1.はじめに
現在、鉄道総研では新幹線の300km/h級の高速化の研究開発が鋭意進められており、JR各社からもその成果が待されている。
この研究の過去の経緯を少し振り返ってみると、研究所の「新幹線速度同上の研究」研究班により59年度まで新幹線の300km/h級の速度同上の可能性について検討がなされてきた。その中ではまず最高速度300km/hで営業運転できる車両を前提に350km/h領域まで試験走行が可能な車両(SUS)の構想が提案された。そしてこのSUS車両による300km/h級の速度向上の可能性について、経済性と車両、軌道、集電、信号、環境保全の各技術分野から検討がなされた。その結果、高速試験による確認と今後の研究開発による課題の解決を必要とするものの、充分経済的にも技術的にも実現性のあることが確認された。そしてそのためには車両の高速化の研究開発が特に重要であるとされた。
そこで60年度からは研究所の「速度同上のシステム検討と車両の構成」研究班により、車両を中心とした高速化の研究に移行し継続されてきた。この間、車両局を中心に現行の車両方式を改良して短期間で実用化をめざす高速車両「スーパひかり」の開発が開始されたので、この研究班ではさらにその先を目標に、先の研究班で整理された高速化の課題の解決を、新しい車両の構成法に求めることを研究の主題とし、新方式の提案とその実用化の可能性の追求を行なってきた。その内容は多岐に亘るがここでは紙面の都合で、特に重要と思われるものに限定してその一部を紹介し、その他のものについては別の機会としたい。
2.パンタグラフの騒音対策
SUS、スーパひかりとも、空気抵抗低減のため屋根高さを下げることを提唱しているが、この場合、現在東北新幹線で試みられているパンクの周囲をドーム状に盛り上げるパンタ屋根カバーによる騒音対策は、架線高さが同じであるかぎり屋根が低くなった分だけドームを高くしなければならず、空気抵抗低減の効果がなくなってしまう。
そこで図1に示すようにパンタ支持碍子上に上部が開いた翼型の防音ケースを取付け、その中にパンクを収納する方法が考えられる。新幹線のパンタ下げ時の架線−パンタ間の寸法は、30cmのAC 30kvの電気離隔寸法と20cmの構造上の許容寸法の和の50cmとなっている。そこで電気離隔距離の確保を別に設けた解放スイッチで行なえば、その寸法を20cmまで小さくでき、これを収納する防音ケースも架線に20cmまで接近させることができる。このように防音ケースで騒音源のパンタグラフ舟体を遮蔽することで、図2に示すように沿線の遮音領域を拡大できる。
なお騒音ハンドブックの音源の遮蔽による騒音低減効果のデータによれば、図2の線路ぎわのA点て△10 db以上、音源がぎりぎりかくれる遠方のB点で△5dbの効果が想定できる。
3.車両下面の全面吸音構造
新幹線の転勤音の主たる騒音源は、長いレール全体であることが明らかにされている。
そしてレールからの騒音は車両下面と軌道面の間で繰り返し反射して、残響音として増幅されていると見なしうる。そこでレール上にかぶさった車両の下面全体を吸音構造にすれば、残響音が減りレール近傍の騒音レベルも下がる。試算によれば車両下面の吸音率を5%から80%に上げれば△5dbの騒音レベルの低下となっている。
東北新幹線の車両は雪害対策のため床下がボディマウント構造になっており、車体下面は台車部を除きレール面上200mmの高さで、吸音率の悪い金属板で覆われている。そこで図3、図4に示すように、孔あき金属板の裏地に吸音材を張付けた孔あき吸音板を車体下面に使用すれば、ボディマウントの床下機器室が一種のヘルムホルツ共鳴器となり、吸音材と相まって低周波から高周波まで吸音効果の高い車体下面が構成できる。
台車部については検修上全体を覆うことは困難なので図4、図5に示すように台車側ばり両端から、前後の車輪を通すスリットを二つ設けた短形形の吸音板を、車両限界の85mmまでレールに接近させて取付けレールからの騒音を吸収する。この吸音板に要求される強度、耐久性、軽薄度、吸音性能等の厳しい仕様に合格させるため、吸音材は最近開発されたアルミをスポンジ状にした超軽量のアルミ発泡材を用い、それに若干の背後空気層をもうけて遮音板を裏打した吸音板とする。
このように車両下面全体の吸音効果を高めると、線路ぎわの防音壁からの反射音も吸収するので、防音壁の効果のアップも期待できる。しかし騒音の問題はなかなかやっかいなので、試験によりその効果を確かめながら実際の実施方法を検討していく必要がある。
4.ルーツファンによる車内換気
高速列車のトンネル進入時やスレ違い時に生じる大きな外気圧変動が車内に伝わると、乗客の耳に不快感を与えるので、新幹線車両では車体を気密にするとともに400mmAqの高い静圧をもつ大型、大出力のターボファンで換気する方式としている。しかし300km/hの速度同上では、静圧をさらに800mmAqにまで高める必要があると試算されており、ターボファン方式をそのまま踏襲するのは問題点が多く実用的とはいえない。
そこで新しい換気方式として気密を保ちながら送風できる図6のルーツファンによる換気を提案したい。ルーツファンは図7のまゆ形または図8の三つ葉形の二つのロータのお互いの凸部と凹部を噛み合わせるようにして等速逆回転させ、ロータ凸部の円周をおおう半割の筒とロータの窪みの空間で送風するものである。
また、気密はロータ間の噛み合いのシールとロータとケーシング間のシールで保たれている。
このルーツ方式は真空ポンプや圧カポンプとしての利用が多く、換気のような送風ファンとしての使用例は見受けられない。送風ファンとしてなら安価な静圧の小さい普通のファンで充分だからであろう。-
車両用換気装置としてのルーツファンは、通常時は静圧の小さいファンとして作用し、外気圧変動が生じた時のみそれに見合う静圧を発生させ圧力差に耐える独得の機能を持ち、この用途には理想的なファンといえる。これに対し従来のターボファンは常に大きな静圧で回り続けているファンである。
ルーツファンは回転数が変動しない限り風量が常に一定なので、この換気装置では従来方式が抱えている給気と排気のアンバランスによる車内圧上昇の問題も解決され、また前述のように通常時はファンの静圧が小さいので消費電力もほんの僅かになり、今後の開発にもよるが、1/3程度までの装置の大幅な小型軽量化も期待できる。
5.車体傾斜抑制台車による曲線での速度向上
曲線での最高速度は左右定常加速度が0.08gをこえないという乗り心地上の制約からきているが、これは車両のばね系が遠心力で外側に傾斜しない構成であれば、カント不足量120mmと等価になる。現状のままのカントの曲線での120mmのカント不足量を許容するとすれば、R2500の東海道新幹線でぱ250km/h、R4000の山陽新幹線(岡山以西)では305km/h まで曲線での速度間上が可能となる。
曲線での車体の傾斜を抑制するにはその重心を低くすればよいが、それには車両の構造上の制約があるため、ここでは空気ばねを利用したアクティブ制御の車体傾斜制御について紹介する。
空気ばね式の台車に4項で説明したルーツ型の空気ポンプを追加し、図9に示すようにその二つの空気口をそれぞれパイプで左右の空気ばねにつなぐ。そして可逆、可変速モータで空気ポンプを駆動することで、流量、流速、方向を正確に制御しながら、左右の空気ばね間で空気の移送を可能にする。曲線走行時には内側の空気ばねから外側の空気ばねに空気を移送して、外側の空気ばねのばね定数とばね高さを高くし軸ばねによる台車の傾きも補償して車体傾斜を抑制する。直線に戻るときは逆に、内側の空気ばねに空気を戻し、両方の空気ばねの内圧のバランスをとる。
この方式は在来線の381系特急電車のような振子構造を持たないので、装置が簡単で台車の質量、価格のアップもわずかですむ。そして乗り心地が良いと好評の制御付振子車で開発された指令制御装置に、この方式のアクチュエータを組合せて使用する。それを図!Oに示すが、車速と曲線情報から曲線でのカント不足量を前もって計算し、緩和曲線走行中に可変速モータを制御して空気ばね間で空気を移送する。そして曲線での車体傾斜を抑制することで、曲線の速度向上を可能にする。
6.おわりに
新幹線のより一層の高速化は鉄道技術者に課せられた重要な課題の一つであり、そのために「スーパひかり」の設計や「SUS」の研究が行なわれてきた。この二つの研究開発はその実施メンバーや進め方に違いはあるものの、高速化の技術の確立という同一目標を目指すものてあった。
今春の鉄心総研の発足で国鉄の技術の計画、研究、設計分野が続合されたのを機会に、二つの研究開発の成果を正当に評価し融和させ、その上でそれらを継続発展させ、鉄道総研が鉄道高速化技術の中核としての役割を果たされるのを切望してやまない。
なおこの研究は笠井浩三(59年度)宮西希一(60年度)田中宏(61年度)の各班長の指導と班員各位の参加を得て進めてきたものである。
文献
@「新幹線速度向上の研究」研究班:“300 km/h級新幹線速度向上の研究“鉄道技術研究所報告1282(1985)
A「速度同上のシステム検討と車両の構成」研究班:“速度向上のための新しい車両の構成法(中間報告)“鉄道技術研究所速報No.A−86−143(1986)
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W 新幹線310km/hの可能性をもとめて
(JREA 1984/5) top
鉄道技術研究所では新幹線の310km/hの速度向上をめざした研究グループを編成し、350km/h級の試験電車の構想、高速化のための線路、集電、列車制御に関する研究課題と具体策、速度向上の経済評価についての研究を行なうと共に、その実用化への進め方、車輪〜レールの鉄道の限界の究明にとり組んでいる。ここでは、現在までのその成果の一端についでのべる。
1.はじめに
世界各国における鉄道高速化の動きは活発で、200km/h前後の営業運転はすでにフランス・西ドイツ・イギリス・アメリカで実施されており、それよりいくらか下の150〜170 km/hの営業速度ではイタリア・カナダ・オーストラリア・南アフリカの各国で実用化されている。
特にフランスではTGVにより世界最高の380km/hの試験走行とパリ〜リョン間での270 krn/h営業運転を実現させている。そしてさらにTGV走行線区を拡げるべく、パリと大西洋岸都市を結ぶ大西洋新線の建設を決定しており、同線用として同期電動機駆動のより高性能のTGV列車の開発に着手している。この影響を受けて西ドイツでも現在建設中のバイパス用の高速新線での300 km/hの営業運転を目指しており、研究技術省から約40億円の助成を受け350km/h級の試験電車の開発を進めている。
このような世界の鉄道の高速化への活発な動きの中でJNRも手をこまねくいているわけはなく、速度向上の不断の努力が続けられている。新幹線の場合、当面の目標として東北新幹線上野開業時に営業速度を、230〜240 km/hまで速度向上すべく、現在長期走行試験が行なわれている。
これと共に、鉄道技術研究所ではさらに将来の目標として、その上の速度(260〜310 km/h)を目指した研究も進めている。「そのために研究所内に各分野の専門家を集めた”新幹線速度向上の研究”グループがもうけられ、営業運転速度310 km/h、 試験速度350km/h以上が可能な試験電車の構想、速度向上のための研究開発の進め方、具体的な速度向上策とその効果等について検討されている。ここでは現時点までの研究成果の概要について紹介する。
2.350km/h級試験電車(SUS)の構想
新幹線の場合、全電動車型の完全な動力分散型の列車であるのに対し、諸外国の高速列車は、コスト、保守、運用上の面から有利であるとして、プッシュプルの機関車列車タイプの動力集中型が一般的である。これは、それらの国土の地盤が日本に比較して強固なため、線路の最大許容軸重が20トン以上(新幹線16〜17トン)と大きく、軸重の面から高速高出力の機関車の開発が可能であったためと思われる。
しかし、SUS車(Speed up of Shinkansen)は既存の新幹線のレール上を300 km/h以上で走らせるという事で、新幹線電車で長年の実績のある全電動車タイプの動力分散型で考え、この方式で大幅に軸重を下げ、軸重と共に列車の高速化のためにはより重要な要素となるばね下質量の低減を図る事にした。
そして、その目標値を軸重10トン(現新幹線0系電車16トン)ばね下質量2.0トン(O系電車2.3トン)とした。軸重10トンを実現するには現用車の大形車体(長さ25m、幅3.4m)のままでは最新の軽量化技術を取り入れてもかなり困難なので、定員面では若干不利とはなるが、車体を在来線車両並(長さ20m、幅3.0m)に小形化して、これに軽合金車体等のすでに実用レベルにある軽量化技術を付加すれば、充分実現可能である事が試算できた。
このように軸重が大幅に軽減されると、その分車軸は細く、車輪径は小さくでき、ばね下質量も軽減できる。プレーキディスクの質量は速度向上に伴ない増加するが、これを現用タイプと同様の車輪取付とすると、ばね下質量が増えてしまうので、ブレーキディスクをばね上の主電動機軸に取付ける事も検討している。
