訂正増補 民法要義 巻の1総則編(第33版)
訂正増補民法要義自序
余が本書を著すに至った理由は前の自序にこれを詳らかにしたから,今再び述ぶる必要はなかろうと思うが,当時余の考えにては,民法発布の際,多少杜撰の嫌いはあるとも,一部の参考すべき著書がなくては,講法の人も執法の人も共に困るであろうと思うて,椛イに本書を草したのであるが,余もその内小閑を得たならば,学者の著述として恥ずかしからぬものを起稿しようし,又他の学者も続々良著を出してくれるであろう,そうしたならば,本書の如きはほとんどその必要を失うべきであると信じて居たのであるが,爾来年を重ぬることここに10,富井君の「民法原論」の外,ほとんど見るべきの著書が出ない。余もその後公私の用務ますます繁劇を加え,数年前同人とともに着手した「法律辞書」の編纂も一時中止するのやむを得ざるに至った程であるから,もとより新たに民法の著述をなすの余暇を得ないのである。かくの次第であるから,自ら杜撰を恥じて居た本書も思いの外長きにわたって世に行われて,実は慙愧に耐えぬのである。殊に巻の1と4とは明治32年以来,巻の2は同31年以来,巻の3と5とは同33年以来ほとんど1字,1句を改めなかったのは,多忙のためやむを得なかったには相違なけれども,学者の身にとっては実に中心安からざるところであったのである。しかし初めはつとめて「法律辞書」の編纂を急ぎ,その編纂が終わってから,本書の改稿に着手しようと思って居たけれども,「法律辞書」も初めに予期したように急速にこれを編纂することが出来ぬので,本書の読者に背くの罪がますます大なるを悟った故に,本年季夏より着手して数旬前僅かに第1巻の改訂を終わったのである。もちろん繁忙中閑を盗んで執筆したことであるから,新判例の出来た問題その他真に据え置き難しと思うた部分だけ訂正,増補したのである。余は現下の多忙にかかわらず,将来において学者の参考となるべき著述に従事するの意思を絶たぬのであるから,今回の改版はそれまでの責めを塞ぐだけの業として読者が諒恕せられんことをひとえに祈るのである。
明治38年12月中浣
洋洋学人 梅謙次郎誌す
再訂民法要義自序
明治29年修正民法が発布せらるるや友人しきりに余に勧むるにこれが解釈書を著すことをもってせり。余思えらく修正民法はその文極めて簡潔よく法典の全般に通暁し泰西の法理を研究したる者にあらざればその解釈誤りなきことを帰すべからず。それ先入主となるは人情の常なり。いったん法典の解釈を誤りたる者はこれをしてその見を改めしむること頗る難し。故にに今におよんで公正なる解釈を定むるにあらざれば法典の真意あるいは貫徹せざることあらんことを恐れる。余不敏なりといえども法典調査会の始めて設立せらるるより乏を起草委員に承け修正民法の発布せらるるに至るまでにはこれを閲読したることその幾十回なるを知らず。しかして民法は余が大学において担任する講座に属し又修正民法起草のため多少講究したるところなきにあらず。故に法典の公正なる解釈を定めんことをつとむるはけだし余が任なりとこれにおいて意を決して本書の起稿に着手せり。ただ憾むらくは公事日に繁くほとんど寸暇を得ざりしことをすなわち睡眠の時を奪いて僅かにこの稿を終うることを得たりといえども未だもって余が当初の目的を達するに足るや否やを知らず。図らざりき発刊の後未だ2歳ならざるに既に3たび版を改むるに至らんとはしかれども公事は滋劇を加え版を改むる毎に僅かに前版の破綻を彌縫するに過ぎず。ただこの版においては客臘帝国議会に提出せられたる民法親族編,相続編,法例商法を参照して改補したるところ少しとせず。これあるいは読者に便するところあらんか。
明治31年3月下浣 洋洋学人 梅謙次郎識
凡 例
1 本書は新民法の意義を明らかにするをもって目的とせり。故に立法論にわたり又旧民法,他の法令及び外国法と比較してこれを論ずるは本書の主眼とするところにあらず。ただ旧民法及び他の法令の個条中新民法の各条と対照すべきものはこれを括弧中に示せり。
2 政府が民法修正案参考書として議会に提出したるものは主として起草委員補助をして立案せしめたるものにして倉卒の際余が検閲を経ざりしもの多し。中に往々杜撰たるを免れざるものあり。今これを指摘するは煩に堪えず。故に本書は全くこれを度外に置きたり。その本書に説くところと異なるものは参考書の杜撰にあらざれば立案者が余と見を同じうせざるものなり。読者請う,諒せよ。
3 括弧中の数字は法令の個条を示したるものにして上にその所属法令を掲げざるは新民法の個条なり。
4 「人」は旧民法人事編,「財」は財産編,「取」は財産取得編,「担」は債権担保編,「証」は証拠編の略なり。
5 「憲」は憲法,「商」は商法,「民訴」は民事訴訟法,「刑」は刑法,「刑訴」は刑事訴訟法,「施」は施行法,「登」は不動産登記法の略なり。
6 「法」は法律,「勅」は勅令,「省」は省令,「訓」は訓令,「指」は指令,「告」は布告,「布」は布達の略なり。
7 「草」は草案の略なり。
民 法
民法(dorit ou Code civil,bürgerliches Recht oder Gesetzbuch)は私法(droit privé,Privatrecht )の原則を定めたるものにして公法(droit public,öffentlicnes Recht)に属する規定は概してこの中にあらず。まま私法の規定と密接の関係ありてこれと分離し難きものに限り併せてこれを挿入することあるのみ。
私法を分かちて民法,商法(droit commercial ou Code de commerce,Handelsrecht oder-gesetzbuch)の2と為すこと近世の慣例となれり。我邦においてもこれに倣い民法,商法の2法典を制定せり。これ議すべきところなきにあらざれどもこれを論ずるは本書の範 囲を脱するの嫌あるをもって今単に本書中に論ずべき事項を示すに止めんとす。
明治23年に発布せられたる商法の規定は動もすれば民法の規定と相重複し甚しきに至りては互に相抵触するものさえありたるが新民法は力めてこれらの欠点を補い民法の規定は原則として商事にも適用すべきものとし商法には全く商事に特殊なる規定のみを掲ぐることとせり。故に商事に関する法律問題を決せんと欲せば単に商法の規定のみを研究するも未だ足れりとすべからず。必ず同時に民法の規定を参観することを要す。
私法の規定中手続(procédure,Verfahren)に属するものは主として民事訴訟法,破産法,登記法その他の特別法又は民法施行法中にこれを収め民法中には力めてこれを掲ぐることを避けたりといえどもなお実体法(Materialrecht)と連繁したるものは多少これを民法中に載せたり(民事訴訟法,破産法等は公法に属するものなりとする説ありといえども本書の範囲を脱せさらんがためここに論ぜず)。
本法はこれを5編に分ち第1編総則,第2編物権,第3編債権,第4編親族,第5編相続とせり。総則編においては諸種の権利に共通なる規定を掲げ物権編においては財産権中の一種なる物権に関する特別の規定を掲げ債権編においては財産権中の他の一種なる債権に特別なる規定を掲げたり。中には多少相牽連したるものなきにあらずといえどもその主要なる観察点によりて類別を為せり。なお他に著作権(財産権にあらざるの説あれども余はこれを取らず),特許権,意匠権,商標権等の如き財産権ありといえどもこれらは皆特別法に譲り民法中にはこれを掲げず(債権中財産権にあらざるものありとする説なきにあらざれども余はこれを取らず。なお第163条に至りて論ずるところあるべし)。親族編においては財産権ならざる親族権に関する規定を掲げたり。けだし親族権の結果として財産権を生ずることありてその財産権には前2編の規定を適用すべきを原則とすといえども多少特別なる規定なきにあらず。相続編においては財産権及び親族権の主体亡失したるときは何人がこれを承継すべきかを規定せり。
第1編 総則
権利(jus,droit,Recht)とは法律により他人に自己の行為を正当と認めしむることを得る力をいう(権利の定義については諸説紛紛たりといえども今しばらく余が信ずるところを掲ぐるのみ)。故に権利の主体(sujet,Subjekt)は常に人なり。これ本編第1章において人を論ずる所以なり。しかれども時としては人にあらざるものを仮に人と同視しこれをもって権利の主体と為すことあり。これを法人という。これ第2章において法人を論ずる所以なり。また権利の客体(objet,Objekt)は常に行為なりと論ず者あり。一旦権利をもって行為に関する力とする以上はこの説正しきに似たれども権利者の行為は未だその権利者たる人より分離してこれを観察することを得ず。故にこれなお権利の主体の範囲を脱せずというべし。権利の客体は人がその上に権利を施さじと欲するものなり。故に親族権に在りては権利の客体は他の人又はその行為なること多く(人は決して権利の客体たることなしとする説あれども余はこれを取らず。懲戒権の如きは子又は未成年者をもってその客体とするものなりとするを妥当とす)財産権に在りてはあるいは物あるいは他の人の行為なるを普通とす。しかして行為の目的もまた間接に物に在ること多し。これ第3章において物を論ずる所以なり。又権利の得喪,変更は法律行為によること多し。これ第4章において法律行為を論ずる所以なり。又権利の得喪,効力等に付き期間の定あること稀なりとせず。しかしてその計算方法につき種々の疑問を生ずるおそれあり。これ第5章において期間を論ずる所以なり。又権利は直接又は間接に時効によりて消滅するを原則とす。これ第6章において時効を論ずる所以なり。
