境界確定
 
2001.5.2.(2006.3.11)

   自分の土地と隣人の土地の境界がどこにあるのか、これは土地所有者にとっては大きな関心事です。これから土地を買おうと考えている人や、自分の土地を売ろうと考えている人は、常に土地の境界がどこにあるのかを意識しておく必要があります。大概は境界石・錨があるために境界は明確になっているのですが、親からは「あの木とこの溝を結んだ線が境界だと聞いていた」といって隣人と境界がどこなのかをもめるようなことも少なくありません。そこで今回は、境界の確定について説明してみます。

        境界確定とは
        境界
        境界の調査
        境界確定訴訟 その1 〜 性質
        境界確定訴訟 その2 〜 公図を中心として境界の確定作業
                  T  境界確定の基準・概論
                  U  境界確定の基準となる公図
                  V  公図との照らし合わせ
                  W  境界を示す測量図
                  X  裁判所による境界の確定
       最後に


その1  境界確定とは

   この世の中に土地があり、その土地に対する所有権が存在し、不特定多数の人が土地を所有している以上、隣接する土地所有者の間においては土地の境界がどこにあるのかは重大な関心事になります。どこからどこまでが自分の土地であるのかによって、どこまで自分が使用できるのかが定まりますから、うちの土地かお隣さんの土地かが不明確なままではお互いに使用するのに困るでしょうし、紛争の原因にもなります。
   Aさんは「港町3丁目2番1号」の土地を所有しています。お隣のBさんは「港町3丁目2番2号」の土地を所有しています。このことはAさんもBさんも全く争いがありません。しかし、一体どこまでが「1号」の土地でどこからが「2号」の土地なのかは、これだけでは明らかになりません。何らかの形で「1号の土地はここからここまで」「2号の土地はここからここまで」と決められていなければ、土地の所有というものには意味が無くなってしまいます。そこで、隣接する土地と土地との境目を明確にして、互いの所有権の及ぶ範囲を明確にするのが境界確定なのです。

   最近でこそ都心部でも土地の値段は大幅に下落しており、土地の売買も沈静化してきておりますが、バブル真っ盛りの頃には1晩で数千万、数億円の転売利益が上がるというある意味異常な土地取引が行われていました。当然土地はどんどん値段を上げ、その土地を担保に金融機関はこれでもかというほど融資をしていました。この当時は、隣地との境界線が1cm違うだけで自分の土地の価額が数千万円も上下するということが珍しくなく、それに伴い境界確定の紛争も絶えませんでした。今ではそのような事態は収束していますが、倒産した会社などの所有地の売却、相続による土地の取得や物納、代替わりによるトラブルなどで相変わらず境界を巡る紛争は絶えません。
   これらは、いずれも隣地間の境界が不明確なまま互いに使用し続けてきていたことが主たる原因であるといえます。これから土地を売ろうと思う人(会社)、買おうと思う人(会社)や、隣地あるいは自分の土地が相続などによって所有者の変更が起こりそうな場合、などでは土地の境界を確認しておくことが必要になると思います。


その2  境界

    境界とは「一筆と一筆の土地の境」をいいます。一筆の土地を利用するにあたって、その利用できる範囲を客観的に定めるものが境界です。
    境界というものが明確にされるようになったのがいつ頃かについては色々な見解がありますが、一番遡れば太閤検地の頃からであるといことになるでしょう。現在の土地制度は明治時代の地籍調査に基づいて整備されているもので、村・大字(明治時代の村・大字で現在は市区町村)を一つの単位として区域を分け、その区域ごとに人為的に線を引いて区画を分けて各区画ごとに番地を設定するようにされています。この制度が整った明治時代において現在の土地制度が確立し、従って境界も整備されたといえるでしょう。

   ここでまず基本的なところですが境界を決めるのは結論から言って境界を定めるのは法務局ということになります。登記を担当する官署である登記所は、法務局・地方法務局等となっていますが、これが登記事務を管掌することになっています(不動産補登記法8条)。そして登記の対象である不動産の所在地を管轄する法務局・地方法務局等が、その登記の管轄登記所となります。法務局が境界を定めるばあいというのは、1筆の土地を(売買、相続などで)分筆した場合などでしょう。分筆する場合には、今までの登記簿の記載が全く変わりますので、通常は土地家屋調査士などに頼んで土地の測量図面の作成から始め、表示登記(登記簿の見出しのようなもの)を作成して保存登記(所有者が誰であるのかを示す)をするところから始まります。
   しかしながら、法務局登記所がすべての境界をきちんと把握しているのか、というとそういう訳ではありません。現在の登記制度が確立されたのは実は昭和35年というきわめて最近のことなのです。しかし、それ以前にも境界は現に存在していましたから、昭和35年以前になんらかの形によって定められた境界については、そのほとんどが不明確な境界線でしかないのです(下記<登記簿の編纂の歴史>参照)。

    さて、登記簿における境界がいい加減なものであったとしても、この世の中に実際に土地があるいじょう、その所有者の間ではそれ相応の境界が定められているものです。そして境界には通常その移置を示す標識があります。よくあるものは、生け垣や塀、溝(コンクリートのU字溝など)、道などです。水路、河川なども場合によっては人工的に作り出されて境界となる場合があります。これらの境界の標示において注意が必要なのは
                (1)   境界の標示があるからといって必ずそこが境界であるとは限らない
                (2)   境界の標示のどの部分が境界「線」であるのかが必ずしも明確ではない
ということです。
  土地の境界について争いがない場合には、土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用で境界を標示する物を設けることができます(境標設置権・民法223条  →知識箱「相隣関係」参照)。しかし、境界の標識が設置されることによって境界が確定されるということではないので、境界についての当事者の合意が境界を公にも確定されるというものではない点に注意する必要があります。ただ、現実の生活においては双方とも「ここが境界である」との相互認識を抱いているために紛争にならないでいるということにすぎないのです。
<土地の数え方>
 
   何でも物には数え方がありますが、土地の場合には「一筆」「二筆」と数えます。このように数えるようになったのは明治時代以降のことで、地籍調査の際に検地帳(今の登記簿謄本に該当する)に「場所・地目・地籍・所有者」などの事項を毛筆で一行(ひとふで)で書き記していたため、一筆(ひとふで)で記載されている土地が1つの土地、つまり一筆(いっぴつ)の土地という扱われかたになったようです。

