夜逃げその1
当ビルにお住まいのNさん。
小さな会社の常務さん。
37歳独身,生真面目な性格だが派手好みのところがあり,自家用車はフィアット。
そんな贅沢をしているような様子は無いし,おとなしい住人さんだった。
家賃を滞納し始めて3ヶ月。(督促は出すが連絡が全く無かった)
ある時,その会社から電話が....
「あの〜,Nが所属するOO会社なんですが,Nがしばらく出社していないのですけど,どこにいるか知りませんか?」
「いえ、私も最近見かけません。」
(この時は家賃滞納のことはプライバシーに関わることとして言わなかった。)
「見かけたら会社に連絡するように伝えて下さい」
「はい,わかりました。」
それから3日後,今度は保証人である実のお姉さんから電話が....
「あの〜,私の弟どこにいるか知りませんか?」
「いや〜,わかりません。 実はこうこうで.....」
と、家賃滞納,会社に行っていないことを詳細に話す。
「今からすぐにそちらの部屋に見に行きますので,開けていただけませんか?」
「どうぞ,お越し下さい。」
1時間後,旦那様と連れだって来られたお姉さん。
「すみません,弟に何があったのか心配で....(泣きそう)。」
「いや,まさか死んではいないと思いますが,私も住人のプライバシーを守るという点で勝手に入室できませんからねえ。」
「不在かもしれませんが,室内を見せていただけませんか?」
「いいですよ,ご案内します。」
部屋の鍵をマスターで開け,ご夫婦は中へ入っていった。
すぐに声がして,どうやらNさんは部屋にいた様子。
しばらくしてお姉さんが出てきた。
「スミマセン。 中で寝ていました。 事情を聞いて後でお伺いします。」
とのこと。
管理人室で待つことにした。
それから2時間後。
Nさんを含めた全員が管理人室にやってきた。
「実は.....」
と,お姉さんが語り始めたことに私はびっくりした。
Nさんは年収約600万(当時は高収入)。
1年前からとある新地のクラブの女の子にいれこんで,通い続けて給料は殆どつぎ込んでしまっている。
数ヶ月前よりサラ金に手を出して(現在の法律以前のサラ金で高金利だった)数百万円の借金があり,サラ金業者に追いかけられていて隠れていた。
とうてい借金は返せないし,家賃も支払える状態ではないこと。
「どうします?」と私。
「出来れば滞納しているお家賃をお支払いしたいのですが,このままここに居続けるとたいへんなことになりそうですし....」
「では,こうしましょう。 保証金と滞納分とを相殺すれば不足分はわずかです。 至急部屋を明け渡していただけるなら,不足分は目をつぶります。」
「ええ、願ってもない事です。 そうしていただけるなら明日にでもここを引き払います。」
「それではNさんは家賃を滞納したあげくに夜逃げしたということにしてください。 もし、金融業者の連中が来ても行方は一切わからない,保証金も家賃と相殺したということにします。」
「ありがとうございます,そうします。」
と、Nさん兄姉は頭を下げて出ていきました。
次の土曜日,Nさんは朝から引っ越していきましたが,その後の消息は私にもわかりません。
(-人-;)ご無事でありますよーに