整理解雇
 
2000.10.7(2004.5.10)

   企業においては、使用者と労働者という2つの立場の人間がおり、使用者が労働者を雇用することで人的組織が成り立っているといえます。バブル経済崩壊後の空白の10年の後も依然として景気は回復していません。最近でこそ完全失業率が5%を割込み、大企業などの設備投資が増加するなどの景気回復の兆しがあり、企業のリストラも一段落したといえます。しかし、このような状況であっても人員削減がなくなることはありません。
   また、平成16年1月施行の改正労基法では、解雇についての明文規定を設けました。現在においても整理解雇などは決して終わった問題ではないとともに、企業としても解雇については慎重な対応が必要となることにかわりがないのです。今回は、リストラに関する解雇について法律的に説明してみましょう。
<リストラ>
 
    リストラクチュアリング(restructuing)の略語。「再構築」とか「改造」という訳語であるが、一般に言われるリストラは、企業の再建のために会社の基本的構造(経営方針は勿論、経営体制や人的組織その他)の根本的な再構築のことを言う。最近は、リストラ=余剰人員の削減=(実質的な)整理解雇、という図式が一般には定着している感がする。
その1  雇用

.   企業が従業員を雇い入れるときには「雇用契約」を締結します。雇用とは、「当事者の一方(労務者)が、相手方(使用者)に対して、労務に服することを約し、相手方がこれに報酬を与えることを約する契約」だと言われています。ようするに、従業員の視点からは、企業のために仕事をするから給料をくれ、企業の視点からは、給料を払うから会社のために働いてくれ、ということです。
<従業員・社員・労務者>
 
   会社などで働いている、いわゆるサラリーマンのことをよく「会社員」とか「社員」と呼んだりしています。「会社員」というのは社会一般における通称で「会社に勤務している従業員」のことです。雇用契約でいうところの「労務者」とイコールです。
   これにたいして、「社員」というのは、法律的には「株主」のことをいうことが多いです。会社の構成員というのは、法律的には株主であり、給料をもらって働いている労務者のことは「従業員」と呼ぶのが適切でしょう。もっとも、ある会社の株式をもっているからといってその会社の「社員」である、といわれて「そうだ」と思う感覚を持っている人はほとんどいないでしょうし、ある会社の従業員であれば会社の構成員(社員)であるという感覚でいるのが通常でしょう。法律用語と実社会で用いられている用語との間に乖離があることは珍しくはありませんが、「社員」という用語はその典型例といえます。
 民法623条(雇用)
 雇傭は当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し相手方が之に其報酬を与えることを約するに因して其効力を生ずる
 


その2  退職と解雇

   退職というのは、当然ですが、従業員が企業との雇用契約を解消することを言います。従業員の年齢に定年を設け、一定の年齢に達した従業員を退職させるのが通常いわれる退職ですが、定年と同時に当然に退職する『定年退職』と、定年に達した場合には「退職させる」「解雇することが出来る」という『定年解雇』の二つがあります。自分のいる会社の就業規則を見ればたいていはこのいずれかになっているでしょう。どちらも、当然に退職するか、退職願を出させる手続を踏んだ上で退職(解雇)となるのかの違いはあっても、基本的には同じものです。また、これとは別に、『自己都合退職』もあります。別会社への転職とか、出産して子育てに専念するとか(最近はこういうのも少なくはなってきていますが)、従業員の側の事情にもとづく雇用契約の終了です。
   これに対して、一般に「解雇」と言われるものは、定年に達している場合でない、また期間の定めのある雇用契約において期間が満了していない場合に、会社の都合によって雇用契約を解消する場合をいいます。なお、期間の定めある労働者の場合に、これまで何度も契約が更新されてきたのに、突如「次年度は契約を更新しない」といって期間満了で打ちきりにする場合もあります。一般に「雇止め」といわれているものですが、これも場合によっては会社都合による解雇と同様に扱われる場合があります。
   企業が従業員を解雇する場合としては、@企業そのもの(あるいはその営業の一部)が消滅する場合(営業譲渡や事実上の倒産)、A従業員が不正を働き懲戒解雇される場合、などがあります。しかし、オイルショックやバブル経済の崩壊の際に見られたように、企業のリストラの一環として従業員を解雇することも珍しくありません。また、アメリカなどではレイオフという形で解雇が行われることは日常事といえます。
<レイオフ Lay-off>
 