<地積>


    登記簿の記載をみると、当然ですが地番(土地の所在)や面積、種類(農地・住宅地など)などが記載されています。このような土地の現状や所有関係を明らかにする制度を「地籍」といいます。ちょうど人についての関係を明確にする「戸籍」が土地についてもあるといえばいいでしょう。地籍には不動産登記法で記載するべき内容が決まっており、土地の登記簿には,「表題部」(一筆の土地ごとについている表紙のようなもの)に土地の「所在地」「地番」「地目」「地積(土地の面積)」が記載されることになります。
    この表題部をみることで、その土地の現状が判ることになります。
    続けて、甲区欄には所有者を記載します。そして乙区欄には担保権や賃借権の設定が記載されます。今回は登記簿の詳しい見方などについては割愛していますが、土地の売買の際には、甲区欄で売主が本当の所有者なのかとか誰かによって差押がされていないのかを確認し、乙区欄をみて、担保が入っているのか、その場合の担保権者は誰なのかなどをチェックします。

登記簿の編纂の歴史

   現在は登記簿によって地籍が確定されていますが、実は歴史的な沿革の中で今の登記簿ができあがっているために、その内容はきわめて不完全であるのです。明治政府は地租を賦課する必要性から、土地の所有権という概念を広め、その所有権に従って「地券発行・地租収納規則」に基づいて「地券」を発行しました。この「地券」が我が国における土地所有権確認の最初の明確な表示方法であるといえます。
   最初は、所有権のみを記載していた地券も、徐々に担保権(当時は「地所質入規則」による質抵当)の公証機能も持たせ、民法における物権変動の対抗要件としての機能を果たしていたのです。また、明治32年に不動産登記法が制定されてからは登記所に登記簿が整備されるようになりました。
   さて地券制度は明治22年には「土地台帳規則」が公布されたことで廃止され、「税務署」に「土地台帳正本」が整備されるようになりました。地券自体も地租収納を計るために始まった制度でしたが、その前提として所有権の確立があったのですが、土地台帳正本は純粋に納税のための役割を担っているものでした。ここで、税務署にある土地台帳と、登記所にある登記簿とで、同じ土地の所有権帰属者が一致しなくなるという自体を招来しました。片や納税のため、片あや所有権の公示のためと、機能の異なるものであることと、法務局と税務署という全く管轄の異なる行政が扱うために、両者の食い違いが看過できない状態になってきたのです。そこで、昭和35年に不動産登記法が大改正されて、税務署の土地台帳と法務局の登記簿とを一元化して、現在の法務局登記所による登記簿の管理に移行したのです。
   土地台帳と登記簿の二重の地籍管理が行われ、また地籍の確定ではなく納税基準を目的としていた税務署の土地台帳が登記簿に入ってくることになったため、土地と土地との境界というものが明確にされていない図面なども登記所の図面として扱われるようになってもいるのです。また、土地台帳と登記簿とではどこが境界であるのかが違っているようなものもそのまま一緒に一つの登記簿に組み込まれてしまっているのです。そのため、現在の登記簿というものは何かと不明確、曖昧な部分を残したまま今日まで引き継がれているのです。
   結果として、土地と土地との境界がどこにあるのかは、登記簿(や公図)を見たからと言っても、決して明らかにはならないのです。これが境界を巡る紛争を引き起こす一つの大きな要因であるといえます。

<当事者の合意と境界の確定>

   本文でも述べているように、当事者が合意したからと言って、それだけで境界が確定する訳ではありません。この点を明らかにした判例として
最高裁判所第3小法廷判決昭和42年12月26日「土地境界確認同反訴請求事件」があります。この事案では、当事者間が境界についてどこであるのかを合意しているからといって、その通りに裁判所が境界を確定することは許されないという結論を示しています。判決の主な内容は次のとおりです。

原判決は、本件各所有権確認請求を審理するにあたり、前提として本件各土地の境界を確定しているが、境界確定については、上告人丸石文弘と被上告人らとの間に合意が成立したことのみに依拠していること明らかである。
 しかし、相隣者間において境界を定めた事実があつても、これによつて、その一筆の土地の境界自体は変動しないものというべきである(昭和31年12月18日当裁判所第2小法廷判決・民集10巻12号1639頁参照)。したがつて右合意の事実を境界確定のための一資料にすることは、もとより差し支えないが、これのみにより確定することは許されないものというべきである

このことから判るように、境界というものは、現在の所有者同士の合意によっては確定しない(裁判所を拘束しない)ということになっており、これを逆に言うと、隣地所有者同士が確認して境界の標識を設置していても、そこが常に必ず本当の境界を示しているのかどうかは判らないということになります。もっと、この判例は、当事者が土地所有権の確認を求めて提訴している事案において、その前提として土地の境界の確定が問題となっているという事案なので、どのような事案であってもこの判例の判断が妥当するのかには疑問があるという指摘もあります。
  また、根本的なところとして、当事者の合意が境界を画定させるものではないというのはある意味裁判所との関係についての話といえます。もともと当事者間に争いがなければ、つまり当事者間で合意が出来ていれば紛争にもならず、その合意に従って互いに土地を使用すればいいのですから、実生活上は当事者間の合意で境界が決まっているとも言えるでしょう。
【境界石などを取り外したら】
 
    境界というものは、住人が勝手に決められるものでもないという話は既にしてありますが、これと同様に境界の管理をしているのも住人ではなく行政機関ですので、境界石などを勝手にはずしてしまったりすると、場合によっては犯罪となります。例えば刑法262条の2では境界損壊罪が規定されております。境界というのは土地所有者が勝手に決められないものである、つまり最終的には法務局が決めるものであるから、それに基づいて設置されている境界石などはお役所の管理しているものなのです。それを勝手に変更してしまうことは、その土地の所有者であっても許されるものではないということです。もっとも、境界標を損壊しても、まだ境界が不明にならない場合には、境界損壊罪は成立しないとされており(最判s43.6.28)、境界石を壊して換わりに描を埋めておくような場合には境界損壊罪とはならないといえるでしょう。
   また、隣人との関係においては、場合によっては不動産侵奪罪(刑法第235条の2)に問われることもあります。隣との境界を無視して隣の土地を自分のもののように使用して、隣人の占有を排除するような場合には土地を奪い取ることになりますので、もはや境界云々の問題ではなく端的に土地を奪い取る犯罪となります。
 刑法262条の2(境界損壊)

境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 
 


   

その3  境界の調査

   境界確定訴訟の性質はともかく、訴訟にならないで済むならそれが一番ですので、自分の土地とお隣さんの土地の境界はどこにあるのかを調査する方法を見てみましょう。お互いに「ここが境界なのだ」とはっきりすれば、境界をめぐる紛争にもならないものです。そこでまずは、自分の土地の境界はどこにあるのかを調べる方法をみてみましょう。

