■ イスタンブールの旅 〜チャイとコーヒー/季節の飲み物〜


 
トルコといえばトルココーヒー…というのは少し昔の話らしい。コーヒーは値段が高く、少し安いチャイの方が日常的な飲み物とのこと。

 どこの国でも自動販売機のない街では(日本は異常だ)カフェやティーサロンを利用するのがごく普通。値段も安いし、友人達とのおしゃべりの場にもなる素敵な習慣だ。ただしイスタンブールのサロンはほとんどの場合オヤジサロン。新市街のパスターネには女子学生らしきグループも見かけたけれど、女性はまだまだ家の中から外に出ないのである。

●チャイ

 トルコのチャイは紅茶である。そのいれ方は2段式のポット:チャイダンルックを使った独特のスタイル。色はこれぞ「紅茶」という赤い色。とても美しいのだが、葉を蒸らしながら長時間抽出するので、味はかなり濃い。

 子供の頃、日曜日のおやつは紅茶をいれる我が家であったが、当時は今程いろいろな種類はなくて、日東紅茶のティーバッグを使っていた。それでも家族5人でコタツを囲んでホットケーキや揚げシュークリーム、チーズをのせたクラッカー等と一緒に紅茶をいただくのはちょっと特別な感じがして、子供心にも嬉しくておいしかった。トルコのチャイはこの時の味と同じであったのだ。一口で「あ、日東紅茶」と呟いてしまった程。

 トルコではミルクは入れずに側に添えられた角砂糖を2つ入れるのが標準的な飲み方であり、普段は何も入れない紅茶を好む私も、チャイには砂糖を入れた方がおいしいと感じる。インドのチャイも紅茶だが、こちらはミルクで煮出すのが特徴。同じ「チャイ=茶」でも飲み方は様々である。中国の「茶」は広東から「チャ」、アモイからは「テ」として世界中に広まり、現在「チャ」「チャイ」と呼ぶのは日本やトルコ、インド、ロシア、ポルトガル等だそうだ。一方「テ」「ティー」はイギリスやフランス・イタリア等々。フランスやスペインではテなのに隣接したポルトガルでチャというのも不思議である。 トルコのチャイは主に黒海周辺で栽培されている。同じく黒海に面したロシアでも同じような紅茶を同じように飲むとか。こちらはサモワールというやはり2段式の湯沸かし器を使ってチャイをいれる。どんな味なのか、ロシアの紅茶も是非試してみたい。

 トルコに行ったら独特の形のグラスでチャイを飲むのを楽しみにしていた。しかし、最初に飲んだ店では普通のコーヒーカップ。2軒目も3軒目もだ。周りで飲んでいる人たちのテーブルにも皆普通のカップ。あのグラスは本当は使われていないのか?と心配になる。初日は絨毯屋が店先でごちそうしてくれたチャイを除いては全てカップ入だったのだ!

 滞在2日目に入った老舗パスターネ(菓子屋)のサライではメニューに2種類のチャイが載っていた。店員に確認してようやくあのグラスをチャイバルダーウと呼ぶことを知る。以降、チャイを注文する時にはカップかチャイバルダーウか確認するようになった。チャイバルダーウは小さいのでカップより安いことが多いし、美しい色を楽しむには味気ない陶器のカップよりもガラスの方が都合が良い。最初に続いたカップ入りチャイにはガッカリしたけど、後はほとんど理想通りに楽しめた。街歩きにも慣れてくると、旧市街のモスクや宮殿付近ではチャイ屋も少ないことに気付く。この周辺ではほとんどカップ入りだった。一方、バザールや新市街の商店街ではチャイ屋が手つきのトレーでこのチャイバルダーウのチャイを配達するのを良く見かけたし、チャイ屋やパスターネもたくさんある。

 チャイは熱いのだけど、チャイバルダーウが持てない程では無く、ちょっと口をすぼめて啜る感じがなんとも言えずに良い。なぜか冷め難く、また冷める前に飲み終える量であるのも気に入った。

 サライは品の良いパスターネなのに菓子の値段は一つ1,500,000トルコリラ=約1ドルと安く、このチャイバルダーウに至っては500,000トルコリラ=約1/3ドル(つまりは40円)なのは驚きである。ちなみにカップのチャイは1,200,000トルコリラ。

 20才を過ぎた頃からフランスのフレーバーティーやイギリスのブランド品を好んで味わっていたが、いれ方もあるのだろうけど時々何だか紅茶じゃないようなモノも…きっとこれがこの茶の味なのだろうからコレでイイヤと考えていた。でも、トルコで飲むチャイはどこででもハッキリと「紅茶」の色と味がした。ずっと探していたものを見付けた気分。トルコのチャイは本当においしい。

●コーヒー

 トゥルク・カフヴェスィ=トルココーヒーは小さい鍋で挽いた豆を煮出すスタイルだ。アラブのコーヒーは有名だが、大抵は煮出すスタイル。挽いた場合はドロドロと濃く、色も苦味もとても強い。私はこのアラブ&ギリシャ系煮出しコーヒーが苦手で、はじめてレバノン料理屋で飲んだ時は「アスファルトの味」と思った程(食べたことはありませんが)。

