相続放棄
2001.1.20(2003.4.11)
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景気の良くない昨今、非常に多い相談が「亡くなった親が多額の借金をしていたがどうしたらいいのか」という類のものです。親自身の借金であれば自分の親だから、と諦めもつくことがありますが、これが他人の借金の連帯保証人だったりすると「納得できない」ということがほとんどでしょう。自分の親の借金や保証についてはきちんと生前から話を聞いておくべきですが、亡くなって相続税の申告をする段階になって初めて知ったような場合にどうすればいいのかを考えてみましょう。
| その1 相続とはつらいものでもある | |
. 「結婚と相続は花園ばかりではない」と私の友達が格言のようなことを言っていましたが、何も考えずに親の財産を相続してしまったために、自分のまったくあずかり知らない借金で破産せざるをえなくなった、という人も実際に数多くいます。 父、母など自分の親族が死亡した場合、その人の財産は子・妻(夫)・兄弟が相続することとなります。基本的には妻・夫がいればその人が全財産の2分の1を相続し、残りを子供が頭割りで相続します。子供がいない場合には妻・夫が3分の2を相続して残りを亡くなった人の親が頭割りで相続します。子供も親もいない場合には、妻・夫が4分の3を相続して残りを兄弟が頭割りで相続します。妻・夫とその子供が相続することになる場合が多いでしょう。 相続というとイメージ的には親の「財産」を子供が譲り受ける、平たく言えば土地建物や預貯金を譲り受けるという感覚をもつのがほとんどでしょう。兄弟で血みどろの争いになるのも親の財産を少しでも多く譲り受けたいと考えるからでしょう。当たり前の話として親の財産には「積極財産」と「消極財産」とがあります。お金や土地だけもらって借金は知らないという訳にはいきません。ところがこのあたりの感覚を持っていない人がどうも多いようです。かくして、気が付けば親の借金を背負い込む羽目に陥るお子様からの相談が後を絶たないのです。 |
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| ※ 訂正とお詫び 上記の相続分の記載について、ホームページに掲載する編集作業の中で下線部が削除された状態で掲載されておりました。このサイトをご覧頂いた方には結果として不正確な説明文書になっておりましたので訂正致します。(2003.9.19) |
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| その2 相続が始まったらまずは財産の確認を | |
相続は、被相続人が死亡したところで開始されます。相続の仕方としては「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3通りがあります。正確に言うと、相続をする方法として「単純承認」「限定承認」があり、「相続放棄」は相続しないというものですから相続の仕方としては2種類となります。 さて、多くの場合には相続に際してわざわざ「限定承認する」とか「放棄する」などとはいわずに、何となく親の財産を受け継いで、何となく相続税の申告をしたりというものとなっているでしょう。このような場合は「単純承認」となります。単純承認の場合は、特別な手続など一切することなく相続することとなり、資産はもちろん借金もすべて引き継ぐこととなります。そのために思わぬトラブルを生ずる結果を招くこととなる場合があるのです。 例えば父親が会社を経営していて、運転資金やらでいろいろ借金をしていたような場合には、妻も子も借金があることはなんとなく判っている場合があるでしょう。そこで、いったい幾らの借金をして幾ら残っているのかを確定する作業をまずやる必要があります。借金が1000万円あるけれど、会社の資産を全部処分すれば1500万円は手元に入ってくる。それとは別に自宅やちょっとした預貯金がある、というような場合であれば丸々相続してもまだ残るということになるでしょうから何もしなくていい(単純承認)でしょう。逆に借金は1億円あって資産は2000万円しかないようであれば、これは相続すると単純に借金を8000万円背負い込むのと同じになります。普通で有れば相続放棄をした方がいいでしょう。 ところが、最近よくくる相談で、父親が借金をしていたのではなく連帯保証人になっているがどうしたらいいか、というものが多くあります。連帯保証人は自分の借金をしているわけではないですから、現実にお金を返すことなく済む場合もあります。また、最終的には立て替えて返済したお金を主債務者に返すように請求できます。ですから、借金とは少し違うは違うものですが・・・・まずもって相続放棄を検討した方がいいです。 最近は不景気ということもあり、主債務者は弁済しきれずに破産・倒産してしまうことが非常に多くなっています。従って、「保証人であること=借金の返済に負われること」といえます。しかも、父親にしてみれば友達かも知れないが、妻や子からすれば見ず知らずの他人の保証をしていることもあります。こういう保証人の地位を受け継ぐというのも余り嬉しい話ではありません。 そこで、このような場合には相続放棄をして、被相続人の資産を譲り受けない変わりに借金なども一切引き継がないという手続をすることが非常に有効な手続となってきます。 |