諸外国の高速列車では相隣合った2両の車両の車端部を支える連接台車方式としているケースも見受けられるが、これは2両分の荷重を支える関係でどうしても軸重が大きくなってしまう。それでも無理に軸重を10トン以下におさめようとすると、車体長が10m以下と極端に短かくなってしまうので、SUS車での連接台車方式は困難と考えた。
また、最近南ア連邦鉄道やイギリス国鉄で開発が進められている自己操舵台車は、もともと低速大軸重の貨車の車輪摩耗防止用に開発されたものであり、高速列車用としてはまだ未知の分野で研究開発要素が多いため、将来の研究課題であるとして、台車としては当面実績のある従来形の2軸ボギー台車方式で考える事にした。
台車の蛇行動防止に関しては、台車、車体の寸法、質量、ばね系、ダンパ系の諸定数等の車両諸元をパラメーダとして、蛇行動の発生限界速度を計算したところ、最適な車両諸元を選定すれば限界速度を400km/h以上に上げうる事が確認された。さらに、マイコンを応用したアクティブ制御により、高速時の乗り心地の良い台車構成法の検討を行なっている。
電気ブレーキについては、高速化に伴なう機械ブレーキの負担を軽くする意味で、その信頼性の向上が重要で、なおかつ、電気ブレーキに要する機器質量の軽減が要求される。そこで、この条件に合致する電気ブレーキ方式を開発すべく、電力回生ブレーキや界磁電流式発電ブレーキについての検討も行なっている。
車体の断面の小型化と質量の軽減は、列車の走行抵抗の低減に寄与する。これに加え、さらに車体形状や屋上機器の構成の空気力学的な改良を行なえば、同一速度で現用車の約65%にまで走行抵抗を減らしうる可能性がある。そして試算によれば、編成当りでみればSUS車の260 km/h運転の場合、現用車の210km/h運転とほぼ同じエネルギー消費であり、SUS車の310 km/h運転でも20〜30%のアップですみそうなので、速度向上に伴なうエネルギーコストの上昇はそれほど気にする必要はなさそうである。
駆動用電動機としては250〜275kWの直流電動機とするが、将来的には同期電動機や誘導電動機の研究も必要となろう。直流電動機はそれ自身の特性として高速になると出力が低下し急速に牽引力も小さくなってしまうので、高速時にも充分な牽引力が得られるよう高速時は出力一定制御とするのが望ましい。その一方法として界磁電流制御があるが、高速回転の電動機で広範囲の界磁電流制御となると、整流子の整流火花が大きくなる心配があるので、昔からの課題ではあるが、今一度、整流改善策について見直す必要かある。
3.速度制限要素とその対策
速度制限の要素としてまず問題になるのは線路曲線である。東海道新幹線は210 km/h運転を考えて2500mの最小曲線半径、山陽、東北、上越新幹線については260 km/h運転を考えて4000mの最小曲線半径である。しかし、カントと乗心地基準の見直し、車体重心低下、曲線走行性能の良い車両の開発等により、さらに速度向上が可能であろう。なおこの速度制限については、53年8月に小山試験線で961形電車を使っての高速試験で、4000Rの曲線を295km/hで通過した実績もあり、今後車両と軌道の両面からその限界を見極める必要かある。
次にトンネルでの高速走行に伴なう問題として微気圧波(列車が高速でトンネルに突入すると、トンネル出口でドンと音がする現象)と車内気圧変動による集客への不快感(いわゆる耳つん現象)がある。前者についてはSUS車での約30%の車体断面積の縮少の効果はあるものの、ただそれだけでは310 km/hまでの速度向上は無理で、列車先頭形状での対策あるいはトンネル入口ヘのフード取付等の対策についての検討も必要である。後者については現用車のターボファン式の連続換気方式は、310 km/hでは性能的に限度を越えてしまう。そこで車外の気圧変動の影響を殆ど受けないでトンネル内でも換気できる新方式のレシプロ式換気装置を考案し、その実用化へ向けての研究も行なう必要がある。
分岐器の直線側における制限速度については、高速通過に伴なう強度上の問題を耐久試験により確認すると共に、転換鎖錠装置、接着照査器についての検討も必要となるが、技術的には310 krn/hまでの速度向上は可能であると思われる。
4.高速化と線路
車両の高速化に伴なって著大輪重(瞬間的に車輪とレール間に大きな荷重がかかる現象)が発生しやすくなるが、これは車両と線路の相互作用によって決まるものである。著大輪重は軌道や車両に悪影響を与え、また、走行安全性からも好ましくないので、高速化のためにはその対策が必須となる。軌道側の対策としては軌道のばね系を柔らかくするとか、レール頭頂面の凹凸をへらすのが効果的で、車両側としては車輪のフラット防止と軸重およびばね下質量の軽減が有効である。線路側の条件を同じとして350 km/hでの著大輪重の発生を現用車の210 km/hと同程度以下におさえるために、前述のような柏重10トン、ばね下質量2トンをSUS車の目標値とした。
高速時の走行安定性と乗心地の確保のためには、鉄道の原点ともいえる車輪のレール面上でのころがり現象の解明と、軌道状態と車両構成法が車体振動におよぼす影響を明らかにする研究が重要となる。前者については近く研究所内にクリープ力試験機が新設される予定で、鉄道の高速化の限界の見極め等に威力を発揮するものと期待される。後者については軌直狂いを模擬して下から加振できる新しい車両試験装置がぜひ必要で、鉄道技術の新たなる脱皮のためにもその新設が望まれる。
高速化に伴なう軌道破壊の傾向については、車両の軽量化の効果の確認も含めて長期試験が必要となろう。
5. 高速化と集電
260 km/h運転に対しては架線とパンタグラフの挙動の確認と保全実績を得るための高速試験を必要とするが、現在までの研究および実験の成果から致命的な問題はないと思われる。そして、昨年から実施している東北新幹線でのパンタグラフ半減化試験の結果をふまえ、できるだけパンタグラフ数を減らすのが良いと考えられる。
310 km/h以上になるとパンタグラフの移動により生じる架線振動の伝播速度が車速に近づいてくるため、架線振動伝播速度をさらに上げるために軽量架線の研究が必要となろう。そして、すり板部のばね上質量を軽量化した追従性の良いパンタグラフや離線アークによる摩耗の少ないカーボン系のすり板の開発を進めると共に多数パンタグラフによる高速集電がかかえる問題を解決するために、どこまでパンタグラフ数の削減が可能か総合的な検討が必要となろう。
6. 高速化と列車制御
現在210キロ信号までのATCの速度向上に伴なう対応策として、今のATC設備が持つ予備の一信号波を250〜260キロ信号として使用し、それ以上の高速信号に対してはATSのような地上子で列車に信号を送る点制御式の信号設備を追加することで、経済的な列車制御方式が可能となる。点前御式の信号速度と地上子の設置方式は、想定される列車ダイヤ、SUS車の高速でのブレー牛性能等を勘案しながら今後検討していく。
現在のATCでの駅停車直前のだらだら運転を改善し、過大なATCブレーキにより引き起される車輪滑走を防止するために、車上パタンによる減速制御の検討も行なっている。
7. 速度向上と環境保全
300 km/h以上の速度向上の実現には、鉄道技術の広い分野にわたる数多くの研究開発が必要であるが、その中でも列車騒音等の環境保全に関する研究は極めて重要で社会的な関心も高い。
走行騒音に関しては、その発生機構の解明と低減法の研究が続けられてきており、かなりの成果をみるまでに到っている。しかし、現状方式のままでの速度向上は今よりもその分だけ騒音レベルの増大につながる恐れがある。そこで、速度向上しても騒音レベルを現状並にとどめる事を目標にして、走行騒音低減の研究をさらに深度化していかなければならない。
車輪のころがりにより生じる転勤音は、車輪〜レール間の凹凸による強制振動に起因していると見倣しうる事が次第に明らかになってきている。
車両側の対策としては強制振動の加振源となるばね下質量の軽減がある。輪重の大幅軽減は弾性車輪(タイヤと輪心の間に弾性体を挿入した車輪)の開発にも有利となりその効果を上げる研究も行なっている。また、車輪踏面をより平滑に維持するために、現在の踏面研摩子の効果をさらに上げる意味で踏面ブレーキを使用する事も考えられる。この場合、踏面ブレーキだけで全プレーキ力を作用させるのではなく、電気ブレーキやディスクブレーキの20〜40%を分担させる複合ブレーキとしての踏面ブレーキである。
軌道側の対策としては研究成果に基づいた各種対策がすでに実施されているが、レール凹凸に対するなお一層の配慮が必要となろう。特にレール溶接接目部や絶縁接目部については、平滑度の維持が要求される。
300km/h前後の高速になると列車先頭部、パンタグラフ部の風切音の増大が予想されるので、風切音の少ない列車先頭部形状、パンタグラフ構造の研究が重要となる。そのためには、まず低騒音風洞による基礎実験が必要で、その設備新設が望まれる。
パンタグラフ騒音に関しては、その遮音効果をあげる屋根構造の研究も進めている。
8. 速度向上の評価
速度向上による時分短縮の効果を調べるため、計算モデルの線区を想定し、曲線通過、駅通過、トンネル突入等の速度制限要素をバラメータにして運転時分の計算を行なった。その結果線区にもよるがトンネル突入時の速度制限が時分短縮の効果に特に大きな影響を与える事が明らかになったのでトンネル微気圧波とその対策の研究が重要である。
このような到達時分の短縮による需要推定を行なう前段として、福岡空港で航空機客へのアンケート調査を行なったところ、博多〜大阪間で30分短縮になれば40%、1時間短縮であれば65%以上の航空機客が新幹線に乗るという結果を得た。なお大阪〜博多間の1時間短縮は前述の速度制限にもよるが、310 km/hのノンストップ運転であれば十分可能である。
アンケート結果により想定される航空機からの移転客と現在の新幹線の大阪〜博多間の直通乗客数からみて、1時間1本のノンストップの310 km/h運転の列車の設定が考えられる。そして、現行ダイヤヘのこの列車の追加も十分可能性のある事も確認できた。
さらに310 km/h運転の経済評価を現在進めているが、航空機からの転移客による増収分か、仮定をおいた車両と地上設備への追加設備投資額と動力費、保守費の経常費増分を合せたコストの全増分を十分まかなえる可能性があるという結果が得られつつあり、310km/h運転は採算的にも成立つものと思われる。
9. おわりに
310 km/hの営業運転をめざしたこの研究により、騒音振動防止、高速集電、車両軽量化、高速台車、高精度軌道管理、高速列車制御等々の研究開発が進めば、その成果は高速化のみならず、現状の速度による営業に対しても新幹線をより合理的に維持するために有効に活用できるであろう。これらは新幹線が現在持っている課題を解決し、さらに線路、架線、車両の保守費や動力費の低減に寄与する可能性も持っている。鉄道経営上からもこの研究はきわめて重要なので、研究所としては今後ともその実用化をめざしての研究開発に積極的にとり組んでいく予定である。
鉄道技術研究所のこのグループ研究はさらに広く深く進められている。本文の内容は、これらの成果の一端であり、杉山班長以下メンバーの方々の努力に改めて敬意を表すと共に、誌面の関係で内容を圧縮したための舌たらずの説明等は筆者の責任であることを記しておく。
参考文献
@ 速度向上研究会新幹線速度向上研究WG:新幹線 速度向上の研究 Phase−I、鉄研報告N0.1202、昭和57年2月
A 笠井浩三:新幹線の高速化、JREA、昭和58年 4月
B 佐藤吉彦:軌道からみた鉄道システムの境界問題、 JREA/昭和58年5月
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X 東海道新幹線電車を2階建てにする
(JREA 1977/8) top
まえがき
東海道新幹線は線路容量がすでに一ぱいになり昭和50年代には輸送力がパンクするだろうといわれている。これに対し新幹線電車を2階建にして輸送力向上がはかれないだろうか。2階建新幹線電車の可能性について追求する。
(追記 これは30年以上前の論文ですが、JR発足後の1994年にJR東日本で総2階建てのMAX(右)が登場した。これは一階建電車より4割定員が増えている。
JR東海の新型車のN700系は総一階建ですが、初期の0系より座席間隔が広がったので、定員は1割ほど減っている。)
1.車海道新幹線のなやみ
昭和40年代は東海道新幹線の黄金時代であったといえる。39年開業当初は200km/h走行の未経験から生じる設備上のトラブルや初期故障のため、比較的事故も多かったが、40〜42年にかけての事故防止対策の実施により急激に事故件数が低下した。そして高度経済成長の波に乗り輸送量も急速に増加してゆき、毎年ダイヤ改正により列車本数が増えてきた。又、44〜47年にかけて編成両数も12両から16両編成となった。そして47年には岡山開業と続き、40年代は新幹線は高速、安全、確実な大量輸送機関といわれ、国鉄のドル箱路線として高成長を続けてきた。
しかし、50年の博多開業の時点から、さすがの新幹線にもかげりが見え始めた。それは、
