賃貸借契約の基礎
 このコンテンツはサイトの正規のコンテンツからは除外し、過去のデータのアーカイブとしてのみ残しているものです。更新なども行っておりませんので、執筆後の法改正や新判例などへの対応もしていません。従いまして、内容についての責任は負うことができません。
2000.10.1(2006.6.30)

   自分の所有している土地や建物を誰かに貸す場合、賃貸借契約を締結します。家賃などの「賃料」をもらって「貸し借り」するから賃貸借というのですが、賃料をもらうかもらわないかで、同じ貸し借りである使用貸借や消費貸借とはかなり性質が変わってきます。とくに、賃貸借の中でも自動車やビデオなどと違って、土地や建物の賃貸借の場合には「借地借家法」という特別な法律が様々な規律をしています。
   そこで、ここでは土地や建物の賃貸借を中心によく問題となるテーマを広く集めて、ポイントとなる事項ごとにそれぞれ簡潔な説明をしてみます。

      賃料
      転貸借
      建物増改築
      敷金
      更新料
      正当事由
      建物・造作買取請求権
      特殊な賃借権
      一時使用賃貸借

<ものを貸し借りする契約>

   
ものの貸し借りについては、大きく分けて賃貸借・使用貸借・消費貸借の3つの種類があるといえます。複雑な形態をとっていても、ほとんどすべてがこの3つのうちのどれかに分類できます。簡単に区別をするならば以下のとおりの3種類になります。
   
使用貸借− 無償でものを貸してあげる場合
たとえば、職場の仲間同士で「ちょっとパソコンを使わせて」とか友達に「自転車貸して」という場合。ちなみに、「財布を貸してくれ」という場合には「貸して」という言葉とは裏腹に「贈与」となることが多いでしょう)

消費貸借− 借りたものは自分で消費して、かわりに、借りたものと同じ種類・性質・金額のものを返す
たとえば、銀行などからお金を借りる場合が典型ですし、お隣さんから米を借りる(最近はまぁないでしょうが)場合などです

賃貸借 − ものを貸す換わりに賃料を受け取る形態
これが今回扱う貸し借りの形態。ものの貸し借りにお金が関わってきます。それだけに問題となることも多いです。


その1  賃料

(1)

適正な賃料

   賃貸借は、賃料を払ってものを借りる(賃料を受け取ってものを貸す)ものですから、賃料が不可欠の要素です。と同時に、賃料はその価格の適正を巡ってしばしば問題となるものでもあります。適当と思われる賃料の算定方法には、差額配分方式とか公課倍率方式、スライド方式など様々な方法があります。実際に裁判などで適正な賃料が争われた場合に、どの算定方法を用いられるのかはケースバイケースです。比較的簡単に計算できる土地の賃料の算出方式が「倍率方式」で
                     (固定資産税+都市計画税)×一定倍率
で算出されます。倍率については都道府県や物件が所在している地区などによってまちまちですが住宅地は2〜4倍、商業用地では2〜6倍が一つの目安でしょう。

(2) 賃料の増額・減額請求

   賃貸借契約締結当時には適正な賃料と思われていても、賃貸借が5年10年と続けば、当初の賃料と適正な賃料との間に開きが出てきます。契約書などを見てもたいていは「本件土地(建物)の賃料が近隣物件と比較して著しく均衡を欠く場合」、「公租公課の変更など地代算定の基準となる事情に重大な変動が生じた場合」などには、賃料を改定できるという条項が入っていると思います。このような条項が仮になくても、借地借家法によって賃料の増減請求が認められています。

<借地借家法>
 
  第二次大戦以降の住宅不足を景気に、借地人・借家人の保護を目指して作られた特別法。もともとは「借地法」「借家法」「建物保護に関する法」の3本立てであったが、平成4年に現在の「借地借家法」にまとめられている。なお、平成4年8月1日の借地借家法施行以前になされた賃貸借では、借地法、借家法が適用されるが、これらは借地借家法と大枠で変わりはないと思っていいです。

<賃料増額・減額請求の手続>

   貸主が地代の増額の請求をしてきた場合、借主としては相当と思われる額より高すぎるとして、増額に応じたくない場合も出てくるでしょう。しかし、全く賃料を支払わないのでは、借主が債務不履行をした(要するに契約違反)ことになり、賃貸借契約も解除され、場合によっては損害を賠償しなければならなくなります。
   このような場合には、貸主が賃料増額請求を裁判所に起こし、その裁判が出るまでは借主が相当と思う額の賃料を支払っておけばたります。ただし、裁判の結果借主が支払っていた額が裁判所が認定した適正な価格より低かった場合には、その分の差額に年1割というかなり高い利息を併せて支払う必要があるので注意が必要です。
これと同じことが減額の場合にもいえます。貸主はとりあえず自分で適正であると思っている賃料を請求できますが、裁判所の認定額より高かった場合には、その差額に年1割の利息を付けた額を返還する必要があります。
ゼロ金利時代と言われている現在、1割もの利息を定めているのですから、その負担は相当に大きいといえます。


<廉価な賃料>

  賃料を形の上ではもらっていても、実質的には使用貸借であるとされる場合もあります。たとえば、親が自分の所有するマンション(他の住人が月額15万円支払っているとしましょう)の1室を子供に賃料2万円で貸す等という場合、形だけはお金をもらっていても、事実上はただで貸しているようなものだといえる場合があるでしょう。このような場合には使用貸借と認定されてしまう場合もあります。結果として賃料相当額の差額分(上記の例だと13万円)が贈与認定されて課税される場合もあります。
 借地借家法第11条(地代等増減請求権)