第1章 人
権利の主体は常に人なることは既に論ずるが如しといえども人は果たしていずれの時より権利の享有を始むべきかまた如何なる人が如何なる権利の主体となり得べきかを定めざるべからず。故に本章第1節においては私権の享有に関する規定あり。又権利を享有する者といえども皆自らこれを行使することを得るにあらず。故に第2節においては能力に関する規定あり。又人の所在によりその権利の効力その他に影響するところすくなからず。故に第3節において住所に関する規定あり。しかして人が所在を失いたる場合においてはその権利義務を如何にすべきかを定めざるべからず。故に第4節において失踪の規定あるなり。
第1節 私権の享有
私権(droits privés,Privatrechte)とは公権(droits publics,öffentliche Rechte)に対して言う語なり。しかして学者の用語は必ずしも一様ならずといえども余が私権と称するは国の構成分たる資格においてせざる人民の権利及び人民と同一の資格における国又はその一部の権利をいう。しかれども本章に論ずるところは総て自然人のみに関するが故にここに私権というは人民が施政機関の運転に参与する権を除き各自の安寧,康福を自衛するに要する一切の権利を斥して言えるものというも可なり。
権利の享有(jouissance)とはその行使(exercice)に対して言う語なり。享有とは権利の主体となるをいい行使とは自ら権利の作用に要する行為を為すを言う。故にドイツ学者は甲を権利能力(Rechtsf higkeit)と言い乙を行為能力(Geschäfts-oder Handlungsfähigkeit)といえり。
およそ人は権利の主体となることを得るを原則とす。故に本節はやや疑わしき問題のみを掲げその他は当然一切の私権を享有すべきをもって特にここに掲げず。ただし他に権利の種類によりその主体となり得べき者限れる例なきにあらざれどもこれらはこれを法律の特別規定に譲りここに論ぜず。
本説に掲ぐるところは(第1)およそ人はいずれの時より私権の享有を始むるか,(第2)外国人は内国人と同じく私権を享有するかの問題これなり。
第1条 私権の享有は出生に始まる(人1,2)
いやしくも権利の主体は常に人なりとする以上は人の生存は権利享有の要件なることけだし疑を容れず。しからば私権の享有は出生に始まるとは実に言うを待たざるところならずやしかり。しかして特にこれを言う所以のもの如何いわく。一方においては公権の若干の年齢に達せざればこれを享有せざるを常とし又一方においては私権中には胎児といえどもこれを享有するものとみ為すものあり。損害要償権(721),相続権(968,993)受遺権(1065)等の如きこれなり。旧民法にはローマ法その他欧州多数の法律に倣い胎児はその利益のためにはこれを既生児と同視すべきものとせしも(人2)これ汎博に失する恐れあるをもって今は原則としてはこれを取らず。例外として胎児を誕生児と同視すべき場合は特にこれを限定せり。
第2条 外国人は法令又は条約に禁止ある場合を除く外私権を享有す(人4)
古はいずれの国においても外国人をみることは禽獣の如く又仇讎の如く法律をもってその権利を認めこれを保護することあらざりしが世の開明に赴くに従い外国人もまた人なること及びこれと交通するは利ありて害なきことを悟り漸次外国人の権利を認むるに至れり。ただ公権はこれを外国人に認めざるを原則とす。けだしその国の事情に通じその国を愛しその国と利害を共にする者にあらざればその国の政治に参与せしむることを得ざればなり。私権に付いても今日なお外国人は内国人と同等の権利を有せざるを原則とせるの国なきにあらずといえどもこれあら常の例外にして大抵皆内外人その権利を同じうするを原則とし又は条約もしくは外国の法律により内国人がその国においても同様の権利を享有するを条件としてその国の人に内国人に均しき権利を認むるを例とせり。なお原則は内外人不平等の主義を株守するものといえども実際大多数の権利を外国人に認むるに至りその傾向は内外人をして同等の権利を有せしむるに在るが如し。我邦においても原則としてはこの主義を採用しもって文明国の例に倣えり。ただしあるいは某国との条約によりその国人に限り某某の権利を享有せしめずあるいは法令の特別規定により某某の権利に限りこれを外国人一般またはその国人に認めざることあり。今現行法において外国人に認めざる権利を列挙せば(一)外国人は日本の家の戸主又は家族たることを得ず(二)明治6年3月14日第103号布告(31年7月9日法21号をもって改正)によれば日本人が外国人を養子又は入夫と為すには内務大臣の許可を要しかつ内務大臣は同布告第2条の要件を具備する場合にあらざればこれを許可することを得ず(三)明治6年1月17日第18号布告地所質入書入規則第11条によれば外国人は土地の所有権,質権,抵当権を有することを得ず但多数の条約国の人民は例外として抵当権を有することを得(日独議定書第2,なお多数の条約国は最恵国条款の利益を有す)(四)民事訴訟法第88条によれば外国人が原告たるときは担保を供すべきものとしただ本国において日本人が同一の義務を有せざる場合に限りこれを要せざるものとし(五)同第92条によれば同様の例外をもって外国人は訴訟上の救助を受くる権なきものとし(六)明治32年3月7日法律第46号船舶法第1条によれば日本人に限り日本船舶の所有者たることを許し(七)明治29年3月23日法律第15号航海奨励法第1条,同日法律第16号造船奨励法第1条及び同38年2月28日法律第40号遠洋漁業奨励法第2条によれば日本人に限りこれらの法律の恩典に浴することを得るものとし(八)同29年4月7日法律第70号移民保護法第7条の1によれば日本人にして日本に主たる営業所を有する者に限り移民取扱人たることを得るものとし(九)同26年3月3日法律第5号取引所法第11条によれば日本人に限り取引所に会員又は仲買人たることを許し(32年3月9日法律第58号をもって外国人の株主たることを許せり)(十)同38年3月7日法律第45号鉱業法第5条によれば日本人に限り鉱業権者たることを許し又同26年3月4日法律第10号砂鉱採取法第4条第1項には砂鉱採取業に付き同様の規定あり(十一)同15年6月27日第32号布告日本銀行条例第5条及び同20年7月6日勅令第29号横浜正金銀行条例第5条によれば日本人に限り日本銀行及び横浜正金銀行の株主たることを許し(十二)同32年3月3日法律第39号著作権法第28条によれば外国人は原則として日本において始めて発行したる著作物に付いてのみその著作権の保護を受くるものとせり。
私権の主たるものに付いては憲法第2章の規定により法律をもって規定すべき場合多し。 故に日本人に付いては命令をもってこれが私権を規定するはその当を得ざる場合すくなからず。しかれども外国人は憲法の保障を受けざる者なるが故に命令をもってこれが私権を左右するも敢えて憲法の趣旨に反するの嫌あることなし。これ本条において命令をもって除外例を設くることを得べきものとせし所以なり。但法律論としてはいやしくも法律中明かに命令の規定に譲ることを定めたるときは法律事項(憲法上法律をもって定べき事項)といえども命令をもってこれを規定することを得べきは余が信じて疑わざるところなり。
如何なる者を外国人と為すかは国籍法(32年3月15日法66号)の規定によりて定まるところなり。旧民法には人事編中にこれを掲げたりといえども(人7ないし18)これ主として公法に属する事項なるをもって特別法と為すべきものとして新民法にはこれを掲げず。
第2節 能力
ドイツ法においては能力(capacité,Fähigkeit)を分かちて権利能力,行為能力の2とせることを既に述べたるが如し。しかれども我国においてはフランス法の語例に倣い行為能力のみを能力と称すること従来の慣例となれるをもって本説においてもこの意義をもって「能力」なる文字を用いたり。
行為能力も権利能力に均しく各人皆これを具有するを原則とし事実上権利を行使することを得ざる者及び法律において特に無能力者(incapable, unfähig)としたる者のみこれを具有せざるなり。故に本節においては如何なる人が能力を具有するかを規定せずして如何なる人がこれを具有せざるかを規定せるなり。