   まず境界は登記所が決めているのですから、登記所備え付けの公図をみてみます。公図については問題が多いので次項で詳しく説明しますが、この公図によって境界が明らかになっているのであればそれで問題は解決するといえます。
   しかし、多くの場合には公図をみても境界は明確にならないでしょう。そのような場合には、「おそらくここが境界であろう」という「境界」を確認する他ありません。きちんとした境界を確認したい場合には境界確定訴訟によるほかないからです。
   では、推定される境界を調べる方法ですが、基本的には「図面」を見つけだすことになります。図面といってもいろいろありますが、様々な図面を複合的に照らし合わせると、境界の場所は大体把握できるものです。例えば「実測図」です。土地の売買などの場合には測量士などが作成した土地の実測図が契約と同時に交付されていることが多いでしょう。分筆などの場合にも土地家屋調査士や測量士が分筆後の境界を明らかにする図面を作成してこれを登記所に持っていきますが、測量士などが作成した図面は、現実の土地を実際に測量した図面であり、非常に正確なものであるため、これだけによって境界が明らかになることもあります。また、測量をする場合にはだいたいは隣地の所有者にも立ち会ってもらって測量をしているので、隣地の所有者も「ここが境界である」という確認をしたうえで作成された図面であるといえます。また、同じ地区内の人は同じ土地家屋調査士に依頼することが多いので(地元密着型です)、隣地の所有者あgいずれも同じ調査士に依頼していることが多いです。そのため同じ調査士が図面を作成している場合には隣地所有者もその図面をみただけで境界に納得することがあります。なお、実測図としては測量した人の資格・名前や測量日が明確に記されていることと、測量者の記名押印がきちんとあるのかを確認しておきましょう。どこの誰がいつ作ったのか判らない図面では、責任の所在が判明しません。
   実測図は、図面を作成した当時と現況とが大きく異ならない場合には非常に有用な図面であるといえます。しかし、図面作成後に区画整理が行われたとか、土地の造成が行われた、道路が拡張されたなどなどによってその地区の地形などが大幅に変わっている場合には、実測図の起点すら不明になってしまっているため境界を確認できないこともあります。このような場合には、国土地理院が保管している航空測量図、あるいは航空測量図が内場合には航空写真(政府刊行物サービスセンターで入手できます)によって、その当時の地形と現在の地形とを照らし合わせることも行います。特に問題となっている土地が住宅地ではない場合(農地・山林)には実測図すらもともとない場合がおおいので、航空測量図は非常に有用な一つの図面です。また、住宅地の場合には住宅地図を参考にすることも有用です。住宅地図の中には航空測量図に基づいて作成されており、道路や宅地の地形などが現実に忠実に再現されているので、境界を確認する地図としての利用価値は非常に高いといえます。

   これらの図面によって、自分の所有地の境界がどこにあるのかは比較的容易に明らかになるといえます。また、図面に基づくものである場合には、隣地の所有者から異議がでることも少ないといえるでしょう。
   この作業が整ったならば、隣地所有者と境界について協議をしてみましょう。隣地所有者が境界はその通りだと言ってくれれば、相手方も立ち会いのもとで改めて境界標を埋めるなどの作業をしておきましょう(民々境界確認)。勿論、このときに境界標を設置することの同意書をもらっておくべきです。また、できれば改めて境界付近の実測図を作成して、隣地所有者にも立ち会いの署名押印をもらっておくと後日(代替わり、土地を第三者に譲渡したなど)の紛争の回避にも役立ちます。
   しかし、万一隣地所有者がこちらが調査して提示した境界では同意できない、違う、という対応を示した場合には、残念ながら境界確定訴訟を提起して境界を定めるほかないといえます。
<民民境界確認>
 
   境界は当事者間では決められない、という建前はすでに説明してあります。しかし、お互いに境界について争いもないのにわざわざ境界確定訴訟をしなければ境界が明らかに出来ないと言うのも現実問題としては不都合極まりありません。また、争いもないのに訴訟をしては隣人関係も破壊してしまいます。そこで、自分の土地を売却する場合などに良く行われるのが民々境界確認というものです。
   これは、要するに隣地所有者がそれぞれ立ち会いの元に境界標を設置するなどして境界がどこにあるのかを相互に確認することです。通常は境界はここであるとの確認をして、その確認書(実測図面つき)にそれぞれ署名押印したり、あるいは境界標の設置についての同意書を取り交わすなどして行われます。これによって、公の意味での境界はともかく、隣地所収者との間では境界を巡る紛争を事実上回避できることになりますので、土地売買にあたっては(きちんとした業者であれば)しばしば行われます。
   境界の向こうが道路や公用地などの場合には、相手方は一般個人ではなくお役所になります。市有地であれば市を相手に境界の確認をすることになりますが、この場合には「官民査定」といいます。民々境界確認と違って、お役所は必ずというほど測量士などを引き連れて現地確認に来ますし、官民査定はお役所側からすると行政手続きなのでいろいろと手続きは面倒です。しかし、官民査定においても境界確定訴訟をいちいちやっていることを考えると遙かに簡易な境界確認手段であるといえます。
   土地を購入しようという場合に、問題の土地に境界標がきちんと存在していないとか、境界線と(境界上にあるとされている)塀などの位置関係がどうもおかしいばあいには、民々境界確認・官民査定がきちんと行われているのかどうかを確認することが必要だといえます。
【公図を見てみたい】
 
   公図は法務局が保管しています。従って、法務局に行けば誰でも見ることができます。問題の公図を見るためには先ず法務局の登記所受付に行って申請用紙に公図の閲覧を希望する記載をして提出します。登記簿の閲覧と同じく1件について500円が閲覧手数料です。どの土地の公図を見たいのかをきちんと調べておくことが必要ですが、それが判っていない場合にはまず登記簿を閲覧して登記簿上の所在を確認してから公図の閲覧申請をすることになるでしょう。申込みをして閲覧室で待っていると、係官が公図を持ってきてくれて名前を呼ばれたらそこで閲覧します。ちなみに、登記所内では万年筆やボールペンなどの使用は禁止されており、メモを取る場合には備え付けの鉛筆を使うように指示されます。
   登記簿の場合には、いちいち閲覧をしなくても所在などが判っていれば「登記簿謄本」の交付を求めれば入手できます。では、公図の場合にはどうかというと、「公図の謄本を下さい」と頼んでももらえません。閲覧室内にコピー機があり(1枚50円)、自分で公図をコピーすることになります。こうしてコピーした公図が裁判や調停に提出されているのです。なお、このコピー機で登記簿をコピーすることは認められていません。登記簿謄本の交付申請をする手続をする必要があります。