地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。〔旧借地法一二条〕
 


その2  転貸借

(1)

転貸借

   賃貸借契約は、貸主と借主の間だけの契約ですから、基本的には第三者をなんら拘束するものではないものです。ですから、借主が更に外の第三者に土地なり家なりを又貸しすることも自由です。しかし、現実には対外の契約書で「無断で第三者への転貸を禁止する」「第三者への転貸借あるいは借地権の譲渡は禁止する」とされていることでしょう。貸す側からすれば、きちんと賃料を払ってくれて、しかもきちんと土地(建物)を使ってくれると考えたからこそ契約したのであり、気がついたらどこの誰とも判らない人間が使っていたというのでは冗談にもならないでしょう(住居としてマンションの1室を貸したのに、いつの間にかバーとかクラブの経営者が又借りしていたのでは困るというのはある意味当然の感覚でしょう)。そこで、借主が第三者に又貸ししたい等の場合には、貸主の承諾をもらう必要があります。転貸借の禁止は、契約書に書かれていない場合であっても民法上も禁止されています(民法612条)。

(2) 無断転貸借

   では、貸主が承諾をしてくれない場合にはどうなるでしょうか。
   貸主が承諾してくれない場合には、「無断転貸」となり、賃貸借契約の解除の理由となります。約束に反して、勝手に誰かに又貸しすることが契約違反となるのです。もっとも、承諾を得なかったからと言って直ちに契約を解除されると言うことでもありません。民法612条の規定が限定的に適用されることになるのです。賃貸借契約は、売買とかとは違ってある程度長期間にわたって継続的に続くものですから、なるべく解除させないようにしようという価値判断があるようです。判例では「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合」には解除できないとされています。
<背信的行為>
 
   「賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合」といってみても、このままではなにがなんだか判らないと思います。結局の所は、無断で又貸ししたとしても、それによって賃貸人と賃借人の信頼関係が崩されるというほどのことはない場合には解除できないということになります。
   よく挙げられる例としては、自分の子供が大学に通う間だけ子供にマンションを貸したとかの場合には背信的行為とはいえないとされる場合があるでしょう。これに対して、オフィスとして貸したのに飲み屋に又貸しした場合などでは背信的行為と認められる場合があるでしょう。具体的事案によってケースバイケースですので、勝手に「この人になら又貸ししても大丈夫だろう」と思わないことが肝心です。
【解除の仕方】
 
   勝手に又貸しされた賃貸人としては、そんな賃借人にはもう貸していられないと考えることもあるでしょう。その場合にはまず「催告」をします。内容証明などを用いるのがいいでしょうが、要するに、勝手に他人に又貸ししているのはけしからんから又貸しをやめてくれ、それが出来ないならば1ヶ月後には契約を解除する、などという趣旨を伝えることが必要になります。その上で、又貸しを相変わらず続けているとかの場合に解除するということになります。

【解除すれば出て行ってくれる?】

   解除しますと言って出ていってくれるようなある意味良心的な借主であれば元々第三者に転貸するようなことはしないでしょう。転貸するにしても、問題を起こさないような人に対して転貸するということを伝えて貸主の承諾をもらいにくるでしょう。
   背信的行為と認められる場合というのは、貸主借主の信頼関係がなくなってしまうような場合ですから、解除してみたところですんなりと出ていってはくれないのがたいていでしょう。このような場合に借主を土地なり建物なりから追い出すのは相当面倒です。ここまで来たら、専門家に任せるべきでしょう。
 民法612条(賃借権の譲渡及び無断転貸の制限)

1 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 


   

その3  建物増改築

(1)

建物の増改築

   建物を借りる場合、住居として借りる場合もあれば、店舗にして営業するために借りる場合もあるでしょう。また土地の賃貸借契約がなされた場合でも、その多くは土地上に建物を建てることを目的とすることが多いでしょう。これらの場合に、借りた家、あるいは借りた土地上に建てた家などを増改築する場合には注意が必要です。

(2) 建物の賃貸借と増改築

   建物を借りた場合、それをどのように使おうと本来は借主の自由なはずです。しかし、たいていの契約書を見れば「貸主の許可なく増築・改築をし、あるいは造作を取り付けることを禁止する」などという条項が入っているものでしょう。このような契約条項が入っていなくても、借家の場合には、もともと貸主である大家さんの所有する建物を借りているのですから、人の家を勝手に増改築すること自体認められないものなのです。
   従って、借家を貸主に無断で増改築すると、賃貸借契約を解除されてしまいます。また、場合によっては、建物を元通りに戻すために必要な費用についても支払わなければならなくなります。」

(3) 土地の賃貸借と建物の増改築

   土地を借りて、その上に自分で建物を建てた場合には(2)と違って、自分でどのように修理しようが増改築しようが、ある意味自由なはずです。しかし、契約書などでは「借地上に借主が所有する建物については、賃貸人の承諾なくして増改築してはならない」などの条項が入っていることが結構あります。
   自分の建物だからどうしようと自由である、という建前を貫徹すると、例えば居宅を建てるために土地を貸していたのに、いつの間にかお店に変わってしまった場合など、貸主としては借主に対する信用を著しく損なうこととなります。そこで現在では、「増改築禁止特約」というものを契約条項にいれることも認められており、これに違反して建物の増改築をすると解除できるということになります。もっとも、元々は自分の建物だから一切の増改築を禁止するというのはあまりに不公平です。そこで、一般には土地の利用方法を極端に変更するような増改築の場合にのみ解除が認められるとされ、転貸借におけるのと同様に「信頼関係」が破壊された場合には解除できることとなります。
【建物が壊れたら契約はどうなる】
 
