詩集『夢網』収録 

枕木     大下さなえ




剥がれてゆく車窓、
うしろに肉が落とされてゆく、
爪からのびた糸が送電線を満たし、
ガラスの向こうで、
わたしが目覚める気配がする、
どこからどこへ、
牛乳瓶は積まれてゆく、
棚に横たえられ、
あなたは闇を見つめ続ける、
悲しみでも喜びでもなく、
鋭い夢の歯に噛み砕かれている、
何度も折り畳んでいた地図は、
毛の抜かれた言葉だったのかもしれない、
なまあたたかい眠りの中に、
白い標識が立っている、
また葱の頭が揺れている、
吹きあがってくる風、
汗が枕木に流れ出していく、
駅が近づけば瓶たちは音を立てて割れ、
粘土のような舌が垂れ下がる、
駅に着いたら、
あなたは何度もそう呟き、
高い崖の夢を見ている、
どこにも着きはしない。
鳥たちは去って、
羽が草むらに落ちてゆく、
音も息も身体中を突き抜けて、
わたしたちはふくらんでゆく、
隙間から洩れだした霧、
窓の向こうへ向こうへ、
遠ざかってゆく匂い、
薄く巨大な目蓋が、
丘の上に丸まっていた、
枕木に並べられ、
今も、
遠い場所でわたしたちは薄く切り裂かれているのではないか。
ひんやりした蛍光灯をひとつずつ立てかけ、
狭い隙間を覗き込む、
ここにも、
わたしはいない。
忘れられた車両の向こうから、
また霧が生まれる、





明空5号
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