| 詩集『夢網』収録 |
霧 大下さなえ眠りに突き刺さった霧、 冷蔵庫がきしんでいる、 あなたは薄いガーゼになって、 天井に向かってはためいていた、 昨日はあんなに鳴いていたのに、 プラスチックは濁ってしまった、 人の声のような、 空気が動くような気配だけがいて、 腿の内側が汗ばんでくる、 だれかが受話器からやってくる、 からまりあった夢をのぼり、 縄をなうように街が萌える、 いっせいに、 幾筋もの尿が腿の内側を伝い、 電線がわたしの中にあふれだしてゆくとき、 匂いばかりが宙に浮いて光る、 昨日の影があなただったという保証がない、 わたしはもっと細く裂かれて、 尖ったガラスたちの裏から、 霧がやってくる、 枝わかれした路地に蛍光灯が点滅し、 そこにだれかがゆらゆらと揺れている、 唾を吐きかけられ、 指だって何本も差し入れられた、 何を吸ってるの? 鉤裂きたちを結んで、 皮膚は網になって、 網目という網目に噎せ返る夢、 何もわからないで叫んでいるだけの糸たち、 出したものか入れたものか思い出せない、 考えているつもり? あんたなんかわたしじゃない。 漂っているだけで、 霧、という場所に行けない、 絶えまなく運ばれてゆく、 夢たちはもつれ、 服は剥ぎ取られてしまった、 叫んでいる、 桃のような電線の束、 冷蔵庫のなかに横たわり、 膨らんでいる なまなましい鏡。 |