検察事務官 
 
2001.4.13

    高視聴率を獲得したドラマ「HERO」では、木村拓哉扮する久利生検事と松たか子演じる雨宮検察事務官とのやりとりが一つの見物となっていましたが、検察事務官とは何者なのでしょうか? ドラマでは検事にくっついて捜査をしたり、時には取調べで被疑者をどやしたりしていましたが、本当はどういう仕事をしているのでしょうか。今回は検察事務官というものはどういうものなのかをみてみましょう。
今回の事案
 年度末決算期も終えた中島さん、暇つぶしに彦一弁護士の事務所に遊びにきています。茶飲み話の中で「彦一先生、ドラマのヒーロー見ましたか、格好いいですよね、とくに雨宮事務官いいですねぇ。あんなきつい事務官に取調をうけたらたまらないですよね」と中島さんが言っています。残念ながらこのドラマを見ていなかった彦一弁護士、いまひとつ話題に付いていけないのですが・・・・「検察事務官の取調?」とちょっと疑問を持ちました。「本当の事務官さんもあんな感じなんですかねぇ?」と聞かれた彦一弁護士、今日は簡単に検察事務官の説明を中島さんにしてみました。 


 

その1  検察事務官とは

   検察事務官とは、検察庁の職員の一つの地位ですが、検察庁の事務を行うとともに、検察官を補佐したり検察官の指揮の下に捜査を行う人を言います。検察庁の内部機構や権限などを定めている検察庁法によると「検察庁に検察事務官を置く。(1)検察事務官は、二級又は三級とする。(2)検察事務官は、上官の命を受けて検察庁の事務を掌り、又、検察官を補佐し、又はその指揮を受けて捜査を行う。」(第27条)という規定があります。1級2級というのは検察庁内部における階級です。 検事は1級か2級とされています。司法試験を合格して司法研修所で修習を終えて検察官になった検事はまず2級になります。原則として検察官を8年以上努めると1級に昇格するのです。検察事務官は2級と3級になっています。基本は3級で昇格しても2級ということになります。
   検察事務官は「上官(普通は検事)の命を受けて事務を行い、検察官を補佐し、あるいは検察官の指揮を受けて捜査を行う」ことになっています。つまり、検察事務官は独立した捜査機関なのではなく、あくまで検事などの指揮の元に捜査を行う補佐役なのです。

   余談ですが、裁判所の人間は裁判所のことを「我が社」といい、検察庁のことを「行政」と呼びます。なんで裁判所なのに「社」なんだい、うしろめたいところでもあるんかいな、と疑問もあるのですが、検察庁を「行政」というのは的を得ていると思われます。階級を見ても判るように、検察庁は基本的にお役所であり、非常に厳格な体系を有する組織だからです。検察事務官が上官の命令なくして捜査ができないように、平検事も上司の決裁がなければ起訴もできないのです。建前上は検察官は一人一人が単独で捜査権限や訴追権(被疑者を起訴すること)を持っているとされているのですが、実際には決済官の決済なくしては勝手に動くことはできないのです。行政において問題となっているヒエラルキー社会が厳然と維持されているといえるでしょう。ちなみにもっと余談ですが、警察内部では本庁を本店といい、警視総監などは社長と呼んだりしているそうです。


その2  検察事務官の職務

   一般論は既に述べたとおりですが、具体的に検察事務官は何をしているのでしょうか。
   検察事務官が行うことの出来る職務としては
・ 被疑者の取調(刑事訴訟法198条1項)
・ 逮捕状による逮捕や緊急逮捕とその場合の逮捕状の請求(刑事訴訟法199条210条)
・ 差押や捜索、検証の令状請求と執行(刑事訴訟法218条)
・ 第三者の取調や鑑定などの嘱託(刑事訴訟法223条)
・ 被疑者の鑑定などや、検視(但し上官の命があるとき)
などが規定されています。これをみてみると、検事と違うところは司法警察職員(いわゆる警察官)へ捜査などの指揮をすることができないこと、通常逮捕の逮捕状の請求が出来ないこと、被疑者の勾留請求ができないこと、被疑者を起訴することができないことなどがあるものの、検察事務官の職務は非常に広範にわたっているといえます。
  ヒーローで雨宮事務官が横から口を挟んで取調をしたりしていたことがありますが、権限としては事務官も取調はできるのです。また、いわゆるガサ入れ(会社や自宅の捜索・差押)や逮捕状を見せて「逮捕する」こともできるのです。その他にも、検察庁の捜査車両などを赤灯をつけて運転することもできます。
   では、実際のところは検察事務官はどういう仕事をしているのでしょうか。
   検察事務官が容疑者を逮捕することは非常に珍しいでしょう。容疑者を逮捕するのはほとんどすべて警察官がやっています。特捜部が動くような汚職事件や特別背任事件のような事件でない限り、検察官が容疑者を逮捕することもほとんどありません。これと同様に、ガサ入れの場合も検察事務官が出ていくのは大がかりな組織犯罪の場合で人手が必要となる場合でしょう。検事自体があまりガサ入れということをしないので、ほとんどは警察が中心になってやっていると言えます。
   検察事務官が調書を取ることもあまり見られません。被疑者にしろ参考人にしろ、取調をするのは検事で、検察事務官はその横で検事の口授する通りに調書をタイプするのが仕事です。検事と検察事務官は多くの検察庁では1人の検事に1人の検察事務官が付いており、検事の取調の際には同席して検察事務官がパソコンなどで調書を作ります。作ると言っても、その内容は検事が逐一口授するのをそのままタイプするので、ちょうど速記官とかタイピストのような感じです。

