「あなたも裁判員」裏話

2004.5.10(200610.25)





    日本評論社の雑誌「Causa(カウサ)」で好評連載をしていた『あなたも裁判員』の第3話(全3回)を、このHPをご覧の皆様にもお読み頂けるようにしました。ここでは、「あなたも裁判員」の制作裏話なども掲載し、「あなたも裁判員」第3話もお読み頂けるようにします。





(1) 「あなたも裁判員」の始まり

    Causaは、司法制度改革の情報を法律関係者ではない皆様にもいちはやく紹介するために企画された雑誌です。ただでさえ「司法制度」は小難しく、市民の立場からすれば「わからん」「興味ない」といわれてしまうものです。しかし、司法制度改革の中では市民が裁判官といっしょになって裁判手続に参加する裁判員制度の導入が決まっていました。
    そうすると、これから裁判員に選ばれることとなる皆さん方には、是が非でも裁判員制度についての知識を得てもらって、理解をして頂くことが不可欠になるのです。ところが、法律雑誌というのはもともと専門家向け、活字で読んでもそう簡単に「分かった」とはならないものです。
    このような中で日本評論社の串崎編集長は、裁判員制度についての解説は、是非とも漫画でやろうとの企画を暖めていました。そこでまず白羽の矢がたったのが、漫画家の藤山成二(ふじやまじょうじ)先生です。

(2) 漫画家藤山成二先生

  藤山先生は、著名な風刺漫画家です。
   故石ノ森正太郎先生の門下生でもありますが、いわゆるストーリー漫画ではなく、新聞や雑誌に載る1コマ漫画などで高い評価を受けている方です。かつては「サスペリア」などにも4コマ漫画を連載させており、知る人ぞ知る漫画家でしたが、1990年には読売国際漫画大賞の大賞(グランプリ)に輝き、一躍漫画界のホープに躍り出ました。読売国際漫画大賞は世界的にも高く位置づけられている社会風刺1コマ漫画の大会です。あまり馴染みがないかもしれませんが、国によってはこの読売国際漫画大賞で選ばれるだけで一生涯仕事と収入には困らなくなる、というものです。読売新聞社が主催していますが、これまで日本人が大賞に選出されたことはあまりなく、特に藤山先生のように(当時は)「若手」の漫画家が大賞になるというのは驚くべきことだといわれました。
   藤山先生はその後日経ビジネスなどの挿絵を始め、社会風刺漫画の世界で着々と実績を積み重ねてきています。今現在も新聞の4コマ漫画(十数誌に毎日掲載)などで藤山先生の作品を目にすることができます。
   Causaの連載の前にも、「医療過誤」を扱った漫画(単行本で出版された「するな、泣き寝入り」)などで日本評論社の仕事をしたことがあるという理由で今回の「あなたも裁判員」の制作を引き受けたそうです。

(3) モーニングよりもCausa

   藤山先生について私が持っている人物像としては、「社会的意味がある仕事により高い価値を感じている」、「フィーだけではなく、人的信頼関係をより重視する」という基本思想がみうけられます。実際にそれを裏付けるエピソードがあります。
   「あなたも裁判員」の連載依頼が藤山先生に打診されていたちょうどそのころ、あの「週間モーニング」からも藤山先生に連載依頼のオファーがきていたそうです。80万部の売上をほこる屈指の漫画誌ですし、当然ながらアシスタントについても出版社側で提供するという、漫画家からすれば(少なくとも私が漫画家なら)夢ではないかと思うような話です。
   ・・・が、藤山先生はあっさりと断ってしまったそうです。
    後日この話を聞いた日本評論社の串崎編集長が、さすがに驚いて、「Causaの連載なんかよりもモーニングの方が絶対にいい話なのに、何で断ったんだ」と聞いたそうです。実際、モーニングの仕事の方が遙かにフィーは高いでしょうし、これまであまり名前の浸透していなかった大衆漫画購読者層にも名前が広まる絶好の機会でもあります。
   明確な返答はなかったそうですが、一旦Causaの依頼を引き受けると決めた以上、それに専念するのが自分の仕事だということ。市民が身近な問題とは考えてないのに、実際には市民の役割を大きく変えることになる司法制度改革については、少しでも多くの人に知ってもらえるようにしたかった、ということのようです。串崎編集長の方が逆に、モーニングを蹴ってまで藤山先生に受けてもらわなければならないほどのものではなかったのに、と恐縮していたそうです。