@ 列車本数が線路容量一ぱいになり、今後の輸送量増大に対応が困難になり、このまままでは50年代中には輸送力がパンクする。このため第2東海道新幹線の話もあるが、その実現はかなり先になるだろう。
A この2〜3年事故が急激に増え続けている。昨年の場合は40年代の安定期に比べ5倍以上にもなっている。特に冬は関ケ原の雪害によるダイヤの乱れもある。
B 新幹線の騒音公害が社会問題となっている。
C 国鉄運賃が高くなり航空旅客が増えた。成田空港が開港となり羽田の国内便が増えると、新幹線はさらにシェアを喰い込まれる恐れがある。
これらの問題に対応する方策はないだろうか。このままでは新幹線もじり貧になってしまう。
2.東海道新幹線電車はモデルチェンジが必要か
飛行機の航空輸送は当初レシプロエンジンの小型のプロペラ機でスタートしたものが、30年後半にはフレンドシップ、YS11等のターボプロップ機となり、さらには幹線にはボーイング727ジェット機等が導入されスピードアップと定員増がはかられてきた。そして46〜48年にかけてジャンボ機やトライスタの定員300〜500人のエアバスが出現した。
この飛行機のジェット化大型化は高速化と輸送力増強だけでなく、1人当りの消費燃料低減等にもつながり、運航費の低減にもなっている。そして結果的には運賃が相対的に安くなってきており航空旅客が急速に増え続けてきた。
このように航空輸送が新機種の導入により成長してきたように、新幹線電車もそろそろモデルチェンジして新しく脱皮しなおす時期にさしかかっているのではなかろうか。
新幹線電車も設計されてからすでに15年経ち、その間、事故防止や保安度向上のために手直し程度の設計変更は実施されてきているが、基本的には標準化による運転取りあつかいと保守の容易化のためすべて同一設計で造られてきた。
同一設計の長所はすでにその効果を充分に発揮してきているが、新幹線が曲り角にさしかかった今、いつまでも標準化のみにとらわれて、15年前の技術レベルで設計された新幹線電車を造り続けるのは、再考せねばならない時期がきているといえる。それでは現在の技術レベルで新幹線電車を新設計すればどのようなメリットがあるだろうか。
@ 機種の大型化により航空輸送が成長してきたように、新幹線電車にもスケールメリットが生かされないだろうか。新幹線電車の列車長、車体幅はこれ以上大きくできないから、定員を増やす手段としては客室を2階建にするしかない。 2階建電車の構造については後にのべるとして、これで16両編成のひかりで1340入の定員が約2000人と50%近くの定員増がはかれる。
車両数が増えないで輸送量だけが増えるのだから、運転士も車両保守要員も増やさなくてすむ。すなわち乗客1人当りのこの分の人件費は2/3に低減できる。さらに大きな利点として、すでに線路容量が一ぱいになった東海道新幹線の輸送量を約1.5倍に増やすことができ、第2東海道新幹線が完成するまでの輸送需要増大に対応可能となる。
A 新幹線でも運行管理面については数年前にコンピュータを導入したCOMTRACシステムを開発し、指令業務の近代化がはかられた。大型タンカー、化学プラント、発電所等の他の産業分野でも最新のエレタトロニタス技術を導入し、センターと端末との情報収集と集中コントロールの技術が実用化されている。しかしながら新幹線電車の場合は16両の多数の機器を動作させて1300人以上もの乗客を運んでいるにもかかわらず、昔どおりの乗務員のかんと技能にたよっている点が多く、トラブル発生時の処置に手間どっているのが実情である。又、乗務員の技能レベルも全般に低下してきた。
そこで新幹線電車にも最新のエレクトロニタス技術を導入して、電車の制御と機器監視をシステム化し、異常時乗務員が的確な判断と行動がとれる方式とする必要がある。幸い、低価格で高信頼度のマイクロコンピュータの出現はモデルチェンジ車の車両制御への応用範囲を広げるものと思われる。
B 新幹線の最大の弱点は雪と騒音である。雪害については今冬も関ケ原地区の大雪のため連日ダイヤが大幅に乱れた。騒音公害についても名古屋で騒音訴訟の裁判まで行われている。これらの技術的問題の解決のため東北新幹線の小山に試験線をつくりその対策試験が計画されている。その技術成果は東北新幹線用車両だけでなく東海道のモデルチェンジ車にも適用できる。
C その他、過去の新幹線電車の使用実績と故障経験をもとにして細部にわたるまで新幹線電車を見直し、信頼度の低い機器については新設計により信頼度を高め、保守に手間どっている部分については省力化技術を適用して、モデルチェンジ車を故障の少ない手のかからない車とする
3.2階建新幹線電車を設計する
2階建車両としては近鉄のピスタカーやフランスの新形通勤客車が有名である。 ピスタカーは3両ユニットの1両だけが2階建であり輸送量増大よりも観光列車的色彩が強いが、フランスの新形通勤客車は編成全部が2階建になっており、明らかに通勤客の座席定員増を目的にしている。
車両を2階建にする場合、屋根高さが高くならないようにするため、台車間の車体底面をレールぎりぎりまで下げる必要があり電動連(M車)のように床下に機器はぶらさげられない。従って現在全電動車編成の新幹線電車を2M2Tの4両1ユニット方式として編成内の半分の附随車(T車)を2階建として、床下機器類はM車に集中して取りつける。T車の2階建部分は台車間のみなので、定員を増やすために、車両長を現在の25mから28mに延ばし、台車間距離も広げる。その分M車の車体長以22mと短くしに4両の長さ100 mは現用車と同じとする。
T車の2階建部分の長さを17mにすれば現用車と同じ2人+3人掛けの1列5入掛の座席で、1階90入、2階90入の合計180人の定員となる。 1階床面を車両限界の20Omm近くまで下げれば、2階建車両になってもレール面からの屋根高さを4200mm程度にすることが可能で、車両限界高さ4500mm以内に充分おさまる。なお現在の新幹線電車の屋根高さは3975mmであり、この高さをあと200mm高くする程度で2階建にできるから車体重心高さもそれほど高くならないですむ。
車両の両端の台車上部には長さ約5mのホーム高さと同じ高さの中階のフロアができるが、この車両は180人と定員が多いので乗客の乗降で混雑しないように、ここには充分広いデッキと側引戸をもうけ、又ここから1階、2階の客室への階段を取りつける。さらに号車に応じて、便洗面所、車掌室、売店、電話室、荷物室等のスペースにも利用する。又先頭車の場合には運転台にも使用する。
M車はT車の車体長28mにくらべ車体長が22mと短くなるが、車掌室等はすべてT車の両端にもうけるので、M車の両端にはデッキのみをつけ、残りはすべて客室として座席を並べれば100人の定員となる。
現在のひかり編成には供食サービスのため食堂車とピュッフェ車が各1両連結されているが、これに対し1両だけを2階建の食堂車とする。そして2階部分は全部テーブル席とし現在の食堂車のような側廊下はもうけない。従って4人掛のテープルを両サイドに並べられるので、食堂車定員も現在の42人から60人に増やすことが出来る。食堂車通り抜けの乗客の通路としては1階に側廊下をもうけ、さらに1階部分には食堂車用の調理室と、カウンタ付のピュッフェコーナーをもうける。ピュッフェコーナーについても現用車より広いスペースの確保が可能であり、編成の定員増に見合った供食サービスが1両の2階建食堂車でまかなえる。
その他、中間車に定員の少ないグリーン車を連結したとして、この新形式の16両編成の定員を計算すると約2000人となり現在のひかり編成より650人定員か増える。このような2階建新幹線電車は定員増のメリットは大きいが、本当に電車として成り立つかどうか考えてみたい。
以下この電車の主要な設計方針について記す。
@ 電車方式はTMM’Tの4両1ユニット方式とする。
M’は屋根上にパンタダラフをつけ、床下に高圧遮断器、主変圧器、主サイリスタ等の電力機器を取付ける。M車の床下には断流器、逆転器、コンプレッサ、MG、パッテリ等の制御機器を取付ける。
当然T車には便所の下の汚水タンク等をのぞいては床下に機器は取付けない。これらの機器はすべて4両分の出力を持つもので、現用車の2両1ユ ニ ットの機器にくらべ出力が2倍必要となるが、電気機器の重量、寸法は一般に出力のルートに比例して大きくなることと、新しい技術である新絶縁材料や大電力用半導体素子を使用すれば、小形で大出力の機器の設計が可能になる。ちなみに主電動機の場合似現在の870 kgが出力を2倍にして1050kgの重量で、主変圧器の場合は現在の3300kgが出力を2倍にして3700kgで設計が可能である。
A M車には交流回生ブレーキをT車にはディスク形うず電流プレーキを使用する。
交流回生プレーキを使用すれば電力料節減となるだけでなく、主抵抗器、主制御器等の発電ブレーキ用の電気機器が不要となり、その分車両の軽量化と床下機器ぎ装スペースの確保につながる。交流回生ブレーキには主変圧器や主サイリスタ等の電力機器を力行時と共用することになるが、力行時4両分の出力が必要なのに対し、回生ブレーキ時はM車2両分の出力を出せば良いだけなので回生ブレーキ使用にともなっての電力機器の出力増はなく、経済的な設計が可能になる。
T車のディスタ形うず電流ブレーキは車輪のディスタに非接触でプレーキをかけるもので、すでに新幹線用軌道試験車で実用化されておりT車の機械ブレーキの摩耗防止には有効である。なおT車M車共、電気ブレーキ失効時のためのディスタプレーキは当然もうける。
B 電車の底面はフラット叱して雪のつきにくい構造とする。
T車の底面は当然フラットな平面となる。M車の場合は床下機器は大きなブロックに集約化し、プロックと車体間およびプロック相互間は密着して取付ける。又両端のプロックは走行風による着雪を防止するため斜めにして風の流れをスムーズして着雪防止をはかる。この場合床下機器の点検は現在の床下に入って行うのとは異なり、ブロックの側面カパーをはずして実施することになる。
その他台車部、車端部等への着雪防止も行い、冬期の関ケ原での徐行運転を防止する。
C 車両の軽量化を積極的に進め軸重は制限軸重の16t以下とする。
車体は軽合金製にすれば、鋼鉄製に比べ1両約4tの軽量化となる。又車内設備のFRP化やアルミ化、電気機器類の新絶縁材料の使用、配線のケーブル化、多重伝送技術導入による引通し線削減、4両1ユニット化、交流回生プレーキの使用等により車両の軽量化を積極的に進める。
床下機器が取付くM車はT車に比べどうしても重くなるので、M車は22mとT車の28mより車体長を短くしてMT間の車体重量のバランスをとる。
以上、東海道新幹線電車の2階建モデルチェンジ車の長所をのべてみましたが、私の浅学ゆえ検討不足もあり、問題点も多いかもしれれません。しかし欧州における最近の高速鉄道の技術レベルの向上には著しいものがあり、それに対し日本国鉄がドル箱路線であるがかげりが見えた東海道新幹線で、いつまでも15年前の技術の電車を走らせていていいはずはありません。 今後東海道新幹線の車両をどうしていくのか関係者の参考になれぱ幸いです。
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Y モバイル放送の鉄道への応用
(JREA 1998/8 アニメの追加 )
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まえがき
走行中の自動車にCD並みの高音質の音楽や映像、データ放送などを行なう移動体向けデジタル衛星放送のモバイル放送会社がこの6月(1998/6)に発足した。構想ではチャンネル数が30〜80程度で、ビル街やトンネル内の難視聴地域には再放送設備を設けて全国を衛星1個でカバーし、2001年からサービスを開始するという。電車でもこの電波の受信は可能なので、最近のデジタル技術の動向を踏まえ、モバイル放送の鉄道への応用を考えてみる。
1 衛星デジタル放送
通信衛星を使ったデジタル放送は2社体制となった。現在、スカイパーフェクTVはJCSAT3、4衛星から合計171チャンネル、グイレクTVはスーパーバード衛星から88チャンネルのテレビ放送の電波を出している。今後さらにデータ放送のような新たなサービスも計画している。
同じ衛星放送でもNHKのBS4衛星は、まだアナログ方式のため4チャンネルしか放送されていないのに比べ、デジタル方式の導入が放送界に与える技術効果がいかに大きいかが、この多チャンネル化で窺い知れる。
このような中で2000年に打ち上げるBS4後発衛星はデジタル方式が採用されることが決まり、NHKだけでなく大手民放テレビ5社もBSデジタル放送に新規参入する。さらに本命の地上波テレビも2000年からデジタル放送を始めることになったが、これら大手テレビ局はデジタル技術を、多チャンネル化だけでなく放送の高画質化やデータ放送サービスにも利用しようとしており、まさに放送界はデジタル革命の渦中にある。
ラジオ放送にもデジタル革命が始まっている。東芝とトヨタ、富士通等は乗り物で移動中でも音声や映像を受信できる、デジタル衛星を使ったモバイル放送会社を設立した。 2000年に打ち上げるJCSAT6衛星を利用して、音楽やスポーツ中継の高音質ラジオ放送や、交通情報や地図情報、案内情報といったデータ放送を、自動車向けに始めるとしている。