【測量する場合の注意は】

    土地家屋調査士や測量士を頼んで土地の測量をする場合には、測量にあたっての立ち会いと、完成した図面の確認が重要になります。
    土地の測量を依頼した場合には、当然ながら所有者が立ち会って測量することとなります。事前に測量の範囲や方法などの打ち合わせがきちんと行われている場合には立ち会い無くして測量を任せることもありますが、基本的には立ち会いをするべきです。また、測量にあたっては隣接地との境界を測定することが不可欠なので、なにはともあれ
隣地所有者にも立ち会ってもらうべきです。これによって隣地所有者も認めるところの境界に従って測量が行われることになります。そして、立ち会ったことを明らかにするため「境界現地確認表」を作成してもらい署名押印してもらうべきです。なお境界現地確認表などは測量士が良く知っていますので任せて平気です。
   測量士などが実測図を作成する場合には、必ず「起点」を定めて測量します。しかし、図面上には基点を明らかにしていないことが珍しくありません。測量士などのプロは図面に基点がなくても測量図面の通りに現地を確認することもできますが、
裁判所(というより裁判官)は基点の記載のない図面というのを嫌います(「起点がなければ場所が特定できないではないか」という測量のアマチュアの発想でしょう)。そこで、できるだけ図面には基点の記載をしてもらうようにしましょう。この場合の基点はどこでもいいという訳ではなく、出来れば近くにある公の標示物によるべきで、例えば昔の三角点とか電柱などです。
   最後に、完成した図面は測量士が1通、依頼した自分が1通と、立ち会った隣地所有者などが各1通保管できるように通常3通が作成されます。作成された図面に作成年月日、測量士の記名押印があることを確認し、自分と立ち会った隣地所有者などの署名押印をそれぞれすることを忘れないようにしましょう。実測図は境界確定訴訟などの場合の最有力証拠となるものですから、「いつ、誰が測量し、その結果について隣地所有者も異論はなかった」ということを明らかにするためには、これらの署名などは絶対に忘れてはなりません。
   ちなみに、実測図は測量士が相当長期間にわたって保管しています。そこで、誰が測量をしたのかだけは必ず控えておきましょう。そうすれば自分が測量図面を忘れた場合であっても、あるいは相続によって親の土地を取得した子供が測量図を見つけられなかった場合でも、測量士の元へいけば同じ図面を入手することが出来ます。私の事務所で扱った案件では、とある測量士に数十年前に作成してもらった実測図が、その測量士の息子(同じく測量士になっている)のもとでもきちんと保管されていたというものもありました。
 


その4  境界確定訴訟 〜その1  性質

   境界は「現に存在します」。しかし、「どこが境界か」は不明確なことがあります。既に登記簿の関係でも述べましたが、隣りあう所有者同士の相互の確認によって「ここが境界である」とのコンセンサスがあったとしても、所有者が変わったり、あるいは社会経済事情の変更によってどこが境界なのかの意見が食い違うようになることは珍しくないのです。このような場合に、法務局に行って「境界をはっきりさせてくれ」と言っても大概は無駄です。5の「境界確定訴訟その2」において「17条地図」の説明をしておりますが、登記所の図面であっても常に境界がきちんと明確になっているというものではないのです。
   そこで、隣地所有者の間で境界が争われるときには、境界確定訴訟が行われることとなります。
   境界確定は調停でも訴訟でも行われますが、まず次の条件が満たされていなければ訴訟提起・調停申立出来ません。

       (1)    双方の土地が互いに隣接していること
       (2)    隣地間の境界が不明であること
       (3)    双方の土地の所有者が異なること

   一見すると当たり前のようなものです。両方の土地が隣接していなければ両土地間の境界というものはありえませんし、境界が明確であればわざわざ確定する必要もない(境界がどこかの紛争も起こらない)でしょう。ただ、たまに見落とされてしまうのが土地所有者の件です。「双方の土地の所有者が異なる」というのには、A土地とB土地の所有者が別人であるということと、A土地の所有者とB土地の所有者の間でしかAB土地間の境界確定の調停・訴訟はおこせないということになります。前者は、双方自分の土地であるとすると自分が訴えて訴えられるという関係になるから裁判手続きにならないという手続上の問題にすぎませんが、後者についてはたまに間違いの起こるところです。
   最近私の事務所でもこのような事態が起こりました。かなり長期にわたって境界確定訴訟を係属してきて、ようやく和解によってまとまりそうになったところで「相手方は土地所有者ではなかった」ということが判明したのです。こちら側は訴えられた側(しかも訴訟の途中からこちらの事務所が代理人を引き継いだ特殊な依頼案件)なので、当然に相手方は土地所有者であるという潜入観念もあったのですが、弁護士も付いていて土地所有者でない人が境界確定の訴えを提起してくるとは思いもしていなかったのが実際のところです。当然ですが、この案件では相手方(原告)の訴えを却下することになります(実際には取り下げました)。
   なんでこういうことが起こるのかなのですが、今回は相手方が相続により土地を取得していたはず、というところが盲点でした。訴え提起時点では相続登記もされていなかったために、相手方(原告)の所有名義の登記になっていないまま訴訟が進んでしまっていたのです。境界確定に限りませんが、相続が起こっているばあいには誰が本当の当事者なのかには注意が必要です。

   境界確定訴訟とは「隣接する土地の境界線について争いがある場合に、判決(調停)によって境界線を確定することを求める訴え」のことをいいます。そして、境界確定訴訟は「形式的形成訴訟」という種類の訴訟であるとされています。
   通常の裁判においては、「原告の請求を棄却する」という形で、訴えはしたものの請求が全く認められないということもあります。しかしながら、境界確定訴訟の大きな特徴は「棄却」(原告の請求に理由がないとしてその請求を認めないこと)という概念が入る余地がないということです。確定の対象を一筆の土地と一筆の土地との境界線、つまり地番の境界とする訴えですが、裁判所は常に必ずどこかしろに境界を定めて判決をすることが必要となるのです。
   これに伴って、原告が境界線がどこなのかを特定する主張も不要であり、逆に、裁判所は当事者が境界線を特定して申立てをしてもこれに拘束されることなく境界線を確定できます。また、一般には高裁へ控訴し、更には最高裁へ上告すると、控訴・上告した人は(相手方が付帯控訴・上訴をしない限り)、元々の判決より更に不利な内容の控訴判決、上告判決とはならないという不利益変更の禁止の原則がありますが、これについても境界確定訴訟においては適用されないとするのが判例です(最判昭和43年2月22日など)。この考え方によると、原告と被告の土地所有権の範囲については既判力は及ばないということになり、一度裁判で境界を確定した後でも更に同じ境界確定訴訟を提起することが出来、しかも裁判所は従前の境界確定訴訟の判決内容には拘束されないという考え方も出てくることになります。