   台風などで建物が壊れてしまった場合にはどうなるでしょう。ちょっとした掃除や雨戸の修理程度で済む場合には、結構賃借人の側で修理することが多いと思います。建物そのものが壊れたわけではないときには、賃借人側で修理するべきでしょう。しかし、屋根が壊れたというような場合など、建物そのものに修繕が必要な場合には、賃貸人が責任を持って修理する必要があります(民法606条)。また、賃借人は、建物に修理が必要な場合には賃貸人に通知する必要があります(民法615条)。
 民法606条(賃貸人の修繕義務)

1  
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2  賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
 


その4  敷金・保証金・権利金

(1)

敷金

   土地や建物を賃貸するときには、たいてい敷金を受領することとなります。「敷金」とは、法律的には「賃貸借契約終了による土地(建物)明渡時に債務不履行のないことを停止条件として返還する約定の金銭所有権の移転」と説明されます。これでは一体どういうことなのか判りませんが、ようするに賃貸借契約が終了して土地(建物)を賃貸人に返すときに、それまでに賃料の未払いなどをしていない場合には賃借人に返還するという約束で賃借人から賃貸人に預ける金銭ということです。

(2) 敷金の返還

   現在では、土地(建物)を明け渡すときに敷金を返還するという扱いになっています。賃貸借契約は終了したとしても、その後も引越だの後かたづけなどで居残っている場合には、結果的にはその土地(建物)を使っているのですから、その間、貸主には本来得られるはずの賃料を得られないという損害を生じています。これらも敷金で担保する必要があるので、明渡しのときに敷金を返還するということになるのです。

(3) 敷金の適正額

   敷金には適正額というものは決まっていません(そもそも敷金自体が必ず取るものでもないです)。貸主と借主の合意で幾らにするのかを決めるものです。とはいえ、通常は不動産屋にいくと「敷金2ヶ月礼金2ヶ月」とかが既に決まっていますし、交渉してみてもまず減額されることはないでしょう。敷金は、土地(建物)の明渡しを受けるまでに生じた損害を担保するために授受されるものなのですから、通常は滞納家賃とか借主に原因のある破損の修理費用などに充当されるでしょう。そうすると、その限度がカバーできる額であれば足りるはずですし、それ以上は必要外の負担を借主に強いることとなるでしょう。また、個人用(居住)建物と企業用(事業)建物とでも額は異なってきます。さらに、地域によっても額が変わってきます(一般に西高東低といわれることが多いですし、大阪地区では独特の「敷引」という慣行があるので単純な比較もできません)。要は、需要と供給のバランスの上で、多すぎず少なすぎず決めることでしょう。

(4) 賃貸人の変更と敷金

   近年は景気も悪く、マンション経営が破綻する企業も出てきています。貸主が倒産、営業譲渡などによって貸家などを第三者に売却した場合には、通常賃貸人の地位もその第三者に移転します。このような場合、借主は新しい貸主に対して敷金の返還を求めることとなります。逆に言うと、旧賃貸人から現実に敷金が引き継がれていない場合でも、新しい賃貸人(所有者)は敷金を返還する義務を負うこととなります。また、旧賃貸人と新賃貸人との間で敷金を引き継がない特約(旧賃貸人が返還するという特約)を結んでいても、新賃貸人はこれを理由に賃借人からの敷金返還を拒否することはできないと思ってください。
  ただし、平成15年の民法(担保法)・民事執行法の改正によって、競売になった場合には敷金の返還は旧所有者(旧賃貸人)に対してしか請求できないこととなりましたので注意が必要です。

(5) 権利金

   敷金の他にも、権利金とか礼金というものの授受が行われることがあります。権利金と一言で言っても、その内容は一定ではなく、賃料の前払い的なものから、建物の付属品使用の対価となるもの、商店用建物の賃貸の場合の場所的利益に対する対価となるもの、等々いろいろあります。従って、個別具体的な契約ごとに権利金の扱いは変わってくることとなり、常に返還不要なものとはならないでしょう。ただし、居住用の賃貸住宅の場合にみられる「礼金」については、一般的に返還不要の「贈与」というのが今の社会の慣行といえるでしょう。
  なお、借地契約の場合には違った「権利金」が登場します。借地権設定料を「権利金」と呼ぶことがあります。この権利金は返還を前提とするものではなく、まさに借地権を設定したことについての対価となります。借地権が税法上も社会取引上も財産権として認められており、しかも底地権よりも通常は借地権の方が価値がある(借地権価格は更地価格の60〜90%)ため、借地契約を締結する際に、いわば地主から土地所有権のうちの借地権部分を買い取ることとなります。そのために借地権設定料を支払うのです。