この衛星の電波はテレビ放送用の12GHz帯より低い2.6GHz帯で乗り特等の移動体に適した電波である。さらに新技術のOFDM変調方式が採用されるが、これは地上波のデジタルテレビ放送でも採用される技術で、ビル等での電波の反射によるゴースト妨害に強くした方式である。そのため、受信機のアンテナは指向性のない万年筆ほどの棒アンテナですむ。また、同一周波数での再送信が可能なので、ビル街や地下の難視聴地域には再送信設備を設けることで、この衛星1つで日本全域をカバーできるという。
モバイル放送のチャンネル数は30〜80程度で1チャンネル当たりの伝送速度は32〜384kbpsである。各チャンネルは国際規格のMPEG2多重信号方式で送信される。
この方式では番組の音声や映像、データはそれぞれデジタル信号に変換され、その先頭にチャンネルやデジタル信号種別を示すヘッダを付け、複数のチャンネル分のパケットを時系列的に多重化したパケットストリームにして送信される。
受信機側ではヘッダから目的のチャンネルのバケットだけを取り出して再生する。この方式ではチャンネル数とその伝送速度は放送内容に応じて可変にできるので、電波の利用効率の高いデジタル放送が可能となる。
2 衛星を使った高速インターネット接続
電話回線を使ったインターネットの最大伝送速度は、ISDNの64kbpsである。インターネットヘのアクセスでは、上りはサーバヘの送信要求信号だけなので伝送速度に問題はないが、下りは大画面の画像や音声情報など大きなデータが含まれていると、この回線の遅さが気になってくる。この問題を解消するために生まれたのが衛星インターネット接続サービスで、上りは電話線、下りは衛星の高速伝送を利用する方式である。
ダイレクトインターネット社は国際通信衛星を使用して、すでにこのサービスを始めており、月額4500円で400kbpsの高速インターネット接続ができる。またNTTサテライト社は、N-STAR衛星とJCSAT4衛星を使って1Mbpsのインドラネット接続サービスを9月から、インターネット接続サービスを12月から開始するという。前者は企業内のデータの一斉配信用で大企業を対象に50社、後者は30万人の個人の加入者を見込んでいる。但しこれらの衛星の電波はテレビ放送用の16GHz帯で、受信にはパラボラアンテナが必要で移動体では利用できない。
もしモバイル放送でこれと同じサービスが行なわれれば、地上のパソコンのインターネット操作で送信されてくる衛星からの電波は、走行中の電車でも傍受できるはずだ。そのためにはパソコンと同じID(加入者識別コード)を電車の受信機にもセットしておけばよい。
モバイル放送はテレビ用の衛星ほど伝送能力が大きくないので、不特定多数の個人を対象にしたこのサービスは無理かもしれない。しかし加入者を鉄道会社やバス会社等の輸送機関に限定したイントラネットサービスとし、アクセスの総数を押さえれば可能だろう。
インターネットにアクセスしたパソコンに対して衛星から送られてくる電波を、そのパソコン1台だけで受信するのではなく、その鉄道会社のすべての電車や列車でも受信して車内のディスプレイに表示するのである。これで西武なら西武の電車全部に、近鉄なら近鉄の電車全部に、いつでもインターネットで情報を発信できるようになる。 JRのように電車が多すぎる場合は支社単位でIDを取得すればよい。それでも輸送機関だけなら加入者数は100までにはならないだろう。
このモバイル放送のインターネット接続サービスが開始されれば、鉄道会社は期せずして自社の電車向けの新しい情報伝達手段として、パソコン1台で自前のデータ放送局を持つことができるのである。
3 車内の乗客向けデータ放送
電車の車内には多数の乗客に見てもらえるようにデータ放送のディスプレイを取り付ける。たとえば、通勤電車では両開きドアの上に壁掛け式のものを斜め下向きに、特急電車では仕切り壁や座席の後に取りつける。
データ放送が一番威力を発揮するのは事故時である。電車が止まって動かない、のろのろ運転で前に道まない等のトラブル発生時ほど乗客がいらいらすることはない。適確ですみやかな運転情報を乗客に伝えるのは鉄道会社の責任である。
また、沿線の町のイベントや話題の紹介、地域で開催される絵画展や写真展の作品の紹介等、沿線のミニコミ紙的な役割も果たせるだろう。さらに、ディスプレイに記憶装置を内臓させ、前もって書き込んだ画像付きの運転案内や沿線案内を、車掌の操作や地点信号でローカルに放映するのにも利用できるだろう。
しかし四六時中、この種のデータ放送ばかりを電車で放映する必要もないので、通常は乗客に楽しんでもらえる一般的なデータ放送番組を放映して、車内ディスプレイを乗客サービスに積極的に活用することを考える。
4 電車向けの番組供給会社
電車向けのデータ放送番組は運転案内や沿朧清報など一部を除けば、どこの鉄道会社でも共通に使用できる。また、鉄道会社ごとに独自にデータ放送を行なうのは、それを専門業務としていないため良い番組を供給できない恐れがある。
そこで電車向けのデータ放送専門の番組供給会社を設立し、全国の鉄道会社はそこから番組を供給してもらうシステムが望ましい。これはデータ放送の送信パケット総数の削減になり、そのぶん番組供給会社は画像などの情報量の大きいデータを含んだ見栄えの良い番組を供給できることになる。モバイル放送会社には日本テレビやエフエム東京のマスコミも出資しており、番組供給会社の設立に協力してくれるかもしれない。
鉄道会社は独自のデータ放送が必要になったときだけ、自社の電車を対象にしたデータ放送を行なう。その際は自社のパソコンを番組供給会社にインターネット接続し、放映したいページをプラウザ画面上に表示して、それをプッシュ型インターネットで送信する。プッシュ型とはデータを相手側に一方的に送る方式であり、相手から要求のあったデータを送る通常のインターネットのプル型に相対する技術である。プッシュ型を使うのはパソコン操作中の不要な画面を電車で放映しないためである。
番組供給会社は自前のデータ放送のパケットと各鉄道会社からのパケットを多重化して衛星から送信する。電車の受信機はパケットストリームの中から、自社のIDパケットがあればそれを、なければ番組供給会社のパケットを車内に放映する。
5 番組供給会社の番組
電車でのデータ放送には特有の制約と特徴がある。乗客には画面の選択権がなく内容は一方的である、見ない人にはうるさいので音声は使えない、遠くからは見えにくいので長い文章や小さな文字は駄目、大きな動画は伝送速度から困難、等々。従ってイラスト、静止画、アニメ、タイトル文字などで構成した番組の供給となるだろう。それでも電車に閉じ込められ他にすることもないから乗客に見て頂ける。そしてこのデータ放送を見て頂くことで、乗客に少しでも通勤ラッシュの苦労を癒してもらえるなら鉄道会社には有り難いことだ。
このような条件から考えられる番組として、字幕入りの写真ニュース、四季折々の美しい風景写真や観光案内、JAVAを使った楽しい動くアニメ等が考えられる。ストーリ物として漫画本のデジタル作品化は、簡潔な台詞が文字で入るので面白いかもしれない。
ウインドウズパソコンの普及で始まったマルチメディアのデジタル文化が、インターネットの通信分野に、さらにデジタル放送により放送分野にも広がりつつある現在、若い才能のあるデジタルクリエータもまた、多数育ちつつある。彼らに発表の場を提供すれば、アイデアを凝らした楽しいデジタル作品を作ってくれるだろう。番組供給会社が中心になってインターネット上でデジタル作品を公募し、コンテストの優秀作品を電車用のデータ放送番組として全国放映する企画などがあれば、この新しいデジタル文化のレベル向上に貢献することにもなる。
そして、電車用データ放送の作品レベルが向上し人気が高まれば、自動車用や携帯用の受信機を使って個人の視聴者も見てくれるだろう。
以上、モバイル放送の鉄道への応用の一私案を示した。
BS4後続衛星からNHKもモバイル放送を計画している。また2000年からの地上波のデジタル放送では、テレビ、ラジオ、データ放送を一体化したISDB(統合デジタル放送)となる。この電波は乗り物内でも受信でき液晶付き携帯端末でテレビも見られるという。電車内が携帯電話に侵略されたように、今度は携帯端末に侵略されるかもしれない。放送のデジタル革命を迎え鉄道でもこの有効活用を考える必要があるのではなかろうか。
追記 原稿執筆後,郵政省からこの放送の技術基準の暫定方式が発表された。その内容の中で、本文に関連する部分は次の通りである。
1.放送の名称:衛星デジタル音声放送
2.変調方式:DS-CDM(直接拡敬一符号分割多重)
3.伝送容量:約9.4Mbps
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Z ミリ波列車通信システムの開発
鉄道総研創立十周年記念論文(入賞論文集)平成8年12月 アニメの追加
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1 まえがき
最近の情報通信分野の技術進歩は驚異的である。携帯電話、PHS、LAN、インターネット、デジタル衛星放送、テレビ電話等次々と新しい通信技術が開発され実用化されている。これは情報インフラの整備が進んできたからである。基幹ルートの有線回線はすべて光ファイバ化され、通信能力が飛躍的に増大した。無線回線でも情報量の大きいマイクロ波帯の無線技術が開発され、通信衛星やパラボラアンテナによる大容量の基幹通信ネットワークが構築されてきた。 21世紀には一般家庭にも光ファイバが敷設され、テレビ電話、スポーツ競技やライブのインターネット中継、在宅したままで大学の講義の受講や会社の会議への出席等が可能なマルチメディア時代が来るといわれている。
鉄道の分野でも地上の基幹回線は光ファイバ化が実現した。しかし列車の無線回線は割当周波数の関係から、運転保安用の列車無線と防護無線だけの以前の最低レベルのままである。最近、携帯電話の普及で列車からの電話が可能になったが、21世紀のマルチメディア時代にはさらに列車内でもオフィスや家庭と同様の情報インフラが要求されるだろう。
2 ミリ波
ミリ波は波長が1cm〜1mmの短い電波で、光のように直進する、ビーム状の電波を作りやすい、降雨や空気に吸収される、霧や降雪は透過する、アンテナと回路デバイスを小さくできる等の特徴をもつ。また、波長が1cm以上のマイクロ波までの電波の9倍の広い帯域幅(30〜300GHz)をもつため、光ファイバ並みの高速通信が可能である。マイクロ波までの電波(O〜30GHz)は広く利用が進んでおり、今後の電波需要に対してはこの未利用のミリ波が有望視されており、その開発が世界的に進められている。
日本でも郵政省がミリ波の開発を促進するため平成5年に、波長が約 5mmの60GHz帯を開発周波数に指定し、この周波数帯を使って民間が開発したシステムについては、原則としてそのまま免許申請を認めるとしている。(第1図参照)
この60GHz帯の電波はミリ波の中でも特に、酸素吸収による適度の減衰があり電波は数100 mしか届かない特徴をもつ。これは逆に少し離れれば同一電波を繰り返して利用できる利点となる。他のミリ波は降雨による減衰で晴天時と降雨時で到達距離が大幅に変るが、60GHz帯は酸素吸収が大きいため天候による変動は少ない。(第2図参照)
通信総合研究所ではこの実験システムとして超高速の構内無線を開発中で、今年8月にその成果を一般公開している。そこではビーム幅 60度の広角のアンテナ4個を、ビラミッド型の4面に並べた角度ダイバーシチにして全方位型にした親局用と、親局に対向させて使用するビーム幅4.6度の指向性の鋭い子局用の平面アンテナが試作されている。
アンテナは手のひら程度の大きさで、その中に光−ミリ波変換器等のミリ波デバイスを内臓しており、通信機器やコンピュータと光ファイバで直結できるようになっている。
この実験システムでは親局をオフィスの天井に取り付けて部屋全体に直射電波を出し、子局のオフィス内の情報機器類と超高速無線LANで結ぶ利用法が考えられており、近く実用化される予定である。
その他にミリ波の開発で知られているものに、テレビ局が使用する屋外番組中継機、自動車の衝突防止レーダと路車間通信、衛星間通信等がある。これらの開発によりミリ波デバイスのモノリシック集積回路(MMIC)の基盤技術が確立すれば、今後多くの分野でミリ波を利用したシステムの開発が進められていくだろう。
3 ミリ波列車通信システム
以下、鉄道における地上と列車間の高速通信システムとして、この60GHz帯ミリ波の利用を考えてみる。ミリ波を鉄道で利用するには、走る列車の子局アンテナから常に地上の親局アンテナを見通せる必要があり、又その間の距離を電波の到達距離以内にする制約がつく。これは鉄道の信号機の設置条件と似ている。鉄道の線路は細長いので超高速無線LANの場合とは異なり親局子局とも指向性の鋭いアンテナを用いる。
地上の親局アンテナは電波の到達距離の2倍のピッチで設置し、子局アンテナは列車の先頭と後尾に設ける。親局、子局ともアンテナは2個背中合わせにして線路の上りと下りの方向に向ける。列車が親局間を走行中は、子局の外向きの2個と隣接した親局の内向きの2個を生かす。(第3図a参照)
