1
よかった、
ただそこにふくらんでいるだけで、
それはもうそれだけで、
埋め尽くされるように虹だった。
あちらによりかかることも、
しなだれることもなくて。
2
ゆるやかに走ってゆく、
うすみどり、
なぜかそういうこともあったって深く、
深くうなずいている、
のびてゆくゴムの管、
あそこに時間が突き刺さったまんまだ、って。
3
そういうものをさがしてたのにね、
わたしたちいつのまにか目減りしてる、
夜はすっかりほつれていたね、
グレープフルーツが打ち寄せて、
斜めになった天井に、
満ちていたよね。
4
あなたはとてもとてもやわらかかったので、
坂道だった。
陽射しが犬の腹を横切る。
水をえがいて。
黄色くってさらさらして、
郵便受けに垂れさがって。
5
遠い遠いところから来た。
それだけ言ってしわばんでいた。
なんだかやわらかい息だった。
ほんとうに、
なにもかも少しずつ庭になって
澄んでいって。
6
心になってみるのもいいだろう。
ひだまり、
飛んでいたのはあなたじゃない。
ぷかぷかしてる、
なぜだろう、
痛いと思うことをずっと忘れてたのは。
7
ずっと
よろけてたんじゃないの?
ここに横たわっている眠り、
湿り気がぐんとあがって、
なにもかもみんな、
あっちから来たんだって。
8
たぶんゆっくり光るんだ。
向こうからもりあがっているからね。
なんだか積もってばかりいて。
肌はどう?
まだうすぐもり?
ああ、
それは根っこ。
9
もうしばらく、
つかんでいようよ、
毛が生えてるのはわたしのせいじゃない、
むくんでるのも、
ここに翼が噴き出してるのも。
みんなみんな発電していて。
10
数字が回って通知が来た。
今そっちに行くよ。
釣り上げてみたら、
クジラだったんだ。
水平な瞳がまぶしくて、
世界が落っこちていくようだったよ。
11
少しだけ、
とんがっていて。
サンダルは影法師だって。
しっとりした繊維が広がってるんだ、
みんなみんな、
浮き出して抜け出して。
12
ブラインドの隙間から、
芽吹いている、
それは豆なんだった、
もう悲しくないね、
ことば自体がゼリーになって、
ふっくらしている。
13
どこもかしこもこんな
からっぽで、
でもどんどんのびてくんだ。
雲がむくむくと、わからなくても。
なにかにつながったまま、
ここから無限に折れ曲がっていくとして。
14
ガラス越しの富士山、
わたしたちはみんな隙間だらけ。
電柱たちをかぞえて。
群れることも、
うたうことも、
必要じゃなくなるとき。
15
どうしたんだろう、
走査線は入れて来たのに。
もうまっさらなびりびりは、
全部流れていったのに。
すっかりひびわれて、
なぜなのかどうしてもわからなかった。
16
とげとげだっていい。
たましいはひっそりふくらんでいます。
もやっとした電線に、
耳はふんわりと置かれて。
それはいつも思い出として、
はじけていたけど。
17
あかるい嘘じゃないか、
どこにだって信号は立つし、
平方根はゆらめいてる。
たとえばわたしたちには正確な居場所がない。
アスピリンが散らばって、
脳がどこまでも広がって。
18
もう
風車の夢は見ない、
青くてもろくてふやけきった
世界の果てのこと、
アルミニウムが匂う、
すべてがそのまぶたのうえで。
19
牛乳パックを並べて、
空は聞き耳をたてていた。
非常階段はまっしぐらに!
やめて。
布の皺はいつだって、
ぶんぶんうなっているだけなんだから。
20
おびただしい草はうつくしい、
庭にはやさしいメロンがあったね、
よりかかれないほど、
みんな黙って打ち上がってた。
時間なんて
平べったくのびているばかりなのに。
21
ここはとても浮かんでいるので。
足元なんてなくて。
かたむいてますね。
耳抜きして。
広がってきてます。
プルトニウムとか、
耳抜きして。
22
シャツと、
ジャムと、
太陽。
がらがら回ってたんです。
ずっと鉄塔が立って。
うつくしい鳥が鳴いて、
汚染されていくのを見ていました。
23
もうここから空豆、
投げたりしない。
センターラインがうっすらとしてる、
そうだった、
みんな輪郭がとてもとても好きで、
かかとが苦しくて、
雨が降っても。
24
隅っこにこずんで、
日づけになっていった。
みんなみんな忘れてしまった。
そうやって、
昼間っからあおあおしていたこと、
つるつるって透けていたこと。
25
ひんやりした水羊羹が、
浮いて、
どこまでなんだかわからなかった。
電気のことも株価のことも。
黒い文字のなかを走っていた。
それでだれかが、
お月見をしましょうって。
26
かげっていた。
ひそひそふくらんで。
ここは密室なんだった。
なにもかも半分きりで。
めくってもめくっても、
知らない顔が続いてた。
27
ゆるゆるして。
わたしの皮膚を返してください。
ひらひらして。
もいちど世界を覆ってください。
いつかまた夕日は目覚めて。
28
指がねばねばしてた。
あした、
ぬれたからだ、
しんだひとたちのねがえり、
路地のむこうで、
虹がいくつも飛び散って。
29
空を抜けて、
流れていった。
あれはとてもとても大きい。
いつだって今、
今だけがあふれていたんだった。
底の方まで濁ってて、
なにもかもひとつじゃなかった。
30
くるんとしてる。
終わってしまうとほっとした。
まっしろい、
そこはきっと、
端末がわらわらしてたところ。
今はもう沈んでしまったんだろうけど。
31
まあたらしいケーブルをひきだして、
何度も何度も、
なぞっていた。
溶けかかってるね。
いつだって、
午後はゆるいかたむき。
32
アザラシはさかのぼって、
日射しはいっぱいふりそそいでる。
地球みたいだ。
そっちは広いですか?
