■ イスタンブールの旅 〜ハマム:トルコの伝統的蒸し風呂〜


 ハマムとはアラブのサウナである。起源はローマ時代の共同浴場とのこと。トルコのハマムは13世紀頃からの長い歴史を持ち、今も街中にはたくさんあり、そのほとんどが現役だ。イスタンブールのような都会には観光客用の店もあるが、本来は一般庶民の為の施設である。
 歴史的な建造物とも呼べる石造りのドームの中で過ごす一時はちょっと他では味わえない。豪華さや清潔さがウリの日本のサウナとはかなり違うので、少々覚悟も必要だけど。

 私が出掛けたのは旧市街のスルタン・アフメット地区から楽々歩けるチェンベルタシ・ハマム。トラムのチェンベルタシ駅のすぐ側だ。ガイドブックには観光客向けの割に値段が安く清潔という案内が載っていた。初めてであり貴重品等の扱いから考えると、完全に一般庶民向けよりも観光客よく利用するところの方が良いような気がしてこちらを選ぶ。本当はもっと高めの完全に外国人用の店にしようかと思っていたのだが、ホテルのレセプションマン(彼は毎日私の行動をチェックしている)に「今日はハマムに行く」と話したところ「チェンベルタシですか?私もよく行きますが良い店ですよ」と言っていたので、やはり現地民が行く店の方が良いような気がして、ここに決めた。

 ハマムの朝は早い。一般店は朝6:00から開いている。チェンベルタシもそうらしいが、ガイドブックの店の開店時間情報はあまり当てにならないし、閉っているのもイヤなので朝食の後8:30頃に店へ向かう。

 小さい入口である。有名な建築家による建物で400年以上の歴史があるということだが、外からはそんなことは全然分からない。中に入るとすぐ左手に料金所。受付のおじさんが料金表(英仏独語)を見せてくれた中から15ドルのマッサージ付を選び、その場でお金を払う。ドルで払ってドルのおつりが戻ってきたのは滞在中ここだけであった。
 女性用の入口は右側。どうしたらよいのか聞くと、受付のおじさんはロッカー室の中にいたトルコ人の女の子2人を呼んで、私にいろいろ教えてくれるように頼んでくれた。ロッカー室は部屋と言うより通路にロッカーを無理矢理置いた程度。安い温泉場か公営プールのロッカーの様なもので、一応簡単なカギが付いている。私を含めて4人の女性がいた。場所そのものはとても狭いので、混んでいる時でなくてよかったと思った。清潔というのはどの程度を言うのか分からないが、ここが清潔なのだとしたら他の店はかなりスゴイということなのだろう。そして2人の教えに従って、棚に並んでいる浴室用の突っ掛けサンダルをとり、服を脱いでタオルを身体に巻き付けた。

 トルコに来る前に読んだ本には、トルコ人は男女とも人前で真っ裸にはならないと書いてあった。他でもその話は聞いたことがある。もちろん状況にもよるだろうが、ハマムではそうらしい。裸になる場合はとりあえずパンツだけは着けたままでいるように、という記述。
 半信半疑であったが、横目で他の女の子を見ると1人は全部脱いでしまったが、他2人はパンツをはいている。やっぱりそうなんだ…そしてもう一つ本に書いてあったことも確認してしまった。トルコの女性は脱毛をするのが普通で「毛髪以外は全てツルツル」ということ。毛髪以外ということはアレもコレも?エエッ?まさかそんな…と、疑っていた。が、その全部脱いでしまった女の子はまさにその通りで全身ツルツルではないか!(一応控え目に見てました)パンツ&ツルツル説は本当だったのだ!この瞬間を分かちあえる相手がいなくて淋しい…
 ハマムの中では私だけが外国人だから多分何も身に着けなくてもツルツルしていなくても許されるとは思ったが、ココはひとつ日本人らしく(?)郷に入っては郷に従えという言葉を半分守り、とりあえずもしもの時に持ってきたパンツに着替え、タオルを巻いて浴室に向かった。

