■ イスタンブールの旅 〜トルコ料理:スープ/肉/魚/野菜〜


 トルコ料理はパリで2度程食べたことがあり、ギリシャ料理やレバノン等のアラブ系のと同じようなものだと思い込んでいた。ブドウの葉でピラフを包んだり、茄子やトマト、羊とオリーブオイル…地中海に面しているからには、イタリア料理にも似ていて当然。トルコに来ればもっと地中海料理を勉強できると大きく期待していた。

 しかし、実際にイスタンブールで食べたものは確かに地中海の特産品を使ってあるが、何か違っていた。なんだかとっても懐かしいホッとする料理が多いのだ。全てを食べ尽くした訳ではないので断言はできないけれど、トルコ料理には日本人の味覚と共通する何かを感じさせるものが潜んでいると思う。

 その懐かしい味は醤油や魚の旨味ではない。アジアを旅するとどの街にも魚醤の香りが街にしみ込んでいて、魚醤が苦手の私は3日もするとツライのであるが、多くの日本人にはそこに共通する何かを感じるようだ。でも、ここイスタンブールではそれはなかった。塩の加減か、素材をあまりいじくり回さない点か…オリーブオイルも強い香りでは無いし、全体に穏やかな味付けだからなのか…。また、私達日本人がいまやいろいろな国の食文化を勝手に取り入れた食生活に慣れてしまったからそう感じたのかもしれない。
 スパイスやハーブ使い、ヨーグルトの多用等、日本とは全く違った面も多いトルコ料理。アジアでもありヨーロッパでもあり、アラブでもあり…私ごときが一言で説明できるような薄い食文化では無いことは確かである。
 食べる程に謎が深まるこの国の不思議な料理。もっともっと知りたいと思うのであった。

●チョルバス(ス−プ類) 

 スープは朝食にも他の食事の時でもよく登場するようだ。今回私が試したのはレンズ豆のスープ2種類。まずはコンヤルという宮廷料理を出す高級料理店で食べたもの。こちらはメルジメッキ・チョルバスというレンズ豆の裏漉しスープにクルトンを浮かべただけで、穏やかでおいしかった。2度目に食べたのは新市街の安いロカンタ(大衆食堂)。セルフサービスのごく普通の店だ。ここで何気なく手にしたレンズ豆のスープはトマトやブルグルという引き割り小麦が入ったもの。ほんのりとミントの香りがして驚く程おいしい。これはレンズ豆のスープでも「花嫁のスープ」と呼ばれるエゾゲリン・チョルバス=ミント風味のレンズ豆のスープ。自分でも作りたい味であった。

 レンズ豆のスープには必ずレモンが添えられていた。そういうものらしい。サラダにもレモン。トルコの人はレモンが好きなのだろうか。


●ケバブ(焼肉類)とキョフテ(肉団子)

 ケバブというとシシ・ケバブを思い浮かべるが、トルコにはたくさんのケバブがある。私が試したのはコンヤルのスペシャリテであるコンヤル・ケバブ=羊のモモをレストラン「コンヤル」風にじっくり焼いた料理だ。とてもしっとりしてちょうどよい柔らかさは一体どうやって作ったのか?ただのローストとは違うおいしさ。付け合わせには松の実やレーズンを入れた甘いピラフとモチモチとしたマッシュポテト、そしてトマトとインゲン。肉の味が素晴らしく、味加減も良い。しかしこのモチモチポテト。フランスのオーベルニュ地方名物の「アリゴ」というマッシュポテトに瓜二つである。両者の関係は一体…

 このレストラン「コンヤル」はトプカプ宮殿内にあるので入場料もかかる上に他の店より高いけれど、眺めの良さも考えるととてもおトクだと思う。

 次に食べたケバブはエミノニュの歩道橋の下にあるエルミールという店のイスケンデル・ケバブ=羊の焼肉をトマトとヨーグルト味で食べる料理。イスケンデルとはアレキサンダーのことで、これはアレキサンダー大王のことではなく、考案者の名前だそうだ。トルコには似たような名前の人が多く、イスケンデルさんもたくさんいるらしい。イスタンブールの隣にあるブルサという街が発祥地とのことなので、本来なら現地に脚を運ぶべきだが、それはトルコに慣れてからにしよう。ケバブはよくあるドネル・ケバブ。ギリシャ料理屋等で見かけるグルグル回っているアレだ。焼けた部分から薄く切ってピタパンに挟んだサンドウィッチは、パリでも定番スナックだし、東京にも同じようなモノはある。イスケンデル・ケバブはこのそぎ切りにした羊肉をトマト味に軽く煮て、一口大に切ったパンの上にのせ、更に上からヨーグルトを掛けて仕上げる。羊+トマト+ヨーグルトはおいしい組み合わせだ。簡単でおいしく、人気もあるので、今やブルサに留まらず、どのレストランでも食べられるようになったとのこと。私の好みではドネル・ケバブの寄せ集めた肉の感じでは無く、丸ごとローストした肉を切るか、または最初から薄切りにした肉を焼いて同じ味に仕上げた方が良いなあ。