(6) 保証金

   敷金、権利金と並んで、「保証金」というものの授受が行われることもあります。地域によっては敷金そのものを保証金と呼ぶ場合もあります(主に首都圏)。居住用のアパート・マンションではあまり出てこないものですが、事業用建物や貸しビルの場合などには、10ヶ月とか12ヶ月分の家賃相当額の保証金の授受があったりします。この保証金も、その内容は様々であり、敷金の性質をもつものから、権利金、礼金の性質を持つものもあります。また、これからビルを建築して賃貸する場合などには「建設協力金」として授受されることもあります。そして、多くの場合には、一定期間に一定割合の金額を償却して控除していき、残額を返還するという特約がついているものです。保証金についても、その扱いについては各契約ごとに異なるものですから、返還されるべきものともそうでないものとも一概には決められません。
<明渡し>
 
   賃借人が、賃借した土地(建物)から退去し、土地上(建物内)の自分の所有物などをすべて撤去して、賃借した当初の状態にして賃貸人に返すことをいいます。建物を借りている場合、単純に出ていけばいいというものではなく、すぐに次の借主に貸すことができる状態にして返すことが必要です。


<礼金>

   何故礼金が必要なのかについては、合理的な理由も法律的な根拠も有りません。慣習として授受されているから、という理由です。バブル景気のころには高級マンションも貸手市場であったせいか、礼金が6月とか10月というのも珍しくありませんでしたし、現在でも関西地方では6月分の礼金をとるところが少なくありません(もっとも、関西地区の礼金は関東地区の礼金とは必ずしも同じではなく、敷引制度もあるので単純比較はできません)。最近では礼金0の賃貸物件も増えてきており、借主としては歓迎するべき状況でしょうが、それほど競争力のある物件を持っていない貸主としては悩ましいところです。


<保証金の償却>

   企業同士で賃貸借契約をする場合などには、現実に賃料を滞納していなくても、1年ごとに10%ずつ保証金を償却し、10年で全額償却(返還しない)するというような約定を結ぶことが多くあります。また、個人の住宅用賃貸物件でも「保証金6ヶ月、契約終了時に2ヶ月分償却」などとして、実際には「敷金4ヶ月、礼金2ヶ月」と同じ扱いをさせている場合もあります。もともと、このような保証金の扱いについての法律上の規定もないので、契約自由の原則で互いの合意に基づいて自由に決められるものではあります。しかしながら、1年間で100%償却とかあまりの暴利となっている場合には、公序良俗違反として無効とされることもあります。その場合には、合理的な償却期間を定めて案分償却させて返還させるとか、あるいは全額返還させるという結果になると思われます。
  なお阪神地区の敷引の場合の解約引もこの保証金の扱いと同様だといえます。
【明渡時の鍵の返還の意味は】
 
   鍵を貸主に返還することは、建物の明渡の象徴的行為といえます。しかし、鍵を返せばそれで明け渡したということにはならず、自ら建物から退去し、持ち物を撤去したうえでなければ明渡したことにはなりません。

【原状回復のための修繕費用】

   賃貸借契約が終了して建物を明け渡すときに、借主が破損させた部分については元通りに戻して(原状回復)返還するというのは特に契約条項に入っていなくても当然のことです。
   また、契約書を見ると、「原状回復費用は賃借人の負担とし」「敷金より、未払い賃料及び原状回復費用を控除したものを返還する」という内容の契約条項になっていることがほとんどでしょう。ところが、和室の畳とか外壁のように、普通に使っていても経年劣化するものの取り替え、改装についてまで敷金から充当する例があります。このような、借主に責任がなくても当然に劣化・消耗するものについては、家賃の中に当然に盛り込まれているものであり、これについてまで敷金から充当するというのは本来の民法の扱いと異なるものとなります。このような特約が認められるためには適切な特約の存在とその説明がなければならず、いい加減な契約書で修繕費用を全額賃借人に負担させることはできないこととなります。
 


その5  更新料

(1)

更新料

   更新料とは、借地や借家の賃貸借契約満了の場合に、その契約を更新するにあたって賃借人から賃貸人に支払う一時金のことをいいます。権利金やら保証金もそうですが、法律上の規定があるわけではないものです。
   更新料の意義については、権利金の補充とか、更新の手数料とか、賃料の補充とか様々な説明がされることがありますが、その実体は極めて不明確なものです。また、更新料を支払わなければ更新できないというものでもないので、必ずしも全国的に慣習となっているわけでもありませんので注意が必要です。

(2) 更新料の支払約定(特約)

   最近の賃貸借契約の多くは更新料の規定を設けています。居住用建物などではたいてい賃料の1ヶ月分を更新料としているでしょう。このような約定それ自体は有効とされていますので、貸主としては契約条項に盛り込むことは有益でしょう。ただし、更新料の支払約定については「その額が相当である限り」という限定があると考えられます。裁判で争われたものでも、更新料の額が相当額なので約定は有効という判断をしているものがあり、裏を返せば、不当な更新料を支払う約定は無効とされる危険があります。

(3) 適切な更新料

   更新料について、法律の規定もなければ慣習ともなっていない、というのでは一体更新料は幾らに設定すればいいのか、という貸主の悩みがあるでしょう。更新料の額を巡っても数多くの裁判が起こされていますが、借地の場合には土地の借地権価格の5%程度であればあまり問題にはならないでしょう。借家の場合には賃料の1ヶ月分というのが妥当なものと思われます。但し、更新料については地域ごとの慣習がある場合もあり(例えば京都地区では契約期間1年で更新料2ヶ月分という扱いがかなり広く取られています)、都心の一等地であるとか立地条件のよい店舗であるなどの場合にはこれよりも高くなってもいいこともあるでしょう。
<借地権価格>
 