ニュース見ました。
ことばも夕日も分けることはできないけれど。
33
水平線のペンギン。
のびあがって。
ぱんぱんと花火があがって。
きょうは、
届いたのかな。
みんなみんなしずかに
眠っているのかな。
34
なめらかになった、傷口。
ひらいたり閉じたり、
だれもしゃべらなくても。
柩は遠くはこばれて、
夕日たちが芽吹く
丘をこえて。
35
ここから、
白い翼まで。
あるいてきたんだね。
土の匂いも、
ちょっとした言いまちがいも、
ずっと向こうに浮かんでる、
なだらかな島も。
36
くりかえし、
掘ってる。
みどりはぴんとのびて。
もうなんだかぷるぷるしてて。
犬は少しずつまるくなって、
ひこうきばかり見えていました。
37
ぽろぽろって、
こぼれていった。
もてあましてる、
金魚のすきとおったゆめとか。
草がはえてきちゃったこととか。
時間がひろがって、
だれも罰されることなんてないのに。
38
しずんでった、
ももいろの。
細胞のひとつひとつに
名前をつけた。
きょう、
一瞬だけ
かたつむりのツノのさきにふるえた。
39
どうやってやってきたんだろう、
ヨーグルトのふえてく感じ、
海いっぱいのくらげの眠り。
着信して。
しろいしろい
ふかふかのたましい。
40
デイジー、デイジー、
まっさらな、
縫い目のない空。
こころの外に抜けていった、
流し場に、
まっしろい死がひろがってました。
41
もう、すこし白い、空間。
ごめんなさい、
まにあわなかった。
そら、ふね、かおり、
なんでも持っていってね。
すきなだけ広げて、
眠っていてね。
42
それにもう、
たどりつかなくても。
ゆめをみて、
いのって、
たくさん、たくさん満たしてたんだ。
冷蔵庫のなかの長い時間を。
蛍光灯の白い光を。
43
なつのおわりの
空気のたまご、
こどもだってむくむくしてる。
もいちど来たら、
あいさつください。
なにもかも、
あっためて待っているから。
44
はじまりのはなびら。
今日も羽はまわって、
伝えてる。
こんにちわ、世界。
丘は風に吹かれて、
深海にウミユリがゆれて。
だれがだれとも会えなくても。
45
ひろかった。
プールにぷかぷか浮かんでた。
オレンジ、すいか、パイナップル、
あちこちにたくさん実っています。
遠いところ。
みんなで暮らして
鳥をながめた。
46
しましまの、
夕暮れの、
結んでたものがほどけてくとき。
みんなみんな波打っていた。
かなしみはうすまって、
もう危険じゃなかった。
47
水玉もようの
お母さん。
湿度がどんどんあがっています。
テトラポットの見える海辺で。
浜昼顔の見た
色のないゆめのなかで。
48
思い出は、
いつもすずしいね。
だれのものでも。
そこにあるリンゴの花のような匂い。
足元に打ち寄せていた、
なにもかも
あたらしい泡だった。
49
たてじまのパラソルが
たてものの影と影のあいだを。
いつだったかわからないものが、
流れては消えて。
窓ガラスがいのっています。
あの街にしあわせが降りていくよう。
50
つながってなくて
浮いたまま。
世界に草がしげって。
日をあびて、形がなくなるようだった。
はじめてのものって
なにもかも。
51
各駅停車。
ひとみがすっきりしていくような。
またたいてるね。
風景はいつもすべってばかり。
少しずつぼんやりと、
色が抜けていきました。
52
みんな、
呼吸している。
クラゲがほんのり眠っているので。
世界はゆらゆら届いています。
海はあたたかい。
あした、ひろがる、どこから、にげて。
53
いっぱいに
光っているキノコたち。
ビルたちも、
給水塔も、
ひとつずつゆめを見ていた。
むかしむかし原っぱを
いっしょうけんめい走っていました。
54
ふくらんでゆく
うつくしい庭。
きょうはどこまでもテーブルクロスが広がって。
なくなってゆくレモンと
揺れている脚。
マーガレットは空に
高く、高く、高く。
55
こいぬが黒くしめってた。
ぱたぱたと
校庭の上の空がひらいた。
水たまりはふるふるして。
鉄棒に
知らない人の手紙が届いた。
56
もわもわとした向こうに
ただよっていたでしょう?
