■ 讃岐うどんの旅

このページを読んだ後、または読む前に「恐るべき讃岐うどん:新潮社OH文庫」を必ず御覧下さい。


 2001年10月、忌わしいテロの影響もあり、予定していた2週間のブルターニュの旅を急きょ国内旅行に変更することになった。行き先は迷わず「京都」と「香川」。京都はとにかく好きなのでいつでも行きたいところ。そして香川は「讃岐うどん」を食べることにずっと憧れていたので即決まったということ。
 もともと私にとっての「うどん」といえば関東タイプであり、比較的やわらかく醤油色の濃い出汁で食べるもの。コシが強いという場合もバキバキした粉っぽい感じで「?」というものや、煮込んで出汁が染み込み過ぎてしまったようなタイプ等が多く、実はあまり好きではないものの一つだった。

 大学4年の夏休み、瀬戸大橋が完成したこともあり岡山から高松に渡り、市内の「川福」で初めてザルうどんを食べる。おいしかった。自分がそれまで知っていたものとは違って独特のコシの強さが新鮮だった。岡山の倉敷にある「ふるいち」も「ぶっかけうどん」がおいしくてよく食べたが、川福のコシと大変よく似ている麺だった。
 岡山から「やわらかいうどん」処大阪を経て小田原に戻った時は「うどん」のこと等ほとんど忘れていた。大阪で付き合っていた彼はうどん好きな人であったが、それが私のキライなタイプの「やわらかうどん」なのは大きな問題だった。よく出かけた京都のうどんも初めて食べた時あまりの柔らかさに「離乳食」を連想してしまい、どうしても好きになれなかった。大阪も京都も出汁のおいしさは認めるが…。

 そんなうどんへの特別な興味を持たない私だったが、「讃岐うどん」に関係する数冊の本に出会ってから変わった。「讃岐うどん」への憧れのようなものが生まれたのだ。

 一つは村上春樹氏のエッセイ。私も前からテレビでその存在を知り、興味を持っていたが、彼等の『セルフのうどん』『製麺所のうどん』体験を読む程に気持ちはどんどん大きく膨らんでいく。私も自分で葱を刻んで「うどん」にのせてみたい…「うどん」はもちろんのこと、『セルフ』スタイルに憧れてしまったのだ。もちろん私が村上春樹氏が大好きということもあるが。
 そしてもう一冊はこの気持ちを決定的に強いものとした。その本こそ「恐るべき讃岐うどん」である。
 食に関する本は分野を問わずできるだけ読むようにしているが、「恐るべき讃岐うどん」は他の本とは違っていた。この本は単なる食べ歩きガイドのような「うどん店の紹介」だけに留まらず、もう何と言ったらいいか…独特の文章に何か通じるモノを感じ、いやもうとにかく素晴らしく、心から感動してしまった(本当に面白い!笑い過ぎるので電車では読めない程だ)。この本からは「うどん屋のスタイル」はもちろんのこと、『シュッとしたうどん』『エッジが立っている』『グミみたいやゾ』『歯にグイグイと…』等、心にグッと来る方言たっぷりの言葉により「うどんそのものの魅力」が伝わって来て、うどん自体に興味を抱くようになった。
 不思議なもので私の姉夫婦も同じ頃にこの本を読んでいたらしく、彼等が先に「讃岐うどんを食べに行って来た」と聞いた時はちょっと悔しかった。それもうどん学校で「うどんを作った」…と。そして私も早く出掛けよう!と心に決めたのだった。


出発:21:00横浜発の高速バスで高松へ


 時間の有効利用ということもあるが、高速バスは何と言っても安い!のである。横浜往復で¥19,000-弱。また月曜の夜発ということで乗客はたった7名であった。車内は広々としており快適であるが、足が浮腫んで夜中に起きてしまった。飛行機の浮腫よりひどいのはナゼだ??