ドイツ学者は行為能力を具有せざるものを分ちて無能力者,限定能力者(geschäftsunfähig in der Geschäftsfähigkeit beschränkt)の2種と為すといえどもそのいわゆる無能力者は我民法においては意思無能力者(willensunfähig)のみなり。しかるにこの場合においては法律行為の要素たる意思を欠くをもって法律行為成立せざるものとし敢えて無能力者としてこれを規定せず。ただ意思無能力者たる幼者,心神喪失者又は法人の如きこれを代表するものに付き法律の規定を要することありといえどもこれむしろ権限の問題に属し本節にいわゆる無能力の問題を惹起すること稀なり。故にここにはドイツ学者のいわゆる限定能力者のみに付き規定を設けたるなり。
一般の無能力者のほか特別の無能力者あり。後見人と旧未成年者との間において後見計算の結了まで契約を為すことを得ず(939,人208)又夫婦間の契約は何時にてもこれを取消すことを得べく(792)又破産者は破産債権者に対抗することを得べき行為を為すことを得ざるが如き(旧商985これなり。これらは親族編及び破産法(現行破産法は旧商法の一部なり)に規定せるをもってここに論ぜず。
我民法において認めたる一般の無能力者は(一)未成年者(二)禁治産者(三)準禁治産者(四)妻これなり。請う左に順次これを説明せん。
1 未成年者(mineur,Minderjähriger)
第3条 満20年を以て成年とす(人3)
本条の規定は明治9年以来既に存するところにして(9年4月1日告41号)皇室典範においても普通の皇族に付いては同じく満20年をもって成年(majorité,Volljährigkeit)とせり(皇室典範14)。ただ(一)天皇及び皇太子,皇太孫に付いては満18年をもって成年とし(皇室典範13)(二)婚姻は男満17年,女満15年に至ればこれを為すことを得。しかも男満30年,女満25年に達するまでは家に在る父母の同意を得べきものとし(765,772,又人30,38ないし42参観)(三)養子縁組もまた養子たるべき者満15年以上なるときはこれを為すことを得。ただし年齢に拘わらず家に在る父母の同意を得べきものとし(844,846又人116ないし118参観)(四)遺言もまた満15年以上の者はこれを為すことを得るものとせり(1061,又人213ないし215取357,4号参観)
年齢の計算方法は明治35年12月1日法律第50号をもってこれを定めたり。しかしてその規定たる主として民法第143条の準用に過ぎず故にその条の説明によりおのずから明らかなるべし。ただ年齢は日をもって算うべきか時をもって算うべきか又日をもって算うるときは初日はこれを参入すべきや否やは多少疑わしき問題に属す。しかして35年法律第50号は日をもってこれを算えかつ初日を参入すべきものと定めたり
第4条 未成年者が法律行為を為すには其法定代理人の同意を得ることを要す但単に権利を又は義務を免るべき行為は此限に在らず
前項の規定に反する行為は之を取消すことを得(財547,2項,548,1項)
未成年者には新権を行う父母又は後見人ありてその法定代理人となりこれに代わりてその財産を管理し契約その他の行為を為すを常とすといえども未成年者は相当の年齢に達したる後は絶対の無能力者にあらず。故に自ら行為を為すもその行為全く無効なるにあらず。ただその能力不完全にして法定代理人の同意をもってこれを補うにあらざればその行為は完全に成立せざるものとせるのみ。しかして法定代理人の同意を得ずして行為を為すも単にこれを取消すことを得るに止まり敢えて絶対に無効なるにはあらず。しかしてその取消しは何人がこれを為すべきか,如何なる方法をもってこれを為すべきか,その効力如何等は後に無効及び取消の節においてこれを論ずべし。
右は意思能力を有する未成年者について論ずるところなり。もしいずれ意思能力なき幼者に至りては法律行為の要素たる意思を欠けるが故にその行為は決して成立することを得ざるなり。
本条にいわゆる法律行為中には訴訟行為をも包含せり。なお第12条第1項第4号及び民事訴訟法第43条を参観せよ。
以上は原則なり。これに一の例外あり単に権利を得又は義務を免るべき行為は未成年者独断にてこれを為すことを得るこれなり。けだしこれらの行為は法律上利のみありて害なきものとみるべきもってなり。
法定代理人が未成年者の行為に同意するには多少の条件を要する場合あるべしといえどもこれは専ら親族編の規定に譲りここに説かず(886,929又人154,157,1項,194参観)。
本条においてはひろく未成年者が法律行為を為すにはその法定代理人の同意を要する旨を規定せるが故に身上,財産上一切の行為にこれを適用すべきが如しといえどもその実しからず原則としては単に財産上の行為にのみこれを適用すべきものとす。そもそも法定代理人の何人にして如何なる権限を有するかは総て親族編の規定するところなり。しかるに親族編においては一般の規定としては親権者及び後見人は未成年者の財産に関する法律行為に付いてのみこれを代表すべきことを定めたり(884,923,1項)。故に財産以外の行為に付いては通常法定代理人あることなし。従て法定代理人の同意なるものを要することあるべからざるなり。ただ本条にひろく未成年者の法律行為に付き法定代理人の同意を要する旨を規定せるをもってあるいは財産以外の行為にもこれを要するかを疑う者なきあらざるべきを慮り隠居(756),私生子の認知(828),婚姻の無効もしくは取消,離婚又は同居に関する訴訟行為(人事訴訟手続法3,1項),養子縁組の無効もしくは取消又は離縁に関する訴訟行為(同26),親子関係,相続人排除または隠居に関する訴訟行為(同39,1項)等に付き特に法定代理人の同意を要せざる旨を明言せり。なお例外として転籍(737,2項),分家,他家の相続又は再興(743),兵役の出願(881,921),職業を営むこと(883,921)等に付き親権者又は後見人の同意を要する旨を定めたり。しかれども特に「親権を行う父もしくは母又は後見人の同意」を要する旨を言い「法定代理人の同意」を要する旨を言わざるは立法者が意を用いたるところなり。なお婚姻(772),離婚(809),養子縁組(844,846,1項),離縁(863)等に付いても父母又は後見人の同意を要するものとせるもこの父母は必ずしも親権者にあらず。また未成年者のみに関せざるが故に本条に規定と大にその性質を同じうせざることはけだし多弁をまたずして明らかなり。
第5条 法定代理人が目的を定めて処分を許したる財産は其目的の範囲内に於て未成年者随意に之を処分することを得目的を定めずして処分を許したる財産を処分する亦同じ
前条に掲げたる原則によれば未成年者は法定代理人の同意を得るにあらざればほとんど何事も為すことを得ず,さればとて父,母,又は後見人が事事物物に付いて皆未成年者の代理人となりて行為を為すこと頗る難し。故に未成年者が相当の年齢に達したる後はこれに多少の金銭その他の財産を交付し自らからその処分を為さしむるの必要あり。例えば学資として月月金若干を交付すればこれを受けたる未成年者は学資の範囲内においてはいかようにこれを支弁するも後日に至りその行為を取消すことを得ず。又小遣銭として月月金若干を交付すればこれを受けたる未成年者は全く自由にこれを消費することを得べきものとせざれば実際の不便に堪えざるべし。これ本条の規定在る所以なり。
第6条 一種又は数種の営業を許されたる未成年者は其営業に関しては成年者と同一の能力を有す
前項の場合に於て未成年者が未だ其営業に堪へざる事跡あるとき其法定代理人は親族編の規定に従ひ其許可を取消し又は之を制限することを得(883,2項,921,財550,商5,6,旧商11)
成年を20年としたるはもともと人の発育を考え平均この年齢に達せざる者は未だ自ら法律行為を為すに適せずこの年齢達せば既に各種の取引を自らするに適するものと看做したるに過ぎず。故に実際の発育を考え又家政の必要に従い相当の年齢に達したる未成年者をして商工業その他の職業を営ましむることを得ずんばあるべからず。しかりといえどももしその職業に必要なる諸般の取引を為すにあたり一々その法定代理人の同意を得てこれを為すにあらざれば後日これを取消すことを得るものとせば誰がこの未成年者と取引を為す者あらんや。この如くんばたといこれに職業を営むることを許すも実際これを営むことを得ざるべきのみ。しかして旧民法は不動産の譲渡に関し制限を附し外国の法律またその例に乏しからずといえどもこれ実際に不便にしてかつ十分の保護と為すことを得ざるが故にむしろ一刀両断営業を許す以上はその営業に付いては全然成年者と同一の能力を有するものとしもしこの能力を与うるに適せざるものは断然これに営業を自らすることを許さざるのまされるに如かずとし本条においては一切制限を付することなし。ただ許されたる営業以外に在りては全然未成年者にして第4条の通則に従うべきものとせり。余はこの最後の点に付き多少の意見なきにあらずといえどもこれ自ら立法論に属するをもってここに論ぜず。
