野球帝国の逆襲

第一話 野球帝国の逆襲

昔者、荘周ハ夢ニ胡蝶ト為ル。栩栩然トシテ胡蝶ナリ。自ラ喩シミテ志ニ適スル与。周タルヲ知ラザルナリ。俄然トシテ覚ムレバ、則チ遽遽然トシテ周ナリ。知ラズ、周ノ夢ニ胡蝶為ルカ、胡蝶ノ夢ニ周為ルカ。周ト胡蝶トハ、則チ必ズ分有リ。此レヲ之物化ト謂フ。

この詩は、「胡蝶ノ夢」といい、私が中学三年の時初めて読み非常に感銘を受けたシロモノである。作者である荘周の意図はすなわちこうだ。「何がリアルで何がリアルでないのかなんて、わからない。人間は、意識の中では現実的・物理的不自由を超越し自由になれる。」蝶になった夢を見たことだけでこの人間世界自体のリアリティに懐疑を想起した、という荘周(2500年くらい前の人間)の発想力には、時代の経過を感じさせない底知れぬ何かがあるといえよう。

そう。夢の中では、何でもできるし、何でも許される。どんな不条理も成立しうるし、どんな理屈も通用しない。だから、今回私の執筆する文のどんな不条理も自然なこととして受け入れられるべきなのである(うそつけ(ポカリ)!!)。

とにかく以下の文は、いつだったか私が見た断片的な夢のあらましをある先輩に語ってみた所、先輩が予想以上にウケてくださったことに、由来するものである。

  1. 摩訶不思議野球帝国へのいざない

    さて、私がどういうたぐいの夢を見たのかというと、かいつまんで言えば、「世の中が野球一色になってしまった夢」ということなのである。どういうことか?

    私の灰白色の脳細胞が(←小林秀雄調に)夢に入りかけたころ、いや、その瞬間から、私はどこかの高校の教壇に立っていたのだ。なぜ私が高校教師なの? と、自問自答している暇はなかった。何しろこれは夢なんだからね。気がつくと私は生徒に向かって大きな声で説明をしている………

    ―――ここで、広沢克己が、えー、当時はまだ克だけでなくって克己でしたが、仲田幸司から決勝ホームランを打つんですね。そして試合はそのまま1:0でヤクルトが勝利。これが、近代野球史学における『92年度神宮球場の天王山』という分岐点であったわけです。

    ―――先生、「八木の幻のホームラン」とどっちが影響が大きかったんですか?

    ―――うーむ、それはですね、阪神党、当時セ議院でヤクルト党と過半数を争っていたわけですが、今はその面影もありませんけど、阪神党の議員の人はその「八木の幻のホームラン云々」の方が影響大だ、あれは絶対に誤審だからだ、と言明していますね。

    !?!?!?!?!?!?!?!?!?!? というわけなのだ。まさにこの世は野球一色。学校の科目で野球史なるものが開講されているのである。しかも、私がそれを教えている。

    ……………と、私が見た夢はこんなものである。しかし、先述のようにある先輩と話が盛り上がったのは、私がこのユニークな夢―――短い物だったが―――に自分の想像を付加し、一つの社会構想として先輩に申し上げてみたことの賜物なのだ。

    てなわけで、先輩に申し上げたこともそうでなかったこともここで一気に書かせていただこうと思う。ここに、21世紀野球帝国が誕生したのだった(?)。

  2. 野球帝国のあらまし(政治編)

    日本の議院はもはや衆議院と参議院ではない。「セ議院」と「パ議院」の二院制になる(おえ〜)。

    日本の政治を動かす職業、それが「野球家」すなわちプロ野球選手。これは主にさまざまな高校・大学の「野球実習学部」を卒業した腕利きの「野球屋」たちが、国家公務員試験ならぬ国家野球試験のふるいにかけられたのち、いずれかの議院のいずれかの党に所属するというプロセスを経てなる職業である(政治家と国家公務員がごっちゃになってる。めちゃくちゃだね)。

    セ議院にてここ数年よく過半数をしめる党が、巨人党、ヤクルト党の二つである。尚、近々横浜党が野党ながら急成長し、世間を騒がせている。

    パ議院では、西武党、オリックス党といったところか。しかしダイエー党が最近の所これまた成長しており、パ議院風雲急を告げる、といった雰囲気が醸し出されている。そしてオリックス党は昔日の迫力を失い野党に逆戻りしつつあるかのような失速ぶりといえる。

    選挙について説明しよう。毎年四月から十月が、プロ野球シーズンを兼ねた野球選挙であり、試合に多く勝ったチームから順番に、国家野球試験の成績優秀者を獲得できる。もちろん、優勝したチームが最も多くのそして最も優秀な議員を獲得し、そして十月から十一月にかけて両議院を代表する二チームが、日本の政権をかけて闘う。これが日本シリーズというわけだ。こうして政権を取ったチーム、いや、党は、その後一年間日本の政治を思うままに動かせる特権を得るのである。十一月から翌年の四月までが選挙予備期間で、各党はより多くのファン、いや、市民の支持を得て試合に勝つための優秀な人材を集めるために、宣伝カーやポスターを駆使して、様々な大学からの「野球屋」の獲得、および次期の政権獲得を目指す。

    総じて、政権獲得は、野球人材の効果的な獲得に依存している。そして、様々な省庁の長官も、政権を取った党の派閥で構成されている。今年は、総理大臣がダイエー党党首の王氏、その他重要な役職はかなりの比率で、昨年度優勝のダイエー党の野球家によってしめられているのが現状。このような状況の打破が最近叫ばれているが、当面、プロ野球界の一番の問題は、審判の誤審防止、危険球制度の廃止などであろう。

  3. 野球帝国のあらまし(学府編)

    それでは、大学とかの学府においてどのようなことが展開されているのでしょうか。

    大学で開講されている授業でもちょっと見てみましょう。

    まずは、某大学実習学部に通うA君の時間割。


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    近代野球史ゼミ「名監督の条件」野球実習野球実習
    審判論
    高校野球史ゼミ「理想の二番バッター」
    古代野球史野球解説術

    準実習(野球を観戦する)


    ゼミ「グラブの差し出し方」スライディング技術論

    傷の応急処置論 筋力トレーニング基礎論長打力増強術

    ざっと週15コマ。ゼミも多いですね。パワーヒッター志望のA君、「長打力増強術」とか「筋力トレーニング基礎論」にその意図が垣間見えます。しかし、「理想の二番バッター」など、その他にも多種多様な授業を取って、がんばっていらっしゃるようです。

    それでは次に、基礎野球科学科のB君の時間割。


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    近代野球史
    観客動員把握論

    野球実況基礎演習
    ゼミ「スライダーの解析」

    野球解説術







    変化球応用論




    野球解説者をめざすB君は、将来の確固たる目標を見据えて、授業内容もそれに則した物が多いですね。何でも、卒業後すぐに国家野球解説者試験に挑戦されるそうです。ご健闘をお祈りします。

  4. ちょっとしたあとがき

    いかがでしたか? 全くもって不条理すぎる虚構の世界でしたね。

    それにしても、こんなくだらない文を最後まで読んでくださった方々に感謝。

    次はどんな夢を見るのだろうか―――まぁいいや、今日はもう寝よう―――。


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