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<単純承認>
単純承認とは、相続人が被相続人の財産上の権利義務を全面的に承継することを内容として相続することをいいます(民法920条)。単純承認した場合には、被相続人の資産などをすべて引き継ぐ代わりに、被相続人の借金などもすべて引き継ぐこととなります。実際に条文をみてみると判りますが「無限に被相続人の権利義務を承継する」とされています。親の借金が100億円あれば、それを相続したからには最後まで責任を持って支払わなければならないのです。
単純承認というのは特別な手続が必要なものではなく、相続がされた場合には原則として単純承認があったことになります。つまり限定承認や相続放棄をしなければ単純承認をしたこととなるのです。また、仮に限定承認をしていたりしていても、相続財産を(一部でも)処分した場合や、隠匿したり費消(使ってなくすこと)した場合には単純承認があったこととすると法律上決められています(民法921条)。
【相続したところ借金があったが、自分が自分で稼いだ財産に貸し主が執行をかけてきた】
単純承認した場合には、借金もすべて引き継ぐこととなります(もっとも、金銭債務の場合には相続割合に応じて分割されますので、妻と子2人で1000万円の借金を相続したときには、原則として妻が500万円、子がそれぞれ250万円の責任を負います)。「親父の借金だから親父の財産がなくなる分には納得できるが、自分でこつこつ稼いだ財産まで借金の返済に充てられるのは納得行かない」、と思っても、単純承認した場合には相続した人の固有の財産であっても債権者は執行をかけることが出来ます。
従って、相続した財産の範囲でのみ借金を返済する場合には限定承認をすることとなります。
<民法920条(単純承認の効果)>
相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
<第921条(法定単純承認)>
左に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。但し、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は放棄をしなかつたとき。
三 相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかつたとき。但し、その相続人が放棄をしたことによつて相続人となつた者が承認をした後は、この限りでない。
| その3 相続放棄 | |
それでは、相続放棄とはどういうものなのかをみてみましょう。 相続放棄とは、「相続しない」ということなのですが「法律上の相続人たる地位を放棄する」と言った方が正確でしょうか。法定相続人(法律で相続する人と決まっている人)は、被相続人が死亡すると同時に相続をすることとなります。しかし、親に莫大な借金があるような場合には相続してみても百害有って一利無しというところです。例え親の家を譲り受けても結局は借金の返済のために失い、更には自分の財産まで借金の返済でなくしてしまうくらいならば、最初から何も相続しないでいた方がいいものです。勿論、「親の借金は自分の借金」と仁義を尽くして返済するのは自由ですが。 相続放棄というのは、元々は家制度が強く残っていた我が国の慣行として行われてきたという歴史的背景もあります。長男がすべての財産を引き継ぎ、次男や娘は財産を譲り受けない。その代わりに長男が家長として一族の面倒を見る。そういう家制度が残っていたころには、長男以外は全員相続放棄をするということが行われてきていました(もっとも旧民法の時代は家督相続とう現在とは全く異なる制度があったので相続放棄だけが出てくるわけではないのです)。 しかし、相続放棄をするのかどうかは各人の自由な意思に基づくものですので、今では次男だから放棄するという慣行もなくなってきています。そして、相続放棄はその本来の目的である、相続によって過大な債務を負わされることを回避するために使われるようになってきています。 相続放棄をするには,自己のため相続の開始を知った時から3カ月以内に家庭裁判所にその旨を申述しなければならない(民法938条、915条1項)とされています。相続放棄をするということは、最初から相続人ではなかったということになりますので、いつまでも放棄できるようにすると、相続人なのかそうでないのかがはっきりしないという不安定な状態が続いてしまい、債権者も他の相続人も非常に不都合だから期間制限を設けているのです。3人が相続人である場合に、その一人が放棄するかどうか迷っているとします。1年でも2年でも放棄の期間が認められると、結局いつまで経っても遺産分割もできません。また、被相続人にお金を貸していた人などからしても、一体どの相続人に今後は請求すればいいのかがわからなくなります。そこで比較的短い期間に限って相続放棄をすることができるとしているのです。 また、相続放棄は、相続人でなくなるという大きな効果を生じますので、後日紛争になって「放棄した」「聞いてない」というトラブルを生じないように、家庭裁判所に放棄の申述をすることが求められています。そして、家庭裁判所に行けばその人が相続放棄したのかどうかは明らかになりますので、関係者にも事実関係が明らかになることとなります。 |