1日目:さか枝→讃岐平野→がもう
          →山下うどん→うどん棒

 よく眠った。気付くともう鷲羽山近くを通っている。瀬戸大橋を渡る時はちょうど朝日が美しい頃で、気持ちよく目が覚めた。坂出から高松駅へ到着したのは午前7時。駅に隣接する全日空ホテルでひと休みし、宿泊先のホテル「東横イン」へ向かう。思ったよりも遠く20分近く歩いてようやく到着。荷物を預けておく。

@ さか枝

 午前8時。香川県庁近くにあるセルフの店。大衆的な店である。そしてこれこそテレビで見たセルフの基本型であった。初めてながらも他の客の真似をして「かけの小」「温いの」とカウンターのおばちゃんに注文する。丼に入った麺を自分で側にある大鍋の湯でゆがき、再び丼へ戻す。そして巨大なステンレスのタンクの蛇口をひねり、出し汁を注ぐのである。そして取り放題のネギや揚げカス、ゴマ、おろし生姜をのせ、好きな場所で食べるのだ。

 初のセルフ体験に緊張しつつも喜びは隠せず、揚げカスがやや多めに入ったうどんは柔らかい中にもモチモチとコシがあり、粘りを感じる食感であった。出汁は澄んでいるものの醤油が効いた味だ。150円。


A 讃岐平野

 さか枝のすぐ後、駅に向かう途中で立ち寄る。チェーン店のようであった。ここでも「かけ小」の「温いの」を。麺は茹で置きであり、おばちゃんが作るのを自分で席まで運ぶタイプ。味は…麺はコシらしいコシがなく、出し汁も塩味やイヤな味が強く出ており好みでは無い。160円。とても不味いのでとても高く感じる。

 どうやら讃岐うどんは「どの店もおいしい訳ではない」らしい。


B がもう

 9時56分発の予賛線にて鴨川へ。恐るべき讃岐うどんの分かりにくい地図を頼りに村上春樹氏も食べたという「がもう」へ向かう。駅には何も無い。綾川を渡り、国道11号線を高松方面に歩く。15分程歩くと「山樋建設」に着くので、建物正面の信号を左に入る。しかし、どう見てもそれは山樋建設の駐車場への道なのだが、左に繋がる道は一般の道であった。田んぼの中、そして普通の民家の間を進み、ふと右を見るとコンクリートが打たれた広い駐車場が…そこが「がもう」だった。途中の民家の表札にも「蒲生(がもう)」とあったので、この近辺には「がもう」さんが多いのだろうか。

 立派な駐車場の割にはホントにボロッちい建物があり、中では大釜で麺を茹でているのが見える。11時前なのに客は数組いた。私も中で注文。「うどん小」の「温いの」と「ウズラ豆のテンプラ」。うどんは店の人がゆがいてくれるので、出し汁と葱、そしてオプションのテンプラ類は自分で入れるのだ。会計を済ませ、外へ。だって中には席らしい席はないのだ。外といっても入り口の側にあるボロボロのベンチと不釣り合いなところが素敵な品のないガーデンテーブル。山と田んぼを眺めて食べるのはなんだかとっても楽しいのであった。肝心のうどんは麺が太めでネッチリモチモチと柔らかさと弾力がバランスよく、食べ応えがありおいしい。ウズラ豆のテンプラは煮豆の甘い味と衣のバランスが絶妙!何とも言えないおいしさである。

 この環境で食べるおいしいうどんは100円、テンプラは70円、合計170円だった。


C 山下うどん

 「がもう」と同じく国道11号沿い…国道と綾川の間にあるようなので歩いていく。人に聞こうにも人は歩いていないのだ。すると車が数台並んでいる家の前に着いた。どうみても普通の農家のようだが、車の数が普通ではない。庭の中に進むと、家のサッシ戸に小さい看板らしきものと、自動販売機が見えた。ココだ!看板には小さく「いらっしゃいませ」と記されていた。

 入り口左のテーブルと右手のテーブル、そして正面にはオプションのテンプラやお握りと出汁が並ぶ棚。棚の向こうには大きな釜がモウモウと湯気を挙げている。おばあさんが3人、黙々と仕事をしていた。比較的若い(中年女性)に「うどん1玉」「冷たいの」と注文し、冷たい出汁をかけ、オプションの「タコ天」をのっけて席に着く。テーブルにはところどころに生姜とおろし金がセットされており、自分でおろして加えるシステムだ。

 タコ天は飯蛸より大きい蛸が丸ごとテンプラになっており、形も味もとてもよい。ちょっと硬いけど…。そして麺は細めで柔らかめではあるものの、角も立って例のネッチリモチモチの腰もある。つまり「みずみずしい中にコシが程よくあるタイプ」。また、出汁は醤油がかっており、色も黒い。味も田舎のおばあちゃん風の濃さであるが、スッキリとキレがあっておいしい。窓にはネコが座っていたり、おばあちゃん達はなぜか帽子をかぶって仕事をしており、とてもイイ気分になれるのが良いのである。
 うどんは1玉120円、タコ天は130円で計250円。会計は食後の自己申告制。