一旦職業を営むに適せりと信じて許可を与えたる未成年者も元来年少者の事なるをもってその職業を始むるを見るときは往々予期に違いただ失敗のみを為して未だその職業を営むるに適せざるの跡顕然たることあるべし。この場合においてその許可を与えたる者はあに袖手傍観することを得んや。故に立法者はこれをしてあるいはその職業を営むの許可を取消しあるいはこれを制限し例えば従来卸小売を業とせしめたるを単に卸売のみ又は小売のみを為さしむることとし又は従来造酒権酒類売捌業を為さしめたるを単に造酒のみ又は酒類売捌のみを業とせしむることを得せしめたり。
以上述ぶるところに従い許可を与えまたはこれを取消しもしくは制限する者は何人にしてその条件は如何等は総て親族編の規定に譲れり。今同編の規定によれば後見人は親族会の同意を得てこれを為すべきものとせり。(921)なお旧民法にはフランス,イタリア等の例に倣い自治産(émancipation)をもって商工業を営むの必要条件とせりといえども新民法においてはこれを必要とせず。自治産の制は全くこれを取らざるなり(旧商11には独立の生計を立つるを必要とせりといえどもこれまた新民法の取らざるところなり。ただし自治産の制の存廃に付いては余は多少の意見を有せりといえども自ら立法論に属するをもってここに論ぜず)。
2 禁治産者(interdit,Entmündigter)
第7条 心神喪失の常況に在る者に付ては裁判所は本人,配偶者,四親等内の親族,戸主,後見人,保佐人又は検事の請求に因り禁治産の宣告を為すことを得(人222,223)
本条以下第13条までに規定せる無能力は精神の状態に基づきたるものなり。刑法及び旧民法には刑罰に基づきたる禁治産(interdiction,Entmündigung)を認むるといえども新民法においてはこれを認めず。けだし刑法の改正と共にこの制を廃すべき事を予期したるなり。ただし刑法の改正に先ぢて民法を施行せられたるをもって民法施行法中にこの制を廃する旨を規定せり(民施14ないし17)。
精神病者には程度ありてその重きは精神全く錯乱し毫も知覚なき者あり。その軽きに至りては時時精神錯乱することありといえども平常は普通人と毫も異なることなき者あり。しかしてその精神病の程度如何に拘わらず精神錯乱中に為したる行為は全く成立せざること敢えて疑いを容れず。けだし法律行為の第一の要素は意思なるにこの場合にはその意思なるものなければなり。しかりといえども(一)法律行為の当時に当事者の精神錯乱せしことを証明するは極めて難く(二)たとい当事の事実はこれを証明することを得るも精神全く錯乱せしやまた未だ全くその知覚精神を失わざりしやを断定するは精神病の専門家といえども難しとする所殊に精神全く錯乱せずとするも多少平態に異なること多く(三)精神の錯乱せる者はあるいは全く法律行為を為すことを得ずあるいは往々自己に不利益なる法律行為を為しためにその財産の散失を来すのおそれあり(四)精神病者の症状は往々一面の人に知れ難きをもって動もすればこれを普通人なりと誤信してこれと取引を為し後日その取引を無効と認めらるることなきを保せず。これにおいてが立法者はその精神病の程度を考え心神喪失の常況に在る者はこれを禁治産者とし一切の行為を自らする能力なきものとして敢えて法律行為の当時その精神の錯乱せざりしことを証明してその行為を有効とすることを許さず単に心神耗弱者と認むべきものはこれを準禁治産者としてこれに保佐人を附するに止め他は皆な事実問題とし法律行為の当時その精神の錯乱せしことを主張する者あるときはその精神錯乱者たると相手がたるとを問わず精神錯乱の証明を為さしめその証明あれば法律行為は全く無効たるべくしからずんば法律行為は皆有効となるものとせり。
本条は禁治産者に関するものにして心神喪失の常況に在る者すなわち精神常に錯乱して一切本心に復することなき者及び時時本心に復することありといえども精神動もすれば錯乱しその平態に在ることはむしろ例外たる状況なる者は裁判所の決定をもってこれを禁治産者と宣告することを得るものとせり。しかしてこれを請求する者は(一)本人とす。けだし本人が時時本心に復することあるときはその通常心神喪失の状況に在ることを思い自己の利益を慮りて自らその禁治産を請求することを得るなり。(二)配偶者とす。これその配偶者,その子又はその家の利益を慮りその配偶者の禁治産を請求することを得るなり。(三)4親等内の親族とす。これ同様の理由により自己の親族の禁治産を請求することを得るなり。しかして如何なる者を4親等内の親族と為すかは親族編の規定によりて明らかなり。すなわち親等計算の法は旧民法に同じくローマ法の主義によりただ親族中に血族と姻族とを包含せしめしかして血族は6親等までを認むるといえども姻族は3親等を限として他は全く親族関係なきものとせり(725ないし731)。(四)戸主とす。これまた同様の理由によりその家族の禁治産を請求することを得るなり。(五)後見人とす。これは未成年者を禁治産者とする必要ある場合においてその者の利益を謀りてその禁治産を請求するにもっとも適当なる地位に居る者なり。旧民法にこれなかりしは真に欠典というべし。(六)保佐人とす。これは一旦準禁治産の宣告を受けたる者が更に禁治産の宣告を受くる必要ある場合においてこれを請求するにもっとも適当なる地位に居る者なり。これまた旧民法に無かりしを欠典とせしところなり。(七)検事とす。これあるいは瘋癲者が直接に公安を害するを慮りこれが監督者を設くるためあるいは直接には社会の一員たる瘋癲者の利益を謀りその身体,財産を保護しもって間接には国家の公益を謀らんがため禁治産を請求することを得るなり(人事訴訟手続法40条ないし62条)。
未成年者もまたこれを禁治産者とすることを得べきは右に言えるが如し。しかれどもその必要何にか在る。未成年者も親権又は後見に服す。禁治産者もまた後見に服す。未成年者もその独断にて為したる法律行為はこれを取消すことを得。禁治産者もまたしかり。故に全く未成年者を禁治産者とする必要なきが如し。如何いわく有り(一)未成年者の行為は成年に達したる後5年を経過するときはまたこれを取消すことを得ず(124,1項,126)禁治産者の行為は禁治産取消の後その行為を為したることを覚知したる時より5年を経過するにあらざればその取消権消滅すること為し(124,2項,126)(二)もし未成年の間に禁治産の請求を為さざればその者が成年に達したる後禁治産の宣告を受くるまでその者は能力者にしてその保護を欠くに至るべし。これ未成年者を禁治産者とする必要ある所以なり。その他単に権利を得又は義務を免るべき行為を為すことを得ると得ざるとの別ありといえどもこれらは細目に渉れるものなるが故にここに論ずるを要せず(旧民法に従えば両者の差異殊に甚だしく従て未成年者を禁治産者とする必要一層多かりしといえども今は大にその必要減じたり)。
第8条 禁治産者は之を後見人に付す(人224)
禁治産の目的が禁治産者の身体,財産を保護し兼ねてこれを監督するに在ること殊に心神喪失の常況に在る者をして自らその財産を管理せしむるの危険なることは既にこれを述べたり。故に後見人(tutor,tuteur,Vormund)を置いてその身体の保護,監督及びその財産の管理に任せしむるを必要とす。なお何人が後見人となり如何なる権限,職務を有すべきかはこれを親族編の規定に譲れり(902ないし942)。
未成年者が禁治産の宣告を受けたる場合においては親権者が未成年者の身体,財産を保護,監督すること多し。この場合においては更に禁治産者としてこれに後見人を附する必要なきか。いわく有り。この者は未成年者と禁治産者と二つの資格を有するが故にこれを保護するの機関もまた両なから存せざることを得ず。ただ原則としては親権者禁治産者の後見人たるべきが故に実際同一人が二つの職務を兼ぬることとなるを通例とすべし(902)。
第9条 禁治産者の行為は之を取消すことを得(人230,財547,2項)
心神喪失者の為したる行為は行為の要素たる意思を欠くが故に無効なることは既に言えるが如し。しかりといえどもその行為の当時あたかも心神を喪失せしことを証明すること難きのみならず全く心神を喪失せるということを得ざる場合といえどもまた心神全く健全ならざること多しとす。これにおいてが立法者はおよそ禁治産者の為したる行為は心神喪失の状況の有無を証することを要せずしてその禁治産者又はその代理人よりこれを取消すことを得るものとしもってこれを保護せり。これすなわち禁治産の主たる目的の一なることは粗前にも述べたるが如し。ただし禁治産者がその後見人の同意を得て為したる行為はいやしくもその行為が後見人の権限内に在る以上は全く有効なること勿論なり。けだし禁治産者は心神喪失の常況に在る者なるが故にその本心に復することは稀なるべくしたがって後見人の同意を得て法律行為を為すが如き極めて例外に属する事項なるをもって法文には敢えて未成年者におけるが如く禁治産者が法律行為を為すにはその後見人の同意を得ることを要すといわず後見人常にこれに代わりて法律行為を為すべきものとするといえどももしその本心に復したる間において後見人の同意を得てこれを為さんには後見人に代わりてこれを為したるものみることを得べく(102参観)従てその法律行為の有効なることはもとより論をまたざるなり。