   アメリカで普及している解雇の形態。日本で解雇というと、永遠に解雇であり、その会社にはまず戻ってくる(再雇用)ことはないでしょう。これに対して、アメリカでは、企業の業績が悪くなったときに、業績が復帰したときには改めて雇用するという再雇用の予約を条件にして解雇することが多く、これをレイオフといいます。企業の業績が回復し、再び人員の拡張が必要になったときに、解雇した元従業員を優先的に、そして解雇前の労働条件で再雇用する形態であることが大きな特徴です。しかし、これも解雇されている間はなんらの雇用関係にはない訳であり、また、必ず再雇用される分けでもないため、解雇には違いないといえます。
   レイオフはアメリカ型の企業経営の一環といわれ、必要なときに必要な人材を確保するための手段です。スキルアップによる転職が日常的なアメリカ社会には合致する形態であるといわれる。これに対して、日本は終身雇用形態を(今現在はかなり変わってきていますが)維持しており、一旦解雇されると再就職は(景気の良い時代であっても)困難であり、待遇も落ちる。その変わり、企業は多少業績が悪化しても、従業員の給与(勿論役員の賞与も)をカットする等により、雇用それ自体は確保し続けるという傾向が強かったといえます。それだけに、整理解雇は我が国の社会に与える影響も大きいといえます。
【リストラの一環としての希望退職に応じた場合でも失業給付金はでるのか】
 
   失業保険については、解雇の場合には失業後7日間の待機期間経過後に一定の給付を受けることができます。これに対して、自己都合退職の場合には、待機期間が3ヶ月となっております。従いまして、純粋な希望退職の場合には、失業保険の給付は受けられるものの、給付を受ける迄の期間が長いということになります。また、その間に再就職が実現すると、その分も考慮されることとなりますので、結果的には失業保険の給付額が解雇の場合より少なくなることもあると思われます。
   しかしながら、現在の社会情勢をみても希望退職の名を借りた事実上のリストラが広く行われており、基準局もこのような社会情勢については一定の理解をもっております。そこで、職安の担当官に対して希望退職とはいえ事実上の解雇である旨の事実をきちんと説明することで、一般の解雇と同様の待機期間経過で失業保険の給付が受けられるようになっております。
   例えば会社っが大々的なリストラを実行し、多数の従業員の希望退職をつのった場合などでしたら、担当官にその点をきちんと説明することで失業保険の給付が通常解雇と同程度に扱われる可能性は高いものと思われます。
なお、失業保険についてはハローワークのHPが非常に丁寧に説明をしておりますので、そちらも参照してみてください。
 


   

その3  雇用の自由・解雇の自由

   産業革命時代の労働者の惨状から(労働者には、搾取される自由か死ぬ自由しかない、と言われた時代)、各種労働法によって、賃金や労働条件については労働者を保護する様々な規定が設けられてきています。しかしながら、雇用契約を締結する、つまり、企業が従業員となるべきものを雇い入れるときには、誰を雇い入れるのかは基本的に自由です(もっともいきすぎた差別は憲法上も問題となりますが)。この点では契約自由の原則が貫かれているといえます。
   では、解雇の自由はどうでしょうか。使用者(企業)からすれば、賃金は高くなったが能力は衰えてきた中高年従業員をどんどん解雇して、賃金の安い、そして体力もある若手を採用したいと考えることが多いでしょう。しかし、これを無制限に認めては、労働者保護は骨抜きになってしまいます。そこで、解雇する場合には解雇するだけの相当な理由が必要である、という発想に基づき、解雇権が濫用でない場合には解雇できるということになります。リストラの場合と解雇権の濫用については、5で改めて説明します。
<解雇権の濫用>
 
   雇用契約は、継続的なものであり、また使用者と労働者の信頼関係に基づいて成り立つものである。そのため、継続的信頼関係を断ち切るためには、使用者はまずもって解雇の理由を労働者に説明する必要があり、理由も告げずに解雇することは許されない(労基法18条の2)。また、告げられた理由についても、合理的なものである必要がある。平成15年の労基法改正で明文の規定が設けられたが、条文の文言そのものは抽象的なものである。具体的にどのような場合に解雇できるのかについては、これまで集積されてきた裁判例などが公権解釈として労基法改正後も維持されている。
 