そうやって声をあげて届かなかった。
たくさんの白いハンカチがひるがえって、
あおくあおく窓はひらいて。
時計塔は壊れてしまったけれど。
57
なくなった原っぱ。
黄色い、白い、赤い、青い。
なにもかもここにいました。
ふりつもって。
とぽとぽこぼれる一日だった。
小さな子宮が泣いていました。
58
ほしいものはなくて。
星たちはもう帰れなかった。
だれもだれもいっぱいで。
向こうのことを考えていた。
それだけが
ほんとうの地面のようだった。
59
あけてもいい?
こっちにはレモンが浮かんでいます。
どうやったら抜けられるのか、
ここには何本立っているのか、
あの鳥は今も鳴いているのか。
ひかっていよう、
葉っぱはいつも引っかかったまま。
60
わたしたちみんなころころして。
電波もニュースも点滅して。
嘘とか、罪とか、忘れていったこととか。
あしたは、会おうね。
前線が近づいて
すべてが濡れてゆくなかで。
61
きょうはどこ?
ああ、それでいい。
もう二度と水面はあがってこない。
ざらざらのグラニュー糖の白い白い、
いませんよ、
ここにはだれも。
62
そうしてみんな湿って。
わたしたちきっとのびやかになる。
すべての窓がひらいたら。
あの場所は、
ずっとずっとアルミニウムの色だった。
ひんやりして。
みんな忘れてしまっても。
63
あっちでぐるぐる回ってた。
海の向こう、
知らない人のお墓のうえに
うすきみどりの鳥が飛んだ。
きのうからずっと
スイカの匂いの風が吹いて。
64
かき出されていた、小さな
赤い赤いアルファベットだった。
毎日ゆっくりさよならしてる。
南の海のイルカたちにも。
そうして空は
おはよう、って言った。
65
名前なんてなかった。
しあわせ、っていうことばは軸が
いつも少しぶれていて。
背の高い草がはえて、
一面に広がって、
明け方、わたしたちは指を切った。
66
方向なんて関係ないんだ。
追いつけないのが悲しかった。
窓の外で
ひばなみたいにぱちぱちして。
それがものすごくあおくて、きれいで、
尊くて。
67
レモネードは、
ゆらゆらして。
こうやって記憶は、
下にこずんでいくんだね。
見たことないよ、
そんな大きな、まぶしい橋は。
68
喉をくださいね、
トンネルの向こうの
ふかみどりのひかりが
遠ざかる、
はばたく、夜明けの、海が、
ひとりで。
69
あかるい鳥と。
世界がピンクになっていく。
こんなふうに、
とろっとしてることがあるなんて
思ったことはなかった。
ドロップ、ひかりに透かして。
70
こいぬたち、こうまたち、ことりたち。
雨が降って、
目も耳も鼻も
やわらかいものでふさいで。
泣かないよ。
どこかに穴があるはずだから。
71
メリーゴーラウンドに乗って。
坂道の向こうに、
街を見下ろして。
夏のまっしろい一日、
レモン水がこぼれて、
みんなみんな、あっちから来た。
72
むかし、
だれかが住んでいたところ。
風景がななめになってゆく。
もう芽が出ました。
しばらく沈んでいよう。
なにもかもふかくて、あおい。
夜がくるから。
73
電球のようにさびしくて、
あなたたちは人を殴った。
余ってたんだ、だから。
そうして土になにか落とした。
ずっとハナミズキが匂ってた。
だれもゆるすことなんてできないのに。
74
きょうも
フタコブラクダが
夜の砂漠を歩いてる。
スチールの本棚がひんやりして。
あそこに置いてきちゃったんだね。
手をあげて、呼んで、
ここにいるって叫んだこととか。
75
ゆれていたでしょう?
液晶がぱちぱちして、
そうしてすうっと切れてしまった。
切れ目はいつも見えないけれど。
おぼえてますか?
