西暦2010年。
野球憲法が発布&施行され、日本野球帝国が安寧の日々に酔いしれていた、ある日のことであった。
野球帝国政府が、歴史関係の学会に圧力をかけ、歴史の偽造捏造を奨励したのである。
そしてそれは、奨励から強要になり、強要から強制になった。
嗚呼!! 人類が過去数千年にわたって営々として築き上げてきた文化、文明、歴史。それを書きかえるのは許されざる罪業である。しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いの野球政府は、それを実現させてしまったのだ!!
ぼくの名は、会戸 朗(あうと ろう)。中学生だ。
新学期が始まり、クラスがえもされ、わくわくしながらぼくは登校した。
しかし、一時間目の社会の授業で、クラス中のみんなが、騒然とした。
昨日先生が、書道の時間もないのに「墨汁と筆を持って来てください」と言っていたのには、理由があったのだ。
新しい先生が、歴史の教科書を取り上げ、いきなり「昨日言った墨汁と筆を取り出してください」と言う。更に先生はこう続けた。
―――みなさんも知ってる通り、野球政府以前にも政府がありましたね。その「非野球政府」が、今までずっと、歴史を偽造していたことが、最近になってわかりました。
ざわざわっ、とみながどよめいた。
―――先生、それじゃ、今まで小学校で教えられてきた歴史はみな嘘の歴史だったんですか?
クラスメートの一人、奉牟 允(ほうむ いん)くんがそう質問した。
―――そうです。これからは、今まで非野球政府によって叩き込まれてきた虚偽に満ちた歴史を振り捨て、真実に目を向けねばなりません。
先生は、威厳をもってこう受け答えした。
またもやクラス中がどよめいた。
そして先生は、歴史の教科書を自分が言及していくから、間違った箇所を墨で塗り訂正するように、と生徒達に言った。
まず先生は、人類の黎明期の箇所についてこう言った。
―――はい、約60万年前に原人が出てきた、と書いてありますね。
先生はここで言葉を切り、生徒たちを見回すと、再びこう続けた。
―――そこの読みは、「げんじん」ではなく、「はらじん」と呼びます。
―――先生、それはどういう意味ですか?
―――それは、60万年前にようやく、原始的野球の曙たる「野原で遊ぶ」という生活習慣をもった人間、すなわち「はらじん」が出現した、ということです。
さらに先生はこう言う。
―――そして次に出てくるのは「旧人」ですが、この「旧」という漢字を、「たま」の「球」に変えてください。「球人」、すなわち野原でキャッチボールをするというかなり進化した形態の人間のことです。
こうして、先生の教科書訂正は続いていった。
―――セオドーア・ルーズヴェルトの棍棒外交とありますが、そこ、「メガホン外交」です。相手の国の物腰が気に入らないとすぐメガホンを投げ入れるような短気な人だったんでしょうね。
―――武装した機械化部隊、それを、「プロテクターとヘルメットとマスクを装着したキャッチャー部隊」に変えてください。
―――西暦750年、アッバース朝が建国された、とあります。そこ、「アッ」を消してください。1985年に阪神を優勝へ導いたランディ・バースの先祖が打ち建てた国だから「バース朝」といいます。
―――1653年、クロムウェルが護国卿になったと書いてあります。クロマティが護国卿になった、と書き直してください。これも同じく、ウォーレン・クロマティ選手の先祖です。
―――ダグラス・マッカーサー、そこ、ダグラス・マツサーカーに変えてください。彼は西武の松坂投手の先祖です。
―――メディア王国、インド・ヨーロッパ語族が初めてイランに建てた国、とありますが、新聞記者族が初めてイランに建てた国、と変えてください。伊達に「メディア」王国と名乗ってはいないのです。
―――遊牧騎馬民族、そこを、「遊牧サッカー民族」にしてください。遊牧民は、その広大な草原でサッカーをしながら生活を営んでいました。だからこそ、野球帝国である日本に攻め込んでも神風という名の天命によって潰滅したのです。ここテストに出ますよ!
―――鉄製の農具が農業生産を飛躍的に増大させた、とあります。「鉄製の農具」を「金属バット」に変えてください。
―――古代インドで形成された四つのヴァルナ、「バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラ」とあります。「カントク、コーチ、レギュラ、ベンチウォマ」にしてください。
―――マムルーク神官団、そこを、マムルーク審判団に直してください。当時、審判が大きな権力を持っていた国もあったのです。
―――トスカネリーの「地球球体説」、それを「地球ボール説」にしてください。彼は、野球のボールを見ているうちに「もしかしたら地球もこれと同じかもしれないぞ」という着想を得たわけです。
―――ルターが行った「教皇の贖罪状販売に対する批判」、それを、「教皇のダフ屋行為に対する批判」に直してください。
―――教会大分裂(大シスマ)とあります。そこ、「球界大分裂」にしてください。セントラル派とパシフィック派の分離のことです。
―――義和団事件、そこは「記者団事件」です。あまりに多くの記者が詰めかけたために混乱が起きた事件のことです。
このようにして、先生は長広舌を振るい、いつしか教室には倦怠感が漂い始め、その多くが眠りについていたのだった………。
おしまい
このページに関するご意見・ご批判等は、
zhuangzhou@nifty.comまでお願いします