   土地を借りている場合、その賃借権それ自体が財産的価値を有します。特に都市部では所有権そのものよりも借地権の方が価値のある土地というのがほとんどです。土地自体が1000万円としても、賃貸している場合には、賃借権が700万円とか800万円で、所有権は残りの2、300万円というのが大半です。借地権価格については、今では相続税課税台帳とか路線価票をみれば、当該土地の借地権割合が60%とか90%とか出ていますので、更地の価格にその借地権割合を乗じた額が目安になるでしょう。最近の東京近辺では、全面改築の場合に更地価格の3〜10%を更新料とすることが多いようですが、この割合も借地権価格がどれくらいか(何割か)によって変わってくることが多いものです。
【更新料の支払約定(特約)がない場合】
 
   現在でも、更新料の規定を設けない賃貸借契約は少なからずあります。更新料については法律の規定もなければ、いまだ全国的な慣習となっているともいえませんので、約定がない以上は更新料の支払をもとめることはできないと考えたほうがよいです。


その6  正当事由 

(1)

賃貸借契約の解約・更新拒絶

   賃貸借契約は、売買契約などと違って継続的な関係を作るものです。そこで、契約の解除や更新の拒絶にあたっても特殊な扱いがなされることとなります。まず注意して欲しいのは、契約では例えば2年間となっている場合でも、放っておくと自動的に契約は更新されるということです。定期借地権・定期借家権のように法定更新がない契約であれば別ですが、通常の賃貸借契約の場合には法定更新となり、自動的に契約が更新されます。
   土地の賃貸借の場合には、貸主は契約を更新しない旨の異議を遅滞なくする必要があり、これがない場合には、法定更新されます。また、土地上に賃借人の使用している建物がある場合には、遅滞なき異議を述べるだけでは足りず、更新しないことについての「正当事由」が必要とされます。例え遅滞なく異議を述べても、更新拒絶について正当な事由がないとされればやはり契約は更新されます。
   建物の賃貸借の場合には、契約期間満了の1年前から6月前までの間に契約を更新しない旨の通知をし、更に更新を拒絶する正当な事由があることが必要です。いずれかでも欠ける場合には契約は更新されます。
   契約期間の定めがない賃貸借契約の場合も同様で、解約する日の6ヶ月前までに解約の通知をすることが必要です(ちなみに賃借人からの通知は3ヶ月前)。

<解約・更新拒絶が認められるために必要な要件・賃貸人>
土地の賃貸借
             契約期間満了 + 遅滞なき異議 + (正当事由…建物があるとき)
建物の賃貸借
             契約期間満了前1年〜6月の更新拒絶 + 契約期間満了 + 正当事由
             (期間の定めがない場合は) 解約申入 + 6月経過 + 正当事由

(2) 正当事由

   更新を拒絶する場合や、解約の申入をする場合に必要な「正当事由」については、これを細かく挙げるときりがないものです。法律の条文に手がかりを求めると、「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して」決めるということになるようです(借地借家法28条)。
   とは言っても、これではよくわからないものです。要するに、賃借人と賃貸人が、賃貸借している建物をどの程度必要としているのかを天秤に掛けて、より必要性が高い方を優先させるというものだと思えばいいでしょう。そして、賃貸人の必要性の方が、賃借人の必要性よりもより高い場合には正当事由があると認められるといえます。
   正当事由の有無は個別具体的な事情によって変わってくるものであり、過去の裁判で認められたのと同じ状況であるからといって必ず正当事由ありと認められるとは限りません。まさにケースバイケースとしかいいようのないものと思います。

<法定更新>
 
    賃貸借契約は長期間にわたって継続するものであることや、特に住居として建物を借りている場合には借家人の生活を保護する必要性が高いことから、契約期間満了後も借主が土地・建物の使用を継続しているときには自動的に契約が更新されたものとして扱うことになっている(借地借家法5条2項、26条1項)。但し、これらは借家人の生活保護のためであるから、借地の場合にはその借地上に建物がある場合に限られている。


<立退料>

   「賃借人に対して財産上の給付をする申出をした場合」におけるその給付金のことを立退料といいます。建物を明け渡して立ち退く変わりに、引越費用とか次の家を借りるための資金として払われることが多いですが、これらをまとめて立退料といいます。
   最近は、この立退料を有効に活用して解約をしたり更新拒絶をすることが増えています。賃借人が他に住むところや引っ越したりする費用がないからこの建物に住み続けたい、という場合などには、一定の金銭を給付することで解決することが増えてきております。もっとも、立退料を払えば常に更新拒絶できる、建物を明け渡してもらえるという訳ではなく、これも度を越すとかつての地上げ屋と買わなくなってしまいます。
【なぜ賃借人ばかり保護する】
 
   もともと借地借家法は賃借人保護のために規定されている法律なので、賃借人に厚い保護を与えています。戦後の住宅難の時代に、持ち家がない人でも安心して家に住めるようにと制定された借地法・借家法などが元となっているものですから、基本的には賃借人の保護を最優先しています。しかしながら、賃借人といっても常に困窮している一般市民というわけではなく、企業もあれば裕福な人もいます。これらを一緒くたに扱ってしまっていることが問題なのであり、最近は定期借家なども規定されて賃貸人の事情も考慮するようになってきています。