(4) Causa1号、ピンチヒッター

   さて、串崎編集長の企画では、「漫画+文章」という基本構成になっていましたので藤山先生が連載の依頼を受けたところで、次は裁判員制度についての説明をできる人に文章の原稿作成を依頼することになります。ここで当時日弁連の調査室にいたとある弁護士の人に白羽の矢をたてました。日弁連サイドで裁判員制度の検討作業の中心にいた人です。平成14年3月にこの先生から内諾を取り付け、いよいよCausaの発刊に向けて進み始めた矢先に、この先生が内閣の司法制度改革準備室(後の司法制度改革推進本部)に出向することが突如決まってしまいました。
  既に第1号の発行日も決まっており、藤山先生の漫画も出来上がりつつあるところで新たな執筆者探しをせざるを得なくなったのです。その後の経過がどうであったのかは知りませんが、たまたま平成14年度に東京弁護士会内の法友全期会という若手集団の執行部をやっていて、多少裁判員制度についても知識があるという理由で私がピンチヒッターになったのです。
   忘れもしない平成14年4月1日、串崎編集長と藤山先生が事務所にお見えになり、「あなたも裁判員」の原稿執筆を依頼されたのです。しかも第1号の締切は4月25日。エイプリルフールの冗談としか思えない話でしたが、私を串崎編集長に紹介した某日弁連事務次長に対しては個人的に「No!」といえない弱みもあり、ピンチヒッターとして引き受けました。
   前任者がすでに題材となる元ネタを決めており、それを踏まえて藤山先生の漫画も着々と出来上がりつつある状況ですので、私自身の裁量の余地もあまりありません。しかし時間もありません。加えて、私自身も裁判員制度についての理解が十分あったというわけでもありません。日弁連調査室にいた弁護士の荒木理江先生頼み込んでいろいろな情報や資料を頂き、アドバイスも頂きながら、ようやく第1号の原稿が完成です。ここから合計10回の連載が始まったのです。
   「あなたも裁判員」の単行本を読んで頂ければ分かると思いますが、第1話は第2話、第3話とはかなり漫画のシナリオも本文の解説も雰囲気や傾向が違います。私自身が「不慣れ」な原稿起案で苦しんでいましたし、前任者の企画をそのまま承継せざるを得なかったために、私自身がうまく消化しきれないまま締切に追われていたためです。特に、シナリオについては、漫画用の原稿など書いたこともない人間ですので(漫画に限らず小説の類も書いたことない)、藤山先生にはかなり無理をさせてしまい、とんでもない苦労を押しつけてしまっていました。

   第1話の第2回は、ゴルゴ13もびっくりの吹き出し文字が多い漫画になってしまっています。漫画のなかの会話なのか、文章の中の挿絵なのかわからないようなものになってしまいました。日本評論社の関係者の中では有名なのですが「漫画なのに、人物の顔が出てこない。吹き出しと吹き出しに挟まれた『目』しかないものまである(上・右の絵参照)。こんな漫画みたことない」と揶揄されました。それでも『目』だけで登場人物の表情や心情を表現してしまうのですから、本当に藤山先生は素晴らしいです。   

藤山上の2コマは藤山先生の力作「目だけで見せる」(Causa2号・第1話第2回から)

