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<リッツを選んだ理由>
オテル・リッツは大変に高級なホテルなので、何かの間違いでもない限り、私が泊まることはないと思うが、料理学校エコール・リッツへの参加は(決して安くはないけれど)手が届かない程のものではない。自分の経験の1つとして「リッチでおいしいパンを高級ホテルで学ぶ」というのもいいかなと考えていた。
エコール・リッツは日本にも事務所があり、案内等の請求は簡単だ。また、手続きも代行してくれる。参加者本人の簡単な経歴を知らせ、受講料の一部納入とともに登録、そして健康診断書の提出、と全ては日本語で行われるので安心ではあるがモチロン手数料がかかる。手続きにおいては親切で迅速な対応。「やっぱりリッツね」と感心するのであった。 リッツの授業。講座の種類はたくさんあるようだが、私はパンの授業を受けることにしていた。コルドン・ブルーで料理と菓子に並行してパンを勉強し、以来ほとんど毎日パンを焼き続けてきた。自己流時代よりずっとおいしく安定したパンを焼けるし、また焼こう!と意欲が持てるのはキチンと学校で学んだからだと思っている。しかし、コルドンで得たことだけがパンの全てでは無い。もっと新しいおいしさ・知らないパンを知りたい、違う学校で学びたいといつも考えていた。ルノートル…リッツ…この2校なら正しい製パンが学べるに違いない!ルノートルからの予定は発表が遅く、先にHPで募集を始めていたリッツの検討をすることにした。 受講料は半日の割には高い!と思ったのだが募集対象も「製パンの基礎を習得している者。製パン経験者」ということだったので学校のスケジュールを取り寄せ、自分の予定を調整し、2週間のパン&ヴィエノワズリー講座に参加した。今思うとなぜメニューの確認を詳しくしなかったか…後悔している。申込み前に一応確認はしたが、たとえ基本的な生地でも学校が違えば配合も作り方も違うはず、と厳しくチェックせず、それなりに納得していた。 どんな結果が待っているかも知らずに…。
<リッツへの道>
学校はオテル・リッツの地下にある。メトロのコンコルドやマドレーヌから数分、大変便利なところにある。この界隈は大きなブランド紙袋を抱えた日本人観光客が多く歩いており、私の得意とするエリア:左岸とは大きく違う。なんだか高級な服を来た人が多いのも特徴か。メトロのコンコルドは混む上にスリも多いのでいつも左岸まで歩いて帰った。バスも便利ではあるが、夕方の大渋滞はひどいので利用しない方が良い。毎日チュイルリー公園にある大観覧車を通過し、ライトアップされたエッフェル塔を眺めながらセーヌ河を渡るのはなかなか良い気分だった。
<リッツの初日>
授業は午後のクラスだが、初日はウェルカムミーティングがあるとのことで9:00に集合。当然朝食が付くだろう、と思い、朝のパンを控え目にした私だが、コーヒーも何も出なかった。空腹…。 集合したのは日本人が私を含め5人。他はアメリカ人2名。ムム…冊子になったレシピにはフランス語、英語、日本語の3カ国語が用意されていてブ厚い。ここで初めてメニューを確認した。そして親切ではあるが簡単な説明は簡単に終わってしまい、10:00前には解散。…時間のムダですナ。(このウェルカムミーティングは初日のみなので継続受講者は参加しない。) 時間が余ってしまったので他の方々とお茶を飲みにリナへ。小奇麗なサンドウィッチのチェーン店だが、初めて入った。皆で簡単な自己紹介やパリに来た熱い思い等を語りつつ時間をつぶす。しかし、リナのサンドウィッチっておいしくない!中身は特に問題ないが、パンが…ガッカリの昼食であった。
<クラスの仲間・他>
2週間とも6人だった。2週目は1人入れ替わったが、その入れ替わった学生はなんと妊婦サン。大丈夫なのだろうか…ま、少し大きいお腹で誰よりも元気よくしゃべっていたけど。 そんなことより何よりも私が驚いたのは私を含めて2名を除いては製パンの初心者だったことだ。というより料理そのものを初めて勉強する人達である。リッツのマスターコースで勉強中の男の子もいたが、「あなたも初心者?」と聞いてしまった程、手元はぎこちないのであった。 また、言葉についてはフランス語か英語の理解はある程度必要と聞いてきたのに、全く分からない人も普通に参加していることにも『?』。募集要項と違う…。申込みの受付窓口毎にその規定は異なるらしいが、つまりは授業料さえ払えば誰でも受講できる学校ということだ。
イギリスやアメリカ、オーストラリア等から来た人達と話すのは楽しかった。また、経験の有無は関係なく、同じ食に興味がある友人が増えるのは嬉しいことである。ルノートルで出会った賑やかな仲間とは違うタイプが、皆感じの良い人々で一緒にいるのは楽しい経験ではあった。
<リッツで学べるもの>