 浴室は石造りのドームである。天井には穴が幾つも開いていて、やわらかい光が入ってくる。中央にはヘソ石と呼ばれる大理石があり、この石の上はポカポカと温かい。室内全体は特にモウモウと蒸気で煙った感じはなく、湿度は高いが適度な温度であった。ヘソ石を囲んで壁側には洗い場があり、そこで身体にお湯を掛けながらマッサージのオバさんを待つ。5分くらいジャバジャバとしていると、大黒様のように太った女性が服を着たまま勢いよく入ってきて4人に「マッサージ?マッサージ?マッサージ?マッサージ?」と聞いて来た。皆頷くと彼女も大きく頷き、外へ出た。どうやら彼女がマッサージをする「ケセジ」らしい。
 ハマムのマッサージとはアカスリも含めたものである。韓国のアカスリも有名だが、トルコのハマムも歴史は長い。戻って来たケセジオバさんは妙にきわどい赤いパンツに黒いタンクトップといういでたち。手には石鹸液とタオルの入ったバケツを下げていた。そしてタンクトップをやおら脱いで(なぜ脱ぐのだろう?)パンツ一丁になると、ヘソ石にタオルを敷いて端のトルコ人の女の子を寝かせ、手袋をはめてアカをスリはじめた。皆がジッと見守る中、ゴシゴシゴシゴシされるのだ…やはりパンツをはいてきて良かった…。
 私は4番目なので、先の3人をじっくり観察。温かい大理石に寝そべってチラチラとアカスリ&マッサージ風景を眺めるというのも滅多に出来ない経験である。1人約10分。ようやく私の番になった。他の3人はサッサと出ていってしまったので浴室には私とケセジオバさん2人きりだ。

 うつぶせにされて背中をゴシゴシ→仰向けでお腹側をゴシゴシ→座って腕と体側ゴシゴシ→湯で流す、というアカスリはアッと言う間に終わる簡単なもの。なんだか私は最後だから簡単に済ませられたような気も…軽く擦る程度なので全然痛く無いのだが、結構アカはとれたように見えた。
 そして、次はマッサージ。石鹸液の中から袋状の布を取り出し、フッと息を吹き入れて袋を膨らませて端からしごくとアラ不思議!キメ細かい泡がモコモコと大量にできる(考えてみれば不思議でも何でもない。子供の頃のお風呂遊びの要領だ)。私は、というと顔以外は泡で包まれた羊状態。後はオバさんが素手でヌルヌルとマッサージ。マッサージと言うよりちょっと撫で回す程度という方が適当か。もう少し力を入れて欲しいが、途中で泡は顔半分を覆ってしまい、息をするのが精一杯…結局何も言えずになされるがままの10分間だった。
 最後はシャンプー。洗い場に座ると頭からザブザブと湯をかけられ、脳天にシャンプー液をタラリ。ゴシゴシグルグルと目耳鼻の全て泡だらけにされる豪快なシャンプーである。リンス?ありません、そんなモノは。

 身体をこすられている最中はなんだか物足りないような気もしたが、それでも全て終わると身体はポカポカだし、スッキリした感じになる。ま、あれだけゆっくりヘソ石で温まれば当然か。ケセジオバさんに御礼を言って浴室を出た。チップも要求されなくて、本当に15ドルで済んだのはちょっと驚き。

 アカスリ&マッサージそのものはまた行きたい!というレベルではないが、あの独特の雰囲気とポカポカした大理石でボーッとできることを考えると「トルコのハマムは良いところ」である。パリのイスラム寺院モスケでもハマムがあるが、きっとこんな感じなのかな、と思った。またトルコに来る機会があれば、今度は地元客用に挑戦だ。多分ツルツルにはできないが、またパンツだけは忘れないようにしたい。その時にもう一つ確認したいのはケセジオバさんの格好。韓国のアカスリおばさん達は皆なぜか黒い下着姿だった。トルコでもケセジのユニフォームというかスタンダードは存在するのだろうか?
 それにしても…サウナに入れば痩せると思っていたけれど、ケセジオバさんのあの太り方からするとそういう効果は全くないようである。


 すっかりイスタンブール好きになった私は半年後の夏に再びハマムに寝そべっていた。日曜日の早朝、客は私1人。ケセジオバさんは40代くらいか。やはり太っていた。今回は白いパンツ(下着の)姿だったので、色は自由だという事が判明。下着姿はスタンダード、ということだろうか。ま、どっちでも良いですが。


イスタンブールふたたび



■ La Bonne Table
■ たびたびの旅