心神喪失の証拠を提出すること難きは右に言えるが如しといえどももしその難き証拠を提出したらんにはなお単に禁治産者又はその代理人よりその行為を取消すことを得るに止るべきや又禁治産者またはその相手方はその行為の全く無効なることを主張することを得べきや。これ外国においても種々議論あるところなりといえども余の信ずるところによれば意思が法律行為の要素なる以上はいやしくも反対の明文なき限は意思なき法律行為の有るべきいわれなし。今禁治産者の行為はこれを取消すことを得というに止まるが故にその行為は普通の要素たる意思あるものたらざるべからず。もししからば禁治産者が行為を為すに当たりて意思全く欠缺せし証拠を提出せば禁治産者が単にこれを取消すことを得るに止まらずしてその行為全く無効,不成立なり。故に取消権時効にかかるの後といえどもなおその無効唱うることを得べく相手方もまたその無効を唱えてその行為の履行を拒むことを得べし。これあるいは禁治産者に不利なるが如しといえどもまた実にやむを得ざるところなるのみならず事実において心神喪失を証明すること難きが故に敢えて弊害なかるべし。これあたかも幼児が為したる行為は意思なきがために全く無効にしてその者よりも相手方よりも無効を唱うることを得ると異なることなきなり。
第10条 禁治産の原因止みたるときは裁判所は第7条に掲げたる者の請求により其宣告を取消すことを要す(人231)
本条の規定は当然にして説明を要せず。初に裁判所において禁治産の宣告を為したるにより後にこれを取消すにもまた裁判所によらざるべからず。しかしてこれを宣告せしむる利害もその宣告を取消さしむる利害も同一なるが故に同一の人よりその取消を請求することを得るなり。ただし保佐人は実際その適用を見ざるべし(人事訴訟手続法63ないし66)。
3 準禁治産者(demi-interdit)
第11条 心神耗弱者,聾者,唖者,盲者及び浪費者は準禁治産者として之に補佐人を附することを得(人232,1項)
本条に規定するところの者は未だ全く心神を喪失するに至らず又はこれを喪失することあるも未だその常況に陥らざる者にしてただ精神常人に及ばず法律行為の利害,得失を十分に弁識するの智能を具えざる者なり。しかして聾者,唖者,盲者は各五官の一を欠く者にしてその智識多く常人に及ばず動もすれば他人のために欺かるるおそれあり。浪費者もまた一種の精神病者にしてたとい他の智能に欠くるところなきも理財の一事に至りてははるかに常人に及ばざる者なり。故にこれらの人を保護せんと欲せば必ずその能力を画限しほしいままに法律行為を為すことを得ざらしめざるべからず。これ準禁治産(demi-interdiction)の制の由て起こりたる所以なり。ただしこれらの人には保佐人(conseil judiciaire)を附するを得るに止まり敢えて必ずしもこれを附することを要せず。けだしその精神の状況によりこれを附する必要なきことあればなり(禁治産の宣告もまたこれを為すことを得る旨を規定せしに止まるをもってたとい心神喪失の常況に在る者といえどもこれが禁治産の宣告を為さざることを得るが如し。しかれども法文に裁判所が某の事を為すことを得る旨を規定したる場合においては総て裁判所が必要ま又は有益なりと認むるときはこれを為すべきものと解せざるべからず。しかるに心神喪失の常況に在る者に付き禁治産の宣告を必要とせざることはけだしこれあらざるべきが故に実際心神喪失の常況に在るの事実を認めてしかも禁治産の宣告を為すことを要せざる場合を生ずることなかるべし)。
しかりといえども準禁治産者はその智力禁治産者に優ること勿論なり。したがってその能力も禁治産者の能力よりは大なるを当然とす。これによりて左の差異を生ず。
一 禁治産者は自ら法律行為を為さざるを原則とす。故に必ず後見人ありてこれが法定代 理人たり。準禁治産者は常に自ら法律行為を為すものにして保佐人はただこれを監督,輔佐するに止まり保佐人自ら準禁治産者に代わりて法律行為を為すことを得ず。
二 禁治産者は財産に関しては如何なる法律行為といえども独断にしてこれを為すときは これを取消すことを得れども準禁治産者はただ重大なる行為に付いてのみ保佐人の同意 を得ることを要しその他の行為は総て独断にてこれを為すことを得る者なり。
第12条 準禁治産者が左に掲げたる行為を為すには其保佐人の同意を得ることを要す
1 元本を領収し又は之を利用すること
2 借財又は保証を為すこと
3 不動産又は重要なる動産に関する権利の得喪を目的とする行為を為すこと
4 訴訟行為を為すこと
5 贈与,和解又は仲裁契約を為すこと
6 相続を承認し又は之を放棄すること
7 贈与若くは遺贈を拒絶し又は負担付の贈与若くは遺贈を受諾すること
8 新築,改築,増築又は大修繕を為すこと
9 第602条に定めたる期間を超ゆる賃貸借を為すこと
裁判所は場合に依り準禁治産者が前項に掲げざる行為を為すにも亦其保佐人の同意あることを要する旨を宣告することを得
前2項の規定に反する行為は之を取消すことを得(人194,218,219,233,234,財547,2項,548,2項)
本条に列挙せる行為は皆重大なる行為にして精神の完全ならざる者はほしいままにこれを為すことを得ざるものとするにあらざれば家産を蕩尽するおそれあるものなり。しかして大抵処分行為に属するといえども中に元本の領収,修繕の如き性質上管理行為に属するものあり。けだし危険多き行為なるをもって特にこれを処分行為と同一視し保佐人の同意を必要としたるなり。又保証,贈与の如き全くこれを禁ずるも不可なきが如きも商業を営む者は往々にしてその営業上互いに保証を為すの必要あり。又家族の分家,婚姻,養子等の場合においてあるいは贈与を為すの必要なきにあらず。故にこれまた保佐人の同意を得てこれを為すことを得るものとせり。
第2項の規定は準禁治産者中精神不完全の程度を考えその甚だしき者に至りては短期の賃貸借,重要ならざる動産の売買の如き瑣末の行為といえどもなお保佐人の同意を得ることを要するものと宣告するの必要あるべきを慮りてこれを設けたるなり。ただしその者の精神改善に赴きたるときは右の宣告を取消又はこれを変更することを得べく又精神ますます不完全に赴きたるときは後日に至りて右の宣告を為し又はこれを変更して保佐人の同意を要する行為の範囲を拡むることをも得べし(人事訴訟手続法68)。
準禁治産者が保佐人の同意を得るを必要とする場合においてその同意なくして為したる行為は未成年者,禁治産者の行為と同じく一応はこれを有効なものとみるももし準禁治産者にしてこれを自己に不利益なりとせばこれを取消すことを得るなり。
第13条 第7条及び第10条の規定は準禁治産者に之を準用す(人232,2項,235)
準禁治産者はその程度こそ異なれその性質に至りては禁治産者と大いに相類するものあり。これ準禁治産者の名称のよりて生じたる所以なり。故に何人がこれを請求することを得るか及びその原因去れば直ちにこれを取消すべきことに付いては禁治産とその規定を異にする理あらざるなり。これ本条において禁治産に関する第7条及び第10条を準用する所以なり。準禁治産の請求を為す者において保佐人は実際適用なくその取消を請求する者において後見人はまた適用すくなかるべしといえどもこれ準用の準用たる所以なり。ただし未成年者を準禁治産者としたる場合において未だ成年に達せざる内に準禁治産の取消を請求する場合においては後見人もまた請求することあるべきなり(人事訴訟手続法67)。
4 妻(femme mariée,Ehefrau)
第14条 妻が左に掲げたる行為を為すには夫の許可を受くることを要す
1 第12条第1項第1号乃至第6号に掲げたる行為を為すこと
2 贈与若くは遺贈を受諾し又は之を拒絶すること
3 身体に覊絆を受くべき契約を為すこと
前項の規定に反する行為は之を取消すことを得(人68,72,財551)
婦人は婦人として無能力なるにあらず。故に処女及び寡婦はその能力において男子と異なることなきを原則とす。ただ妻は妻として無能力なり。その理由は天に二日なく国に二王なきと一般家に二主ありては一家の整理を為すこと能わず。故に今日は家に必ず戸主あり。しかれども世の進運と共に家族制は漸次親族制に進化し来ること古今の沿革に徴して争うべからざるところなるが故に戸主の権はまた昔日の如く強大なること能わず。ようやく親権,夫権の発達を見るに至れり。親権は主として未成年者に対して行われ夫権は妻に対して行わる。しかして新民法においては旧民法及び今日多数の立法例におけるが如く夫権は主として妻が重大なる法律行為を為さんと欲するに方りこれをして夫の許可を受けしめもってその行為能力を制限するによりては行わる。しかしてその能力の程度はやや準禁治産者に類するものありといえども準禁治産者は単にその財産を保護するがためこれを無能力とし妻はこれをして夫の権力に従わしめんと欲するがためにこれを無能力とせるが故にその間に左の差異を生ず。