その4  通常解雇の手続

   さて、いよいよ本題に入っていきましょう。まずは、解雇の場合にはどのような手続をとる必要があるのかをまとめてみます。
   労働者(従業員)にとってみれば、給料をもらえるという前提でローンの支払いや共益費の引き落としなどの準備をしているはずです。勿論、食費や生活費の予算計画も自分の給料とにらめっこしながらやりくりすることとなります。しかし、ある日突然解雇されてしまうと、次の就職先が決まるまでは収入が無く生活ができなくなります。これでは労働者の生きる権利まで奪いかねない結果となります。そこで、従業員が次の職場を探して就職できるだけの準備期間を設ける必要があり、そのために解雇するにあたっては遅くとも30日以上前に解雇の予告をすることが必要とされています。
   但し、差し迫った事情で30日前に解雇予告が出来ない場合もなくはないでしょう(例えば、予期せぬ事情で手形を不渡りにしてしまったため、倒産してしまったとか)。このような場合も考慮して、30日以上前の予告が出来ない場合には、最低30日分の予告手当を支払うことで解雇できるとされています。なお、この場合には当然ですが、解雇された従業員はその会社で仕事をしなくても事実上30日分の給料が出たのと同じになります。これが解雇にあたって使用者が取るべき最低限の手続きです。
【懲戒解雇の場合の予告手当】
 
   会社の従業員が金員を横領していたとか、不正な行為をはたらいた等で懲戒されて解雇されるということもあります。当然ながらこれは従業員側の責任に基づく解雇ですので、この場合には解雇に際して予告手当を支払ったり、解雇するまでに30日以上おかなければいけないという話にはなりません(労基法20条1項但書)。
【予告手当の額】

   会社によっては、業績に応じて毎月毎月の賃金が増減するというところもあるでしょう。そうすると、平均賃金基準の30日分の予告手当を支払うといっても、たまたま前数ヶ月は業績が良く、年間累計給与を16月で割った額よりも遙かに多い額を支給していたとか、あるいは逆に、前月が決算のため1年で一番給与が低かった、ということもあるでしょう。このような場合にはいったいどこを基準に30日分の給与を算定するのかということも問題になります。
   基本的には、前6ヶ月基準ということになりますが、場合によってはその年度における1ヶ月当たりの給与として合理的な額ということになることもあるでしょう。雇用期間が長い従業員の場合で、季節によって賃金支給額にばらつきがあるような会社では、年額を12月(あるいは賞与もあるので16月ということもあるでしょう)で割った平均額ということで処理することもあると思います。 

【解雇・退職の宣告時期】

   解雇するときには最低でも30日以上前に予告する必要があります。これは労働基準法上の制限ですので、従業員において「3日前の予告でもいい」という書面を出していても30日以上前には予告しなければ駄目です。3日前に予告したなら、27日分以上の予告手当を出す必要が出てきます。
   それでは、従業員が自ら退職するときはどうでしょうか。この点は法律上は特に規制がありません。一般には、「首を切られる従業員=弱い立場=保護の必要」という図式で法律が作られていますので、労働法の関係では従業員が自分から辞める場合には特に手だてをもうけていないのです。従って、一般法である民法の規定が適用されることとなり、退職の通知をしてから2週間後に雇用契約が終了することとなります(民法627条1項)。現実問題としても、突然「辞職します」などと言われれば、会社だって困るでしょう。会社にしても、新たな従業員の確保やら、退職に伴う諸手続も必要となります。そこで、法律上の規制云々をいうまでもなく、社会人としての常識として、せいぜい14日前には辞職する旨を人事なり上司の部長なりには伝えておくべきともいえます。特に管理職についている従業員の場合には、後任の人事の決定もありますので(場合によっては後任人事に役員会の承認まで必要となることもあるでしょう)、30日前には辞職願いを出しておくべきでしょう。
   なお、終身雇用の従業員ではない場合、つまり期間の定めがある雇用契約を締結している従業員の場合には、原則として期間満了前の退職はできないとされています。やむを得ない事由があれば中途での退職はできますが、その場合に退職する理由が従業員の側の一方的な責任による場合には、損害賠償の義務をおうことになります(民法628条)。ただし、契約期間が平成15年改正で最長3年に延長されたことから、1年を超える契約期間を定めている場合には、1年を経過した後はいつでも自己都合退職できるとされました(労基法137条)。 
 労働基準法第20条(解雇の予告)

