■ イスタンブールの旅 〜見どころ〜


 イスタンブールは広いトルコの西側に位置し、ボスポラス海峡を境に西はヨーロッパ、東はアジアというまさに東西の境界線の都である。地理にも世界史にも疎い私は、まずイスタンブールがトルコの首都でないことを知ってもう賢くなった気分。ちなみに首都は中部のアンカラだ。 そして東西に分かれているだけでなく、歴史的建造物が集中しているヨーロッパ側は金角湾(ゴールデンホーン)で新旧市街に分かれ、とにかく複雑なのだ。そして坂道が多い。七つの丘の街イスタンブールはちょっと疲れるトコロでもある。

 旅の目的は相変わらず食べることなのだが、初めての街はやはり観光もキッチリしたい。他の街へは移動せず、5日間ゆっくりと滞在し自分の足で歩いたイスタンブール。今回はヨーロッパ側の有名処へ出掛けてみました。



●旧市街

 ホテルはガイドブックに載っていた旧市街のスルタンアフメット地区という観光の中心地にある「スピナ」を選んだ。すぐ近くには観光客用の土産店が立ち並ぶアラスタバザールがあり、ホテルの隣も向かい側も皆絨毯屋だ。安めのホテルでのトラブルはモチロン幾つもあったのだが、大したことでは無い。それよりもしつこい客引きがイヤだった。彼等は日本語や英語で話し掛けてくる。あまりにもしつこいので、2日目からは裏道をおぼえてそちらばかりを歩いていた。

 この地域のホテルに滞在すると良いことが一つだけある。毎日一定の時間になると流れる美しい祈りの声だ。時間は多分変化するのだろうが、私が滞在した時は毎朝6:25になると厳かに聞こえてきた。シャワーがぬるくても、停電しても、電話が壊れても、この静かな祈りの声を聞くことが出来たのは、今回の旅の大きな収穫だ。

 ホテルの部屋からも見えるブルーモスク(スルタンアフメット・ジャミイ)は一晩中ライトアップされており、大変美しい。その名の通り青いモスク:イスラム寺院だ。17世紀オスマン様式の建造物とのこと。寺院内へは無料で入れる。ジャミイは靴を脱いで入るのが普通。内部は薄暗いものの、素晴らしいモザイクが壁一面に施され、無数のランプが釣り下げられて独特の雰囲気。立ち入り禁止の場所が多いのは非常に残念である。外にはベンチが並んでいるので座ってゆっくりしたいところだが、座ったら最後、絨毯屋&土産物屋に囲まれるでしょう。
 朝まだ早い時間から開いているので、他の博物館を見る前にまずここで時間を遣うと良いだろう。

 ブルーモスクに対面する建物はアヤソフィア博物館。こちらは4世紀にビザンチン様式のキリスト教会堂として建てられたが、15世紀のオスマン・トルコ時代にはイスラム教のモスクに改められた、複雑で長い歴史を持つものである。こういう話を読むと、高校の世界史の鷲尾先生(ワヒオ先生)の顔を思い出しても内容は全く思い出せないのが情けない。いずれにせよ、キリストやらマリア様に並んでアラーを示す文字が並ぶ不思議な教会。残念なことに、中央の大ドームは工事中で全貌は見ることが出来なかった。 アヤソフィアの外廊には「子宝伝説」で知られる「湿った柱」がある。触ると子宝に恵まれるとか。たくさんの人が触ったのでこの柱には穴が開いたといわれ、その穴に親指をいれたまま手の平をグルリと一周できれば願いごとが叶うという話である。これが本当なら今年ははアレもコレも夢が叶って更には子供も…楽しみだ。

 アヤソフィアからトラムの線路を渡ってすぐのところに地下宮殿がある。これはビザンチン時代に作られた地下貯水施設。小さい入口なので見落としそうであるが、内部は広い。ちょっと音楽がうるさすぎるが、暗く湿った空気と、無数の柱、そして静かに流れる水は幻想的で美しい。

 奥に進むと柱を支えるメデューサの首がある。メデューサといえばギリシャ神話で女同士のよくある嫉妬から醜い姿に変えられたあのメデューサ。身体はウロコで包まれ、髪の毛は生きたヘビというあまりの醜い姿に、見た者は皆石になるというのを、子供の頃に読んだことがある。イラスト入のそのページを開くのがとても恐かったっけ。最終的には英雄ペルセウスが自分の盾にメデューサを映して首を切り落とすという話だ。(教養が…)

 このメデューサの首は逆さまになっており、ちょうどアゴで柱を支えている格好。本で読む程恐い顔ではなくて、ズングリムックリだ。ちょっとホッとしたが、地下への侵入者を脅かすために造られたとか。

 ブルーモスクに隣接する公園ヒポドゥロームは古代ローマの競馬場跡である。ここには3本のオベリスク(塔)がある。エジプトから運ばれたモノと、ギリシャから運ばれたヘビが絡んだような形のモノ、そしてコンスタンティノープル時代に造られたモノ。公園を歩いていたら近寄って来た絨毯屋のアフマッドが教えてくれた。タダで観光案内は結構だが、長いガイドの後にはお茶に誘われるのは必至。彼ももちろん「近くでチャイでも飲みましょう。あなたは何かロイヤルな雰囲気(どういうことだ?)がします。」と言ってきたが、そうはいかないゾ。一通り聞いた後には急に疲れた振りをして逃げるように去った私は悪いことをしたのだろうか?