【解約の申し入れ・更新拒絶の通知をしたあとで正当事由がなくなった】

   貸主は社宅に住んでいて、定年間近であったことから、唯一の持ち家を借りている借家人に解約申入をしたところ、申入後に定年の延長で社宅に引き続き住めるようになった場合など、解約の申入後に正当事由がなくなったときは、解約申入は認められないこととなります。
   解約申入をしたときに正当事由が必要なだけでなく、解約申入から6月を経過するまでの間ずっと正当事由が存在し続けていることが必要となります。

【結局、解約申し入れ・更新拒絶は認められるのか判らない】

   結局、正当事由があるとかないとかがよくわからない。自分は追い出されてしまうのか、この借主は永遠に居座り続けるのか、どうなってしまうのか?と思う人もいるかもしれません。具体的な事案すべてを網羅すると、それだけで百科事典のような内容になってしまいますので、困ったときには早めに弁護士に相談することをお勧めします。


 

その7  建物買取請求権・造作買取請求権

(1)

借地上の建物の買取請求

   土地を借りてその上に家を建てて暮らしていたところ、賃貸借契約が終了して土地を明け渡さなければならなくなったとします。土地を明け渡すとは言っても、家を持ってどこかへ行くこともできません。かと言って、せっかく建てた家を壊してしまうのは社会的にみても勿体ないです。そこで、賃貸人に対して、賃借人は建物を買い取ってくれという請求をすることができます。これを建物買取請求権といいます(借地借家法13条)。

(2) 造作買取請求

   建物買取請求権と類似した制度として、「造作買取請求権」というものもあります。賃借人が賃貸人の同意を得て建物に付け加えた造作があるときには、契約終了時にこれを買い取るように請求できるというものです(借地借家法33条)。
   建物買取請求と同じく、賃借人が投下した資本の回収を計ることを目的としています。但し、常に買取を請求できるわけではなく、賃料不払いで解除されたなど賃借人側の責任で契約が終了した場合や、一時使用賃貸借の場合などには請求できないとされています。勿論、賃貸人の同意なく取り付けた造作については買取請求できません。
<造作>
 
   「ぞうさ」または「ぞうさく」と読む。建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的に便益を与えるもの、をいいます。取り外しができるものであることが必要で、なおかつ建物の価値を高めるものでなければならず、例としては、エアコンなどがあります。
【建物買取請求は特約で排除できないのか?】
 
   建物買取請求権については、契約でこれを行使しないという条項を入れていてもその条項は無効です。どうしても建物を買い取りたくないという場合には、定期借地権(借地借家法22条)を用いることとなるでしょう。また、店舗を建設する目的で貸す場合には事業用借地(借地借家法24条)とするべきでしょう。

【造作買取請求は特約で排除できないのか?】

   市販の賃貸借契約書などでは、必ずと言っていいほど「造作買取請求権は行使しない」という特約が入っています。借地法の規定では造作買取請求権は強行規定とされ、このような特約は無効とされていましたし、裁判でも無効と扱われてきました。しかし現在の借地借家法では造作の買取請求は任意規定となったため、特約で排除することも可能となっています。
   今現在賃貸借契約が結ばれているもののうち、平成3年の借地借家法施行以前から契約をしている場合(及び、その後更新されて現在に至っている場合)には、買取請求を排除する規定があっても無効と扱われるので注意が必要です。

【造作の買い取り価格は】

   賃借人が20万円投資して設置した業務用大型冷蔵庫などでも、長年使っていればその時価は当然に下がってきます。買い取り価格は、買取請求権を賃借人が行使した時点で、その造作が、建物に付加されている状態で幾らの価値を有しているのかによって決められることとなります。従って、ものによっては買い取り価格が0円ということも珍しくはありませんし、逆に価値が下がるとして買取請求どころか処分費が余計に発生する場合もあります。

 借地借家法第13条(建物買取請求権)

 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。


 借地借家法第33条(造作買取請求権)

建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
2 前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。
 
 


その8  特殊な賃借権

(1)

事業用定期借地

   企業同士で、例えばスーパーマーケットを建築する目的で土地の賃貸借をする場合などは、一般の住宅用の賃貸借とは状況が大きく異なります。貸主としても、10年後20年後には新たな事業をする予定があるので、きちんと土地を明け渡して欲しいと考えたり、借主としても、20年後には撤退する予定で借りたいと考えたりということが有ると思います。このようなときに用いられるのが事業用借地権の設定契約です。大きな特徴として、契約期間が10年以上20年以下に限定され、更新はなく、また建物買取請求権もなく、契約それ自体を公正証書でしなければならないとなっています。但し、注意が必要なのは、事業のために土地を賃借するとしても、そこにマンションを建てて賃貸するように、居住のために使う場合には事業用借地権の設定はできなくなっています。

(2) 定期借地

   土地を有効活用したいので、賃貸したいが、一旦貸した土地は先ず返ってこない、明け渡してもらうには高額の立退料を支払わなければならない、だから土地を貸したくない。というような地主のジレンマともいえる悩みから、特に都市部での住宅用地不足が問題となっていました。そこで、一定期間に限定して賃貸することを有効にする定期借地権の規定が設けられました。
   存続期間を50年以上として賃貸借契約を締結する場合には、必ず期間満了時に土地の明渡をしてもらえるように、契約更新をしない、地上に建設した建物については買取請求権を行使させない等の特約を付けることができるようになっています。ただし、後日の紛争を回避するために公正証書など書面によって契約することが求められています。