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

 労働基準法第21条(解雇予告の例外)

前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
  一 日日雇い入れられる者
  二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
  三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
  四 試の使用期間中の者

 労働基準法第137条

期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
 
 


その5  リストラ解雇と解雇権の濫用

   さて、それではメインのテーマに入りましょう。前項では解雇をする「手続」をみましたが、その前提として「解雇できるのか」という大問題があります。会社がリストラの一環として従業員を解雇するときは、どの点に気を付けなければいけないのでしょうか。
   すでに説明したように、解雇するにはそれなりの合理的な理由があることと、それを従業員にきちんと説明することが必要です。これを怠ると解雇権の濫用として解雇は無効となります。とくに、リストラに伴う解雇の場合には、本当に解雇する必要があるのかなど慎重な検討が必要になります。
一般には、リストラ解雇の場合には
1)人員整理をする必要性があるのか
2)解雇回避努力を尽くしたか
3)人選基準に合理性はあるのか

という解雇事由に関する制限と
4)解雇するに際しての説明・協議等をしたか
という、解雇手続に関する制限があるとされています。
   長年の裁判例の集積の中で出来上がってきた要件であり、裁判事例ではこれらの4要件を基本的に充足することが解雇権が信義則に反しない(濫用ではない)ことを認めるために必要であるという傾向にあるといえます。実際に要件事実として必要であるとする裁判例は多くなく、相談判断要素であるとか、具体的事情により判断するとしている裁判例が多いですが、解雇する側からすると、つねにこの4要件を意識しておくことが必要でしょう。
  それでは、これらの制限について、少し詳しく説明してみましょう。
1) 人員整理の必要性

  余剰人員の整理解雇を行うには、経営上の必要性が強く求められる場合でなければなりません。単純に業績が悪化しているとか、人件費の削減の必要がある、という程度の理由では足りません。極端な話として、ここで人員削減をしなければ、企業の存続自体が危ぶまれるような差し迫った状況であることが必要となります。もちろん、現実にはそこまでいかなくても、現在の人員体制では近いうちに経営危機に陥ることが必至であるというような、高度の経営危機下にある場合には人員整理の必要性は認められる傾向にあります。
2) 解雇回避努力義務の履行

 雇用契約というものは、多くの場合期間の定めがありません。つまり、自主的に退職するとか定年退職するとかの事情がなければずっと継続されることを前提としています。そのため、このような継続的な関係を断絶する手段である解雇は、使用者にとっては最後の手段であることが必要とされます。
3) 被解雇者選定の合理性

 整理解雇は、人件費削減のために行うものであって、従業員の選別を認めるものではありません。極端な話し、前従業員からくじ引きで解雇対象者を抽出するくらいの感覚が必要になってきます(勿論、くじ引きで実際にきめるというのはかなり無責任なので本当にはやるべきではありませんが)。そこで、有る特定の授業員のみを対象とするような選別方法や、従業員間の公平を害するような選別は許されません。どのような基準で当該解雇対象者を選別したのかの人選基準が合理的であることが必要となります。
4) 適正・妥当な手続

   今見てきた1)〜3)は、いずれも解雇出来るための「合理的な理由」の有無の問題です。しかし、それだけでは不十分であり、解雇する手続それ自体が適正・妥当に行われたのかも問題となります。
   よく耳にする「肩たたき」というのもこの問題と絡んできますが、従業員を納得させるような手だてをとらないまま、いつの間にか解雇してしまうようなのは、無効とされます。「扶養者あり持ち家有りローン有り」というような従業員に対して、突如として僻地への転勤を求め、これに応じないことを理由に解雇するというのもよく聞く話ですが、このようなことがまかり通っては労働者の地位の安定が図れないことから、整理解雇においても手続の適正・妥当性が非常に重視されています。
【高度の経営危機はどうやって判断する】
 