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【借金ばかりだと思って相続放棄したら、実は資産の方がたくさんあった。相続放棄を撤回できないか?】
相続放棄はその影響が大きいことや、家庭裁判所で手続をするというkともあり、安易に撤回を認めるようなことは許されません。つまり、原則として一旦相続放棄をしたからには、それを撤回することは許されないのです。ですから、相続財産は借金ばかりだと思って放棄したが、後々調べてみたら実はいろいろ資産があって自分が相続する資産が相当あることが判ったとしても、撤回はできないのです。ここまで認めると相続人の自分勝手な計算で他の相続人や債権者が迷惑することになるので、当然といえば当然でしょう。放棄をする場合にはきちんと財産状況を確認してからにしましょう。
なお、他の相続人からの強迫によって相続放棄をしてしまったなどの例外的な事情がある場合には、その旨を家庭裁判所に申述した上で撤回が認められることもあります。
【親の借金がどのくらいあるのかすら判らないので放棄していいのかどうかすぐには決められない】
相続放棄は、相続開始時、つまり被相続人が死亡してから3ヶ月以内に行わなければならないとされています。しかし、時には親の財産や借金が非常に多いために、一体資産がいくらあって借金がどれくらいあるのか、そんなにすぐには調べられないという場合もあります。また、相続財産の額それ自体はそれほど大きくなくても、借金の有無を争って裁判をしているためにその勝敗の如何によっては膨大な借金を背負うこととなるという状況にある場合も、すぐに放棄していいのかどうか判断が付かないところです。
そこで、相続財産が確定しないなどの理由で3ヶ月以内に相続放棄が出来ないという事情がある場合には、家庭裁判所に相続放棄のための申述期間を延長して欲しいむねの申立ができます。事案によってどの程度延長されるのかは変わってくるものですが、だいたい3ヶ月間延長されて相続開始から6ヶ月以内に放棄するかどうかを決めればいいという決定ができることが多いです。
民法938条(相続放棄の方式)
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第939条(相続放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。
第915条(承認・相続放棄の期間)
相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から三箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但し、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によつて、家庭裁判所において、これを伸長することができる。
2 相続人は、承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
| その4 限定承認か放棄か | |
限定承認という制度は、相続人が被相続人ののこした積極財産(プラスの資産)の限度内で消極財産(借金など)を負担することとし、消極財産をすべて弁済してなお余りがあればそれを相続するというものです。こういう説明をすると「親の借金がどのくらいあるのかよく判らない。借金だけしょいこむと判れば放棄したいが、残りがあるのなら相続したい。そうすると限定承認するのがいいですよね?」と聞かれるのが大概です。 結論から言って、よほど多額の遺産があるような場合でなければ相続放棄した方がいいと思います。 勿体ない、せっかく余りが相続できるならば何も放棄しなくてもいいではないか! といわれそうですが、実際には限定承認の手続は非常に煩雑なものなのです。まず、相続人が複数いる場合には原則として全員が共同で限定承認する必要があります(923条)。また、相続財産を調査して相続財産の財産目録を作成したうえでなければ裁判所に限定承認の申立をできないこととなっていますし、限定承認してから5日以内に債権者には通知をし公告をしなければならず(927条)、債権者に対して相続財産から配当をすることも必要になります。