また列車が親局直下を走行中は、アンテナの死角を防ぐため子局は内向きの2個と親局の一対を生かす。(第3図b参照)
さらに隣接ゾーンに別の列車がいてもその電波は減衰するので、電波の干渉の問題も生じない(第3図c参照)
このように常にミリ波の通路を2ルート生かしながら、その中で受信レベルの良好な方で通信を行い、また列車の走行に合わせて親局と子局を順次切り換えて、列車へのシームレスな高速移動通信を実現する。
アンテナの指向性が鋭いので電波の拡がりによる減衰が小さくできるので、到達距離は手のひらサイズのアンテナで500m以上期待できる。従って親局のピッチはその2倍の約1kmとなる。親局は上りと下りの両方の列車と交信できるように設置する。より幅の広い電波領域が必要な曲線や駅構内に対しては、角度ダイバーシチアンテナを用いるか、アンテナの指向角を広げて親局間隔を縮める。なお親局は追越駅や本線上の団子運転を想定して、4列車と同時通信可能な多元接続方式とする。(第4図参照)
ミリ波アンテナのフィーダ線は光ファイバとし通信コンピュータと光信号でやりとりする。従って地上−車両間のデータ通信はデジタル信号→光信号→ミリ波→光信号→デジタル信号と変換されながら行われる。
基地局の通信コンピュータは管内の親局全体を制御し、さらに交換機を用いてCTCコンピュータ、鉄道WAN、公衆電話回線、インターネット、ケーブルテレビ局等につながったネットワークを構成する。列車の通信コンビューダも運転台パソコン、車内プラズマデスプレイ、PHS親局等とネットワークを構成する。PHS親局は車内にマイクロ波の微弱電波を出しPHS端末につなぐ。
4 ミリ波列車通信を利用した21世紀の鉄道技術
(1)列車運転
CTCコンピュータと各列車のパソコンで分散コンピューテイングを構築する。これはお互いに情報交換しながら、自らの守備範囲の最適処理を行うものである。 CTCコンビゴータは各列車からリアルタイムの運転情報を得て、ダイヤ遅延時の最適な修復処理やきめの細かい案内処理を行う。列車パソコンはCTCの運転情報データベースから必要な情報を得て、==j次駅までの最適な運転操作法を計算し、それを運転台モニタに表示して運転士の運転操作を支援する。
(2)列車間隔制御
先行列車の後尾位置と速度を基点とした時々刻々のATS−Pパタンを作成し、後続電車はそのパタン内の位置と速度で走行する(第5図参照)/電車長を200m、駅進入速度を時速90キロ、加速度1m/82、減速度1m/s2とすると、この方式では先行電車が駅を発車してから後続電車がホームに停車するまでの最小時間は40秒となる。また先行電車の急ブレーキ等の運転操作を後続電車に伝送七適切な列車間隔を維持できるようにする。
(3)運転保安への利用
踏切や見通しの悪い危険地帯には夜間も見える赤外線カメラを取り付け映像を送信して、列車がその地点に近ずいた時に運転台モニタに表示する。また駅停車中の列車の全ドアを見通せる位置に高解像度の望遠カメラを取り付け、運転台モニタに表示する。
(4)車内の案内表示とテレビ番組
車内にカラープラズマデスプレイを取り付け、そこに案内表示やテレビ番組を流す。
案内表示は列車案内だけでなくご沿線案内や沿線ニユース等も流す。テレビ番組には字幕を入れるとか、車内に微弱電波を流して専用イヤホンで音を聞けるようにする。
(5)PHSとインターネヅト
PHSは走行する列車からは利用できないので、車内にPHS親局を設け利用できるようにする。またPHSはデータ通信機能を持つので、ノートパソコンやマルヂメディア携帯端末を使って、インターネットやLANに車内からアクセスできるようにする。
(6)車掌業務への利用
PHSを使って司令所や駅とテレビ電話ができ、また指定券の販売、ホテルやレンダー カーの予約等もできる液晶表示付きの車掌用携帯端末を開発する。また、鉄道LANの 営業案内のデータベースを簡単な操作で索引できるようにし、乗客の各種問い合わせに 対応できるようにする。
(7)検査業務への利用
運転中に電車の故障が発生すればその電車の保守基地とテレビ電話でつなぐ。そしてベテランの車両技術者が電車をリモートチェックし、運転士の故障の処置や復旧を支援する。走行中の電車の車輪やパンタグラフの映像、振動、音等をデジタルカメラやセンサで捉え線路の保守基地に伝送する。これらのデータをコンピュータ分析し、異常区間があれば生デこタをモニタに再生し、線路や架線の保守に役立てる。
以上、ミリ波列車通信の利用例をいくつか示した(第6図)。他にもいろんなアイデアがあるだろうし、またマルチメディア技術の進歩でさらに有用な利用法も現れるだろう。この情報インフラ方式としては他にも光通信や通信衛星が考えられるが、列車への適用には課題が多いと思われる。細長い線路に沿ってビー-ム状に電波を出すことができ、また多数の列車に繰り返し利用できる60GHz帯のミリ波は鉄道に適した電波だといえる。急激な変貌を遂げているマルチメディア技術を鉄道に取り入れるために、ミリ波列車通信とその利用技術の研究開発が望まれる。
参考文献 赤池他「特集よみがえるミリ波と産業応用」エレクトロニクス(1993年3月)
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[ 新幹線電車10年の歩み
(鉄道ピクトリアル 1974/10) top
1 試作旅客電車 A編成・B編成
昭和39(1964)年10月1日の東海道新幹線開業2年前の37年6月に、小田原近くの鴨宮新幹線モデル線で、試作旅客電車の6両の試験が開始された。この車両は1・2号車で1編成、3〜6号車で1編成となっており、前者の2両編成はA編成、後者の4両編成はB編成と名付けられた。
全電動車2両1ユニット方式。タップ切替器およびシリコソ整流器による直流電動機駆動方式等の基本システムは現用車にそのまま引継がれている。A編成とB編成を連結しての6両運転も可能になっており、37年6月から39年4月までの2年近くの試験の間、試験の種類に応じて2両・4両・6両で走行し、量産電車の開発のための技術資料を集めていった。
当時、210 km/h の高速走行の経験は全くなく、やってみなければわからない要素が多く、数少ない6両の車でできるだけ多くの試作および試験をやろうということで、試作旅客電車は6両とも少しずつ異なる車両となった。
車体構成は、現用車と同じ1.6mmの鉄板を外板とした軽量構造となっているが、室内への走行振動の伝わりを心配して、床は浮床構造、内壁は浮かし張りにされた。スカートは現用車より100 mm長いものが使用され、側引戸は戸袋のない外づりタイプになっている。車体の塗装は、B編成については現用車と同じ青と白の2色塗であったが、A編成は現用車とは逆の窓の部分が白い、青と白の2色塗になっていた。前面ガラスは、6号車は現用車と同じ平面ガラスであったが、その他の先頭車は5分割の曲面ガラスが使用された。中間車の4号車車体両外板に1。2mmの鋼板を用いる等の、徹底的な軽量化をはかり、そのため窓部にスジ違い柱を入れた構体になっでおり、窓の形もダイヤモンド形をしている。
主電動機は170kwの出力で脈流率が50%と30%の2種類あったが、量産車では、185kWに出力アップされ脈流率も50%に統一された。主変圧器・MG・主抵抗器等の床下電気機器は性能的にはその機能を発揮したが、量産車ではなお一層の車両の軽量化が必要となったため、改良が加えられた。
台車は、DT9001形からDT9006形まで各車で異なり、板バネ式・SIG式・IS式・ミンデン式等の比較試験、および踏面こう配の条件、各種バネの条件等の比較試験が行なわれ、最終的に量産車のIS式台車に決定された。
A編成は37年8月には屋根上に測定用パンタと観測ドームを取付けて、架線試験車改造が行なわれた。さらに38年3月には、ATCの信頼度をあげるため、それまで1重系であったATCを2重系にする改造や、39年の3月にはレール上の障害物をはねとばすために、前頭スカートが強化改造された。
試験の内容は広範囲にわたり、通常の走行試験から、ATC 試験・すれちがい試験・ブレーキ試験・トンネル内気圧変動試験等、およそ100種類にもおよぶ試験が行なわれた。その間様々な車両故障も発生したが、次々と車両の改良も行なわれ38年3月30日の速度向上試験では256km/hの世界最高記録をマークし、その後951形電車により更新されるまで続くことになる。その後も、この車両を使っての軌道関係・電気設備関係の試験、あるいは安全性を確かめるためのレール障害物試験・列車風試験等の特殊試験も実施された。
39年3月には、先行量産電車6両(C編成)が完成し、モデル線での試運転が開始された。C編成の試験は、一般性能試験と試作旅客電車で問題点で改良された部分について、主として調査が行なわれた。そして39年4月、数々の業績を残したモデル線は廃止され、試作旅客電車もそのはなばなしかった第一線の座を、次々と製作されてくる量産電車にゆずることになる。その後A編成は事故救援車に改造され大阪運転所に常駐し、B編成は電気試験車に改造され、現在でも週1度程度の割合で、電気設備の検査のために東京−岡山間を運転している。なお、両車両とも事業用車ということで、全身黄色の地味な色にぬりかえられた。
2 営業電車
営業電車はこの10年間,・ダイヤ改正めたびに増備されており、営業開始時点360両であったものが、博多開業をひかえた現時点では2,000両以上にもなっている。
この間、保守の容易さ、部品の共通性を考慮して基本形式の変更は行なわず、サービス向上・事故防止、保守の容易化の面からの部分的な設計変更のみが行なわれてきている。そして、新車で変更された内容については、できるかぎりすでに走行している古い車に対しても、その都度改造工事を行ない形式の統一化をはかってきた。したがって、10年前に製作された車両も、最近新製された車両も構造的にはほとんど相違が見られないことは特記される。台車や床下部品についても、2年に1度の全般検査の都度、振替修繕が行なわれるので、古い車に最近つくられた部品が取付けられる場合もあり、一見区別が全くないように見える。
新幹線電車は、国鉄の年3回行なわれる発注を基準として同一製造グループの名称としており、開業時点で製作された1・2次車から、現在ではこの春発注された博多用の最後の増備車である20次車まできている。以下製作次車別の変更点から新幹線電車の変遷をながめてみたい。
2.1 1・2次 車
最初の新幹線営業電車1・2次車360両(先行用車車のC編成も含む)は39年4月から大阪運転所、6月から東京運転所に搬入が開始され、各編成とも39年10月1日の営業運転開始の前に東京−新大阪間長距離走行のならし訓練運転に入った。なにぶん初めての量産車両であったため、ならし運転中およびその後の営業運転で次々と思わぬ事故が発生した。しかしその都度事故原因を究明し、原因のはっきりしたものについては、全車両の手直し・改造等を次々に行なって事故を減らしていった。その主なものには次のものがある。
@ 電気連結器ケーブル線断線
構内編成試験時、または入換時の曲線の通過の際、車両間を渡しているケーブル内電線の断線が発生したので、7〜8月の40日間で一斉にケーブルの引替を行なった。
A 客室気密構造に伴うトラブル
トンネル内の気圧変動にともなう耳ツン防止のため、客室は気密構造にしたが、出人台と便所洗面所については気密外となっていたため、車内の仕切戸や便所の扉の開閉が固くなった。さらにトンネル内の気圧変動により、便所の汚水の吹上げも発生したので、ホロと便所タソクの気密化をはかり、出人台・便所洗面所も含めた編成車両全体での一体気密化の改造が実施された。
B 最初の雪害事故
40年1月6日、新幹線電車として初めての大事故が発生した。当日は大雪で、シャ断器の入っている特高機器室に雪が侵入し、絶縁破壊をおこして架線停電が発生した。そして何本もの電車が3時間以上も途中で動けなくなった。この時列車無線により、東京のCTCと連絡を取りながら復旧作業を行なったが、停電が長時間続いたため、バッテリが上ってしまい、無線も使えなくなりなお回復が遅れた。この経験から、事故時の列車無線の重要性が再認識され、列車無線専用のバッテリが増設され、10時間以上の停電にも耐えられるようになった。その後大雪のたびに、主電動機の絶縁不良や、床下に着いた雪のかたまりが走行中落下して、砕石をはねあげ、床下機器や窓ガラスを破損する事故が多発し、雪に弱い新幹線といわれる始末となった。この苦い経験から、次の年の冬(40年12月)までに大急ぎで全車両に雪害対策工事が実施された。
2.2 3次車
開業当初の列車ダイヤは、まだ線路が安定してなくて徐行区間が多く、「ひかり」の4時間運転を行なっていたが、40年秋のダイヤ改正で現在の3時間10分にスピードアップされた。同時に「こだま」は5時間運転から4時間運転となり、それまで全車指定席であったのを、乗客の便をはかるため初めて一部自由席制が採用された。この時点で製作されたのが3次車10編成である。
3次車では1・2次車の車両故障り経験から次のような改良が加えられた。
@雪害対策