   境界確定訴訟で境界が確定されると、その判決をもって登記所にいくことで判決の内容通りの境界が現実にも確認されることとなります。境界確定訴訟の場合には必ず境界を明示できる図面が判決に添付されています。調停の場合でも同じです。この図面を登記所に提出することで、登記所はその図面に記載されている通りに境界を取り扱うことになるのです。

<形式的形成訴訟>
 
   形成訴訟というのは、例えば「原告と被告とは離婚する」とか「いついつの株主総会は取り消す」などのように、判決がでるとそれに伴って一定の法律効果が発生する訴訟形式のことを言います。貸金返還訴訟などでは「支払え」という判決はでますが、それによって「支払った」ということにはなりません。判決に基づいて強制執行するなり相手方が自主的に支払うなりの行為が必要となります。しかし、形成訴訟では判決で「離婚する」とされれば、相手方が離婚届に判子を押さなくても、離婚が成立するのです。
    境界確定訴訟では、判決で「A点とB点を結ぶ直線を境界とする」というような判決が出れば、当事者が境界石などを埋めなくても、判決通りの境界線が確定することとなります。ですから離婚とかと同じく判決によって一定の効果が形成される形成訴訟といえるのです。
    離婚や株主総会取消しの訴えなどは、法律の規定で「こういう場合には離婚できる」(770条)、「こういう場合には株主総会決議は取り消される」(商法247条)という形成要件が具体的に法定されています。しかし、境界確定訴訟や、共有物分割の訴え(民法258条)、あるいは父を定める訴え(民法773条)などでは、法律の条文のどこをみても、「どういう基準で境界を画定する」「誰を父親とする」「共有物をどう分割する」という要件はでていません。そのため、本来の訴訟のあり方である事案に法律を適用して判断する、という形式ではないのです。むしろ、行政が執り行う処分(例えば「ここに国道を造る」というようなもの)を裁判所が代行しているものといえます。行政処分の実質を有するから本来は行政機関が行うべき事件ともいえますが、当事者間(私人)の利益に関する紛争という側面が強いため、形式的に訴訟手続及び判決で行うことにしているのです。そこで、形式的に形成訴訟という種類の裁判手続で行うものという「形式的形成訴訟」とされるのです。
    形式的形成訴訟は、行政処分を裁判手続で行うという性質から、何らかの具体的内容をもつ判断を下す必要があり請求棄却という概念は入ってこないのです。そして、裁判所は原告主張の境界線よりも原告に不利な境界線を定めることができるし、そもそも原告が主張することすら必要ないのです。控訴裁判所は附帯控訴がなくとも第一審の定めた境界線より控訴人に不利な境界線を定めることができ、不利益変更の禁止の原則も適用されないと解釈されています。


その5  界確定訴訟 その2  〜公図を中心として境界の確定作業

T

境界確定の基準・概論

    当事者間で境界の合意ができなかったなど、訴訟によって確定せざるを得ない場合には境界確定訴訟を提起するほかありません。では、具体的に境界確定訴訟においてどのようにして裁判所・調停委員は境界を確定するのでしょうか。その具体的な検討事項をみてみましょう。なお、既に述べているように、登記所のきちんとした公図(不登法17条の図面)があれば境界の争いようはないのですが、現在の公図はいわゆる代用公図なので、その公図では境界が明らかにならないということがスタートです。したがって、現在行われている境界確定訴訟の多くは「公図だけでは明らかにならない境界を、その他の客観的な資料に基づいて明確にする」手続きであるといえるでしょう。そこで、公図の取り扱い方法、客観的な資料の検討の仕方などをみてみましょう。


   まず前提事項ですが、境界の確定にあたって裁判所が資料とみとめるのは「客観的な基準」だけです。主観的な基準は大抵排除されます。例えば「私の父親がここからここまでの土地が欲しいと思って買った土地だからそこが境界である」と説明しても、それだけでは何ら資料としての価値はないといえます。逆に言うと、当事者が双方とも否定していても図面や地形などから裁判所が境界を決めることもあります。境界を確定する基準は客観的な資料だけであるといえ、その最たるものが「図面」といえます。図面のないような土地の場合(例えば山林)では、地形が境界を定める資料ともなりますが、航空写真などのやはり客観的な資料を持ってくることが大半です。境界確定訴訟では、客観的な境界確定の 目印となるものが必要である。 これが無い限り裁判所も境界を確定する判決を書けないし、逆を言うと、本当の境界とは異なっていても、客観的基準点があればそこを境界とする判決を書いてしまうのが境界確定訴訟の実務です。
   余談ですが、私が修習をしていた当時の千葉の裁判官は、航空写真数十枚を1枚ずつ検討して「この道」「この木」「この石」「この崖」などの天然の物体を基準として山林の境界を確定していました。人の手の加わっていない大規模山林だけに、境界石とか塀とかの気の利いた人工物がまったくというほどない(もちろん実測図もなにもない)ため、所有者の合理的な判断としてどのように境界を定めたのかを自然的地理的要素から推測して境界を定めていたのです。

   土地の境界を確定する基準を何にするのかをまとめてみると、だいたい次のようになっているといえます。

@  土地の占有状態
A  土地の形状・地積
B  各種図面等

   境界の確定にあたって一番重要な要素は「土地の占有状態」であるといえます。過去から現在にわたる占有状況が一つの決め手となるのです。境界確定訴訟は所有権の確認ではないのですが、現に使ってきていると言うのが境界がここにあるという大きな判断材料になるのです。その土地を占有している(例えば家を建てて住んでいる、周りに塀を囲って物置にしている、耕作しているなど)ことは法律上その土地の所有者であることを推定させる事情となっています(民法186条1項)。また、実際に占有しているという状況を極力尊重するべきであるという価値判断もあります。しかし、占有状態だけではすべてが明らかになるわけではありません。例えば山林などでは隣地所有者の双方が植林をしていたりしますし、住宅地でもどちらの土地を提供しているのか判らない通路などもあります。そこで、図面や土地の形状などが必須の項目になってくるのです。
   「土地の形状・地積」には道路、水路という人工的な工作物の配置や河川、崖、峰などの自然の地形が含まれます。また山林などの場合には林相や樹齢なども考慮されることになります(誰が植えた樹木かというのも一つの資料になるから)。当該土地上に、境界となる目印があるとそれは有力な基準となります。 例えば大木、峯谷、道等であす。かつてフランスのルイ13世は自然国境説を唱えて領土拡大を計りましたが、それと同じように地理的基準で境界が決められることがあります。
   地積については、登記簿の地積や契約書に記載された売買対象土地面積などが参考になります。公図その他の地積と照らし合わせる形で境界が判断できる場合があります。例えば、A土地とB土地の境界が争われている場合に、もともとはABは一筆の土地であったのを分筆しているものだとすると、A土地の面積とB土地の面積の比率から境界線が割り出せることがあるのです。しかし、何度も述べているように公図というものは当てにならないものであり、おおかたは明治時代など測量技術が稚拙な頃の測量図をそのまま使っているので、本来平面図で算出するべき地積を縄延びした状態で測量していたり、形もいい加減であったりするので、ある程度の参考にしかならないといえます。
   図面とは、測量図や住宅地図などおよそ地図の類すべてであるといえます。現在裁判で境界が争われているものは、その大半が何らかの図面で境界を確定しているといえます。原野や山林などはともかく、住宅地などでは形状や地積は問題とならず、逆に占有状態それ自体が争われていることが多いので、必然的に図面が判断の決め手になってくるのです。