しかも配当する場合には、その前提として不動産などを競売して処分した上で現金配当することとなります(932条)から、その手続だけでも十分煩雑なものとなります。 簡単に言うと、限定承認をするということは被相続人の破産手続をするのと同じといえます。それだけのことをやってもなおかつ多額の資産を相続できるというような場合で有れば価値はあるとおもいます。しかし、通常は資産と借金のどちらが多いかいまひとつよく判らない状態で問題とするのでしょう。そうすると、限定承認をして手続をしているうちに借金の方が多いことが判って相続財産の破産手続に移行するのがオチでしょう。仮に余りがあっても、大した額にならないならば、限定承認における配当手続の諸費用(実際には弁護士に頼んでやってもらうでしょうからその費用もかかります)などで帳消しになってしまう可能性もあります。 それならば、最初から相続放棄をしてしまってあまり面倒な手続きに手間暇をとられないでいるほうがいいでしょう。親の資産というものは、相続がなければ元々他人の財産(親だって他人は他人)なのですから、何も譲り受けなくても損になることはないでしょう。なお、限定承認の場合には税金上のデメリットも発生します。 |
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| その5 忘れた頃にやってきた借金取り | |
「うちの親父は地味な人間だったから、財産もないけど借金もないはずだし」、と相続放棄もなにもせず単純承認して相続してしまったところ、数年たって突然借金の取立てがやってきた、そういう事例も珍しくありません。相続放棄も限定承認も相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければいけないので、今更放棄もなにもできないが、かといってべらぼうな借金の事実を目の当たりにして「知っていたら絶対に相続放棄して他のに・・・」とやるせない思いに駆られることでしょう。 実際にこのような事態が生ずるのは、被相続人が連帯保証人であったため生前は弁済していたこともなく、死亡してから主債務者が破産するなどして請求が来る場合に多いでしょう。また、既に父親が亡くなっていて子供が祖父の借金を相続した場合などには、借金があるのか保証人になっているのかなどわかりもしなかったということがあります。一番やっかいなのはこれでしょう。自分の父親は既に亡くなっているので祖父とは疎遠になっている。祖父は連帯保証人をしていたが父親が先に死亡していたのでそのことを知るよしもなかった。しかも祖父の生前は勿論死亡後も債権者からは請求も何もなく、かなりたってから主債務者が破産したために連帯保証人の地位を相続した人へ請求が来る。そこに至って初めて祖父が連帯保証人であったからそれを相続した自分も弁済しなければならないことを知るのです。非常に不幸な事案であるといえるでしょう。 このような場合には、極めて希にではありますが相続放棄が認められることがあります。つまり、相続放棄をしなければならない3ヶ月の期間の起算点を被相続人の死亡時点ではなく、「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識しうべき時から起算すべき」として、支払の催告がきた時から3ヶ月以内に相続放棄をすればいいとされる場合もあるのです(最判昭59・4・27)。 3ヶ月の熟慮期間が経過したのに相続放棄が認められた過去の裁判例をみると被相続人の死亡から1年近く経過した時点での相続放棄を認めた例はちらほらと見つけることができます。ただし、そうそう簡単に認められるのではなくかなり特殊な事情がある場合に限って認められているといえます。 |
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【実際自分も今から相続放棄をしたいができるのか?】
まず、3ヶ月の熟慮期間を経過した後の相続放棄は認められることは非常に希であるということを覚悟してください。ただし、特別な事情があるから放棄できるのではないのかとわずかな望みを持っている場合には、すぐに弁護士に相談するべきです。熟慮期間が経過した以上、一日でも早く動かないとわずかな可能性すら無くなっていきます。
| その6 最後に | |
親の財産だから相続するのは当然ですし、おいしいところ(積極財産)だけ持っていってまずいところ(消極財産)は知らん顔ということはある意味わがままです。しかし、実際に親の借金をみてとても返済できるものではないと思ったら、踏ん切りを付けて相続放棄をするべきでしょう。親に育ててもらった以上、親の借金もきちんと処理するという考えもありますが、だからといってわざわざ破産への道に進む必要まであるとはいえないでしょう。 親が亡くなったときには、なるべく早い時期に親の財産を整理して、3ヶ月の熟慮期間を経過しないうちに放棄するかどうかを決断するべきだと思います。 |
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