 公園にはカフェもあるのでゆっくり休むこともできる。でも絨毯屋はカフェでも声を掛けてくるのだ。この辺りは気が抜けないのである。絨毯を買うつもりがあれば良いだろうが、私はそうではないのです。
 トルコの絨毯は素敵だ。当然日本よりも種類は多く、安いのは確かだろう。でも、衝動買いするにはあまりに額が大きい。買い物は自分が欲しいと感じた時に自分で買いに行くので、人からすすめられるのはイヤなのだ。

 アヤソフィアから続く緩やかな坂道を歩くことしばし。トプカプ宮殿に到着する。15世紀のオスマン・トルコ時代にスルタン(皇帝)達が生活し、政治を執り行ったところだ。

 ヨーロッパの城のような門をくぐると庭園が広がっており、低い建物が並んでいる。ガイドブックで読む程広くない、というのが第一印象。毎度の事で過度の予習で期待や想像は大きく膨らんでしまい、北京の天安門広場に立った時でさえ思ったよりも「狭い」ことにがっかりしてしまった私である。

 宮殿内は特に順路も決まっておらず、適当に観て回るスタイルだが、見どころのハレムや宝物間は別料金。それぞれ入園料と同じ位かかってしまうのはちょっと納得行かないが、滅多に無い機会なので全て見学しておいた。
 美しいモザイクは建物の全てに施されており、展示物はもう豪華絢爛。正直、私には悪趣味と思える程の金銀宝石がズラリ。ハレムは別料金の定員制で、英語のガイドが付く。浴室や女奴隷の控え室等が続く館内はそれ程広くもなく、ただ皇帝から目を掛けられることだけを目的に生き、そのために熾烈な争いをしてきた女性達を思うと悲しくなってしまった。厨房展示室では大きな鍋釜や食器類が並んでいるのだが、食器類は中国のモノとあまり変わらない。イスタンブールはアジアなのだなあと思う。ゆっくりしたつもりはないのだけれど、ハレムの30分も入れて2時間以上も経っていた。

 庭そのものはあまり凝った造りではない。奥へ進んでいくと見晴し台が数カ所あり、東屋も建っている。建物よりもこの眺めの素晴らしさに入る価値を感じてしまった。そして最も見晴しの良いところにコンヤルというレストランがある。出かける前に調べた数冊の本に宮廷料理を食べられるということで紹介されていたのだ。

 コンヤルの料理はおいしいし、何といってもテラスからボスポラス海峡を眺めるなんて最高だ。カフェも併設されており、こちらは気楽な値段の気楽な食事ができる様子。どちらも人気であった。天気さえ良ければこのレストランを利用するために宮殿への入園料を払っても無駄ではない。

 グランド・バザールはアヤソフィアから15分くらい歩いたところにある。トラムの線路沿いにごくごく緩い坂道を上っていけば直ぐだ。すこし線路からは外れるが、案内表示もあるのでまず迷わない。貴金属類や土産物、絨毯類がジャンル別に並ぶバザールは私にはあまり面白く無かった。広い屋内には店はたくさんあっても、興味をそそる食べ物や飲み物の店はあまり無い。お土産を買うために観光客が行くところ、というのは本当だった。まあそれなりに古い建物の中は味があるが…一周しただけでサッサと出てきてしまった。

 グランドバザールから少し先にイスタンブール大学がある。大学の側を進み、15分程歩くとスュレイマニエ・ジャミイに到着する。このモスクは新市街や船の発着するエミノニュから良く見える立派な建物だ。他の丘よりも高い丘のようで、堂々とした姿が印象的。ということでテクテク歩いて行ってみた。有名な建築家が造ったそうだが、近付くと思った程と大きくは無かった。遠くから見ると一つの建物に見えたジャミイは実は斜面も利用して丸い屋根の建物を周囲に配しているだけで、実際には幾つもの建物が並んでいるだけだった。

 このモスクに辿り着くまでは庶民の市が並び、これは結構面白い。といっても、なぜか衣類や日用品ばかり。食料品の市は見かけないが、人々は一体どこで買い物するのだろう?