U 境界確定の基準となる公図

   境界確定訴訟において、土地と土地との境界を確定する基準の重要なものとして「公図」があります。裁判においても、必ず公図は登場します。公図だけでは境界も何も確定できないということは既に説明してありますが、法律的には土地の境界を示す公の図面としては公図が唯一のものといえます。実測図や住宅地図などは「公図に記載されている境界を特定する補助資料」にすぎないというのが法律の建前ですので、なにはともあれ公図から話を始めましょう。

   公図とは、既に説明しましたように、土地台帳の付属地図のことをいいます。字図や分限図などが公図と呼ばれるものですが、その多くは明治以降になって地租改正とともに作成されてきたものです。なお、字図は字の区域を示した図面で、分限図は確知晩ごとの一筆の土地を記した図面です。
   公図の歴史的作成経緯は既に概略を説明しておりますが(<縄伸び>参照)、明治時代の測量技術が現在ほど発達していない段階で作成されていることや、目測・歩測などで作成したものもあることなどから、その正確性はきわめて低いものといえます。それゆえ、公図によっては、問題の土地の大まかな地形(方形なのか台形なのかなど)や方位、隣地との関係位置(問題の土地の隣地はどれとどれか)についてを確認する分には役立ちますが、正確な距離や面積については期待できないものであるといえます。ただ、公図が作成された当初は、大字の区域ごとに1番から番号をつけて通し番号で各土地の順序をつけていることから、地番のつながりによって当該地区の土地の形成過程を確認することもできます。

   公図によって確認できる事項は限られているといえるものの、全く役に立たないわけではなく、一定の事項の把握に役立ちます。もっとも、公図の上記の特性を十分に認識した上で利用することが必要になります。そこで公図を見るにあたっての具体的な注意事項をいくつかみてみましょう。

1)  距離と形状

   公図は実際の土地の形状を比較的よく反映しているといえます。確かに、実際の土地との食い違いは多々ありますが、元来測量図として形成されてきたのが公図というだけのことはあり、土地の形状については割と正確に投影されています。従って、境界確定においても土地の形状については公図の記載が比較的尊重される傾向にあります。一筆の土地が5角形をしている記載であれば、その土地は5角形であるということを前提に話が進むでしょう。台形であれば、少なくとも方形とは違うという扱いで境界線も隣接する土地との間を斜めに走っているという前提で検討が進むでしょう。
   これに対して、距離についてはほとんど公図は意味がないといえます。従って、公図においてほぼ正方形に記載されている土地であっても、実際には長辺と短辺の比率が倍くらいある長方形の土地であることもあります。平行四辺形なのか、台形なのか、方形なのかという区別については正確に反映していても、各辺の長さについてはかなりアバウトに記載されているため、縄伸びやらを補正すると1:1の(正)方形が1:2の(長)方形であるとされることもあるのです。

2)  公図と基点

   土地の位置関係を明らかにするために基準となる点(基点)も比較的安定していることがあります。道路や河川の分岐点・交差点などは時間の経過にかかわらず安定していることがありますので、公図ではこのようなポイントを基点にしていることが多いです。そこで、これらの基点から問題の土地の位置関係を推測することが出来る場合には、割合正確な位置関係を把握できることになります。
    ただし、基点が道路や河川の屈折点などとされていることも珍しくありません。このようなものが基点である場合には、時代の変化とともに基点それ自体が移動・消滅している可能性が高いため、その可能性は常に考慮しておく必要があります。

3)  方位

   公図には必ず方位が示してあります。しかし、この方位はあまりあてにはなりません。一筆ごとの分限図の方位それ自体が不正確である上に(当時は簡易な方位磁針などで方位を確認している)、その不正確な分限図を合体させて字図ができあがっているため、全体としての方位は正に参考程度でしかないといえます。


   そこで、このような公図の特性・問題点を十分に認識した上で、公図がどのように境界確定の資料として用いられているのかをみてみましょう。
   まず、境界は相対的な位置関係についてはそれなりの資料となります。そこで、例えば複数の土地の1辺が直線上にあるとか、3つの土地の境界点が1カ所にあるなどの場合には、それらを基準として問題となっている土地の境界線を確定することが可能となります。勿論、単純に公図にある直線を現地に当てはめるだけでは済まないでしょうが、一定の識別資料としては有用なものといえます。
   次に、公簿上の面積を近隣の土地にそれぞれ挿入して按分比をとることによって、問題の2筆の土地の面積比を算出し、これを元に公図の境界線が双方の土地のどの移置に存在するのかを割り出す方法も一つの資料となります。公図は土地の形状については比較的正確に把握しているということもあり、例えばA地とB地の境界線が道路と垂直に記載されているような場合には、面積比が正しくなるような垂線を引くことで境界線の移置が推測されることになります。
    最後に、公図に記載されている土地の各辺の長さを算出して、その長さで実際の土地の長さを按分比することで境界線の移置を推測する方法も時には有用になります。縄伸びによって面積がかなり現実と食い違いを見せることはありますが、2筆の土地の分限図が同時に測量されているような場合などには、双方の縄伸びが同じ割合で生じている可能性があります。そこで、比率に従って算出することで境界線の移置を特定することができなくはないのです。また、縄伸びは比較的土地の奥行きにおいて生じやすいものといえます。道路に面している辺の部分についてはあまり縄伸びもなく実際の土地の距離を比較的正確に記していることもあります。そこで、場合によっては距離比によって境界線の移置を特定する作業も有用になるのです。 

 
V 公図との照らし合わせ

   Uで見たように、公図には利用価値のある情報もあります。しかし公図だけでは正確な把握はできないものであるといえます。そこで、公図と他の図面・地図などを照らし合わせて土地の境界を確定する作業が不可欠になります。つまり、公図によって仮にある境界線の場所が推測されたとしても、それが実際の土地にきちんと反映できるものであるのかを、他の図面などによって検証する作業も不可欠なのです。実務においてはむしろこの作業こそが重要であり、もっとも争われているところといえます。