   経営者の主観的な判断はまず意味がありません。実際に裁判などで争われる場合には、過去何年もの経営状況を明らかにするための会計報告や人件費の一覧表、時には個々の経理伝票等々の客観的な資料に基づいて、企業収益における人件費割合が過剰か否か、業務内容に対する人員が過剰か否かなどを判断することとなります。

【人員整理の基本的必要性の判断はどの程度厳しいのか】

   高度の経営危機という以上、そうとう厳格に経営状況を判断しているのか、というと必ずしもそうではないです。裁判になった場合には、企業の合理的な運営のためにはやむを得ない必要性があれば人員整理する必要性としては足りるとしているものが多く、経営裁量をかなり考慮しているといえます。

【整理解雇の回避の努力を尽くしたといえるためには】

   企業の業績の悪化は、使用者の経営手腕が悪いからといえます。また、使用者側である役員は企業が利益を上げたからこそ報酬をもらえる立場にあるといえます。そこで、先ず最初に考えられるのが役員報酬の削減です。これもしないでいきなり従業員を解雇するというのは問題が多いでしょう。また、人員が余剰のため人件費が収益を圧迫しているというのであれば、従業員の新規採用を抑制したり、管理職などの手当を減額したり、あるいは次善の策として希望退職者を募集するという方法も予め採っておくべきでしょう。
更には、経営状況の良い関連会社へ出向・配置転換させる等も考慮するべき場合もあるでしょう。要するに、整理解雇以外に考え得るあらゆる手段を講じた上で、なおかつ解雇しなければどうしようもない、という状況にあることが必要といえます。

【解雇対象者の年齢による限定はできないのか】

   例えば40歳から55歳の間の従業員のみを解雇の対象とすることはどうでしょうか。年齢で絞り込みをかけていることから、有る意味では公正さを欠くともいえます。使用者としてみれば、給与が高額で、その割に体力も衰えてきている高年齢層の従業員から解雇していきたいというのはごくごく当たり前の感覚でしょう。しかし、それだけの漠然とした理由だけでは合理性は認められないでしょう。もっと具体的な理由が必要といえます。例えば特殊能力はあまり求められない業務を行っているのに、40歳以上の従業員は年功序列の関係から実働分以上に高額の給与を取得していて、しかも、40歳から55歳の従業員が前従業員に占める割合が非常に高いなど、40歳から55歳の従業員を整理解雇の対象とすることに一定の合理的な理由がある場合もあります。

【リストラするなら怠慢従業員から辞めさせたい】

   穀潰し、窓際族、5時から人間、などなどという言葉も有るように、企業の従業員の中には、有る意味会社への貢献が低い従業員もいます。整理解雇をする以上は、このような従業員を解雇して、バリバリ働く従業員は残したいと考えるのは使用者としては当然のことです。しかし、怠慢だとか仕事をしないといっても、それが懲戒事由に該当するような場合でなければ解雇は出来ないでしょう。これは整理解雇の場合であっても同じです。使用者の主観はともかく、働きが悪い従業員をねらい打ちするような選別は合理的とはいえないでしょう。本当に何も仕事をしないような従業員で有れば、単純に懲戒解雇の手段を考えるべきです。

【不採算店舗の閉鎖によってその店舗の従業員を解雇するなら問題ないのか】

   ケースバイケースとなる例として、特定の事業所の従業員のみを対象とすることが可能かという問題があります。例えば本社や主力営業所はすべて大阪地区にあり、それ以外の事業所は東京進出のために開設した事業所が1つあるだけの場合には、東京事業所の閉鎖の場合に東京で「現地採用」した従業員を対象とすることには一定の合理的な理由があるともいえるでしょう。しかし、全国展開しており、従業員を各店舗に定期的に転勤・異動させているような場合には、たまたま閉鎖する営業所にその時にいたというだけで解雇する理由は認められないでしょう。

