次の キリ番 は「44444」です。
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「世界征服するとしたら、何が必要だと思う?」 またくだらない話を始めたものだ。翡翠は黙ってプレートのオムライスを口に運び続けた。 「俺だったら、うーんと、とりあえず専属画家で泉汰?」 「何で彼なの?肖像画でも描かせるつもり?」 うっかり孔雀の言葉に返事を返してしまった翡翠は一瞬眉を寄せたが、すぐに一度口に出してしまったものは取り返しがつかない、と諦めたのだろう、続けて言った。 「そんなことしたら、彼はその日のうちにストレスで血を吐いてどうにかなってしまうと思うけど」 「じゃあ専属でなくてもいいや。それくらいしか思い当たんねー」 「少なくとも君には経理係が必要だと思うけど。世界征服って、征服する瞬間じゃなくて、その後も征服し続けることが大事なんだよ?」 「それで、何で経理なんか要るんだよ」 「世界経済が君のお小遣い帳レベルで動いていると思ってた?」 「せや、お前、伝票の仕訳かて出来へんやないか」 今日は店中を締め切って消毒しているらしく、ヒマをもてあました孔雀のバイト先の店長までもがベータ・ゾーンへとやってきている。『ガーディアン』法の規定によって、彼は許可なくこちらの世界へ戻ってくることを禁じられているのだが、・・・翡翠は許可した記憶は無いが、どこかの『判事』が孔雀にねじ込まれて泣く泣く許可を出したのだろう。実際のところ、相当に彼の逆鱗に触れるどころか突付き回すような真似さえしなければ、実態はただの派手で陽気でやかましい青年なだけだ。 「この間、経理簿の計算しただろ!」 「あんなん帳簿の上から下まで足しただけやないか!お前、商業簿記かてマトモに知らんやろ!」 「うるせーな、俺は簿記四級なんだよ!」 「『今に取る気の四級』かい!簿記と名乗ってエエんは三級からじゃ、ボケ!経常利益だの損益計算だのの前に仕訳すらマトモに出来へんヤツが、経理係なしで何が出来るねん!」 「お前は出来んのかよ!」 「おお、俺は簿記一級に加えて勢い余って工業簿記まで取ってもうたわ、経営者の名は伊達やあらへんのやで!」 ちっこい店やけどな!という妙な暴露さえしなければ、格好もついたというのに。翡翠は金に輝く髪を眺めながら尋ねてみた。 「そういう君は?経理が要らないなら、何が要ると思うの?」 「え?俺か?えーと・・・」 たった今まで孔雀をからかって笑っていたユタの顔が、さっと曇った。 「アカンわ、俺が世界征服したら、お客さんもおらへんようになるし、流通も全部止まるし、世界の全部が消えてしもうて俺も生きて行かれへん!子孫も残せんようになってまう・・・!」 「・・・君の考えてるのは『世界征服』じゃなくて『人類滅亡』だと思うんだけど・・・」 「どこが違うねん?」 「まあ君の場合はあんまり変わらないかもね・・・」 ふう、と溜息を吐いた翡翠に、孔雀が言った。 「お前は?」 「僕がなに」 「だから、お前が世界征服するとしたら何が必要だと思う?って話」 「ああ・・・」 ごちそうさま、とプレートに手を合わせた翡翠は微笑んだ。 「しないよ」 「はあ?」 「世界征服なんてしないって言ったんだ」 「いやだから、たとえばの話」 「世界征服なんてリスクと手間ばっかりで何にも良いことなんか無いじゃないか。僕は自分で世界征服なんかするより、誰かに任せるよ」 「そんで、治安『判事』を続けるんか?」 「まさか、面倒くさい。影のナンバー・ツーになって、利益だけいただくんだよ。クーデターが起こったって次のトップに取り入れば良いだけの話だ」 「・・・お前、それ『法廷』食堂でおおっぴらに話すような内容やあらへんで」 「もしも、の話だろ?実際は僕はしがない治安『判事』で、君たちがとっととアルファ・ゾーンへ帰ってくれたら幸せに思う、ただそれだけの小さな人間だよ」 小さな人間が「影のナンバー・ツーになって」などというものかどうか、大変怪しいのだが。 孔雀とユタは邪魔者扱いされたことに気を取られて、そちらに異議申し立てをすることを忘れてしまったのだった。 「なんだとー、またお前の名前で十人前食うぞ!」 「なにッ、お前、俺の店でメシ食うてまだ他所で食うとんか?!俺の飯は食えんっちゅーんか!」 「ベータ・ゾーンへきたら腹減るんだよ!」 世界征服でも人類滅亡でも食い逃げでも勝手にしてくれ。 翡翠はトレーを下げて、さっさと『法廷』へと戻ったのだった。 |
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