第五話 野球帝国の黎明
〜大日本野球帝国憲法発布への道〜

かっちゃんのお友達、巨人ファンのHさんによる作品です。


それは平成1×年の春。近年の政治腐敗、風紀の乱れなどを憂慮する一派が、クーデターの密議を繰り返していた。

その一派、確かに当初は戦前の国体に戻そうとしか考えていなかったが、とある提案により、その方向性が徐々にずれていった。

――おい、やはりこの現代においてわれわれの考えを世に知らしめるためには、マスメディアの力を借りる必要があるぞ。

――それはその通りだが、我々で新たに国営メディアを創設するには、財政的にも人脈的にも厳しいものがある。

――それなら、既存のメディアの中で、我々に共鳴してくれそうな所を引き込めば良いではないか。

――なるほど。しかし、夕日新聞系や日毎新聞系は左翼寄りの傾向があるから、我々の要求を聞いてくれそうにないな。やはり、読買新聞系が良かろう。ここは右寄りで有名だ。

と、ここまでは良かったが、この選択が運命を大きく変えることになろうとは彼らは全く知る由もなかった。彼らは手始めに、読買新聞の社長、綿鍋 常男 (わたなべ つねお)に面会を求めた。

――…というわけなのですが、我々の活動に協力して頂けませんか?

――なるほど。君たちの主張はもっともだ。我が社をあげて協力させてもらおう。ただ、我が社だけでは心もとないし、政界に働き掛けも必要だろう。 経産新聞社と総理大臣にも話を通しておこう。

彼らは自分たちの思った以上の成果をあげたと信じ、意気揚々と読買新聞本社ビ ルから立ち去った。しかし、彼らの知らないところで、事態はとんでもない方向に進んでいた。

――…というわけなんですよ、総理。経産新聞とはもう話はついています。 巨人軍と燕軍はもう完全に出動態勢は整っています。

――そうか。ついにその時が来たというわけか。彼らを利用してしまおうとは、 綿鍋くんもなかなかの狸だな。この計画が成功すれば、国体が護持されるばかりか、野球帝国の実現まで可能となる。期待しているよ、綿鍋くん。

野球帝国!? 何と突拍子もない計画だろうか。そう、綿鍋社長は、読買グループが所有し、日本一の人気球団であるプロ野球チーム、 巨人軍のオーナーでもあったのだ。そして、更なる野球の隆盛を望み、野球帝国の実現を画策していたのである。 そこへ先ほどの一派が クーデターの話を持ち込んで来たため、彼らを利用して帝国建設を実現させようと考えたわけだ。

まず綿鍋社長がとった行動は、同じ考えを持つ経産新聞社に協力を 依頼することであった。実はこの経産グループ、同じく右寄りなだけではなかった。 系列のテレビ富士では毎晩「ニュースofプロ野球」 という番組を放送し、野球帝国建設の地盤固めを密かに行っていたし、現在のトルクヤ燕軍をかつては所有していたという経緯もあるのだ。 しかもこの計画の黒幕は、時の総理である銛 与四郎(もり よしろう)だったのだ!

なぜ一国の総理大臣がこのような計画に賛同したのだろうか? それは、彼がある選手の後援会長だったことに理由がある。 銛総理は、読買巨人軍の不動の4番打者で球界1のスタープレーヤー、松井秀喜の 後援会長だったのである! しかも、彼の所属する政党は自主憲法制定を究極の目標としている。 この計画に乗らないわけがない。

そして計画には、強竜軍を所有する日中新聞も加わり、情報面では全く不安はなくなった。次に軍事行動に絶対不可欠な、輸送力が必要となった。

しかし、猛虎軍を所有する神阪電鉄、猛牛軍を所有する遠畿鉄道が協力を申し出、この問題も解決した。さらに、戦士軍の親会社である 大日ハム、港星軍を実質的に支配するマルヒ、海原軍の親会社ノッテをも味方につけ、食料面でも万全を期した。

また、この陰には涙を誘う美談があったことも忘れてはならない。親会社・永代グループが大赤字の若鷹軍と、選手達にまで 「欲しがりませんFAまでは」が徹底しているほど経営が困難な鯉幟軍は、涙を飲んで出動を断念するところであった。しかし、親会社が金融業を営む 青波軍が無利子融資を行い、出動にこぎつけたのである。

そして、最後の難関はCOJ理事の包 好飽(つつみ よしあき)が オーナーである獅子軍であった。彼は野球以外のスポーツが廃れるのを恐れ、この計画に真っ向から反対したが、エース松坂大輔の「FAで巨人軍に行くぞ」 との脅迫に屈し、ついに12球団の足並みが揃ったのである。

以下、クーデターの詳細は小説「野球帝国の凱旋」に譲るとして、 とにかくクーデターは大成功を収めた。当初の意図とやや違った方向にはなったが、 銛総理の国体護持の方針を聞き、このきっかけを作った一派も 野球帝国建国に奮闘し、全員最前線で華々しく散った。 彼らは尊い犠牲として語り継がれ、今も東京ドームの裏手にひっそりと石碑が建っている。 ちなみにこの一派はほとんど実名が伝わっていないが、首領は騒村 衛士(さわむら えいじ)と名乗っていたという。

さて、クーデター成功後は当然銛総理が権力を掌握すると思われたが、学生時代にラグビーをやっていたことが発覚し、あえなく失脚。政局の 混乱が懸念されたが、巨人軍監督の長嶋茂雄が次期総理に選出されると、「いわゆるひとつのニューシステムですね〜、はい」の一言で、 新体制作りは円滑に進められることとなった。

そして、野球協約も改正され、ついに新憲法が発布されることとなった のである。しかし、元々法律にも国語にも疎い野球人たち。新しい条文を考える事など思いもよらず、明治憲法と昭和憲法をごちゃ混ぜにし、 部分的に単語のみを変えるだけで、あまり目新しい感じがしないというもっぱらの評判であった。

しかし、この憲法が国民生活を大きく変えることになるのである・・・


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