【適正・妥当な手続を尽くしたと言えるためには具体的になにをどうすればよいのか】

   まずは、早期に解雇対象者に解雇の説明をする必要があります。30日以上の予告期間よりも前に、解雇対象者となっていることを伝え、なぜ解雇せざるを得ないのか、どうして対象者となったのか、をきちんと説明する必要があります。
   その上で、解雇対象者ときちんと協議を行う必要があります。再就職できるだけの十分な時間的・金銭的余裕を与えてくれと言われたら善処するとか、関連会社へ斡旋できるかどうかを検討するとか、従業員が食いっぱぐれないような配慮をするべく申し入れたり、あるいは従業員の要請を受けて解雇の時期を少し遅くするとか、いろいろなフォローも必要になるでしょう。また、従業員の側から解雇する必要がないではないかとの意見も真摯に受け止める必要があり、場合によっては解雇それ自体を再検討する必要も出てくるでしょう。この場合、勿論労組との交渉・協議も重要になってきます。
   このような協議などを経た上で、従業員に解雇されることをきちんと納得してもらうことが必要です。勿論、従業員としては二つ返事で解雇に応ずることはないでしょうし、最後まで解雇に反対することもあるでしょう。そういう意味ではその従業員は納得しないということもあるでしょうが、社会一般的に見れば、これだけ説明・協議を尽くせば納得してもらえるはずだ、という程度のことをしていれば、その従業員が反発していても仕方ないことでしょう。
 


その6  解雇権濫用法理の明文化 

    これまで、解雇に関するルールは明文の規定がありませんでした。解雇については、民法の規定の中で5年以上の期間を定めた雇用の解除(626条)や、解約の申し入れ(627条)が根拠として、当然に認められる権利であると考えられています。しかし、企業と労働者の社会的力関係から、企業の一方的な解雇を無条件に認めるのは労働者の保護に反するとして、何らかの制限を課すべきという部分については、明文の規定がありませんでした。そのため、信義則や権利濫用といった一般条項(多分に価値判断の影響を受けてしまい、法律としての安定性を損なう危険をはらむ規定)を頼りに「解雇権の濫用法理」が判例の中で出来上がってきたのです。
   そこで、平成15年の労基法改正(平成16年1月施行)では、解雇に関する明文の規定を設けたのです(労基法第18条の2)。ただし、この規定でも「合理的な理由」「社会通念上相当であると認められない」という要件の具体的な内容は明らかではなく、これまでの解雇権濫用法理同様に過去の判例の蓄積に従うとされています。
  このような状況からすると、解雇権濫用法理が明文化されたといっても、これまでとはほとんど何も変わっていないといえます。事業主としては、いわゆる4要件を念頭において解雇をする必要がありますし、労働者にしても自分たちの権利・地位が強化されたとまではいえないでしょう。
 労働基準法18条の2

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
 
 


 

その7  解雇理由証明・就業規則における解雇事由の明示

  解雇規定の制定に伴って、@解雇事由の明示(労基法22条2項)、とA就業規則への解雇に関する規定の明確化(労基法89条・施行規則5条1項4号)が併せて求められることになっています。解雇する場合には、退職の日以前にも、解雇予告の日から退職の日までの間においても従業員から請求があった場合には解雇の理由についての証明書を遅滞なく交付する必要があるとされ(@)、就業規則や労働条件提示書面(雇入通知書など)にも解雇に関する事由を明記する必要があります。   
【能力が著しく劣悪で雇用している価値の認められない従業員を解雇できないか】
 
  就業規則に解雇事由としては明記されていない事由で従業員を解雇できるのかについては、今後ますます問題が先鋭化していく可能性があります。
  就業規則への解雇事由の明記については、そこに記載されている解雇事由は「例示」でしかないとするのが立法者側の考え。しかし、厚労省は解雇事由の記載は「限定列挙」であると表明し、実務運用もこれに従っている。この場合には従業規則の必要的記載事項を記載していないという違反を問われることとなり、訴訟などでも解雇の主張をしにくい。法律上は可能であるが実務運用上は問題があるということになります。企業としては、就業規則への解雇事由の明示に際しては考え得る解雇事由はなるべく具体的に列挙しておくことが必要になってきます。
 


その8  最後に

  就職氷河期、失業率大幅増などの見出しも珍しくなかった不況中で生き残りをかける企業のリストラ策の中においても、整理解雇はあくまで最後の最後の手段であると考えてください。安易に整理解雇を断行すると、企業の社会的イメージにも傷が付きますし、残った従業員の気力も殺ぐので最終的には企業にとってもマイナスになることがあります。また、極端に人員を削減すると、景気が上向いたときに営業活動が手薄になり、業績回復が阻害されることもあります。このような点も念頭に置いて整理解雇も慎重に行うべきでしょう。