものもあります。これらをこなしていく必要があるのですし、イソ弁は必ずしも労働者とはかぎらず、就業時間という概念には束縛されない場合が多いのです(あるいは非常に高度な裁量に委ねられている労働者ということで、これまた所定労働時間があってないようなものです)。ただ、世の中で「出世」しているとされる弁護士のかなりの数はこの朝型弁護士に見られます。最近最高裁判事になった弁護士も、朝4時から9時の間に一日の仕事を終えるというくらいですから、完全な朝型弁護士に分類されるのでしょう。早起きは三文の「得」ではありませんが、早い時間帯にコツコツと仕事をこなせる人というのはやはり能力の高い人でしょう。夜型の弁護士が多いというのは、なんだかんだいっても、朝にだらしのない弁護士が多いだけなのかもしれません・・・。 |
|
| その3 夜型弁護士 | |
彦一弁護士の1日を見てみましょう。 起床時間は朝8時を回ってます。それだけでサラリーマン戦士からは蹴り倒されそうです。宮崎弁護士とは違う意味でrushhourではない電車に乗り込みます。さすがに10時をまわれば電車も空いています。乗客もビジネスマンや学生ではなく、お買い物に行く主婦や明らかに休日姿の人が目立ちます。裁判があれば10時には裁判所に行きますが、それもなければ11時ころに事務所に「ご登場」ということもあります。彦一弁護士も「もし自分が社長だったら、会社は間違いなく倒産だ・・・」などと思っているのですから、のんびりしすぎだという意識はあるようです。 10時11時ころに事務所にくると、お客様との相談や裁判所へ行く仕事などがすぐに始まります。夕方5時過ぎになっても打合せの時間などがありますので 、お客様から解放されるのは夜7時を回っています。これからが彦一弁護士の仕事時間です。その日にあった相談についての報告書や契約書のチェック、翌日裁判所に提出する書面の確認などをどんどんとやっていきます。夜も10時を回るとまさにアドレナリン大放出といった様相で、みるみる彦一弁護士の秘書のデスクに書類の山が出来上がっていきます。そろそろ終電の時間になると、仕上げきれなかった仕事の資料を鞄に詰め込んで、後片付けです。事務所を出るのは12時30分頃ですから、彦一弁護士が家に着くのは1時30分頃です。家に帰ってからも、お風呂に入って遅い食事をして(こんな時間に晩ご飯ですから、最近は彦一弁護士の胴回りも随分と立派になってしまいました)、それからお持ち帰りの仕事に取りかかります。アドレナリンも尽きてまぶたが閉じかけてくるころには時計の針は午前3時になっています。さすがにここいらでお休みです。 |
|
| 当然、メールでの相談などもこの時間になってからやりますので、彦一弁護士からの返信メールには夜の12時や1時というのが当たり前で、丑三つ時に発信されるメールも珍しくありません。ところがメールチェックをしていると、彦一弁護士以外にも夜10時を過ぎてから午前2時くらいまでの間に結構な数のメールが飛び交っています。そのほとんどが同じ弁護士仲間のメールです。 こんなんですから、翌朝6時になど起きられるはずはありません。8時に起きたとしても睡眠時間は5時間ですから、朝が遅いと言われても「別に惰眠をむさぼっているわけじゃない」と言いたくなるのが彦一弁護士です。「それに、時差通勤に貢献しているじゃないか」「弁護士みたいにでかい鞄をもって満員電車じゃ周りの客に大迷惑だし」などと負け惜しみも口から出てきます。 |
|
| 彦一弁護士の知人の川上弁護士に至っては、彦一弁護士もびっくりの完全夜型人間です。「明日は午後に事務所に行きます」と事務局に伝言して、出てきたのが夕方の5時というのですからこれはこれで大したものです。「午後」と言われればお昼過ぎと秘書も思ってしまいますが、5時でも午後は午後です。イソ弁時代にこれでしたから、独立して事務所を構えてからも似たようなものです。というより川上弁護士のイソ弁は「うちのボスは夜にならないと事務所に来ないから」ということで、ご帰宅は朝だそうです。これで一体お客さんとどうやってコミュニケーションを取っているのか不思議ですが、それでも飛ぶように売れる本を何冊も出していて、テレビにもコメンテーターとして頻繁に登場するのですから、要はやり方しだいなのかもしれません。 | |
| その4 フレックス・タイム? | |
フレックスタイムといえば、例えば午後1時〜4時をコア・タイム(必ず勤務する時間帯)として、とにかく1日8時間仕事をすればあとは始業時刻も終業時刻も自由というようなものです。プログラマーなどのように「気分が乗らなければ作品ができない」などという職種の場合にはよく見られるものですし、最近は時差通勤を目的としたり、育児介護のためにも採用する企業が増えてきています。 大田弁護士は、さしずめ所定労働時間労働のないフレックスタイムというところでしょうか。裁判がなければ午前中に出てくることも珍しいですし、夜は、というより夕方は5時6時にはご帰宅です。誰よりも遅く出勤して誰よりも早く帰宅することが珍しくありません。こんなんで食っていけるならば弁護士は「気楽な稼業ときたもんだ」でしょう。 