   一番基本となるのは、公図と実測図との照らし合わせでしょう。実測図は土地の現状を正確に表示している図面であるため、公図のような曖昧さのない図面となっています。そこで、問題となっている隣接2筆の実測図を公図に照らし合わせて境界線がどこにあるのかを確定することになります。実測図において例えば何らかの標識が埋まっている場所とか、(実測図における)他の土地との境界線上の屈折点とか、建物の現況、別の隣接地との境界線など様々な要素を総合的に考慮判断して公図の境界線がどこにあるのかを検討するのです。
   また、境界が争われている隣接2筆以外の隣接地との関係も非常に重要になってきます。例えば下記の住宅地図を見てください。
   
※  実際には住宅地図には各住宅ごとの所有者が記載されているものですが、ここでは地域の特定を避けるためにすべて抹消してあります。
 この図面において、中央付近に灰色で塗りつぶされている区画があります。いまこの土地の所有者が隣地の3761番の所有者と境界を争っているとします。
  ところで、このブロックの土地はもともとはaブロックが1筆、bブロックが1筆、cブロックが1筆であったものがそれぞれ時代の経過とともに分筆されて現在のようになっているものだとします。今回問題となっているのはbブロックにある灰色の土地とaブロックにある隣接地の境界線とします。この住宅地図からすると、灰色の土地はaブロックに突き出すように存在しています。しかし、bブロックの他の土地はほぼ一直線でaブロックの土地と境界線を設けています。
   このような状況では、灰色の土地は本来の境界を越えてaブロックに侵出している可能性があります。もともとはaブロックは1筆であったとすると、その当初からその部分だけが食い込んでいる不整形な土地であるということになりますが、これは若干不自然さを否めません。
   このような印象は、争われている土地だけを見ていては判らないことが多いものですが、周辺の隣接地の位置関係やその形成過程を調べると自ずと浮かび上がってくるものです。そこで他の隣接地との関係を調査することも重要になってくるのです。

   この他にも、土地によっては明治以前(江戸時代)に作成された古地図(国絵図・道中図など)まで持ち出されたり、お役所が何らかの手続きの際に作成した図面とか(行政による開発行為に付随して測量図面を作成することは珍しくない)、過去の土地所有者が作成した手書きの図面など、様々な図面が参考資料となります。これらの地図の中には、全く参考にならないというものはあまりなく、どの地図・図面も境界を確定するにあたっての何らかの有用な情報を有しているものであるため、ありとあらゆる図面・地図を総合的に比較検討し、照らし合わせたうえで、最も食い違いの少ないところに境界線が確定されることが通常といえます。
   図面・地図以外にも、問題となっている土地の元所有者とか、近隣にいる昔からの地主など、境界線がどこにあるのかについて精通している人の意見を採り入れることも行われます。参考となる図面・地図などがあまりない場合には、このような証言は重要な資料となります。
   多数の図面がそれぞれ異なった境界線を記載している場合や、図面があまりないために境界線の位置をどこにするのかの決め手がない場合には、不動産鑑定士などに境界の鑑定を依頼することもあります。この場合も裁判所からは「公図により(境界が争われている2筆の)土地の境界線を鑑定するように」と鑑定依頼をすることが多いです。基本となるのはあくまで公図で、その際の資料となるのが様々な図面なり書面なり証言ということになるのです。

   以上見たように、各種の図面・地図や証言を公図に照らし合わせて、公図に記載されている境界線が現実の土地のどこにあるのかを確定していくのです。

W 境界を示す測量図

   裁判官において土地の境界がここであるとの確証を得るに至ったら、それを図面に示す作業が当然必要になります。しかし、裁判所は図面作成能力はありませんので、通常は当事者が提出した図面に境界線を書き入れて判決書に添付することとなります。判決主文で「別紙物件目録1記載の土地と同目録2記載の土地との境界は別紙図面の(ア)(イ)(ウ)を順次直線で結んだ線であることを確定する」という記載をし、実際の境界線は「別紙図面」に書き込まれているのです。
   この別紙図面については、当事者が手書きをした図面とか、住宅地図に基づいて作成した図面では不十分であるというのが裁判所の扱いです。裁判所が公権力によって境界を確定する以上、後日になってまた境界の位置をめぐる紛争が蒸し返されることのないように、図面から一義的に明確になっていることが必要であるという理由で、実測図に境界線を書き込んで別紙図面にするのが通常の扱いです。

  そこでこの「実測図(測量図)」は誰が用意するのかという非常に実務的な問題も発生します。いうまでもなく、測量図の作成には相当の費用がかかります。ちょっとした土地の実測には数十万円単位の費用がかかるのですが、どちらの当事者もその負担はしたくないのが本音でしょう。自分の土地の境界を決めるのだから、それくらいの費用は自分で持ちなさいというのが裁判所の言い分ですが、その測量図を出したからと言って自分の言っているとおりの境界線を確定してくれるということにもならないので、どちらが測量するのかの押し付け合いが起こることも珍しくありません。
  しかし、境界線を巡る双方の主張を明確に するためにも、測量図(基準点が明確になっているもの)を利用することは不可欠であり、図面の作成に際しては事前に当事者間で打ち合わせをして折半で作成するという扱いが適当ではないかと思われます。ただ、この点についてはそれぞれ弁護士のもっている丸秘のノウハウもあります。

   なお、図面において境界主張の目印となる客観的目印を書き込む必要があるし、 地積がどの程度であるのかを書き込む必要もあります。勿論(それぞれが主張している)境界線を書き込む必要もあります。これらを事前に打ち合わせておき、十分な書き込みができる ようにしておかないと、後日改めて図面の再提出という事態を招来し、これは訴訟経済上も非常に良くないものです。

X 裁判所による境界の確定

   以上がすべて整ったところで裁判所は境界を確定し、判決を出すことになります。
   もっとも、裁判所は境界がどこであるのかを確定できる段階になったところで、改めて和解による解決を当事者双方に提案するのが通常です。境界確定訴訟は、通常所有権の確認訴訟を(明示または黙示に)伴っていることが大半です。そこで、和解によって境界を確定させると同時に、結果として境界線が相手の土地側にいくこととなった当事者にたいして、自分の土地に余計に食い込む形になった相手方へ一定の金員を支払って、その分の土地を売買させることで調整を計るという手法もよく行われます。
<縄伸び>
 