●エミノニュ/スィルケジ駅周辺

 

 旧市街からトラムの線路に沿って坂道を下っていくとヨーロッパ調の建物のスィルケジ駅が右手に見える。この辺りは食べ物屋や安いホテルが並び、ちょっと脇に入ると電気製品街があったりする賑やかなところだ。あまり観光客はおらず、ほとんど地元の人。目の前にはエミノニュ桟橋があり、赤いトルコ国旗をつけた大きな船やヨーロッパとアジアをつなぐボスフォラス大橋が良く見える。対岸の新市街には丘中腹に建つガラタ塔が美しい。

 船着き場を海沿いに進むと昼頃から賑わうサバサンド船がモウモウと煙をあげている。二ケ所あるが一方は常に混雑していて、一方は常にガラ空きだった。そして新市街へと続くガラタ橋へ。

 新市街までは数百mという程度。渡し船もたくさん出ているが、歩いても時間はあまりかからない。ガラタ橋の幅は広く、左右は歩道がたっぷりとってあってとても歩きやすい。橋の下にはレストランやカフェもある。多分オシャレな若者を狙ったのだろうけど、どの店もあまり混んではいなかった。
 橋の上にはいつでも釣り糸を垂れるトルコオヤジ達がズラリと並んでいる。平日の真っ昼間なのに彼等の仕事は何なのだろう…それにしても魚はよく釣れており、ウナギやアジ、サバがあちこちでピチピチ宙を泳いでいた。橋脚近くは良いスポットのようで、人もその辺りに集中している。そして皆手製の釣り竿固定板を太いゴムで縛り付け、足元にはヨーグルトの空きバケツを置いていた。トルコはヨーグルトを毎日大量に食べるので、L単位で買うのが普通らしい。5L程度のバケツは魚を入れるのに丁度良い大きさなのだ。時々マヨネーズバケツの人もいたが、9割以上はヨーグルトなのだ。こういう発見はちょっと嬉しい。

 ガラタ橋の旧市街側付近には鳩が群がるイェニ・ジャミイエジプシャン・バザールがある。周辺はゴチャゴチャしているが、いろいろなモノ売りや人々を眺めるのは楽しい。ジャミイは大きく、入口には鳩のエサを売る叔母さんがたくさんいる。バザールは規模は小さいものの、スパイスや土産物が売られており、これらはグランド・バザールと違って定価があるようだ。実際地元の人が多いのは安心できる。建物の中よりも外にズラリと並ぶ店は面白かった。金物屋にはチャイの二段ポット:チャイダンルックが山積されていて、肉や魚・野菜やチーズ等の生鮮食品類の店は大声でブユルンブユルン(どうぞどうぞ)と客を呼び、ドライフルーツとナッツ屋はいつも大行列だ。活気に溢れ、大変な賑わいである。特にチーズ屋はたくさんあって、扱うのはほとんど羊のチーズ。白くてモロモロして塩辛いのが特徴。フランスやイタリアにもある羊のチーズとは全然違う味わいに、トルコ人はアジアの遊牧民族なのだなあと感じる。

 トルコは物価が低く、普通の店で普通に食事してブラブラ歩く程度では全然お金が減らない。ドルは持ち帰っても価値はそれ程変化しないが、トルコリラに両替した分は残しておくと価値は激減してしまうので、とにかく遣わねば。ということで、私はエジプシャン・バザールでナザール・ボンジューという厄除のお守りを大量に購入した。友人や家族へのお土産はもうコレだけ。でも、皆とても喜んでくれた。あまりにも安いモノなので値段は言えない。



●新市街

 ガラタ橋をブラブラ渡り、地下道を通って道を渡る。左側にはチュネルという坂を上る世界最短の地下鉄があるが、歩いても中心地に向かうことは可能だ。斜め前に見える急な坂道を上れば良い。この坂道は両側が電気屋ばかり。途中、左手にガラタ塔があるが、ここまでは結構キツイ坂である。ガラタ塔を過ぎると今度は楽器屋が並ぶ。坂の終わりには音楽学校があるからなのだろう。

 坂を上り切ってぶつかるイスティクラル通りは新市街のメインストリート。クラシックな赤い1両のトラムが道の真ん中をのんびり行き来するこの通り、車は許可車以外入れないようである。トラムのお尻には靴磨きの子供達がぶら下がっているが、キケンなので真似してはいけない。

 ジャミイや博物館等の見どころらしい見どころは無いが、ブラブラとウインドウショッピングしながら歩くのは楽しい。新市街とは言うものの、旧市街に比べて新しいというだけで、石畳の街は落ち着いた良い感じである。アチコチにパッサージュもあり、古めかしいけど何やらワクワクしてしまう。トラム沿いにずっと歩いていくとタクシム広場に出る。この広場をグルリと歩けば新市街中心部の散策は済んだことになるだろう。この広場はバスの発着所でもあるので、眺めの良い海岸沿いの街やエミノニュに直ぐに戻るのには便利なところ。

 タクシム広場からバスで15分くらいのオルタキョイというボスポラス大橋の橋脚付近は遊歩道が整備されており、軽食の屋台や人気カフェ、雑貨類等の店が並ぶデートスポットである。デートでは無いが私も1人で行ってみた。若者向けの新しい感じではあるが、眺めの良さはナカナカである。海を見ながらゆっくりチャイを飲むのは他ではできない。ファーストフード店や幾つかのカジュアルなレストランもあり、昼でも夜でも楽しめそう。



イスタンブールふたたび



■ La Bonne Table
■ たびたびの旅