ホテルやレストランでの盗難事故
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2001.1.13

世の中不景気なのか、相変わらずレストランやホテルでの窃盗やスリの被害が後を絶ちません。道ばたでスリにあったりしても犯人以外には文句の言いようがないものですが、ホテルやレストランで盗難事故にあった場合には一定の場合にホテルやレストランに対しても直接損害の賠償を求めることができます。逆に言うと、ホテルやレストランの従業員はお客様の荷物についてはきちんと注意して盗難や破損という事故が発生しないようにする必要があります。今回は、ホテルやレストランでの盗難事故についてみてみます。
その1  場屋 〜 ホテルやレストラン

    ホテルやレストランのように客の来集を目的とする取引をする営業行為を場屋(じょうおく)取引といいます。
    場屋においては多数の客が出入りをし、滞在したり休憩したりしてサービスの提供を受けることとなりますので、お客の荷物などの取り扱いが共通した問題となってきます。レストランなどではコートや手荷物をクロークで預かったりしてくれたりもしますし、銭湯やサウナに至っては文字通り身ぐるみ一式を預けることとなります。そこで、このような場所においてお客の荷物が紛失した場合には、場屋が人の来集を目的としていることに鑑み、営業者が一定の責任を負うものとされています。
<場屋>
 
   明治時代に制定された商法の用語なので、日常用語としてはあまり馴染みのない用語ですが、ようするに一定の場所において何らかのサービスを提供する種類の営業を行う場所を場屋といいます。ホテル、レストランに限らず、映画館やゲームセンター、銭湯、果ては風俗営業店もすべて場屋となります。


その2  フロントに預けた荷物が紛失した場合

    ホテルやレストランなどは大概荷物を預かる専用のクロークを用意しているものです。ところが、クロークに預けた荷物が行方不明になっている、あるいは壊れてしまっているということも希にあります。この様な場合には、原則的にホテルやレストランの営業者は滅失や毀損によってお客が被った損害を賠償する義務があります(商法594条1項)。
    荷物の預かりそれ自体は場屋における営業行為そのものではないとしても、 全体としてみれば場屋営業の一環として行われているものですし、お客様より「預かった」以上は責任を持って保管・返却する義務があるということになります。なお、隣接ビルからの延焼で建物ごと消失したような場合など、不可抗力によって滅失・毀損したような場合には営業主の責任は免除されます。
【預かりが有償か無償かで違いがあるのか】

    有料のコインロッカーを設けていてそこで預かった場合と、全くのサービス(お客様への無償の厚意)で預かった場合とでは、一見責任が違うようにも思われます。しかし、預かる行為そのものが有償で有れ無償であれ、全体としてみればその場屋における営業行為について対価を受け取っており(これで営業主はもうける)、そのもうけのための付随的なサービスの一環として行う以上、責任の範囲には違いがないこととなります。このことは、法律上も明確にされております(商法593条)。


【宿泊約款などでホテルやレストランの責任を免除することはできるのか?】

    場屋営業者はお客の荷物などの紛失・毀損に対して責任を負わないという内容の宿泊者利用約款をたまに目にします。よくある例としては「貴重品は必ずお手元にお持ち下さい。お部屋においたままの貴重品の紛失・盗難などに際しては当ホテルはその責任を負いかねます」とか「お食事中にコートやジャケットを椅子などにかけておくことはスリ・窃盗の危険がございますので貴重品はフロントにお預け下さい。フロントにお預けいただかなかった場合のスリ・窃盗の被害についてはお客様の責任とさせていただきます」という注意書きでしょう。
    商法594条の規定はいわゆる任意規定と呼ばれるものであって、当事者間の合意によって排除することのできるものです。従って、ホテルと客との間で別に取り決めをしていれば、その取り決めに従って処理されることとなります。そのためにホテルでは大概は各部屋に宿泊約款などがおかれています。つまり、ホテルなどは約款などの取り決めを別途お客と結ぶことで、場屋営業者としての責任を排除することも出来るのです。
    しかし、他方で商法594条3項では、単に営業主の責任免除を告示するだけでは足りないと規定しています。そうすると、単純にホテルの室内に約款をおいておいても、それだけでは営業者の責任を排除することはできないというべきです。ホテル側としては、チェックインの際に約款の規定に従って欲しい旨宿泊客に求めてそれに承諾してもらうとともに、紛失・滅失については約款に特別の規定をしていることをきちんと説明して合意を得ておくことが必要となります。
 商法593条(預託を受けた商人の責任)

商人が其営業の範囲内において寄託を受けたるときは報酬を受けざるときといえども善良なる管理者の注意を為すことを要す 

第594条 (客の来集を目的とする場屋の主人の責任)