床下機器箱への雪の侵入を防止するため各機器の点検ブタ・パッキン・水切等の改良によりに水密構造化され、底ブタも飛石で破損しないよう丈夫なものに変更された。また主抵抗器や主シリコン等の床下強制通風の電気機器については、フィルタ部の着雪による日づまりを防止するため、通風口の構造が改善された。主電動機について屋根上の風取入口に雪切りをつけ、雪の侵入を防止する構造となった。
このような車両側での雪害対策の他に、走行による雪の舞上げを少なくするため、積雪地帯での160km/h徐行運転や、名古屋停車時、上り列車が関ヶ原での着雪の雪おとし作業も行なわれるようになった。さらに地上散水を行ない、雪の比重を重くすると雪の舞上げを防止できることがわかり、関ヶ原地帯には地上散水装置(スプリンクラー)が取付けられ、42年冬から使用されている。
A その他の改良
室内の冷暖房の制御は完全な自動化で行なっていたが、室内の温度分布の関係で局部的に冷房のききすぎる箇所ができ、乗客から新幹線電車は涼しすぎるとの苦情がでた。冷房の適温については個人差があり、ハードの改善だけでは限度があるので、必要に応じて車掌に各車の配電盤で制御してもらうために手動制御を追加した。
その他事故防止対策として、車軸のベアリングの軸焼けを検知するための軸温スイッチの取付や、車輪の滑走検知装置の性能向上、ATC用の速度検知用車輪の滑走紡護対策等が行なわれた。
2.3 4・5次車
開業当初から、「ひかり」こだま」とも1等車(グリーン車)3両の編成を共通運用で使用していたが、「こだま」の1等車の利用率がきわめて低いので、41年秋から1両に減車することになった。
そこで4・5次車合わせて10編成120両はすべて2等車で製作され、3次車の1等車と1両ずつ組替えを行なった。
それまで7・8号車が1等車であったが、奇数号車(M車)と偶数号車(M’車)とは連結位置の変更ができないので、7号車が1等車の編成と8号車が1等車の編成が各々10編成でき上った。
1等車は7・8号車とも車掌室がついていためで、この時2等車に変更になった7・8号車にも同じ車掌室のついた車両としたため、7号車用の2等車252形と8号車用の2等車264形が新形式車として生まれた。
その他41年秋のダイヤ改正から「こだま」の自由席車を2両から7両に増やし、「こだま」の2等車の混雑緩和がはかられた。4・5次車の車両の主な変更は次のとおりである。
@ サービス改善
「こだま」の自出席が増え、出人台にも多数の乗客が乗り、夏期の車体中央部と出入台の温度差が大きくなり、出入台の冷房が必要になった。そこで出入台の屋根上にもユニットクーラを増設し、また室内だけであった排気口を出人台にもつけた。そして冷暖房の制御は室内中央とは分離し、単独で制御できるようになった。
新幹線電車は長大編成のため、車内を移動する乗客が多く、仕切戸近くの乗客は戸を何度も閉めなければならないわずらわしさもあって、仕切戸が自動ドアに変更された。これでそれまで、カントの大きい曲線区間で仕切戸が自動的に開いたり、仕切戸の開閉が重かったりする問題もなくなった。その他、普通車の3人用の中央のB席にも灰ザラが取付けられた。
A 落失防止
41年頃から、バソタグラフの風防や側スカートの走行中の落失事故が目立ち始めた。またアルミの上屋根の取付部にもきれつが発見された。そのためパソタグラフ各握の強化がはかられ、スカート・上屋根の取付も強化された。また床下機器の点検ブタ、主抵抗器の底ブタの取付も改善された。台車部については、車輪の空転によるディスクの飛散事故が発生したので、ディスクの取付を強化し、空転を防止するための空転検知も取付けられた。
2.4 6・7次車
42年6月10日、営業開始以来1,016日目に一億人旅客輸送が達成され、ますます「こだま」の混雑が目立つようになり、新幹線も特急列車の高級車のイメ−ジから、従来の急行列車並の庶民的な乗物に変ってきた。6次車7編成は42年10月1日からの「ひかり」4本「こだま」13本の増発に充当され、7次車3編成は43年春の臨時列車用として製作された。
5次車までの事故経験からの車両の改善のおかげで42年には車両状態は非常に安定したので、6・7次車では車両構造の変更は少ない。 しかしその中で、注意すべきものとして循環式汚物処理装置の採用がある。黄害対策のため、新幹線電車は当初から便所には貯溜式タンクをもっていたが、これは1往復で満たんとなり、その都度運転所まで入庫して汚物の排出を行なう必要があった。そこで洗水を消毒しながら循環して使用する方式に変更され、汚水の排出周期がのびて、車両の運用効率が上った。そして東京・大阪両運転所への入出区の列車ダイヤの制約も改善された。
2.5 8・9次車
43年10月のダイヤ改正用として、8次車6編成と44年4月のダイヤ改正用として9次車6編成が製作された。44年4月のダイヤ改正からは新しく新幹線三島駅が完成し、「こだま」の運転時間も10分のび4時間10分となった。列車数の増加とともに、騒音公害の問題も出始め、騒音量の調査も開始されるようになった。騒音の中に車輪の走行音の他に、180 km/h 程度から急にピーという音色の高い音が出ていたが、調査の結果、屋根上ガイシのひだが笛の作用で鳴っていることがわかった。
そこで、9次車からガイシの笠径の大きいひだなしのものに変更して、ガイシ音を消すことができた。またすでに7次車からは、主抵抗器送風機の風吹込口での風の音が停車時かなり大きいので吹込ロの形状も変更された。車輪の走行音については、音の中でも一番大きくやっかいなものであるが、その対策についても種々研究がなされており、今後の成果が期待される。
その他変ったことでは、車内の案内放送の前に流されていたオルゴールが鉄道唱歌のメロディであったため、古くさくて新幹線らしくないとの批評もあり、43年9月から雨だれのような調子の新曲に変更されなかなか好評を博した。最近ではこの曲もあまり聞けなくなっている。
2.6 10・11次車
44年12月、45年春からの大阪万国博輸送のための「ひかり」の16両化が始まった.10次車では「ひかり」30編成分の16両化の中間車120両と、「こだま」16編成、11次車では「こだま」4編成が製作された。「ひかり」用の増結車は,最も定員の多い25形式と262形式各2両が、7・8号車と13 ・14号車に.組入れられた。なお、7号車の2等車の便所については、万博の外人旅客を考慮して、1等車と同様1つは洋式に変更された。この車は257形式となる。
この時の「こだま」編成の5・9号車は,従来のビュッフェ車のかわりに新形式の売店車254形式が製作され、9次車以前の「こだま」5号車とこの編成の9号車が振り替えられた。これは食堂従業員の要員不足に伴い、ビュッフェ車の減車を行なうが、同時に車内販売を強化し座席定員を増やす(40人→85人)ためである。
44年5月から、1等車はグリーソ車、2等車は普通車と名称変更されることになり、グリーソ車にはクローバのマークが取付けられた。
2.7 12次車
47年3月15日の岡山開業のため、12次車64両が増備された。この頃検修回帰の延長についての検討がなされ,そのネックになると思われる個所については、メンテナンスフリー化をはかることになった。
その内容としては、パンタグラフワク組のアルミから鉄材への変更、主電動機軸受の防じん防水対策、コンプレッサ遠心力スイッチの改良、多頻度動作のリレー・接触器類の無接点化、シャ断器での耐弧メタルの接触子の採用等、広範囲にわたっている。
これらについては,従来車両に対しても改造が行なわれ、交番検査2万キロ→3万キロ、台車検査24万キロ→30万キロ、全般検査72万キロ→90万キロにそれぞれ回帰延長された。
2.8 13〜15次車
47〜48年には「こだま」の16両化か進められ、将来博多まで運転する「ひかり」も製作された。「こだま」の16両化は、25形式・257形式各1両と、262形式2両が8〜11号車に挿入され、48年7月に全編成の16両化か完成した。「ひかり」編成については50年3月からの博多乗入れを考慮し、トンネル区間の増加対策として、トンネル内でも耳ツソをおこさずに換気が行なえる新形の連続換気方式が使用された。
また列車種別の増加を考えて、車側に行先表示器と自由・指定席表示器を取付け、列車番号も従来の3けたでは間に合わなくなるので、列車番号5けた化をはかるため列車番号発振器の新型取付等が行なわれた。これらの内容は博多へ乗入れる従来の「ひかり」編成に対しても博多関連工事として改造がなされた。その他車内公衆電話の自動化に伴う電話室の改良や、PCB公害対策としてのコンデンサの非PCB化が新車から行なわれた。
2.9 16〜20次車
48〜49年にかけて博多開業用の車両が続々と製作された。その中で従来車との大きな相違は食堂車(36形式)の新製である。この食堂車は、長距離長時間運転に伴う供食サービスの向上のため、従来のビュッフェ車とは異なる本格的食堂車で、新幹線の車体幅の広さを利用して通路と食堂を別にした側廊下式である。食堂車はパンタ付のM’車であるが、これとユニットを組むM車の座席車も新形式車(27形式)となり、食堂従業員便所・休憩室・電話室を取付け、また食堂車の水タンクスペースを生み出すため、床下機器の一部をこちらに移設した。
その他出入口の寸法を大きくして車椅子での乗車も可能になっている。「ひかり」編成はビュッフェ車を1両に減らし、食堂車とビュッフェ車は8号車と9号車に隣接して連結された。さらに将来食料品の自動販売器コーナーを設ける計画があるので、2号車と14号車には、従来の車販準備室を自動販売器コーナーに変更した26形式が連結された。
事故防止としては、北陸トンネルの列車火災事故の経験から火災対策として電線・端子台、その他車体各部の難燃化をはかるとともに、非常ばしごの取付や消火器の増設を行なった。また食堂車には火災検知器を取付けた。
48年2月に新幹線としては最大の事故となった、大阪の鳥飼での回送列車の脱線事故が発生した。事故原因は、レール面上に付着した油による車輪の滑走でブレーキがきかなかったと推定されているが、この事故を契機に、ATCおよびブレーキ関係の徹底的なフェイルアウト故障の可能性が追求され、より安全性を高めるための改良が18次車から実施された。
3 951形試験電車
44年3月、250 km/h 運転の技術開発のための951形試験電車2両が製作された。この電車は250km/hの高速運転が安全かつ能率よく行なわれるよう種々新しいアイデア・機構が取入れられているが、主な特徴を列挙すると次のとおりである。
@ 現在の新幹線電車に比べ主電動機出力は30%増強され、これにともなってトランス・制御装置などの電気機器も出力アップされた。
A 軸重は現用車と同じ16tにおさえるため、車体は軽合金として軽量化をはかり、また車体スカートを長くして床下機器をスカートの中におさめてしまうボディマウント方式となっている。
B 台車は車輪径が910→1,000mmと大きくなり、走行安定性・ブレーキ機構なども改善された。
C 主回路の制御に主サイリスタを用い、力行では位相制御、ブレーキではチョッパ制御を行なって性能向上と保守の簡易化がはかられた。
D 速度制御は主電動機の電圧を変化させる方式から、運転士の指示速度に自動追ずいする速度指令方式に変更し、高速運転に適した方式となっている。
G レールに電磁石を近づけブレーキ効果を出すうず電流ブレーキ装置を取付け、車輪滑走の心配のない非粘着ブレーキの研究を行なう。
この試験電車は、44年4月から新幹線の新大阪−米原間を主体にして各種試験が行なわれた。定置試験から始まり、力行ブレーキ試験・走行性能試験・うず電流ブレーキ試験・定連運転試験・チョッパ試験等数多くの試験が行なわれた。営業線区を使っての試験なので、試験は最終列車発車後の深夜に行なわれ、時には米原からさらに足をのばし、東京まで乗入れることもあった。そして試験の結果をもとにさらに各部品の改良・開発が行なわれ、再度現車で試験が繰返された。特に、台車に関しては高速運転の命運を決するものだけに入念に試験され、3度試作された。
そして電車完成3年後になってやっと高速試験が行なわれた。高速試験は岡山開業に先立ち完成した線路を使用し、姫路−相生間の上り線で実施され、47年2月に210 km/h から5〜10km/hきざみで最高速度が上げられてゆき、ついに2月24日、電車としての世界最高記録である286 km/h をマークした。 その時の台車は、バネ下重量を特別に軽くするために車輪を中空軸として、ディスクはバネ上に上げたDT9012 形台車である。この記録を記念して、後にDT9012 形台車は機械学会賞を受賞する。
951形電車は、その後改良形うず電流ブレーキの試験や車両の耐久試験が行なわれたが、48年7月961形試作電車が完成したので、現在は大阪運転所で体車中である。
4 961形試作電車
東北・上越新幹線は博多開業に引続き、数年後に完成するが、そのための試作電車として6両編成の961形電車が、48年7月に完成した。東北・上越新幹線については260 km/h 運転も計画されており、線路設備もそれに見合って曲線半径を大きくし、こう配もゆるやかになっている。 961形電車は951形電車の試験結果をもとにし、その技術成果を充分に取入れて260 km/h 運転の量産車設計に先行する試作車で、設計・製作には次の点が考慮された。