いっしょに川をながめたことを。
76
肌は少しさわっていた。
むきだしなので。
ここは、ひとりっきりの
森じゃないんだ。
ゆりかごたちは遠ざかる。
さっきまで、
空を飛んでるゆめを見ていた。
77
太陽、
くるくるまわる、
なげだされたたくさんの。
かんたんに積もっていった、
わたしたち、
街のアスファルトのうえに。
78
わたしたちはみんな似ていて、
だれがだれだかわからなかった。
それはすべて画面のなかで。
喉はしだいに渇いていった。
ああ、あれはいったい
なんの、白い羽。
79
ブルー、ブルー、
影のゆれる、家だった。
雨はやわらかく木霊して、
洗面器に記憶が映って。
水のなか、
草たちが世界になってゆくとき。
80
砂漠で
電気仕掛けのカメに出会った。
それからずっと歩いています。
もう、ずいぶん長いね。
近ごろ火星はとても冷えます。
ローソンの灯が見えてきました。
81
観覧車はなくなっていた。
地図から雲があふれて。
声は蔓に巻かれて。
深いですね。
水位がだんだんあがってきました。
こころとからだが溶けていきます。
82
みずいろは
うつくしかった。
傷ついても。
ここがここじゃなかったとしても。
瓶は窓辺でふるえています。
そのままそのまま走ってくまま、
馬たちのいる岬に向かって。
83
鏡のなかでひとりぼっちで。
ビニールの手触りが宙に浮いて、
ひっくり返った文字を書いてた。
どこまで深くなるんだろう?
なんだかぬるくて。
またもうひとつ扉が見えます。
84
チェルノブイリから風が吹いて、
渡り鳥が到着しました。
夜の大平洋は
やっぱりすごく広いんだろうか。
おやすみなさい、
ミサイルも人工衛星も銀色に光って。
85
雨はワルシャワで濡れていた。
聴こえますか。
広がっていく、
世界中の空気の先がいっせいにとがって。
みどりに染まること、
そのすずしい夢になること。
86
空色のポストが立っていた。
そして祈りはそこで途切れた。
夕焼け。
遠くにわたしたちの形のかなしみが
走って。
87
一匹の電子犬が
青い海を泳いでいく。
テラバイトディスクをくわえて。
届きましたか、
なにもかも。
時間は波になっていくけど。
88
話してたんだ、
わたしたちみんな、
雨の一滴になってもいいって。
缶蹴りしたよね?
そう遠くない未来の街を
ぼんやり透かし見るように。
89
ひとりっきりで、
うすべにいろのお茶を飲んだ。
雨が降って、
遠いところで泣いていた。
たったひとつの世界の、
息が、とても苦しくて。
90
なんだか
信じられないね。
そんなに積み重なっていたなんて。
みどりがふくらんで、
ビルもお墓も眠ってた。
みんなみんな長い
ものがたりになって。
91
その小さな星は思った、
世界にたったひとつの星になっても、
ずうっと待っていよう、って。
靄のなか、
きみどりいろの草原を
無人の列車がはしってた。
92
なにもかも、
終わらないでいて。
まちのなかで
みどりのひかりのなかで
わたしたちは手をのばした。
永遠ということばは
いつでも、いつでも、切れてしまって。
93
舟になっていきたいね。
心が流れていくような。
忘れない、
世界もわたしも影だったとしても。
ひとつずつここにしみこんだままでいい。
水草の枕がどこまでゆれて。
絶対だよ。
94
乳白色のブロックたちが
ずっと計算し続けている
遠い遠いどこかの星で
ブロックたちの見る夢の
小さな町の片隅に立つ
わたしは真っ赤なポストでした。
95
ころんとまるく
毛羽立っていた。
どこかでだれかの手が編んでいた。
むかし花をそなえたこと、
洞窟に絵を描いたこと。
きょうが遠くに
運ばれてくように。
96
だんだん遠くにはなれていった。
空に向かって
細い橋が立っていた。
うすいうすい膜一枚を剥がされて。
さよなら。
もう会うことはできないよ。
さいごのひかりのかけらになって。
97
瞳たちはつつまれていた。
火花が散って
いくつもいくつも死んだこと、
しずかに川が流れて。
はりだした窓、
通りの名前、
ひんやりした手がふれていました。
98
あたたかい、
どこもかしこもオレンジで、
日の光があふれてた。
世界はきょうで終わりましたと
ラジオが告げて。
だれのためでもない祈りのために、
わたしたちはいつも自転車を漕いで。
99
すきだった。
そのことだけを言いたかった。
絆創膏をいつか剥がして。
あのとき捨てたものが見えます。
きっとそのことだけが
あのプラタナスの葉っぱのなかに
今でもずっと引っかかってて。
100
世界という名前の駅からはじまって、
世界という名前の駅でおわる、
そんな路線の列車に乗って、
きょうも
あおいあおい空だけがある