 ちょっとだけ迷ったものの、無事目的の2店でうどんを食べることができてとても満足。鴨川駅12時発の予賛線にて高松へ戻る。それにしても片道350円の電車賃が非常に高く感じてしまうのはやはり、うどんが安すぎるからだろうか…。天気は良く、陽射しが強くとても暑いのでアーケードをブラブラする。そして栗林公園へ。入場料400円(コレ高い!)を払い、散歩する。休み処が点在しており、冷やし甘酒を飲んでひと休み。添えられた割り箸でおろし生姜を混ぜながらのんびりする。池には美しい鯉がたくさんおり、売店の鯉の餌を投げるカップルの足下に「ワレもワレも」と山盛りになって集まってくるのが楽しかった。


D うどん棒

 市内商店街の「うどん棒」へ。ここは製麺所でもセルフでもなく、一般的なうどん専門店だ。午後3時50分。食事にはちょっと早い時間なのに、客は数名いた。さすがにあまりお腹は空いていないので、「ざるうどん」を注文。今から茹でるので7分待つように言われるが、茹で立てを味わえるということ!ラッキーである。麺はなめらかで角がキッチリと立っており、程よい柔らかさと強いコシがある。断面を見ると分るが、ネッチリとコシの強いうどんの中心は必ず半透明である。ツヤツヤの美しい姿が専門店らしさを感じさせる。とてもおいしい。職人さんは皆キリッとしており、髪が黒くて感じも良かった。私、色付きの髪の料理人はあまり好みではないのよネ。サスガ!の味は410円。


 初日5店というのは多いのだろうか?それとも少ないのだろうか…ま、ハッキリ言えることは食べ過ぎ!ということですナ。


2日目:山下うどん→山越


 予定ではバスで有名店の長田や中村を食べ歩く…はずだった。朝7時前にホテルを出発、琴平行きの予賛線にて坂出へ。坂出駅でバスを待つが、案内版もなく、方角も分らない。係員に訪ねたところ目的だったバス路線は既に廃止になったとか…タクシー利用は避けたいのですぐに引き返した。
 途中、前日と同様に鴨川で下車。悔しいのでおいしかった山下うどんに行くことしか頭に浮かばないのであった。

EF 山下うどん

 朝のうどん屋開店時間はまちまちだが、製麺所系は早いのである。時間は8時20分。「がもう」は開店前なので「山下うどん」に直行だ。帰りに「がもう」と心に決めていたので、とりあえず「1玉」「冷たいの」を注文。茹で置きの麺ではあったが、やはりおいしい。ツヤツヤとなめらかさとコシが同時に味わえ、「冷たいのっておいしい!」と小さく感動。ふとカウンターを見ると、おばあちゃんが揚げたばかりの巨大なかき揚げを並べているではないか!そして新たに麺を茹ではじめた。ムム…茹で立てか…こうなったら食べるしかない。1杯目の冷たいのをお腹に納め、丼を戻しながら「1玉」「温いの」を注文する。4〜5分後、丼を受け取り、温かい出汁を自分でかけてエビのかき揚げをのっける。エビが「これでもか!」という程入っており、カリカリサクサク香ばしい。2杯目なので途中で止めようかなとも思ったが、気付いたら食べ終えていた。茹で立てのうどんはおいしかったが、茹で置きとあまり変わらなかった。回転が早いのだろう。柔らかさと充分なコシ、なめらかさの全てがあるのがスゴイところだ。

 うどん2玉で240円、エビのかき揚げが130円、計370円である。このまま店を出るのは余りにも惜しく、おばあちゃんにお願いして釜の写真を撮らせてもらった。…朝でも客は次々とやってくるのだ。それもお年寄りを含めた家族連れ多し。



G 山越

 鴨川9:49発の電車で高松に戻る。すぐその足で琴電に乗り換え、羽床(はゆか)という駅に向かう。ものすごく小さくボロッちい駅だ。駅というよりレールの側にちょっとした囲いと屋根を付けただけ、というもの。電車はノロノロと走るので40分近くかかるのだが、片道510円もする。私鉄も高い。