この手の弁護士は別に珍しくなく、税理士など他の武士業でも結構みられます。ただし、事務所にいる時間が短いというだけで仕事をしていないのではないのです。大田弁護士の仕事は「営業」で、デスクワークは彦一弁護士や宮崎弁護士の仕事。お客様をとってくるのが大田弁護士の仕事なので、事務所の中ででんと構えていたって営業にはならないのです。弁護士も20年30年やっていて、イソ弁が何人も育ってくると、自分が前線に出て裁判所に出て行ったり書面を作成したりということはしなくなる場合があります。勿論、彦一弁護士の友達が勤務している竹沢弁護士のように、誰よりも早く事務所に出てきて、誰よりも遅くまで事務所で仕事をしているというベテラン弁護士も珍しくはありませんが、どちらかというとボス弁は営業が中心になってくるものです。いくら優秀な訴訟活動ができて、素晴らしい書面が作れても、お客さんがいないことには仕事にならないのですから、営業部長になってお客様を取ってくるボス弁というのは必要不可欠だったりするのです。20年30年弁護士をやっていれば顔も広がりますし、友人知人がそろそろ会社もでも重要なポストに就いてくるとか、親の相続だとかいろいろな仕事を取ってくることができる年代なのです。デスクワークはイソ弁でもいくらでもできますが、お客様を取ってくるとなればボス弁の方が能力(?)が高いのですから、ここは棲み分けということになります。 ですから、極端な話大田弁護士は事務所に出てこなくて平日にゴルフに言っていても、宵の口から飲み屋に行っていても、それはそれで重要な仕事をしていることになるのです。早寝早起きの禁欲生活を貫かれては、逆に大田弁護士の場合には仕事にならないのです。 |
|
| その5 あなたはいつ眠っているの? | |
彦一弁護士とは違っていわゆる渉外事務所にいる弁護士、それもアソシエイト(呼び名はともかく要はイソ弁)は、それこそ「24時間働けますか」の状態です。最近は急ぎの仕事が妙に多い彦一弁護士、2時3時のタクシー帰りや、始発帰り、あるいは徹夜も珍しくありません。ところが、どの時間でも、ご近所の渉外事務所の四菱法律事務所では全フロアに煌々と明かりがともっています。この事務所、入所1年目から1000万円プレーヤーというだけのことはあって、弁護士の勤務時間も並ではありません。過労で自殺者が出るのだという噂もまことしやかに流れています。 渉外事務所では「タイムチャージ」方式を採っていることが多いので、1日に8時間しか仕事をしなければ24万円(1時間3万円で計算される新人弁護士だとした場合)、でも1日に16時間仕事をすれば48万円の稼ぎになります。理屈から言えば1日で72万円の稼ぎをたたき出すことができるのです。最近はビラブルチャージ(1件あたりに要した実働時間に関係なく請求できる金額の上限を定める契約)が増えていますが、それでも体質的には「timeis money」そのものなのです。また、渉外事務所での仕事は現実に滅茶苦茶忙しいものですから、1日10時間程度ではとても仕事をこなせないのも実情です。こうなってくるとアソシエイトは1日50時間あっても足りないというところでしょう。必然的に無駄な時間を減らしにかかりますから、かなりの人が事務所から徒歩圏内にマンションを借りたりしています。また、純粋な渉外法務ですと外国と日本の時差もありますので、外国の相手方が起きているときにはこちらも仕事、ということもあるのかもしれません。いずれにしても、睡眠時間は極限まで減らすような生活をしているので、いったいいつ寝ているのかも分かりません。お客様からしてみれば、いつ連絡をしても「いる」ということで有り難いのかも知れませんが、彦一弁護士からするとそこまでして仕事はしたくありません。大田弁護士にしても「家庭も顧みれない人間がまともな弁護士の仕事をできるか」と公言してはばからないところです。もっとも渉外事務所の弁護士は離婚だのの相談などないでしょうから、冷徹なビジネス感覚だけで足りるのかも知れませんが。 |
|
| その6 一人弁護士事務所では厳しいのかもしれませんが | |
彦一弁護士の事務所では、他のもう一人の弁護士も含めれば、午前7時から翌午前12時30分までは誰かしら弁護士がいることになりますので、たまたま今回の中島さんはタイミングが悪かった(別の弁護士を呼び出していればよかった)だけとも言えます。宮崎弁護士とは面識がなかったり、いつも彦一弁護士だからついつい彦一弁護士やボスの大田弁護士しか思い浮かばなかったということもいえます。ですが、彦一弁護士の事務所と違って、本当に一人しか弁護士がいない事務所で完全夜型の弁護士だったり、あるいは複数の弁護士がいてもみんながそろって夜型だったりすると、お客様からすれば使い勝手の悪い事務所になってしまう危険もあります。 それでも、弁護士の執務時間はこんなものだと分かっていれば、お客様もよくできたもので、午前中には大田弁護士宛ての電話はまず入りませんし、逆に彦一弁護士宛には夜中でもばんばんメールでの相談も入ってきます。要は各弁護士の「習性」を見極めてお客さんも使い分けをしているというところなのでしょうか。それとも・・・、弁護士の勝手ないい訳なのかも知れません。 |
|
![]()