   そうすると、検察事務官の仕事は会社で言えば秘書のようなものに近いといえるでしょう。検事の取り扱っている事件の記録の整理・管理や調書のタイプ、修習生がいる場合には修習生のお相手や各イベントの設定、進行中の裁判事件の進行管理などの一般事務に近いものを主として行っているのが検察事務官です。私が実際に知っている事務官は、朝夕エプロンをして部署の検事の茶碗などの片付けやお茶くみもやっていました。どうもテレビの雨宮事務官とは違って一般職のOLに近い仕事までやっているようです。


   

その3  検察事務官から検事への出世

    ヒーローでも雨宮事務官は検事になりたいと言って部長と一緒に接待に付いていったりもしていました。検察事務官は検事になれるのかというと答えはYesなのです。一般に検事になるには司法試験に合格して司法修習を修了した人となっているのですが、司法試験に合格していなくても特定の大学(政令で定められています)の法学教授、助教授を3年以上務めても検察官になれますし、検察事務官から検事になることもできるのです。
  検察事務官は、司法試験に合格していなくても就任できます。いわゆる事務官試験を受ければいいので大学で法学を専攻していることも全く必要有りません。そして、事務官を永年勤めていくなかで階級が上がり2級になり最低3年以上在職していると「副検事」になることもできます。
  副検事とはその名のとおり「副」検事であって「検事」ではありません。なんで副検事がいるのかは、簡単に言うと検事の絶対数が不足しているためです。区検察庁(都道府県ごとにある検察庁の支部のような地位にあるもの。簡易裁判所が取り扱う刑事事件を取り扱う)の事務を取り扱わせることを認めて、その限りで検事と同じ権限を持っていると言えます。


その4  実際の検察事務官の姿

   ドラマの雨宮事務官はかなり強烈な個性で、久利生検事も押され押されていたりしましたが・・・・実際の検察事務官は極めて穏やかでおとなしい人が多いようです。久利生検事と雨宮事務官の位置関係を会社に置き直すと、課長と平社員というところでしょう。事務官がしゃしゃり出て検事の代わりに取調に口を挟むというようなことはまず有りません。勿論、ロッキード事件の際にも話題に上りましたが、特捜部の検察事務官などでは、検察官よりもはるかに経験も能力も高い検察事務官がいて、検察官以上に検察事務官が重要な仕事をしている場合もありますから、一概には言えませんが。
   不思議なものですが、事務官の人々は人間的にも非常に穏やかでおとなしい人が多いようです。少なくとも私の修習していた検察庁ではほとんど例外なくもの腰の穏やかな腰の低い人ばかりでした。割と気軽に合コンや飲み会にも誘ってくれたり出てきてくれたりしましたし、くだらない与太話にも付き合ってくれる人が多かったです。ドラマなどで出てくる典型的な検事(厳正、厳格、威厳、正義etcを背負っている)からはおよそ想像も出来ないタイプの人が検事の補佐をしているものです。
   


その5  最後に

    ドラマだと結構実体とは違った脚色をしていますので、ヒーローでもいろいろ問題のあるところはありますが(実際週刊誌で「ここが変だ」などの特集も出ていました)、ドラマはドラマなのでそれはそれでも楽しめればいいのかなと思います。   ただ、今回の検察事務官のようにこれまではドラマや映画ではあまり馴染みの無かった役職の人が出てくるということは、法曹界全体の情報開示のためにもいいことなのかとは思います。
  検察事務官になるための大まかな流れについてはこちらをご覧下さい。ただし私は検察官でもありませんし、人事院の人間でもありませんから、上記の説明には誤りや変更もあるかもしれません。だいたいこんなものという程度での理解にして頂いて、正式な情報は人事院で確認して下さい。
How to be 検察事務官