 ともあれ駅から国道377へ出てテクテク歩く。地図によるととにかく真直ぐ進み「羽床上小学校入り口」の標識を探す。地図では2〜3H…のはずだが、行けども行けども何もなく、道幅の割には車通りそのものも少ないので不安。しかし、ここまで来て戻っても仕方がないので40分程歩き続ける。地理には強い私だが、やっぱり間違えたのか?と思っていたその時、ようやく小学校入り口の印が見えた。そこからはカンタン。というより驚いた!小学校入り口の信号を曲がるとすぐに「山越お客様第二駐車場」が…11時50分ということもあり、車は一杯だ。そして案内も何もゾロゾロ歩く人々についていくと行列が!店そのものは小さそうだが、20人程が店の外に並んでいる。外から店内が見えるのだが、満席の上に店内にも行列ができていた。テレビの取材も来ていたりと、とにかく人気のようだ。基本的に行列に並ぶのは好きではないが、何しろ40分も歩いて来たので帰るわけにもいかない。おとなしく順番を待つのであった。

 大行列でも流れるように進み、私が注文する番になった。「釜玉の小」「温いの」を頼む。そう、この店は「釜玉」が名物なのである。熱々の麺に生卵をかけ、半熟になるのを食べる、というのだ。オプションも並んでいるが、ここはグッと我慢して釜玉そのものの味を確かめるべく、追加はしなかった。手渡された「釜玉」の卵は部分的に固まりかけていたものの、全体がカルボナーラ状になる程熱くはない。そしてテーブルの「つけだし」を少しかけて食べるのだ。麺のコシもあり、それなりにおいしいが、歩いて歩いてコレ、というのはちょっと物足りないのが正直な感想。

 「釜玉の小」は140円。私には「ソコソコな味」です。


 帰り道、口の中からナカナカ消えない釜玉の出汁の味に「飽き」を感じてしまい、夕食にうどんは食べられなかった。本屋で時間をつぶし、ホテルに戻り、買って来たリンゴ等で口直し。本屋では「恐るべき讃岐うどん:攻略本」を購入。これがあれば心強い。それにしても歩き疲れた…。


3日目:赤坂製麺所→宮武→大円→鶴丸


 最終日。といってもバスは夜9時発なので丸々1日ゆっくりできる。荷物を預け、目的地へ向かう。

H 赤坂製麺所

 7時発の琴電にて「陶(すえ)」駅まで。車内アナウンスは「次はスェーです。スェーです。」と聞こえるのだが、間違えそうなので「エ」を大きく言ってもらいたい。陶駅から2分の所に赤坂製麺所はある。なぜか大きな看板には病院の名が記されているが、病院らしさは全くないのであった。製麺所というにも狭い小さい店。中にはおばちゃんが麺の玉をセッセと作っていた。

 客は私1人。マスコミで紹介されることも多いようで、店内には色紙や掲載雑誌の切り抜きが飾られている。「1玉」「ぬくいの」を注文。待つ間にサイン帳らしきノートを渡され、名前を書くように言われた。出来上がった麺を丼に盛り、手渡しながらおばちゃんは「葱好き?ほな自分で切ってな」と普通のハサミと葱を置く。丼を受け取り、言われるままに葱をチョキチョキ刻んだ。(時前調査によるとおばちゃんが切ってくれる、とあったので期待していたのに…ちょっと残念だが、これぞセルフ!と思えるので嬉しい。)

 店内に椅子はなく、外の椅子で壁を背もたれに食べるのだが、雨が降ったらどうなるのか…と心配になってしまった(幸い晴れていましたが)。肝心の味だが、麺は柔らかめでコシも弱い。醤油も甘く感じた。正直「コレは!」という味ではないのだが、やはりおばちゃんの個性が強烈でスゴイ!その意味では思い出深い味わいである。食べ終わってから丼を戻し店の中に戻ると「小田原から来よったんな。本で見てくれたん?」と話し掛けられた。テレビ局からのプレゼントという「うどん王」と記された段ボールの冠を取り出し、「遠くから来たんじゃろ。記念に良かったら撮ってあげる」と半ば無理矢理に外で記念撮影されてしまった。ムム…間抜けな私の姿はおばちゃんのアルバムに飾られているはずだ。注)写真は私ではなく、赤坂のおばちゃんです。
 うどんは1玉100円。安い!味も。


I 宮武

 再び琴電で琴平へ向かう。それにしても100円〜200円のうどんに対し交通費が高すぎる!仕方ないですが。琴平ではお参りの前にまず「宮武」へ。地図の通りに歩く。第一の目印はJA琴平。攻略本の地図は詳しく分かりやすい。ししかし、地図上では近く見えるのだが、実際は田んぼばかりの道なのでとても遠い。30〜40分歩いてようやくJA通過。しばらく進み、右に曲がる。そのあたりももちろん田んぼ。そして普通の家が点在している。本日第二の目的地もそんな普通の家だった。でも普通でないのはやはり駐車場。広めの駐車場がいくつも確保されているのだ。つまり「うどん屋」巡りは車で行うのが常識で、私のように歩いてくる客はいない、ということなのだ。歩いた私は何なのだ?とにかく店の中へ。