(5) 「文・絵」 から 「原作・漫画」 へ

   第1話は前任者の企画を承継していましたので、漫画のシナリオについては私自身の裁量が入る余地はほとんどありませんでした。ですから、シナリオについては元ネタとなった裁判記録を藤山先生が読み込んでストーリーを作り上げ、私はそれに合わせて法律的な説明を文章でまとめるという形態になっていました。ですから、著者のところをみると「文 久保内統・絵  藤山成二」となっているのです。
    しかし、第2話からは前任者の企画という拘束がなくなり、私自身があるいみ好き勝手に題材を選び、ストーリーを作り上げることができるようになりました。人のふんどしでも気楽かもしれませんが、やはり自分勝手にやらせてもらえる方が楽しいです。また、串崎編集長も私の自分勝手を「黙認」にしてくれていましたので幸いでした。そのため、第2話からは、裁判員制度の説明をしやすいストーリーの骨格のたたき台を作り、それを藤山先生に見てもらって、具体的なシナリオを作成するという作業が始まりました。私が投げたボールを藤山先生が適格に投げ返してくれましたので無事にシナリオがシナリオとして出来上がったのです。ここはプロと素人の違い、本業の漫画家である藤山先生がいなければ人に見せられるようなシナリオなど作れません。
   藤山先生とは、だいたい夜の8時頃から電話で打合せをするのが通常でした。プロットを私が説明をして、藤山さんがそれを修正し、または追加したりします。時には、お互い現実逃避をしている雑談の中で出してきた藤山先生の突飛なアイデアが活かされることもありました。第3話で同性愛ネタを使ったのも藤山先生の話がヒントになっています。
   このころから、だんだん役割分担が明確になってきました。シナリオ・ストーリーを私が考えて、藤山先生がそれを具体的な漫画に作り上げていくというスタイルです。そのため、「あなたも裁判員」の単行本が出版されたときに「原作久保内統・漫画 藤山成二」と著者の表示が変わったのです(単行本の発行直前の予約申込みチラシでは「文・絵」です)。「原作?」とは随分とご大層な肩書きを頂いているわけで、実際には藤山先生なしではシナリオは完成していないのですが、ある意味では原作というのもそのとおりかもしれません。第1話から第3話まで、実際の事件を元ネタにしています。しかし第1話では比較的忠実に元ネタを漫画に仕立てているのに対して、第2話、第3話は元ネタを聞かされても元ネタとは思えないくらい中味を変えました。第3話に到っては、「アリバイを立証してくれるはずの人が被告人の同性愛者であり、社会的著名人であるために、証言がえられなかった」というところだけを使っています(罪体も元ネタは放火です)。これでは元ネタもなにもなく、現実の事案からアイデアを頂戴しただけというところでもあります。そういう意味では原作となるのかもしれません。なお、第3話の同性愛ネタは、藤山先生が「社会的にタブーといわれているようなことがらを取り上げられないか。例えば社会差別の問題。精神障害者問題、同和問題、宗教問題、同性愛問題とか、いろいろなところで不合理な差別がある。こういうのを積極的に取り上げて、もっと社会に対しても問題意識を提起するようなことができないだろうか」というところから出発しています。さすがに社会差別に関するテーマを正面から取り上げるのは大変ですし、裁判員制度を扱っているのに、主要なテーマが別になってしまうおそれもあります。藤山先生とはかなりの時間をかけてこの点を議論検討したのですが、結局「重すぎる。現時点でこのようなテーマをCausa編集部が取り上げるのは難しすぎる」ということで一旦はおわりました。
    しかし、その後しばらくしたところで、「アリバイを立証してくれるはずの人が被告人の同性愛者であり、社会的著名人であるために、証言がえられなかった」というとある事件を引っ張り出して第3話のプロット作成に到ったのです。果たしてこのようなネタを使うことを出版社が許すのかという懸念はありましたが、いつものとおり締切ギリギリになって原稿を送ることで、もはや差換えのできない状況にしてスタートさせてしまったのです。
   硬派な法律雑誌として扱うのにふさわしいネタなのかという不安があったのは事実です。しかし結果としては、第3話の反響は高く、私自身も率直なところホッとしました。
   藤山先生と議論検討をしていると、難しい問題でも真正面から取り組むべきで、逃げてはいけない、という姿勢がひしひしと伝わってきます。

(6) 「裁判員〜裁くのはあなた」

   平成15年4月2日に、日弁連制作の裁判員ドラマ「裁判員〜裁くのはあなた」がよみうりホールで公開されました。その後平成15年いっぱい全国で上映され、テレビでも放映されましたのでご覧になったかたも多いかと思います。主演が石坂浩二、左時枝、岩崎ひろみ、「新宿鮫」などの石橋冠監督、東北新社の近藤晋プロデューサーという、日弁連制作とは思えない豪華スタッフによります。
   このドラマの製作委員会(シナリオ制作担当)には私も加わっており、手前みそになりますが、Causaの「あなたも裁判員」がこの裁判員ドラマの元ネタになっているのです。ドラマのシナリオを書いたのは火サスなどでも有名な酒井直行さんですが、そもそも裁判員制度ってどんなんだ、というところから、相対立する証言をしている証人のどちらを信用するかで結論が変わるという基本構成など、「あなたも裁判員」の第1話を読んで取り入れられたものです。もちろん、シナリオプロットは酒井さんのオリジナルですが、「あなたも裁判員がなければこうはいかなかった」と賞賛いただきました(自慢、自慢)。ちなみに、「あなたも裁判員」の田中鉄男裁判員にそっくりなキャラクターも裁判員ドラマでは登場していました。