一 準禁治産者は負担附の贈与又は遺贈を受諾するに付いてのみ保佐人の同意を要すれども妻は一切の贈与,遺贈を受諾するに付いて夫の許可を要するものとす。けだし他人より贈与,遺贈を受くるが如きはたとい財産上においては利のみありて害なしとするも品位上又は感情上これを受くるを不可とすることあり。これらの判断は総て夫の意見に任ずるにあらざればその権力遂に行われざるに至るのおそれあればなり。
二 身体に覊絆を受くべき契約もまた類似の理由によりてこれを準禁治産者に許して妻に許さず。けだし夫は妻をして自己と同居せしむる権利をさえ有する者なるに妻はいずくんぞ夫の許可なくして自己の身体に覊絆を受け夫の命に従いて同居その他の義務を尽すこと能わざるに至るべき契約を為すことを得べけんや。
三 これに反して第12条第8号及び第9号に掲ぐる行為の如きは財産上の利害よりこれを言えばやや重大なるものに相違なしといえども妻が独断にてこれを為したればとて敢て夫の権力を蔑如するの嫌ありということを得ず。これこれを本条に掲げざる所以なり。ただし新築,改築増築のため借財を為し又は不動産もしくは重要動産の処分を為すの必要あるときは特に夫の許可を受くべきこともとより言うを待たず。
四 同一の理由により妻は準禁治産者の如く法律に定めたる行為以外のものに付いても夫の許可を受くべきものとすることを得ざるはもとより論をまたざるところなり。
右の理由により妻といえどももし準禁治産者の原因あるときはこれが準禁治産を宣告する必要あること明らかなり。殊に第17条の場合においては妻は夫の許可を得くることを要せずといえどももし準禁治産者なるときは第12条の行為に付いては必ず保佐人の同意を得ざるべからず(902,2項,909,1項によれば原則として夫妻の保佐人たり)。故に西洋においては妻の準禁治産は頗る頻繁なりという。もしいずれ妻を禁治産者とする必要があるべきことはもっとも明瞭なるをもって別にこれを説明せず。
第15条 一種又は数種の営業を許されたる妻は其営業に関しては独立人と同一の能力を有す(人69,1項,商5,6,旧商12,13)
夫は各個の行為に付き許可を与うるも包括したる行為に付きこれを与うるももとよりその随意なり。故に夫は妻が某の職業を営むに付き必要なる行為を包括してこれを許可することを得べし。しかしてもし夫が某の職業を営むことを妻に許可するときは常にその職業に関する行為に付いて包括の許可ありたるものと看做しもって第三者をして妻の能力に付きいささかの疑惑なく安じてこれと取引を為すことを得せしめんことを力めたり。その他第6条とその趣意を同じうするが故に再びここに贅ぜず。
第16条 夫は其与へたる許可を取消し又は之を制限することを得但其取消し又は制限は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず(人69,2項)
夫は許可によりてその夫権を放棄することを得ず。故に如何程包括なる許可を与えたるときといえどももしこれを許可したることを悔ゆるときは何時にてもこれを取消すことを得ずんばあるべからず。又たとい許可の全部を取消さざるも必要なると認むる範囲内にこれを制限することを得ずんばあるべからず。ただしこの取消又は制限は性質上既往に溯らざること勿論なりとす。
西洋においては往々夫婦財産契約中において夫が妻に包括的許可を与うることあり。しかれどももしこれをもって夫を束縛すべき契約とせんが公の秩序に反する契約なるが故にこれを無効とせざるべからず。西洋においては通常これをもって夫が予めその夫権の作用として包括的許可を与えたるものとみ為すが如し。けだし夫婦財産契約は婚姻の成立と共に効力を生ずべきものなればなり。この見解をもってすれば右の許可は何時にてもこれを取消し又は制限することを得べきこと本条の規定によりて明らかなり。民法修正案の初めの草案にはこれを明言せしも終にこれを削れり。故に今はかくの如き事項を夫婦財産契約中に規定することを得ざるものとす(4巻155頁参観)。
夫の許可の取消又は制限は夫権を重する上より言えば当然の事なりといえどももし善意の第三者にこれを対抗することを得るものとせば第三者を害しもって取引の安全を妨ぐること実に尠少にあらざるべし。これ本条の但書ある所以なり。
例えば不動産を売却することを許可したるに後日全くその売却を禁止し又はその価を1万円以上にて売却すべき旨を命じ又は呉服の卸小売商を許したるに後日全くこれを禁止し又はその卸売のみを為すべき旨を命じまたは一切の商業を許したるに後日呉服商のみを為すべき旨を命ずるが如き場合においてもし第三者がその取消,制限を知らずして妻と取引を為したるときはその取引はこれを取消すことを得ざるものとす。
あるいはいわん第6条第2項には但書なくして本条にのみ但書あるは如何と。これ他なし未成年者の無能力はこれを保護せんがために設けたるものなるが故にむしろ第三者を害するもこれを保護せざるべからず。妻の無能力はこれに異なりただ夫権を重するため妻を無能力とするものなるが故に善意の第三者を保護するも敢えて夫又は妻が損害を被るおそれありということを得ず。いわんや夫は各行為に付き与えたる許可をも取消し又は制限することを得るが故にその第三者を害すること殊に甚だしかるべきにおいてをや又いわんや未成年者におけるが如くその営業に堪えざる事跡等あることを要せず全く随意にその許可を取消し又は制限することを得るにおいておや。
第17条 左の場合に於ては妻は夫の許可を受くることを要せず
1 夫の生死分明ならざるとき
2 夫が妻を遺棄したるとき
3 夫が禁治産者又は準禁治産者なるとき
4 夫が瘋癲の為め病院又は私宅に監置せらるるとき
5 夫が禁錮1年以上の刑に處せられ其刑の執行中に在るとき
6 夫婦の利益相反するとき(人70,旧商12,1項)
妻が重大なる行為を為すには夫の許可を要するを原則とすといえども法は不能を責むることなし。故に本条第1号,第4号の規定あり。第2号,第3号,第5号の場合においても事実不能なること多く又全く不能なるにあらざるも既に妻を遺棄したる夫禁錮1年以上の刑に処せられたる夫に対しても妻は許可を請わざるべからずとするは妻に対して酷なりといわざるべからず。否な妻に対して酷なるのみならず往々極めて必要なる行為までをも為すことを得ざるに至りその子のためにまでもっとも不利益なる結果を生ずることなきを保せず。又夫が禁治産者,準禁治産者たる場合においてはその身自ら無能力なるに妻に対して許可を与うるは甚だその当を得ず。あるいは次条におけるが如く夫の後見人又は保佐人の同意を得ることを要するものとすれば可なるが如しといえども妻の無能力は畢竟夫権を確保するに在るが故に他の後見人,保佐人等をしてその間に干与せしむるは実にいわれなきところなり。いわんや夫の禁治産者または準禁治産者たる場合においては妻これが後見人もしくは保佐人たることを本則とするにおいてをや(902,3項,909,1項,人224,2項,232,3項)。これ本条第3号の規定ある所以なり。もしそれ第6号の場合は夫婦利害を異にする場合にしてこの場合においてもなお夫の許可を要すものとせばその人情に悖ること甚だしく妻を束縛すること適度に過ぐるものといわざるべからず。例えば妻が夫に対して訴を起すの必要ある場合においてもし夫の許可を要すといわば到底その訴を起すこと能わざるに至らん。これ第6号の規定ある所以なり。
第18条 夫が未成年者なるときは第4条の規定に依るに非ざれば妻の行為を許可することを得ず
夫が未成年者なるときは自己のために法律行為を為すに付いて法定代理人の同意を得ることを要するものなるが故に妻の法律行為を許可するに当たりても同じくその法定代理人の同意を要するものとするにあらざれば夫は自己のためには自由に法律行為を為すことを得ずして人のためには法律行為の利害,得失を判断しもってこれを許可しまたは許可を拒むことを得るの不権衡を生ずべし。これ本条の規定ある所以なり。
あるいはいわん前条第3号において夫が禁治産者又は準禁治産者なるときは妻はその許可を受くることを要せざるものとせるに本条において夫が未成年者なるときはその法定代理人の同意を得て妻の行為を許可することを得るものとせるは前後権衡を得ざるにあらずやと。余はこれに答えていわん。夫は未成年者なりといえども既に婚姻を為したる者なるが故に必ず満17年以上にして(765)しかも自ら一家を主宰するに堪うる者なること多かるべし。故にその法定代理人の同意を得て妻の行為を許可することを得るものとするも敢えて不当と為すべからず。殊にこれを禁治産者,準禁治産者と同一視すべからざることはほとんど説明を要せざるところなるべし。これ本条の規定と前条第3号の規定と異なる所以なりと。