@ 最高速度が260 km/h 以上であり、上越国境のこう配区間でも210 km/h 以上の高速運転が可能なこと。
A 田端以北は50Hz電源となるので、50・60Hz両用の車両とする。
B 寒冷地向けなので雪害寒害対策を講ずる。
C 自動運転、事故時の処置の簡易化、自動検査、メンテナソスフリー化等車両の近代化をはかる。
D 以上の対策を講じても車体重量が増えないよう、車体および各機器の大幅な軽量化をはかる。
この電車は6両再編成で、1・2・6号車は座席車、3号車は食堂車、4号車は寝台車、5号車は器材積載車である。
車両性能としては上越のこう配線区を走るため、951形電車よりさらに20%出力アップをはかり、2両1ユニットで2,200kWと電気機関車以上の大出力である。
車体は951形電車と同じく、軽合金のボディマウント構造であるが、ガラス割れ防止のため窓を小形化し、現用車や951形の2座席1窓から1座席1窓になっている。
車内の一角には雪切室をもうけ、室内換気用および主電動機冷却用の外気は雪切室で雪を落し、天井および床中の風道を通して送っている。 この方式は北海道の711系電車にも使用されている。冷房装置は集中型で車端の天井妻部に取付けられているが、現用車の冷暖房に使用するヒートポンプ方式とは異なり、冷房専用である。これは寒冷地を考えるとヒートポソプでは暖房容量が不足するので、強力なヒータ暖房としたものである。
運転台には、951形電車で開発されたATOMIC(車上ミニゴソピュータシステム)がおかれ、列車の各種制御と装置座業化に役立っている。その一環として、運転台の前面にはCRT(キャラクタディスプレイ)がおかれ、ミニコンピュータにより乗務員にさまざまな車両情報が提供できる。
3号車の食堂車は、現用車の食堂車のアコモデーショソの開発のために先行製作されたものなので、車内設備は現用車のものとほとんど同じである。
4号車の寝台車は、普通寝台の部分は新幹線車体の幅が広く、高さが低い点にあわせて、クロス・ロングのコの字形配置の2段構成としている。特別寝台は、一人用の個室寝台や新婚用の個室もモックアップ的にまとめられている。
961形電車は浜松工場における定置試験と冬期の関ヶ原における雪害試験は実施されたが、その他の走行試験および210 km/h 以上高速試験は今後実施される。
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\ ミニコンピュータによる新幹線列車制御 ATOMIC
(JREA 1971/7)
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新幹線試験電車にミニコンピュータをのせ、それで自動列車制御を行なわせるATOMICシステム(Automatic Train operation by mini Computer)が開発されつつあり、現車試験も行なわれ、さらに列車制御以外の面への応用の検討もなされている。
1 まえがき
ここ数年のコンピュ−タの進歩の普及はいぢじるしい。初期の頃の事務計算の電算化から経営管理へのコソピュータ応用、さらには座席予約システム、ヤードの自動化システム、運転計画伝達システム等、国鉄の近代化、合理化を進めるに際し、コソピュ−タが幅広く導入されている。
従来コンピュ−タは複雑な論理向賂で構成されるため高価でこわれやすいものとされていたが、この4−5年の間に、トランジスタ回路からIC回路の使用により同じ性能で約1/4の価格になっている。また、物理的寸法でも容積比で約1/10の改善率を示している。最近のコンピュータの方向は、大型機種については、さらに大型化、高速化、高性能化をめざす方向と、低価格、小形、高信頼度のミニコンピュータの方向の2つがある。特にミニコンピュータの出現によりコンピュータは高価なものだという観念がなくなり、各方面にコンピュータが利用されるようになった。
最近の動向は4−8kWordの容量のミニコンピュータ本体が400〜500万円、附属装置を取りつけてある制御システムを構成して1,000〜3,000万円程度にまでなっている。このため従来、経済性の面でコンピュータの導入が考えられなかった小型のシステムに対しても、ミニコンピュータが導入されるようになったのである。
その一例として新幹線電車の列車制御へのミニコンピュータの応用について951型新幹線試験電車を対象にソフトウェアの開発、現車試験等が行われている。現在、新幹線電車には電子機器としてATC装置が設備されているがこれが一編成当り1,600万円程度することから考えて、大きな可能性を示めるミニコンピュータシステムが1,000〜3,000万円の価格であるということは、いかにミニコンピュータが経済的かを示している。
2 新幹線電車へのミニコンピュータの応用
一般に今までの制御機器、電子機器は、まずはたさなければならない機能があり、その機能をもつ機器が設計、製作されたものである。そして新しい機能が要求される時は、それに伴ない新しい機器が製作されてきた。
しかしコンピュータの場合は、まずコンピュータが存在し、それに何をやらせるか、どのような機能を持たせるかが問題になる。何故ならコンピュータの場合は、従来の制御機器で行なっていた論理演算機能のコンピュータヘの置き替えだけでなく、今まで不可能であった分野への応用も可能となり、さらにお互に全く関係のない演算制御でも、コンピュータの高速性のために、殆ど機器の追加しなくてもソフトウェアの開発で可能だからである。
車両用機器のように同じ機器を数多く作る場合には、製作費の中で設計費の占める割合が小さくなるから、車両用コンピュータの場合にも、プログラムの開発に手間と金をかけて、高度のソフトウェアを開発し、ハードウェアを少くして、出来るだけ多方面の応用を行わせるのが好ましい。
それでは新幹線電車にミニコンピュータを載せた時、何をやらせ得るか、どのような可能性があるか以下に示す。
@ 列車の運転制御の自動化
列車に発車指令を与えると自動的に次駅まで走行し、ダイヤ通りに次駅に到着し、決められた位置に列車を停車させる。
A 車両故障時の処置の自動化
車両故障が発生した時、その原因を調査し、その系を切り離すことにより運転可能の場合は、自動的に処置を行う。さらに必要の際には乗務員に処置の手引を与える。
B モニタリングシステム
走行中の車体振動、主要機器の状態の測定とデータ整理を行い、車両、線路の保守に役立たせる。
C 動作検査の自動化
電車の入出庫前に、主要回路、主要機器の動作を自動的に検査する。もし不良箇所があればその旨
を表示する。
D 乗車効率の記録
車体重量からの大まかな各駅間の乗車効率を計算し記録する。
E 車内放送の自動化
テープレコーダとコンピュータを連動させ車内放送を自動化する。
F 列車内での座席指定券の販売
中央の座席予約のコンピュータと電話回線で連動させ、列車発車後の空席をミニコンピュータでタイプアウトし車内での指定券の販売を可能にする。
以上、思いつくままにミニコンピュータの車両への応用例を列記した。この中には比較的実現が容易なものや、充分検討の進めなければならないものもあるが、とりあえず自動列車制御のプログラムを開発中である。
試験電車に搭載されたコンピュータの特性を表1に示す。
3 自動列車制御への応用
鉄道は他の交通機関と異なり、鉄のレールの案内で走行するため 自動車や飛行機等に比較して基本的に自動運転を行うに適した交通機関といえる。交通機関の運転には方向制御、進路確保、速度制御の3点が必要であるが鉄道のみレールの存在により方向制御は不要である。
従って鉄道の自動運転は前方進路の確保と速度制御の2点の自動化で完成する。特に新幹線電車ではすでにATCにより前方進路の確保の自動化が行なわれているため速度制御の自動化のみでよい。
速度制御め内容を分類すると、@定時制御、A定速制御、B定位置停止制御の3つの制御からなる。これらの制御の自動化システムATOMIC(Autolilatic Train operation by mini Computer)を新幹線試験電車を用いて開発試験中であるがその概要を以下にのべる。ATOMICのブロツク図を図1 に示す。
3.1 定時制御
最近列車群制御の必要性についてよく課題になっているがこれは大幅な列車ダイヤの乱れが生じた時にその効果を発揮するものであり、正常運転中又は数分の乱れの時は個々の列車がそれぞれ単独にその列車に与えられたダイヤでの運転に努めるのが旅客サービス、運転管理上からみて好ましい。
“ぴかり”、“こだま”の異種の列車が走り、又駅聞距離の長い新幹線電車では通勤電車のような発車時刻の調整のみによるダイヤ確保は不可能で、駅間での速度制御による到着時刻のダイヤ確保が重要となる。定時制御をコソピュータ化するにはその列車の走行ダイヤ、走行地点、計画的な除行の有無、時刻等の情報がコンピュータに必要になる。特に走行ダイヤ、徐行の有無についてはその都度変るため、これをIBMカード1枚にパンチし乗務員がコンピュータにセットする。
発車指令が与えられると計画ダイヤと発車時刻の関係から次駅までの余裕時分を計算し最高速度をいくらにすると次駅に定刻に着けるか計算する。余裕時分が大きければ最高速度を下げ余裕時分がなければATC信号の最高許容速度で走行する。停車駅に近づいた時再度その時の運転状況から停車駅までの適性運転速度を計算する。このように駅発車時と停車駅手前の2点で時間合せ計算を行ない定時性能を+−15秒以下におさめるよう計画している
以上の定時 運転の方法を図2に示す。
この最高速度の制御による定時制御は不必要な列車の加減速がなくなるため電力消費量の低減となり又通常時の最高速度が低くなるため乗り心地もよくなり線路の痛め方も少なくなる。
運転台には運転状況を乗務員が把握できるようにコンピュータの時刻、走行地点、到着又は発車までり時刻等を時々刻々、ディスプレイ装置で運転台に表示する。
又必要により列車の運行記録をタイプライタで記録する。
列車ダイヤが大幅に乱れ運転中にダイヤ変更になった時は中央のCTCからの無線連絡によりダイヤ変更カードをセットしてその処置を行なう。
山陽新幹線開業時をめざして列車運行管理システム(CMTRAC)の開発が進められているが、このATOMICと組合せることにより新幹線列車制御のトータルシステムが完成する。これを図3に示す。
3.2 定速制御
電気車両の速度制御は運転台からのノッチ指令により直流直巻主電動機の端子電圧を制御して行われている。直流電動機はその特性としてある程度の定速性能をもっているが列車荷重、線路勾配、架線電圧等の影響でかなり速度が変動する。従って定速運転を行うには車連に合わせてノッチを制御しなければならないが、不必要にその精度を上げようとすると、ノッチ変動が大きく、一般に有接点のスイッチ類で構成されている主回路制御機器の動作回数が増え好ましくない。
コソピュータで定速制御を行わせるに際して、ノッチ変動をできるだけ少くして定速制御性能を上げるため速度条件のみでノッチを制御するのではなぐ加速度の条件も取り入れ、加速度と速度から数秒先の速度を予測してノッヂ制御を行なわせる。このような予測運転が可能なことがコンピュータ制御の大きな長所でありこれにより、運転士の運転に似た理想的な制御が期待できる。
3.3 定位置停止制御
定位置停止は駅停車時のブレーキ制御を自動化し決められた停止点に止める制御である。新幹線電車では駅停車時、160、70、30km/hとATC信号により自動的に減速し30km/hからの乗務員のブレーキ操作により停車する方式になっているが、この方式では停車まぎわに30km/h以下の速度でだらだら走行するため高速から一度に停車する場合に比較して1駅平均15秒程度時間がのびている。
70km/hからの定位置停止を行なえば運転時分の短縮がはかれるがATC30信号を70信号に読みかえて定位置停止を行わねばならないため定位置停止は保安装置のATCと同程度の信頼度が必要となる。
すでに信頼度の高い3重系の専用機の定位置停止装置が試作され試験電車ですでに試験されており+−50cmの停止精度を得ている。定位置停止をATOMICで行うことは当然可能であるがコンピュータが1重系であるため信頼性の関係で30km/hからの定位置停止制御となる。30km/hからか70km/hからかは設備費を安くするか、運転時分の短縮が重要かによって決まる。
コンピュータでこれを行う場合には定速制御と同じく速度と減速度から将来の停止点を予測しながら制御を行なうため、上手な運転士のブレーキ扱いと同じような制御が期待できる。70km/hからの定位置停止制御を図4に示す。
4 現車による定時運転試験結
上述のように定時運転制御は、いわゆる自動運転制御の第一歩であると同時にその中心をなすものである。このような考え方の下にまず定時運転制御のプログラムを開発し、本年3月下旬にその現車試験を行った。
4.1 試験概要
@ 供試車 951型新幹線試験電車
A 試験場所及びダイヤ
大阪運転所構内
新大阪−米原間(Aダイヤ)4往復
新大阪−東京間(通しダイヤ)1往復
B 調査項目
定時運転精度(運転曲線、駅間時分、ATC信号速度、目標速度) 一次電圧、MM電流
なお、定位置停止(タスク)は既に開発された前述の専用機(3重系)を用いた。