(7) 裁判員制度の解説本

    「あなたも裁判員」の連載終了のときにも、学術的な解説本はいくつかでていましたが、これから裁判員になる市民向けの本としては、現代人文社のリーフレットとこの「あなたも裁判員」以外にはまだ出ていませんでした。そのため、大学の講義の副教材や地域図書館での購入などの他に、裁判員制度についての取材なども、この本を通じて来るようになりました。
    ちょっとした専門誌(公職研「地方自治職員研修」・朝日新聞社「アエラムック・法科大学院がわかる」)などだけでなく、一般大衆紙からの取材なども来るようになりました。昨年12月の「BigTommorow」1月号が一般誌としては初めての取材でした。また「清流」でも「ってなあに」のQ&Aの取材をうけました。私としては、市民の司法参加制度である以上、少しでも多く社会全体に裁判員制度についての情報を広げるべきだと思っていますので、この手の取材はなるべく受けるようにしています。本当ならば頼まれなくたってやりたいくらいです。日弁連にしろ、内閣(政府)にしろ、宣伝広報活動があまりにも少なすぎます。市民を置去りにした司法改革だ、と社説などで批判されてしまうのも一理あるのです。ですから、このような取材をうけることで裁判員制度の流布に役立つなら少しでも役立たせたいと思っているのです。
    このホームページで「あなたも裁判員」の第3話を入手できるようにしたのも、少しでも多くの人に裁判員制度についての理解を深めて欲しい、あるいは裁判員制度ってなんなんだということを知って欲しいためです。無料で公開するのですから別にこれで商売をしたいわけでもありません。たまたま「あなたも裁判員」という連載を続けてきた経過があるので、これが裁判員制度を世の中に広めるのに役立つのならば、多いに活用したいというところです。

(8) 「あなたも裁判員」第3話

    あなたも裁判員の第3話はCausa10号〜12号に3回に分けて連載されたものです。単行本の発刊後の連載ですので、本来でしたらCausaをご購入頂かないとお読み頂けないのですが、漫画の著作者である藤山成二先生のご了解を頂きましたのでこのホームページでも読めるようにしました。ただ、全部で44ページになり大きなデータになっておりますので、PDFファイルにして掲載しましたの。アクロバットリーダーで閲覧するかダウンロードしてお読み下さいませ。
    PDFファイルの閲覧には、アドビ社のアクロバット(アクロバットリーダー)というソフトが必要になります。このソフトはパソコン雑誌の付録CD-ROMには必ず収録されています。また、パソコンメーカー製のパソコンの場合には予めインストールされていますし、何かしらのソフトを購入しているとそのソフトに併せて収録されていることが殆どです。どうしても手元にない場合にはアドビ社のホームページから無料でダウンロードすることができます。  

 「あなたも裁判員」第3話の閲覧・ダウンロードはこちらへ  
  AcrobatReaderのダウンロードはAdobe社のHPに行ってください


(9)  なぜか道徳の教科書へ

   「あなたも裁判員」は、漫画仕立てになっているという物珍しさもあり(この本の発刊後に漫画での裁判員宣伝ものは結構出ていますが)、出版社が法律専門書を扱うところなので学校教育の場でも教材として使われたことがあります。さすがに最近では内容が古くなってしまいましたが(なんせ裁判員法が制定される前に完成しているのですから)、意外なところで意外な購読者がいるようです。
    そのためもあってか、中学生用の道徳の副教材(道徳にはいわゆる「教科書」がありませんので、副読本が事実上の教科書)に裁判員ネタでの執筆を依頼されたりもしました。平成19年から中学3年生用の教科書となる「中学生の道徳〜自分をのばす」(暁教育図書)です。まあ、市販されないことが有り難いと言いますか、書いた自分ですら読むとこっぱずかしくなってしまうようなものではあります。文科省の要領があります関係からプロットは編集長がかなりかためてくれていたのですが、「中学生向きに」という条件を満たした「おはなし」となると、どうも赤面してしまう内容になってしまいます。でもまあ、これはこれでとてもいい経験でした。


   「あなたも裁判員」の連載が終了したのは平成16年4月です。最終回の原稿は2月末に上がっています。つまり、国会で裁判員関連法案がまだ審議中に脱稿しています。そのため、Causaでの連載終了時における解説は、制定された裁判員法とは異なっているところが多数あります。例えば裁判官と裁判員の人数構成など(Causaでは否認事件では裁判官2対裁判員6ですが実際には裁判官3対裁判員6になりました)、裁判員制度を説明する上で基本となる部分についても実際の法律とは異なっています。法案の審議経過を見ながら執筆していたものですので、脱稿後に現実に完成した法律とは違う部分があるのだということはご理解下さい。




このホームページで使用している「あなたも裁判員」の漫画は、全て漫画家藤山成二氏が著作権をもっているものであり、私はこのホームページに掲載する限度で、使用の許諾を得ているものです。従って、これらの漫画については転載などは認められません。無断で使用した場合には著作権法により保護されている藤山成二氏の著作権を侵害することとなりますので十分に注意して下さい。



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