夫が法定代理人の同意なくして許可したる行為は夫又は妻がこれを取消すことを得るはもとよりなり。けだし夫の許可なかりしに等しければなり。しかしてこの場合における取消しは第14条第2項によれるものとなるが故に第三者に対してもこれを対抗することを得るは論をまたざるところなり(121)。
本条は許可を与うるに付いてのみ第4条によるべきことを規定せり。故に一旦与えたる許可を取消すには法定代理人の同意を要せざるものとす。これ他なし夫が許可せんと欲する行為は法定代理人の同意を得てこれを許可することを得れどもその欲せざる行為を法定代理人が強いて許可せしむることを得ざると同じくその許可を取消さんと欲するにあたり法定代理人が強いてその取消を妨ぐること得ざればなり。
5 通則
第19条 無能力者の相手方は其無能力者が能力者と為りたる後之に対して1个月以上の期間内に其取消し得べき行為を追認するや否やを確答すべき旨を催告することを得若し其無能力者が其期間内に確答を発せざるときは其行為を追認したるものと看做す
無能力者が未だ能力者とならざる時に於て夫又は法定代理人に対し前項の催告を為すも期間内に確答を発せざるとき亦同じ但法定代理人に対しては其権限内の行為に付てのみ此催告を為すことを得
特別の方式を要する行為に付ては右の期間内に其方式を践みたる通知を発せざるときは之を取消したるものと看做す
準禁治産者及び妻に対しては第1項の期間内に保佐人の同意又は夫の許可を得て其行為を追認すべき旨を催告することを得若し準禁治産者又は妻が其期間内に右の同意又は許可を得たる通知を発せざるときは之を取消したるものと看做す
旧民法によれば無能力者の為したる法律行為は無能力者もしくはその法定代理人(妻に付いては夫,以下同じ)においてこれを取消すことを得るといえどもただにその行為の取消を請うことを得ざるのみならず無能力者又はその法定代理人をして速に取消権を行うや否やを決せしむること能わずために取消権が時効にかかるまでは(通常能力を得たる後5年)相手方は極めて不確定なる位置に甘ぜざるべからず。けだし無能力者と取引を為す者は多少不注意なきにあらずといえどもこれをしてかく久しき間不確定の位置に在らしむるは酷に失するの嫌なきにあらざるのみならず経済上頗る不得策なり。これ本条において無能力者の相手方に与うるに無能力者又はその法定代理人をして速に取消権を行うや否やを確答せしむるの権をもってしたる所以なり(第2項但書は今日に在りては蛇足たることを免れずといえども本編制定の当時に在りては未だ親族編の制定あらざりしが故に老婆心をもってこれを置きたるなり)。
無能力者が未だ能力者とならざる間においてこれに対して催告を為すも敢えて本条第1項を適用すべからざることもとよりなり。ただ無能力者が右の催告に応じ法定代理人,保佐人又は夫の同意を得て追認又は取消を為したるときはその追認又は取消の有効なることは論をまたず。けだし右の同意あれば新に同一又は反対の行為を為すことをも得ればなり。しかして準禁治産者及び妻に付いては第3項の規定ありといえども未成年者及び禁治産者については同様の規定なし。これ第98条の規定により原則としてこれらの無能力者に対抗する意思表示はこれをもって無能力者に対抗することを得ざるが故なり。
本条第3項にいわゆる「特別の方式」とは無能力者が無能力なるの故をもって要する方式なることもとより明らかなり。例えば後見人が親族会の許可を得べく,未成年者の夫がその法定代理人の同意を得べきが如きこれなり。故に本項の規定は第2項の場合にのみその適用あるべきことはけだし疑を容れざるところなり。
あるいは問わん第1項及び第2項の場合においては無能力者,法定代理人等が期間内に確答を為ささざるときは取消し得べき行為を追認したるものとみ為すに拘わらず第3項及び第4項においてはこれを取消したるものとみ為す所以のもの如何にと。余はこれに答えていわん。第1項及び第2項の場合においては催告を受けたる者が一己の意思にて追認為すことを得るが故に元来取消を為すまでは有効に成立したりと看做さるべき無能力者の行為は確答なきによりて完全なる行為なるものとするを妥当とするといえども第3項及び第4項の場合においては催告を受けたる者が自己の意思のみにて確答を為すことを得ず必ず他人の同意又は許可を得ることを要するが故にもし期間内にその同意又は許可を得ざるときはむしろその行為を取消したるものと看做さざることを得ず。これ第1項及び第2項の場合と第3項及び第4項の場合と異なる所以なりと。
本条中「確答を発せず」または「通知を発せず」といえるは他なし。新民法においてはその第97条をもって「隔地者に対する意思表示は其通知の相手方に到達したる時より之を生ず」るものとするが故にもし本条において単に「確答を為す」「通知を為す」というときはその確答又は通知が相手方に到達したる後にあらざればこれを為したるものと看做されざるをもって無能力者のために頗る不利益なる結果を生ずるのおそれあり。これ特に本条において第97条の原則によらず例外として発信主義を執りたることを明らかにせる所以なり。
第20条 無能力者が能力者たることを信ぜしむる為め詐術を用ゐたるときは其行為を取消すことを得ず(財549)
無能力者が法律行為によりて義務を負担するには法定代理人等の同意を必要とすること多しといえども無能力者が不法行為を為したるときはこれによりて生じたる損害の賠償を為すべきは毫も能力者に異なることなし。しかるに無能力者が法律行為を為すに当たりてその相手方をして自己の能力者たることを信ぜしむるため詐術を用いたるときはこれ不法行為を為したるに外ならず。故に別段の明文なきもその詐術によりて生じたる損害を相手方に賠償すべきはもとより論をまたざるところなり。しかりといえどもおよそ損害賠償なるものは被害者が受けたる一切の損害を金銭にて見積もるものなるが故に決して被害者はこれによりて充分の救済を得るものとみることを得ず。殊に無能力者の詐術によりて生ずる損害は畢竟法律行為を取消すによりて生ずる損害なるが故にもしその損害の根を断つため無能力者をしてその行為を取消すことをえざらしめば相手方は必ず充分の救済を得べし。これ一旦損害を生ぜしめてしかる後不確実なる標準により金銭にてその損害を算定し無能力者をしてこれを相手方に払わしむるにいずれそや。これ本条のよりて起これる所以なり。ただし無能力者が特に詐術を用いたるにあらずして単に自己の能力者たることを明言せるのみにては未だ本条の適用を受くべきものとすべからず。例えば替玉を使い,詐偽の身分登記謄本を開示し,偽証人をして自己の年齢その他を証言せしむるが如きはこれ皆詐術を行うものというべし(712参観)。
無能力者がその法定代理人,保佐人又は夫の同意を得たることを信ぜしむるため詐術を用いたるときは本条を適用すべきや否や。裁判例によればこれを適用すべきものとせり(37年6月16日大審院判決)。しかして余はこれを可とする者なり。けだし法定代理人,保佐人又は夫の同意あれば無能力者はその能力を補われその行為に付いてはあたかも能力者たると一般なるが故にこれらの同意ありたることを信ぜしむるは本条にいわゆる「能力者タルコトヲ信セシムル」ものなりということを得べければなり(450,1項1号参照)。
第3節 住所
住所とは法律上の平生居住すべきところをいうものにして民法においてはこれを「生活ノ本拠」といえり。フランス語の「ドミシール」(domicile)ドイツ語の「ヴヲ―ンジッツ」(Wohnsitz)これなり。故にいわゆる現住所または居所(résidence,Wohnort oder Aufenthalt)と同じからず。如何なるものを住所というかの細論はこれを第21条の説明に譲り今まず住所が法律上如何なる用を為すべきか略言せん。
一 住所は裁判管轄の標準となる(民訴10,非訟事件手続法34,38,90ないし 92,96,98,118,206)
二 裁判上の期間に付き外国又は島嶼に住所を有する者のために特別の規定あり(民訴167,2項)
三 相手方ある法律行為に在りては意思表示は相手方に対してこれを為すべきを本則とす。しかして親しくその人に対して意思を表示せざる場合においてその現在地又は居所を確知すること能わざるときは必ずその住所に宛て意思表示の通知を為すべし(ただし事務所あるときはこれに宛てその通知を為すも可なり。又営業所あるときはその営業に付いてはこれに宛て通知を為すも可なり)。
四 弁済の場所は原則として債権者の住所においてすべし(484,また商278参観)。
五 住所は手形関係において重要なる事項たり(商442,452,453,472,490,491,2項,494,旧商709,1項,721,800)。
六 被相続人の住所は相続の開始地となる(965)。
七 後見人が「被後見人の住所の市または群以外において公務に従事する」ときは離任の理由となる(907,2号)