4.2 試験内容及び結果
新大阪・米原間のいわゆるAダイヤによる試験は、東京−新大阪間の通し運転試験に対する準備及び問題点の一部検討確認の機会として行なった。結果は概ね良好であったが、ここでは通し運転試験の結果について述べる。試験は上り下りとも“こだま”ダイヤで行ない、各駅での到着時分及び駅間運転時分をチェックした。試験ダイヤ(計画)に対するそれぞれめ早遅を表2に示す。
○運転概況
956A列車(新大阪−東京間)
新大阪−京都:新大阪5分10秒延発(対抗列車開通待ちのため)したが3分半程度回復
京都−米原:70臨時徐行のためタ増延
米原−豊橋:各区間で回復につとめ豊橋概ね定着
豊橋−東京:各区間でやや早着気味であるが概ね良好
955A列車(東京−新大阪間)
東京−小田原:臨時徐行のためやや遅れ
小田原−豊橋:回復、良好
豊橋−米厚:空転と徐行のため増延(静岡−米原間強雨)
米原−新大阪:回復、良好
4.3 問題点の検討
@ 定時運転の精度向上
結果は概ね良好であったが、早着気味の区間がやや多いので、定速度制御とあわせ、なおプログラムの一部改良を行なう。
A 空転について
降雨と最終列車運転後3時間程度時間が経過していたため、相当大きな空転が発生したが、951型2両編成のため、一層その影響が大きくなったと思われる。 編成が12両或いは16両の場合はユニツトの関係から、ほとんど問題ないと思われる。
5 あとがき
ミニコンピュータによる車上式運転制御自動化の研究は今回の定時運転試験等を通じ徐々にその成果が上りつつある。今後は現在開発されつつある定速運転制御、コソピュータによる定位置停止制御及び定速運転の精度向上の各プログラムによる現車試験を行ない自動運転制御を確立する。また、車両、線路の保守に役立つモニタリングシステム及び営業関係サービスに対するプログラムの開発研究もあわせて進めてゆきたい。
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] 東北、上越新幹線向け961型新幹線電車
運転協会誌(1973/6)
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全国新幹線網計画として、昭和50年(1975)頃に博多開業、その後、東北、上越新幹線の開業が予定されている。山陽新幹線の線路設備としては、260km/h運転が可能なように最小曲線半径が東海道新幹線の2,400Rから4,000Rに大きくなっているが、博多開業時点では東海道新幹線と同じ210km/h運転が行なわれることになっており、車両としても基本的には現在使用されている形式がそのまま博多まで乗り入れることになっている。
しかし、東北、上越新幹線については、最初から260km/h運転が計画されており、そのほか、この線区は東海道、山陽とは各種条件が異なるため、まったく新しい新形式車が必要となる。そのための試作電車として6両編成の961電車が現在製作中で、今年の7月に完成する予定である。
以下、この電車の機能、構造等を紹介する。
1 基本構想
この電車の設計にあたり、次の点が考慮された。
@ 最高速度が260km/h以上であり、また、上越国境の勾配区間でも210km/h以上の高速運転が可能なこと。
A 田端以北は50Hz電源となるので、50・60Hz両用の車両とする。
B 寒冷地向けなので雪害・寒害対策を講じる。
C 自動運転、事故時の処置の簡易化、自動検査、メソテナンスフリー等、車両の近代化をはかる。
D 以上の対策を講じても車両重量が増えないよう車体および各機器の大幅な軽量化をはかる。
2 編成および運転性能
この電車は6両編成の全電動車MM’方式で博多寄りより1号車−6号車までで、1・2・6号車は座席車、3号車は食堂車、4号車は寝台車、5号車は器材積載車である。
先頭の1・6号車には運転操作装置と非常電源のコンバータをもうけ、1号車のボンネット内には列車無線装置を、6号車のボンネット内には非常用のバッテリーをもうけている。2・4・6号車はパンタグラフを持ち、主に力行関係の機器を持っている。 1・3・5号車は電気ブレーキ関係の機器が取リつけられている。
車両性能としては、最高速度260km/h、最急連続勾配として12‰が15km連続している上越線での”こだま”運転でも十分な性能が発揮できるよう現量産車に比べ50%増の2,200kW/ユニットの出力となっている。同じ260km/h運転の951形試験電車の2,000kW/ユニットに対し10%の出力増となっているが、951電車の場合”ひかり”運転での260km/h運転であるのに対し、961電車は各駅停車の”こだま”運転での260km/h運転を考慮したためである。すでに951電車により286km/hの最高速度記録が樹立されているが、961電車ではさらに高速での走行が可能である。
3 車体、ぎ装
車体は騒音対策、着雪防止、軽量化のため2.5−3mm厚の軽合金の外板からなるスカートの長いボディマウント構造である。
床下機器は床下に直接取りつけるのではなく機器台粋の上に載せ、機器台粋が車体のスカートの下部に取りつけられる。機器台粋は全体で1個の機器のようになっており、容易に車体と機器台粋の分離が可能である。機器台粋を車体に取りつけてしまうと、すべての機器は車体の中に入ってしまう。
機器台粋の下面には検修上点検が必要な箇所は機器間に金網または鉄板の引戸をつけている。しかし、従来車に比較して床下機器の点検作業がめんどうになるので、できるだけ各機器のメソテナンスフリー化をはかり、点検、調整が必要な部分は床上の配電盤に収めた。
引通し線および機器間の制御線は、高度な列車制御方式のために膨大な電線量となるため、配線作業の簡易化、電線重量の軽減化のため、1.2mm径のケーブル配線を主体としている。主回路配線についても従来のWB電線に対してWL電線を使用することにより、軽量化および難燃化をはかっている。
運転台は落着いた雰囲気を出すため前面パネルは黒色とし、それに合わせて計器類も黒色としてある。文字は白色、指針は赤色で統一した。表示燈類もプラント等の操作盤で使用されているユニット形のものとし、また、その配置についてもスイッチ類、放送装置、列車無線操作盤等を含めて、人間工学的に配置されている。乗務員の右前面にはミニコンピュータと連動したCRTがおかれており、運転操作上必要な情報がコンピュータを通じて表示されるようになっている。(CRT:Cathode Ray Tube:ブラウン管)
前面ガラスは冷害雪害を考慮して、飛行機と同じ絶対に曇らず、また、着雪のないヒータ入りのガラスを使用している。客室は長距離乗車を前提として、居住性の改善をはかるため従来の一列 5人掛から 4人掛とし、座席間の肘掛も出し入れできる椅子を試作している。
窓割りは、従来の二列一窓から、一列一窓として車体の強度を保っている。
3号車に食堂関係、4号車に寝台、個室関係をモックアップ的にまとめてあるが食堂は厨房の近代化とその使用上の便利さ等に関連する車体構造、さらに食卓腰掛を含めたインテリアデザインのあり方を検討している。4号車の普通寝台は新幹線車体の幅が広く高さが低い点に合わせてクロス・ロングのコの字形配置の二段構成としている。
4 台車
台車の高速時の性能が260km/h運転の成否を決定する。 951電車は3年間にわたり各種試験を行ない、改良を加えて3種類の台車が開発されてきた。これらの台車はいずれも高速時に起こりがちな台車蛇行動の発生はない等、安定した走行性能を示した。
しかし、高速運転時に軌道に与える影響、特に輪重の著大値の発生防止には、ばね下重量の軽減が必要であることが判明した。そのため961電車では、従来、輪輪で直接支えていた歯車装置の重量を、中空輪を用いることにより台車枠に装荷し、モータから車輪への駆動力は中空軸と輪輪の間を適当なたわみ継手で結ぶことによって伝達する方式となっている。
ブレーキ時の滑走対策については、従来、鋳鉄の研磨子でタイヤ踏面を研摩する方式がとられていたが、951電車の試験によりアルミ合金の研摩子の使用によりレール−車輪間の粘着係数が上がることが判明したので、アルミ合金の研摩子としている。特にブレーキ時の滑走により発生するタイヤ踏面のフラットは新幹線騒音公害の一つとなっておりアルミ研磨子はその面からも期待される。
5 運転制御方式
運転室には従来の保安装置ATCと並んで運転制御を行なうためのミニコソピュータのATOMICが載せられている。このATOMICの機能は次の3点である。
@運転制御の自動化、簡易化
運転台にはATO切替スイッチがあり、この操作により次の3種類の運転操作方法が可能である。
マスコンハンドル操作によりノッチを指令する従来とまったく同じ手動運転、
マスコンのハソドル角度に応じて目標速度が乗務員の意志のもとに決定され、それに追随して列車が走行する定速運転、
マスコンを投入するだけで次駅まで完全に自動的に走行する自動運転、
定速運転はマスコンを手前に引っぱれば、その角度に応じて目標速度が速度計に内臓された表示管で表示される。
マスコンを後ろにたおせば自動運転で、駅間の走行速度を調整して定時運転が行なわれる。駅停車は定位置停止制御により自動的に停車する。
定位置停止により従来に比べ1駅15秒の運転時分の短縮となる。
A車両故障発生時の応急処置の簡易化
車両故障発生時、従来、故障車両の配電盤まで行かなければ原因が不明であったが、CRTにより故障号車の状態を詳細に表示して、運転台にいながら原因究明ができるようになっている。また、従来、多かったパンタグラフ、主電動機の開放処置、サービス電源の切替等は、運転台からリモコン操作が行なえるようになっている。その他、車端開放器、プレーキコック類も床上に上げ操作の簡易化をはかっている。
B車両状態の監視
各車には、室内温度、車体振動量、プレーキシリンダ圧、モータの電圧、電流等を検知するセンサがついている。これらをサンプリング的にコンピュータに取り込みデータ処理を行なった後、CRTに表示して乗務員の車両状態の監視に役立たせる。特に異常な値についてはその発生内容、発生箇所、地点、速度等を自動的に記録しておき、検修業務に役立たせ、常により良い車両の状態の保持を可能にする。
6 力行方式
カ行制御には現用車のタップ切替器方式にかわり、951電車で良好な性能を発揮したサイリスタ連続制御としている。サイリスタは2,500V、800Aの超大形の素子を使用し、また冷却方式として最新技術であるフロン冷却(素子をフロソ液体の中に入れ、フロン液の気化熱により素子を冷却する)を使用して装置の小形軽量化をはかっている。
サイリスタ使用により電源側の高調波障害の心配があるので、951電車の各種試験結果よりトラソスの分割数を増やし、サイリスタの位相制御電圧の割合を少なくするのが好ましいのが判明したので、トランス分割数を951電車の4分割から961電車では8分割相当(実際は5分割であるが組合わせにより8分割相当となる)にしている。
7 ブレーキ方式
ブレーキについても粘着性能の向上のため、速度−粘着曲線に沿った連続制御を行なう方式とした。そのためまず機械ブレーキとしては従来の電磁直通制御方式に対して、電気のアナログ指令で制御する電気−空気変換方式としている。従がって従来の空気圧力の直通管は不要となり、全電気指令方式となりノッチ数に応じて引通し線を制御し、ユニットごとにもうけられているブレーキ受量器でアナログの電気パタンを発生している。
電気ブレーキについてもサイリスタチョッパによる連続制御とし、プレーキの電空切昔時は電気ブレーキから機械プレーキに連続的に切り昔わって行く方式となっている。サイリスタチョッパについても素子として逆導通サイリスタを使用して素子数の低減をはかり、冷却方式としては力行用と同じくフロン冷却として軽量化をはかっている。
8 補助電源、サービス機器
東海道山陽新幹線の60Hz、25kVの電気方式に対し、東北上越は50Hz、25kVとなる。この50Hzと60Hzの電源切替地点は田端となり、したがって、東北上越用の車両は50・60Hz両用車両としなければならない。(その後、東海道と東北上越の新幹線が分離されることになりJR 東の東北上越新幹線は50Hzに統一された。)
ここで一番問題になるのは、冷房、プロワモータ等の補助電源である。現用車は60Hz区間のみ走行するのでトランスの3次巻線から直接補助電源を供給していたが、961電車では大形のMGを搭載し50Hz区間でも60Hz区間でも常に3相60Hzの補助電源を供給する方式とした。MGは比較の意味もあり、直流モータ方式とサイリスタモータ方式の二種類を試作している。
冷房は屋根上の両端に2個取りつけ、ダクトで室内に送り込む半集中形で温度調整器の数も増やして室内を適温に保つようになっている。暖房は室内の一部にもうけられた機器室内での電熱器による温風ヒータと座席下部につけられた座席ヒータの2本立となっている。暖房器量は寒冷地対策として大幅に増強している。
室内換気はトンネル内でも気密を保ちながら換気できる押し込み通風の連続換気とし、トンネル区間の多い線区でも問題のないようになっている。
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