旅店、飲食店、浴場其他客の来集を目的とする場屋の主人は客より寄託を受けたる物品の滅失又は毀損に付き其不可抗力に因りたることを証明するに非ざれば損害賠償の責を免れることを得ず
2 客が特に寄託せざる物品と雖も場屋中に携帯したる物品が場屋の主人又は其使用人の不注意に因りて滅失又は毀損したるときは場屋の主人は損害賠償の責に任ず
3 客の携帯品に付き責任を負はざる旨を告示したるときと雖も場屋の主人前二項の責任を免れることを得ず
 


   

その3  ホテルの部屋で荷物が無くなった場合

    ホテルに泊まって部屋に荷物をおいて外出していたところ、鞄が無くなってしまった場合はどうなるでしょう。本来で有れば、宿泊の申込みは受けても荷物の預かりを受けている訳ではないので、ホテルの営業主は責任を負わないともいえます。しかし、場屋における営業においては、お客が荷物などを持ち込むのが常でであるという事情から、営業主や従業員の不手際が原因となって荷物が紛失したり毀損した場合には、賠償する責任を負うと法律で特に定めています。
    もっとも、裁判になれば被害にあった人が、従業員なり営業主の過失を立証する必要があるので、現実には場屋営業者の責任が認められる場合はそれほど多くないといえます。
【レストラン内でスリにあったら?】

   いすにジャケットを掛けて食事をしていたところ内ポケットの財布を盗まれた(いわゆるブランコスリの類)、電話コーナーで電話をしていたところ足下に置いておいた鞄を盗まれた、などの被害は非常に数多く発生しています。食事を終えて会計をするときに財布がなくなっているのに気が付き、あわててカード会社に連絡したときには既に数百万円単位で買い物がされてしまっていた、などという被害が後を絶ちません。
    このような被害にあったとき、レストランは責任を負うことになるのかについては、結局盗難時の状況によることとなります。例えば明らかに窃盗行為をしている人間を黙認してしまったとか、ことさらに置き引きを誘発するような状況を作り出していたような場合には、ときとしてレストランが賠償する責任をおうことも考えられます。しかし現実問題として、そのような状況は珍しいといえるでしょう。レストランにしろ場屋にとってはお客様へのサービス第一ということで、不審な感じがするとか怪しい気配がする程度ではその人に対して失礼な態度をとれないでしょうし(いきなり「失礼ですが何か盗みましたか?」と尋ねてはお店の信用にもかかわります)、いちいちすべての客の動向をつぶさにチェックするということも不可能でしょう。第一、スリというのは人知れず行われるものですから、従業員がこれに気づかないのが当然という面もあります。そこで、スリにあった場合でも、レストランに対して責任を問うことは難しい場合がほとんどであるといえます。


その4  貴重品の紛失・盗難

    例えば、翌日の営業のために出張してホテルに宿泊したところ、部屋においておいた商品の宝石(仮に時価500万円としましょう)がアタッシュケースごと無くなってしまった場合はどうなるでしょう。この場合3で見たように、ホテル側が責任を負うのは、営業主や従業員に過失が会った場合となります。
    それでは、クロークにそのアタッシュケースを預けていたところ、別の人に渡してしまって無くなった場合はどうでしょう。クロークでは預かり札などを使って預けた人かどうかを確認しますから、基本的にはホテルの従業員に過失があるといえる場合が多いでしょう。しかし、ホテルの従業員にしても、500万円もする商品が入っているので有れば保管に際しても一層の注意を払ったでしょうし、そもそもそのような高価な商品を通常のクロークでは預かりたくないでしょう。フロントの貸金庫にでも預けて欲しいと考えるところでしょう。そうすれば不用意なミスを招くことも無くなるはずです。
    そこで、現金や有価証券とか高価な品物については、預ける客において「これは500万円もする宝石なので」を金額や種類を明示して預けた場合でなければ、ホテル側に過失があっても責任を負わないとされています(商法595条)。

 商法595条(高価品に関する特則)

 
貨幣、有価証券其他の高価品に付ては客が其種類及び価額を明告して之を前条の場屋の主人に寄託したるに非ざれば其場屋の主人は其物品の滅失又は毀損に因りて生じたる損害を賠償する責に任ぜず
 
 


その5  まとめ

    ホテルやレストランという場屋の経営者は、そこを訪れたお客の荷物についてもきちんと気を配って紛失や毀損のないようにする義務があります。しかし、スリにあったなどの従業員に過失がないような場合には、ホテルやレストランに責任を求めることはできないので、普段から自分の貴重品の扱いには十分気を付けることが肝心です。自分で身につけて目を離さないようにするか、あるいはフロントなどで貴重品であることをきちんと説明して預かってもらうか、お客としてもきちんとした対応を取っておくことが重要になります。