 しかし、トルコに来たからにはやはり飲まなくては!ということで高級レストランのコンヤルで注文した。民俗衣装を着た少年が小さいコーヒー沸かしをしずしずと運んできて、目の前でカップに注ぐという演出はちょっと嬉しい。しかし、味はやはり好むものではなく、一口でやめてしまった。トルコでは砂糖も一緒に煮出すので甘いアスファルトなのだった。キチンと飲み干せば残ったカスでコーヒー占いもできるのだが、修業の足りない私はそこまで到達できない。

●アイラン

 アイラン=ヨーグルトドリンクは夏の飲み物と本で読んだが、レストランには必ずあるし、食事中は水かアイランを飲むのが普通のようなので、ほとんど毎食注文していた。味は水でうすめた塩味のヨーグルトである。インドのラッシーと同じだ。ラッシーは日本ではなぜか甘い方が好まれるのだが、現地では塩味もよく飲まれている、とインドに詳しい友人から聞いたことがある。イスタンブールでは市販品のヨーグルトを使うのが一般的。でも昔は家庭でミルクからヨーグルトを作っていたらしい。今も牧畜が盛んな地域ではごく普通にそれは続いているとのこと。手作りのヨーグルトやアイランも一度試してみたいものだ。 トルコのヨーグルトは日本のものよりも濃い。放っておくと表面に薄い膜が張る。水分は少なめで、淡白ながらコクがあっておいしい。日本で食べると何だか身体が冷えるような感じがあるが、トルコでは逆に身体が温まるような気がした。毎日たくさん飲み、そして食べていたので体調もいつにも増して良かったと思う。


 

●サーレップ

 サーレップ=ランの球根からとったデンプン・またはそれでトロミをつけたモノは冬の飲み物である。パスターネの店頭にはサーレップと書かれた紙が貼ってあったり、サーレップの入った保温ポットが置かれていたり、と一種風物詩のようでもあり人気がある。日本の冬の「甘酒」というところか。グランド・バザールや、街中にもサーレップ売りがいて、プラスチックのカップを手に持って歩く人も多い。手軽なインスタントサーレップもあるようだ。 

 私は気に入りパスターネのコンヤルで毎朝サーレップを飲んだ。チャイよりも値段は高いが、出勤前のトルコオヤジ達も皆これを飲んでいる。白くトロリとした液体はほんの一瞬で表面に膜が張る程熱々で、火傷しそう。味は甘いホットミルクのごく薄いシナモン風味というところか。デンプンでゆるいトロミがついているから、ミルクくず湯という表現も良いかもしれない。唇にミルクの膜が何度も貼り付くのは困るが、カップは大きいのでたっぷり味わえ、最後まで冷めないのは嬉しい。 

 サーレップは昔から身体に良いとされ、古くは1世紀のギリシャの薬学書にキチンと記載されている由緒正しき物だとか。インドではスパイスを入れたりギリシャではハチミツをあわせるそうだ。薬効の程は良く分からないが、身体がポカポカするのは本当である。私はこんなに温まる飲み物を他に知らない。毎朝一杯を飲み終える頃には汗をかいていた。そしてその度に背中に貼ったホカロンを後悔するのだった。暑い…

 アイランは年中飲めてもサーレップはやはり冬だけのものだろうな。

 コンヤルのサーレップは毎日味が微妙に違っていた。おそらく、保温している間に煮詰まってしまうのだろう。一度、おやつの時間に飲んだ時は、まるでエバミルク?と聞きたくなる程煮詰まっていた。

●ボザ

 ボザ=大麦や粟を発酵させたモノも冬の冷たい飲み物である。街中ではボザ売りがいると本で読んだのだけど、一度も出会わなかった。でも飲んでみたかったので、いろいろな店でメニューにボザの名を探すが、ほとんどの店では置いていなかった。

 トルコ名物の伸びるアイスクリームドンドルマの店でボザの文字を発見。早速頼んでみた。すると…大きなコップに一杯に入ったドロドロした液体の上に、何やら香ばしい豆のようなものが浮かんでいる。このドロドロはとても濃厚で、飲むというよりは食べると言う方が相応しい。側にはすくって食べるためのスプーンも添えられる。

 さて、味はというと、本で読んだような穀類を発酵させた味、イメージとしては冷たい甘酒のようなモノかと思ったら全然そうではなく、なぜか洋梨の缶詰めをミキサーにかけてピュレにしたような味。甘さは薄いけれど、一番近いのはコレなのである。すり卸しリンゴや潰した煮リンゴにも似ている。そして上にのっている香ばしいのは煎ったヒヨコ豆。こちらはまるで節分の豆であった。

 節分の煎り大豆をつまみながら洋梨の缶詰めピュレや卸しリンゴを食べるといったボザの味。どうしてこれが冬の味?なのかは分からないけど、なんだか懐かしいような不思議な気持ちになるのだった。

世の中にはまだまだ知らない味があるのだなあ…



イスタンブールふたたび



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