 そしていよいよシシ・ケバブ=串焼きのケバブだ。これはスルタンアフメットのキョフテとケバブ専門店、その名も「スルタンアフメット・キョフテジュ=スルタンアフメットのキョフテ屋」で試してみた。本で読んだり、写真で知っているケバブは太めの串に大きな肉の塊がトマトやナスと交互に刺さっていて、いかにも豪快で香ばしくおいしそうに焼き上げてあるものばかり。ロシア料理のシャシリクもほぼ同様の仕上げなのは、やはりトルコとロシアの地理的条件によるものか。トルコのシシ・ケバブは初めてなので期待は膨らむ。が、出て来たケバブは何だか焼き鳥から串を抜いたもの、といった風でガッカリした。肉も小さいし、何しろ串が無いというのはなんとも間が抜けているのである。肉そのものと焼き加減・塩加減や味はとても良いのだが…私の勝手な期待がいけないのだろう。一緒に注文したヨーグルトをかけるとまたひと味おいしくなる。添えてある青唐辛子の漬物は日本の古漬け以上に塩辛く、酸っぱい。これはちょっと苦手な味だった。

 この店はキョフテ=肉団子も名物。これも英語でミートボールなんて訳してあるし、長い串に刺さった大きめの肉団子かソーセージ状のモノを想像していたら…妙に細長くて扁平な姿。焼き立てで熱々でジューシーでおいしいのだが…串はシシ・ケバブと同じく抜いてあるので、皿の上にはまるでおでん種のつぶれたゴボ天がゴロゴロという具合。味はシンプルな塩味である。少し冷めると脂が固まる(羊の脂は融点が高いのだ)ので、熱々の内に一気に食べると良い。

 不思議なのは羊肉の羊味はどこで食べても穏やかであまり気にならないということ。私は結構鼻が良いのであるが、あの独特の香りはここトルコでは明らかに薄いのだ。冷めると少し感じる程度。これなら多分苦手な人も食べられるだろう。

 鶏や牛も見かけるが、羊が最も多く消費されているようだ。肉屋には肉部分だけではなく、頭も内臓もズラズラと並んでいる。天井からソーセージをブラ下げている店も多いが、これは牛肉のソーセージだそうだ。トルコのイスラム教は割合いと緩やかなのだが、やはり豚肉は食べないのである。トルコ航空の機内食の朝食にはオムレツとソーセージが付くのだが、「このソーセージは豚ではありません」というカードが添えてあった。

●魚介類の料理

 イスタンブールは中にも外にも海を持つ都市なので、魚介類を食べることは多い。沿岸部では魚をメインとしたレストランがズラリと並び、休日には家族揃って食事を楽しんだりするらしい。私が魚を食べたのもボスポラス海峡の定期船の終点であるアナドル・カヴァウの船着き場のすぐ側にあるレストランだ。

 まずはミディエ・タヴァ=ムール貝のフライ。カリカリの衣に包まれたムール貝は熱々で香りもよく、とてもおいしかった。ソースはラタトールといって水でふやかしたパンにすりつぶしたクルミやニンニクを混ぜたもの。これもナカナカおいしい組み合わせ。ただ、生のニンニクは苦手なので少し控えめにしておく。屋台や気楽な食堂では店頭で串刺しのムール貝を同じようにフライにして売っている。そのままでもよいし、パンにはさんでサンドウィッチも人気のようだ。

 ボニート=アジに似た魚という魚の塩焼きはあまりおいしくなかった。鮮度もそれほど良くないし、日本のアジより身が薄い。少し冷め気味だったこともあり、3尾並んでいても量味ともにあまり満足できなかった。

 たまたまあまりおいしくないレストランに入ってしまったと思うのだが、屋台のイワシ・サンドやガラタ橋のサバ・サンドはおいしかった。屋台で安心できるのは多少煙が目にしみても香ばしい焼き立てが食べられること。レストランでは厨房とサービスの連携がとれていないと悲惨な結果となる。たとえどんなに素晴らしい料理を作ったとしても、だ。これはトルコじゃなくても言えることですね。

●サラタと野菜料理

 サラダは野菜不足にならないように肉料理を頼んだ時は必ず食べた。しかしどれも味気ない…細く切った野菜が皿にのっているだけだが、あれは自分で味をつけろということなのか?レモンが添えてあるが、油は…たまたま頼んだ店のサラダに味が無かったのかもしれない。そして野菜そのものもごく普通の味であった。有名なチョバン・サラタス=羊飼いのサラタも野菜が角切りなっている点しか違いが見つけられなかった。シシ・ケバブとキョフテ屋では店の名物と言う白インゲン豆のサラダを頼んだが、普通の生野菜細切りサラダに軽く油であえた白インゲンがのっているだけ。これも味が無い。冬だったので、生野菜をどこかで買って味を見ることもしなかった。夏に来る機会があれば、トマトや胡瓜をそのまま食べてみたいものである。

 一方、火が通った野菜料理はナカナカおいしかった。カルヌ・ヤルク=茄子の肉詰めやイスティム・ケバブ=茄子包み蒸しの羊肉等、茄子好きな私には嬉しい料理が多い。他には野菜に詰物をしたドルマも有名だが、今回は食べずに帰ってきてしまった。また、メゼと呼ばれる前菜盛り合わせも…ブラブラ歩きの途中でオヤツばかり食べていたので、いざ食事時となるとあまりお腹が空いていなかったのだ。代わりにイスタンブールからパリに移動してからアラブ&ユダヤ料理店でメゼを山のように食べた。でも、どれもがキョーレツなゴマと生ニンニク味でトルコの味とは全然違う。やはりまた行かなくては。

 勉強不足、そして何しろ初トルコなのでどんな料理も何が基本スタイルなのかがいま一つよく分からなかったのは残念だ。下調べしたつもりでも、やはり本や写真だけでは全然分からない。次に来る時にはもう少し計画を立てて基準となる味を見付けたいと思う。



イスタンブールふたたび



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■ たびたびの旅