私はもうリッツの授業には参加しないだろう。パンとヴィエノワズリー講座のみの受講だったので他の講座は分からないが、この講座のレベルの低さは悲しいモノがある。私にはそれは物足りないの一言だ。
まずパン講座には専用の教室が無かった。ホテルのパンを作るその部屋での授業、というと聞こえは良いが、実際は師範台もなく、作業場の片隅で行う製パンには「学べる」ことが少ないと思う。ホテル用のパンを仕込み・焼くことが優先され、どうしても授業のパンは発酵が短く、また短時間で焼けるように小さい成形ばかりだった(それもワンパターン…)。手で捏ね、捏ね上がり温度のチェックは厳しいものの、発酵具合や焼き加減等はあまり具体的に知ることは出来ないのも問題だ。試食もプレゼンテーションも全くなく、いつも自分が焼いたものを食べるだけだった。 用意されたメニューの乏しいこと!基本の生地はほんの数種類。成形も貧弱。なぜかスコーンやマフィンを加えている。フランスに来た目的はフランスのパンを勉強したいからなのに…。クグロフなんて金属の型にアーモンドも敷かずに作るカンタン版だった上に、発酵が浅く全然おいしくない。また、フアスというフランス南部のパンも本来の姿とは大きく異なり「まるでベ−グル」という仕上がりであった。急ぐ時はシェフがクーペ(切り込み)を入れて勝手に焼いてしまうし…もうガッカリ… そのパンの味だが、特においしくは無かった(マズイ程でも無いが)。まあ2週間の中ではエシレのバターを使ったクロワッサンとデニッシュ、ライ麦パンの3種のみが及第、といったところだった。ほとんどのパンは妙にやわらかく仕上がり、小麦粉にアメリオレという改良剤が添加してあるような食感だ。翌日もやわらかいことについては「湿度が高いから」という答えだったが、あの乾燥したパリで…。何か釈然としないものが残る。リッツではいつもこういう食感のパンなのだろうか? 衛生管理もあまり感心しない。具体的にはシェフに失礼になってしまうので述べることは出来ないが、他に例を挙げれば、料理初心者の学生達が素手で作るサンドウィッチは切り方も不揃いで、あまり神経質でない私にも食べることが出来なかったことだ。
リッツで得るものは何も無く、自分の知識や技術を他の学生に与えてばかりの2週間だった。先に学んだコルドン・ブルーとルノートルでのあの充実感とは比較にならない。たまたま私が両校で学び、経験を積んでいたことがリッツへの不満を増長させていることは否めないが、あまりにも手応えのない内容には怒りさえおぼえる。募集時の規定が曖昧なためにこのような事態が発生してしまったのだろうが、自分でも確認の不充分さもあるので反省もしている。しかし…
仮に自分が初心者だったらどうだろう…訳も分からず「こういうモノなのだ」と受けとめるしか無かっただろう。もしかすると「リッツで学べて幸せ」と思っていたかもしれない。他の講座も受講していたかもしれない。そしてリッツだけで充分知ったつもりになり、ルノートルやコルドン・ブルーに行くことは無かったかもしれない。 コルドン・ブルーでは毎回の授業に満足していたかというと実はそうでも無い(シェフによってはヒドイ時もあるので)のだが、それでも得るものがはく、また自分に欠けているものが沢山あるということに気付くきっかけにもなり、大変有意義な時間を過ごした。私が他の料理学校や料理教室にも深い興味を持ち、実際に海外に出掛けてまで勉強するようになったのはコルドンを卒業したからである。 今回のリッツでの唯一の収穫はパン講座についてはコルドン・ブルーの方がリッツより通う価値がある、ということが分かったこと「だけ」だ。コルドン・ブルーでキチンとフランスのパンの基礎を学ぶことができて良かった、とリッツでパンを捏ねながらしみじみと感じてしまうのだった。 フランスのパンの基礎的な勉強をしようと、どちらの学校を選ぶか真剣に迷っている人には(全く迷っていない人は御自由に…)強くこのことを伝えたい。人様にお教えするという仕事に就く者としても、「学ぶ場」としてリッツを勧めることはできない。
リッツだけで学ぶ方々は「リッツで」ということに大きな満足感を持っているようだが、他の学校も見て欲しい。私はただ無闇にリッツを批判しているのでは無い。リッツ以外を知っているからこそ全てを同じ線上に並べて見ることができるのだ。他にもっと正しく素晴らしい世界があることを知らずにいる方が多いことが残念でならない。
もちろん人により好みや目標は違うので、私の意見だけが正しいとは思っていない。しかし、比べる目を持ってしまった自分を持っていない人よりも間違っているとも不幸とも思わない。
高い授業料を払って得たものが製パン技術ではなかったことが残念だ。
●この文章についてリッツのディレクター氏よりフランス語の長い長い抗議のメールをいただきました。が、本当のことを書いただけなので、今後もずっと取り消すつもりはありません。
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