(3) 定期借家

   平成12年3月1日から施行された定期借家は、政府・国会の鳴り物入りでできあがった特別規定です。いわく「良質な賃貸住宅等の供給を促進するため、国及び地方公共団体が必要な措置を講ずるよう努めるとともに、定期建物賃貸借制度を設け、もって国民生活の安定と福祉の増進に寄与することを目的と」(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法第1条)して制定されました。
   定期借家の大きな特徴は、更新がないことです。既に更新料や契約終了の説明でも述べましたが、通常の賃貸借では法定更新があり、更新したくない場合でも正当事由がなければ賃貸人は更新しなければならず、更新させないで賃借人に明渡をもとめるときには立退料を支払って「出ていってもらう」というのが現状です。そのため、賃借人の長期居座りを嫌う家主は一般賃借人(企業ではない個人の住居としての賃貸借)への「貸し渋り」をし、結果として住宅不足となっている。この状況を打破するために更新のない定期借家を制定した、というのが制定者の説明です。
   定期借家は、契約それ自体を公正証書などの書面によってする必要があり、定期借家であることの説明文書を交付して説明する必要があることが大きな違いです。期間の定めは1年未満から長期(10年、20年でも可)まで広く、あとは通常の賃貸借とほぼおなじです。今現在通常の賃貸借契約を結んでいる場合には、従前通りの法定更新がありますので、更新の時に「今年からは定期借家になります」とすることはできません。あくまでも新規に契約する場合にのみ、定期借家とすることがでいるというものです。
<法律用語>
 
【定期借地権は有用か? 〜 賃貸人側から】
 
   正直言って、また定期借地権の期間満了になっているものがないので、予測の域にとどまりますが、多少の不安があります。50年以上の期間を必要とすることで、たいていの場合には賃借人、そして賃貸人にも相続が発生しているでしょう。土地にまつわる紛争(境界、賃貸借)の多くは相続によって代替わりした後で生じています。おそらく定期借地権についても、今から50年後には同じように紛争が続出するでしょう。
   相続した子が、期間満了時に素直に退去してくれるのかという事実上の問題がまずでてくるでしょう。「自分が生まれる前からこの土地に親が家を建てて、自分はそこにこれまで50年近くずっと暮らしてきた。なのに家も壊して更地にして明け渡さなければならないのか」ということを言ってくることが考えられます。これだけであれば、裁判でけりがつくとは思います。しかし、例えば賃借人が50年後に70、80歳の寝たきり老人となってしまい、面倒を見ている人もいないような状況になっている場合、それでもなおかつ期間満了だから出ていけというのが通るのかには疑問も残ります。裁判に持ち込んでも信義則上明渡請求できないという結論がでる可能性も十分に考えられます。
【定期借家契約は「書面」でやらなければならない】

   通常の賃貸借契約であっても、賃貸借契約書は作成されるでしょう(不動産仲介業者を頼んでいれば、まず契約書は作られているはずです)。条文には「公正証書による等」とありますが、あえて公正証書を作ることまで要求されているわけではありません。

【定期借家であることの説明が必要】

   定期借家は一般の借家とことなり、更新が有りません。そのことを借主にきちんと説明する必要があります。そして、その説明は「文書で」する必要があります。従って、「契約書をみれば定期借家だと書いてあるじゃないか」と言ってみても、その契約内容をきちんと説明していなければ駄目ですし、「あれだけきちんと説明したじゃないか」といっても、説明文書を借主に渡していなければだめです。説明文書を借主に交付し、そのうえできちんと説明していないと、通常の賃貸借契約として扱われてしまいます。

【定期借家の期間満了の通知の意味】

   契約時に定期借家であることを説明していても、それだけでは期間満了時に更新となってしまいます。期間満了の1年前から6月前までの間に、賃借期間が満了する(ので建物から出ていってくれ)ことを通知しなければなりません。従って、定期借家契約を締結しただけで安心しては困ります。この通知を怠ったときには、通知をしたときから6ヶ月間は契約が存続することとなり、契約期間満了までに通知をしていない場合には期間満了後は「通常の」賃貸借契約(ただし期間の定めはないものとして)として更新されてしまうと考えられます。せっかく定期借家にした意味がなくなりますので気を付ける必要があります。

【定期借家を途中で解約したい】

   期間満了前に解約できるのは、賃借人側からだけです。賃貸人からの中途解約もできる旨の条項をいれていても、賃借人に不利な特約として無効となります。

【定期借家契約を更新できるか】

   定期借家なので更新はない。ということは、期間満了後にもその建物を賃貸借したいときは再度契約をし直す必要があるということになります。更新ではなく、全く新しい契約を結び直すのです。では、契約書に「期間満了後も、賃貸人と賃借人の協議にによって更新することができる」という特約を入れている場合にはどうでしょうか。更新することができる合意自体が定期借家とは相矛盾するものですが、賃借人にとっては「不利な特約」ではありません。このような場合には、他の特約などとも照らし合わせてみたうえで、有効な特約として定期借家の再契約のための合意とされる可能性があります。