 時間は9時30分。琴平駅から1時間程歩いたことになる。うどんは「ひやあつ」を。この店は麺と出汁の温度を自由に組み合わせて注文するシステムなのだ。「ひやあつ」とは「麺が冷たくて出汁が熱い」を意味する(予習済)。オプションのテンプラ類は店の入り口に段ボールの中入っている。自分で勝手に取りに行くのだ。3日間野菜不足なのでカボチャのテンプラを小皿に。うどんは店員さんが運んで来てくれた。
 麺はやや平たく不揃いで、出汁は澄んでいる。正直あまりおいしそうにも見えなかった。が、ひとくち食べて驚いた。おいしい!なめらかで弾力のあるモチモチの噛み応えは、イタリアのウンブリアでそのおいしさに感動した「チリオーレ」という手打ちパスタと全く同じではないか!そして出汁もとてもおいしい。もう1杯お代りしたい味だったが、先を考えて諦めた。(食べておけば良かった…)帽子をかぶったおじさんが麺を打っていた。麺棒でギュッギュッと生地をのす姿を横目で見ながら食べるのもまたイイ。カボチャのテンプラはあまりおいしくなかったので、小皿に取って良かったと思う。麺と出汁で完璧な味だ。
 うどんは230円、テンプラは130円。計360円。大満足。


 おいしさに気分も良く、せっかくなので金比羅参りへ。

 階段の所々に籠屋さんがいるものの、利用者はおらず、お年寄りも元気に歩いていた。参道にズラリと並ぶ店を眺めながら歩くのはナカナカ楽しい。大門をくぐると「五人百姓」という名の飴屋が傘を広げている。帰りに買うことにして本殿を目指す。本殿は船や旗が奉納されており、「金比羅ふねふね…」という歌を思い出した。思ったよりも簡単に歩けたので奥社まで行くことにした。

 しかし!ここからがキツかった!。参道から本殿以上の道のりだと思う。階段も急だし、30分くらいかかったか…。ようやく辿り着き、お参りする。小さい本社だ。天気は良いがガスも出ていてあまり眺めはよくなかったのが残念。本宮に戻りお守りを購入。そして狛犬クンの背中からおみくじをひく。小吉。待てば良いことがあるとのこと。

 下りは足とお尻がイタイ。参道では「灸まん本店」にて名物「灸まん」を。要は灸を象ったまんじゅうだが、何のことはない。構造はヒヨコまんじゅうと同じであった…ガッカリ。口直し、とすぐ近くの醤油屋にて「しょうゆソフト」にトライ。色はいかにも醤油が入っている!のであるが、味は…名前を見て買っているので醤油が入っているかもしれないな…というだけのもの。特に甘辛い醤油味があるわけではなく、これまたガッカリ。目をつぶって食べたら何の味か分らないでしょう。

 琴平駅から丸亀に向かう。JRの列車本数は少なく、高松行きの普通列車は1時間後。待つのもイヤなので20分後に来る特急列車に乗ることにした。

 丸亀に行く目的はただ一つ。鶏料理店「一鶴」の「骨付き鶏」を食べること。今回の旅のバイブル「恐るべき讃岐うどん」にてその存在を知り、「かみしめがあります」というキャッチコピーにもなっている歯応えを試したかったのだ。ということでヒナ鶏よりも「親鶏」を。ニンニクと胡椒と油の焦げた臭いがプンプンとする鶏モモ焼きなのだが、ムム…調味料の味が強く、鶏の味が薄い。歯応えはそれなりにあるが…添えのキャベツも少ないし…どうやら期待し過ぎたようだ。930円。値段だけはゴージャスな昼食となった。


J 大円

 高松に戻り、おやつ代わりにうどんを食べようとする私はすっかり讃岐人(?)。「ぶっかけ」専門店の「大円」に向かう。栗林公園から近いようなので、当然徒歩である。…しかし、遠い!地図は間違っていないが、距離感がどうも私のものと違っており、想像の2倍以上歩くことになる。ともあれ、大円に到着。上はマンションで1階はテナントというフツーの店だ。お腹はあまり空いていないのでサッパリ目の「おろしぶっかけの冷」「小」を注文。