   公図はあてにならないということを何度も述べていますが、その典型的なものがいわゆる縄伸びというものです。実際の土地の長さと公図記載の土地の大きさの食い違いを縄伸びと呼びます。
   公図といっても、17条地図に「準ずる」地図がほとんどです。大半は宇図とか分限図などと呼ばれる土地台帳の付属地図がそのまま17条に準ずる地図として「公図」と呼ばれているのです。明治政府が地租改正を行い地券を発行した経緯などはすでに述べていますが(登記簿の編纂の歴史参照)、宇図・分限図などでは一筆ごとに杭を立てて見取り図(一筆限図)を作成し、この土地が方形の場合には十時法(縦×横)、そうでない場合には三角法(複数の三角形に分けて合算する)で面積を算定しています。しかし、図面は高低差を無視した平面図にしているのに縄などで実際の長さを測っていたり、地租係官の検分の際には誤差が1反歩あたり10歩以内(30分の1)であれば認可するなどかなりいい加減な測量結果であったのです。また、当時山林や原野であったところについては、地積の大きなものでは「踏査・目測」によって大体の距離を測っておよその面積を記載することでもよいとされており、非常に大雑把な測定がまかり通っていたのです。そのため、面積もかなり適当、長さも不正確な図面がほとんどであり、しかもこれがそのまま現在登記所に保管されている図面であることから、公図はあてにならないとされるのです。
   このような図面の記載なので、実際の距離と公図上の距離とがかなり食い違い、実測すると縄伸びして面積が変わるというのは珍しくないのです。

17条地図
 
    不動産登記法17条では、登記所には土地・建物の「地図」を備え付けることとなっています。この地図を見れば、登記簿に載っている土地の形や境界などもすべて明らかになります。この地図は国土調査によって測量された地図であるため、国が「ここを境界とする」と確定して地図にしているものですから、境界「確認」のためにはこの地図さえ有れば十分なのです。この地図を17条地図と俗に呼んでいます。
    では、なにゆえこのような地図がありながら、境界確定訴訟が絶えないのでしょうか。それは、いわゆる「公図」は不登法17条の地図として扱うこととなっている(不動産登記事務取扱手続準則29条)ことに原因があります。要するに
17条地図というのが完全にできていないために、従来土地台帳の付図として用いられていた公図を(これは租税徴収のために税務署が保管していたもの)、17条地図に「準ずる」ものとして暫定的に登記所に保管されているのです。我が国では沖縄などでは、国土調査された地図がかなり整備されているものの、全国的には整備されていないため、本来備え付けるべき17条地図というものが現実にはないことが多いのです(特に首都圏など都市部ではほとんど整備されていない)。国土調査のなされた地図は完璧な17条地図でその境界は動かしようのないものとなる。しかし、公図はその記載された境界も極めて曖昧なものであるために、公図だけでは境界を確定できないのです。ここに境界確定訴訟が頻発する一つの大きな原因があるのです。

<各種図面>


   世の中にはいろいろな地図がありますが、登記申請や境界確定訴訟でも様々な地図・図面が用いられます。いままでもいくつかの図面をあげて説明をしてきていますが、「公図」と「実測図」がどの程度違うものなのかを実際の図面を見てくらべてみていただければと思います。
   下記のチェックをクリックすると公図と実測図がそれぞれ開くようにしてあります。
1  公図では、土地の大まかな形状と、近辺の土地との大まかな面積比が読みとることができます。
2  他方、公図では土地の各辺の長さや、境界の位置関係は図面上からは明らかにはなりません。
3  実測図は、通常は測量した一筆(あるいは数筆)の土地のみを測量していますが、寸法や形状が正確に記されています
4  実測図では、起点を定めて測量しているために境界の位置関係が特定できるようになっています。
このような違いが、図面をみるだけでも一目瞭然になるでしょう。なお、「添付図」は登記申請をする際に登記申請書に添付して登記所に提出する図面です。この図面は土地の合筆の場合の図面であり、「75-33」が二重線で抹消されて、「75-11」との間の境界が×印で抹消されています。つまり、75-33と75-11とを合筆して合わせて一筆の土地として、その地番は従前の75-11にされているものなのです。見て判るように、これは公図を元にした図面です。
  なお、この公図や実測図は本物の公図・実測図ですので、特定できないように地番や会社名などは書き換えてあります。
→  公       図
→  実  測  図 
→  添  付  図
<境界の鑑定>

   我々弁護士も、土地の測量や鑑定についてはアマチュアです。少なくとも弁護士は裁判官よりははるかに知識も経験も豊富であるという認識をもっていますが(というより、大半の裁判官は限りなく無知に近い)、やはり「餅は餅屋に」ということで、不動産鑑定士や測量士に境界の鑑定を依頼することはしばしばあります。 不動産鑑定士には土地や建物の価額の評価などで頻繁に鑑定を行うのですが、境界の確定においても不動産鑑定士が(裁判所からも)依頼を受けて鑑定意見を述べることがあります。
   鑑定人となった不動産鑑定士・測量士は、裁判官や調停委員・当事者代理人などと鑑定事項についての打ち合わせを行い、その上で関係資料の一切を参考にして、勿論現地調査も行い、早ければ1月、通常は2月程度で鑑定意見を提出してきます。鑑定意見は裁判所も当事者も拘束するものではありませんが、実際は裁判官は自分ではどこに境界線を確定するか決めかねて鑑定に出すので、鑑定意見を尊重する形になるのが通常です。
   鑑定費用は当事者の負担となりますが、通常は折半になることが多いです。鑑定費用としては40万円とか60万円とかがかかることが多いようですが(鑑定の依頼内容や事案、参考資料の量・質などによってまちまち)、争っている当事者双方がそれぞれ鑑定申請をするようにと裁判所から促されるので、費用も折半となるのです。


 不動産登記法第17条(地図・建物所在図の備付)

登記所に地図及び建物所在図を備ふ


 


その6  最後に 

   今回は、境界確定訴訟についてかなり詳しく説明をしてきました。結論から言うと、境界確定訴訟については本人訴訟はきわめて難しいということです。証拠となる資料の収集も難しいですが、それ以上に、裁判官を相手にして自分の考えている境界が妥当なものであることを合理的に説明することは弁護士であっても容易ではないものです。
   境界に争いを生じた場合には、法律相談センターに行くなり、知っている弁護士に頼むなりして、弁護士を立てることがいいと思います。


 

その7  追補 〜 筆界特定制度

    平成18年4月から、これまでの裁判所による境界確定訴訟以外に境界を定めることができる「筆界特定制度」が始まります。本稿では詳細の説明は省きますが、筆界特定によってこれまでよりも短時間にスムースに境界紛争が解決されることが期待されています。