【定期借家契約で礼金や更新料はもらえるか】

    更新料をもらうことは問題でしょう。更新のない賃貸借なのですから、更新料という概念自体が本来出てこないものです。再契約するときには改めて礼金という形で受領することとなるでしょう。
   では、そもそも礼金を取れるのでしょうか。礼金というものは法的性質も明確でなく授受の根拠もないものです。また、慣習とまでは言い難いものでもあります。ただ、一般には、貸主は一旦賃貸借契約を締結すると一定期間建物(土地)を事実上処分できなくなります。しかも、更新されて数十年も契約が続くと、実質的には自分の持ち物としての価値がなくなることもあるでしょう。そのような貸主の不都合、リスクにたいする対価として礼金が支払われているという側面もあると思います。とすると、定期借家のように更新もなく、多くは数年で契約期間が満了する様な場合には、礼金を受け取る合理的根拠がないのではないかという疑問も出てきます。
   また、定期借家が「良質な賃貸住宅等の供給を促進するため」に制定されたことを考えると、礼金という負担をなくして賃貸物件の回転をよくすることも意図されているといえるでしょう。従って、定期借家の場合には礼金の授受を伴わないほうが、本来は適当なものとも思われます。
 借地借家法第24条(事業用借地権)

第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上二十年以下として借地権を設定する場合には、適用しない。2前項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。


 借地借家法第22条(定期借地権)

存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。

 借地借家法第38条(定期借家)

1 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。
 


その9  一時使用賃貸借

(1)

一時使用賃貸借の有用性

   例えば取り壊し目前のアパートを、1年間だけでいいから貸してくれと言われたとき、例えば建築工事期間中だけ資材置き場として空き地を貸してくれと言われたとき、これらの場合には賃貸借といっても極めて短期間に限って、しかも更新しないという前提で契約することとなるでしょう。
   建物の賃貸借については、定期借家の制定で一時使用を活用することは少なくなるかもしれません。しかし、土地の場合には定期借地は50年という期間の長さからも、依然として一時使用賃貸借契約の有用性は変わらないでしょう。また、建物にしても、一時使用賃貸借で有れば、更新それ自体は双方の合意でできる(定期借家では更新合意それ自体が定期借家の否定となるおそれがある)ことから、賃借人にとってもメリットはあると思います。
  なお借地借家法には「解体予定建物の賃貸借」というものもありますが、これはオーナー側において解体予定ということでは足りず、例えば土地収用の対象になっているなどの場合に限られます。

(2) 一時使用賃貸借の意義

   一時使用賃貸借契約とすると、借地の場合には30年という借地権の存続期間の保証がなくなり、30年未満でも、また、期間の定めを設けなくても賃貸借契約ができます。また、更新については法定更新が適用されないために、任意に更新する(更新合意)はできても、自動的に更新されてしまうこともなくなります。また、建物買取請求権もなくなります。借家の場合にも、同様となります。
   先日私が関わった案件では、住宅展示場用地として土地を賃貸したいという貸主からの相談でしたが、最終的には一時使用賃貸借契約を締結しました。住宅展示場というところで非常に微妙な法律問題を生じてしまうものですが、最も適切と思われる手段として一時使用賃貸借は有効と思われました。意外と一時使用賃貸借は役に立つ契約体型です。

(3) 一時使用

   「一時使用」目的の賃貸借である以上、一時使用のために賃貸借契約が締結される必要があります。では、単純に「嫁夫婦が戻ってくるまでの間賃貸する」という程度のものでも一時使用といえるのかが問題となります。結論から言って、客観的状況を総合的に考慮して、一時使用のためと判断される必要があります。従って、単に「期間を6月とする」としてみても、何故6ヶ月にするのかの合理的な理由がなければ一時使用のための賃貸借とは認められません。一般には、賃貸借契約締結の動機(例、短期間の転勤の間だけ、空き家になるので貸したい)、賃借人の使用目的(例、仮の資材置き場として工事の間だけ使いたい)、賃料その他(例、礼金・権利金はなし)、期間、使用状況、更新規定の有無等々を総合的に考慮して決めることとなります。
【賃貸期間が10年でも一時使用になることがあるのか?】

   賃貸期間の長短は、それ自体のみでは一時使用目的かどうかを決めるものではないので、仮に1年であっても一時使用賃貸借にならないこともあります。5年間でも一時使用賃貸借と認められた例もあります。しかし、10年となるとその期間だけで一時使用とはいえなくなることがほとんどでしょう。10年間の間だけとりあえず貸すというのが、一時的といえる例はあまりないと思われます。もっとも、2年間の契約を締結し、更新に更新を重ねて20年を越えていても一時使用賃貸借であると認められた例もあります。単純に期間の長短だけでは決せられないという例だといえます。

【一時使用の契約書を作成する場合の注意点は】

   契約書上からも、一時使用のためであることが明らかになっていなければなりません。従って、通常は契約書の題目が「一時使用賃貸借契約書」となっていたり、第1条に「(一時使用目的)本件賃貸借契約は、貸主がその好意によって、借主の自宅工事期間中に限り、その仮住まいのための住居として賃貸するものであり〜」と明記されていたりします。勿論ですが、単に「一時使用契約とする」と記載されていても、実質的に一時使用契約の要件が満たされていなければ意味がありません(期間の定めのない賃貸借契約になる場合もあります)。

 借地借家法第25条(一時使用目的の借地権)

第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。


 借地借家法第40条(一時使用目的の建物の賃貸借)

この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。
 


その10  最後に

    今回は、賃貸借契約についての基礎知識だけを広く浅くまとめてみました。概説というよりは「用語辞典」のような使い方をして頂くことになるかと思います。原状回復費用の問題や更新料などについては、知識箱や特集(賃貸人のための原状回復特集)の中でも個別のテーマとして取り上げていますのでそちらをご参考下さい。