 カウンターに座ったので御主人の手元も良く見える。茹で置きの麺が2玉あったが、私の注文で新たに釜に麺を入れゆがきはじめた。楽しみだ。麺は太めでなめらかなツヤ。そしてコシが強く、ネチネチ感も素晴らしい。グイグイと歯に戻ってくる弾力がスゴイのだ。ダイコンがおろしてあったのは残念で、大根味は全く感じられなかったが、それでも麺のおいしさが全てを◎にしてくれた。専門店なので350円。

 午後5時。まだまだ時間はある。しかしお腹は一杯なので、腹ごなしの散歩。高松港へ向かう。10年(以上)前とは全く違い、開発が進みオシャレな感じになっていた。埠頭には赤灯台があり、ナカナカ素敵だ。デートスポットには最適であろう。本州や島々との連絡船の発着所でもあり、船が行き交うのも良い眺め。「うどん」目的の私も、ちょっとだけそれを忘れ、ボンヤリと黄昏に浸るのであった。再び街へ戻る。


K 鶴丸

 今回の旅の最終目的地は「鶴丸」。夜しか営業しないうどん店だ。のれんが出るのも待ち切れず、開店時刻午後7時に入店。大鍋には湯気がモウモウと立ち、麺が勢い良く茹でられているのが分る。おやつの大円の「ぶっかけ」があまりにおいしかったので、またまた「ぶっかけ」「冷」を注文。
 この店は茹で上げた麺を30分以上置くことはないそうだ。茹で立てか否かは麺の味に大きな影響を与えることは多少なりとも分かっていた。もちろんおいしい麺なら多少時間が経ってもおいしかったが…それでもやっぱり茹で立ての魅力は大きいのだ。

 丼が運ばれてきた。大円を上回るコシの強さとなめらかさ。量もたっぷりだ。麺そのものの素晴らしいバランスに驚いた。山下うどんのようなおばあちゃんの柔らかめの「みずみずしい」おいしさも良いが、それとは全く違って「職人の味」とでも言うのか、総じて男性が打つ麺はコシが強く、エッジの鋭さとキレが良いようである。

 「美味しんぼ」にあった「おばあちゃんが打つうどん」の件を思い出した。力のある者は水分が少なくてもうどんを打てる。力のない者が打つうどんは水分が多く入る、というような内容だった。美味しんぼでは後者を素晴らしいと決めていたが、私にとっては「どちらが優れている」ではなく「どちらも」素晴らしいのであった。

 この技術で500円。スゴイ!

 最後の店に完全にマイッてしまった私。一種の高揚感のようなモノを抱きながら帰りのバスに乗る。


 今回の旅で「うどん」12杯を食べ、合計¥2,960-。味とボリュームと満足度からは、本当に信じられない値段であった。ハンバーガーや牛丼の中間の値段であるが、その質の高さ・味わい深さといったらどうだろう!…反面、交通費や宿代が異様に高く感じてしまうのだが…。

 「うどん」はそれぞれが「うどんとしておいしい」だけではなく、独特ののんびりムードの中で食べることで素敵な気分も味わえる。讃岐の食文化の豊かさと生活のリズムに羨ましさを覚えるのであった。適当に食べて会計は自己申告。他の土地ででそんなことしたら…人間関係が希薄な昨今、身近な友人達にさえナカナカ心を許せぬ自分だが、讃岐の人々の大らかさには考えさせられた。

 憧れていたとはいえ、粉と水と塩でつくる「うどん」に、そして「讃岐うどん」という文化にここまで感動するとは…予測しなかった事態である。まさに「恐るべき讃岐うどん」なのだ。しかし、もうそんじょそこらのうどん屋には入れない、という「おまけ」付きだけど…ネ。

 攻略本は購入したものの、やはり「恐るべき〜」の『分かりにくい地図』を頼りにあたりをつけて行くのがイイ。全くの情報なし・行き当たりばったりというのも時には良いのかもしれないが、多少の予習は旅をグンと楽しくする、と思う。ただ、あまりにも親切すぎるマニュアルも要らないとも思う。大概にして日本は不要なことにまで親切なのだ(そして肝心なことが抜けていることが多い)。必要最低限の情報があればそれで何とかなるものだし、自分の力で何とかすることこそが楽しみなのだ。

 旅する毎に人生の楽しみは増え続け、一方で「今までと同じでは我慢できない!」という辛さもそれ以上に背負うことになる。そのことについては充分過ぎる程に分かっているのだが、しばらくは止められそうにない。





■ La Bonne Table
■ たびたびの旅