八 住所は国際私法において適用すべき法律の標準となる(法例4,2項,9,2項,12,23,2項,27,2項)。
九 国籍法によれば帰化によりて日本の国籍を取得するには必ず日本に住所を有すべきを本則とし(国籍法7,2項1号,9,10)その他国籍喪失者が日本の国籍を回復するにもまた日本に住所を有することを必要とし(同25,26)又明治6年3月14日第103号布告第2条第1号(31年7月9日法21号をもって改正)によれば外国人が日本人の養子又は入夫となるには1年以上日本に住所又は居所を有すべきものとせり(人9,13,15,2項参観)。
右のほか書類に住所を記載すべきものとする規定枚挙に遑あらず。これ民法において住所に関する一般の規定を設くる必要ある所以なり(なお商289,3項参観)。
旧民法によれば婚姻及び養子縁組の儀式は当事者の一方の住所又は居所においてこれを行うべきものとせりといえども(人43,113,3項)新民法には同様の規定なく戸籍法によれば夫又は養親の本籍地又は所在地の戸籍吏に届出づべきものとせり(戸籍法90,104)。故にこの点においては住所を知るの必要なし。
旧商法によれば商業登記は当事者の営業所又は住所においてこれを為すべきものとせりといえども(旧商18)新商法によれば必ず営業所においてこれを為すべきものとせるが故に(商9)この点においてもまた住所を知るの必要なし。
第21条 各人の生活の本拠を以て其住所とす(人262,266)
住所に付いては従来2主義あり1は届出その他形式上の条件により住所を定べきものとし1は一切形式を離れて単に事実によるべきものとせり。我邦においては従来第1の主義を取り本籍と現住所を区別し本籍は届出によりこれを定むるを通例とせるもこれ往々事実に反し甚だしきに至りては既に十数年来住居したることなき土地に本籍を有する者少なからず。この本籍は略本法にいわゆる住所に該当せしが如しといえども事実に異なること甚だしき場合においては到底前に述べたる諸般の効力をこれに附すること能わず。現住所は本法にいわゆる居所と略同一なるものにしてこれまた我いわゆる住所にあらず。本法においては第二の主義を執り専ら事実によりて住所を定むべきものとせり。しかしてその事実の認定は一に裁判官の権内に存するといえども例えば家族の居住する処,主たる財産の所在等をもって生活の本拠すなわち住所と認むべき場合多かるべし(戸籍法においては戸籍上の必要よりなお本籍なるものを認むるといえどもその住所にあらざること勿論なり)。
我民法においては住所は必ず1個に限るの主義を執れること本条の規定によりて明らかなり。けだし本籍,本店の必ず1個に限ると同じく生活の本拠もまた2個以上あるべからざること多弁をまたざればなり。加えこれ2個以上の住居を認むることドイツの如くんば必ずこれに関する規定なかるべからず。そのこれなきは正にこれを認めざるがためなり。
第22条 住所の知れざる場合に於ては居所を以て住所と看做す(人267,1号,民訴13)
前条において専ら事実によりて住所を定むるの主義を執れるが故に実際の住所を有せざる者は有るべからざるが如しといえども一処不住,各地を流浪するも者に至りては往々その住所と認むべき土地なき場合あるべし。これ本条の規定有る所以なり。ただし実際生活の本拠有るもこれを知ること能わざる場合においてはなお本条を適用すべきものとす。
第23条 日本に住所を有せざる者は其日本人たると外国人たるとを問はず日本に於ける居所を以て其住所と看做す但法例の定むる所に従ひ其住所の法律に依るべき場合は此限に在らず(人267,2号,法例9,2項,12,27,2項,民訴13)
外国に住所を有する者に付いては日本において上に述べたる効力をその住所に付するときは実際の不便少なからざるが故に特に本条の規定を設けて居所を住所に代用せり。ただし法例の規定により当事者の住所の法律によるべき場合においては本条を適用すべからざることもとより言うをまたざるが如しといえども万一疑惑を生ぜんことを恐れて特に本条但書を置けり。
第24条 或行為に付き仮住所を選定したるときは其行為に関しては之を住所と看做す(人268,民訴143,刑訴18)
ある法律行為に付き当事者の住所遠隔せるがために不便を感ずる場合なしとせず。この場合においては当事者は往々便利なる土地に仮住所を選定することあり。この仮住所は法律上本住所と同一の効力を有するものとす。例えば一の会社契約において社員が仮住所を選定したるときはその会社関係によりこれに対して訴訟を提起すべき場合においてはその仮住所の裁判所に訴うべきが如く又売買契約に付き売主が仮住所を選定したるときは買主はその仮住所において代価の弁済を為すべきが如きこれなり。
第4節 失踪
本節中には純然たる失踪者(absent ,Verschollener)の規定と他の不在者(non présent,Abwesender)の規定とを包含せり。失踪者はその生死不分明なること数年の後裁判所の宣告によりて失踪者と認められたる者にしてその宣告前においては皆これを不在者と称す。しかしてその不在者中に生死不分明なる者と生存すること明らかなるも従来の住所又は居所に在らざるがため法律の保護を必要とする者の二種あり。本節においては失踪なる標題の下にこの各種の者を併せて規定せり。
第25条 従来の住所又は居所を去りたる者が其財産の管理人を置かざりしときは裁判所は利害関係人又は検事の請求に因り其財産の管理に付き必要なる処分を命ずることを得本人の不在中管理人の権限が消滅したるとき亦同じ
本人が後日に至り管理人を置きたるときは裁判所は其管理人,利害関係人又は検事の請求に因り其命令を取消すことを要す(人269ないし271,288)
本条以下第29条に至るまでは不在者に関する一般の規定なり。しかして本条中には生死の不分明なる者と生存すること明らかなる者とを併せて規定せり。けだし生存せることの分明なると否とに拘わらず従来の住所又は居所を去りたる者がその財産の管理人を置かざりしときはその財産をして滅失又は毀損せざらしめんことを計りもって直接にはまず所有者を保護し次に相続人,債権者その他の利害関係人を保護し間接には国家の経済上の利益を保護するなり。
本条においては外国の多数の例に反し右の場合における裁判所の処分の種類を列挙せず単に「財産の管理に付き必要なる処分を命ず」べきことを規定せり。この処分の中には主して管理人の選任を包含せりといえども場合によりては財産に封印を施し又は損敗し易き物を売却せしむる等の処分をも包含す。
本条は主として本人が管理人を置かずして従来の住所又は居所を去りたる場合に付いて規定せりといえども稀には本人が定め置きたる管理人の死亡その他の原因により財産の管理者を失いたる場合にもまたこれを適用すべきものとす。
以上述べたるが如く本条の必要は不在者の財産に管理人なき場合に存するが故にもし後日に至り本人が管理人を置きたるときは裁判所はその管理人,相続人,債権者等の利害関係人又は公益の保護者たる検事の請求により一旦命じたる処分を取消し殊に裁判所において選任したる管理人の職務を解くべきものとせり。
第26条 不在者が管理人を置きたる場合に於て其不在者の生死分 明ならざるときは裁判所は利害関係人又は検事の請求に因り管理人を改任することを得(人270)
本条は生死の分明ならざる不在者に付いてのみ適用すべき規定にしてかつその不在者が管理人を定め置きたる場合に適用すべきものとす。この場合において管理人が不当の管理を為し又は病気その他の事由によりその義務を履行すること能わざるときはこれを改任するにあらざれば不在者のために不利益なるのみならず他の利害関係人及び間接には国家の経済上の利益をも害すること少なからざるべきをもって特に本条の規定を設けたり。
第27条 前2条の規定に依り裁判所に於て選任したる管理人は其管理すべき財産の目録を調製することを要す但其費用は不在者の財産を以て之を支弁す
不在者の生死分明ならざる場合に於て利害関係人又は検事の請求あるときは裁判所は不在者が置きたる管理人にも前項の手続を命ずることを得
右の外総て裁判所が不在者の財産の保存に必要と認むる処分は之を管理人に命ずることを得(人273)
本条は主として管理人の職務を規定したるものなり。しかして不在者の費用をもって財産の目録を調製すべきものとしたるはもとより当然の規定にして別に説明を要せずと信ず。ただし不在者が管理人を定め置きたる場合においては本条の規定を適用する必要なきが如しといえどももし不在者にして生死分明ならざるときは同じく財産目録の調製を命ずることを得るものとせざれば往々管理人の悪意又は不注意によりて財産の減尽することあるも利害関係人よりこれを説明すること能わざること多かるべし。これ右の場合にも本条の規定を適用することを得るものとしたる所以なり。
財産目録の調整は財産保存のため最も必要なる事項の一なりといえども他に必要なる処分また少しとせず。例えば財産の種類によりこれを銀行その他確実なる場所に供託せしめなお損敗し易き動産の如き速にこれを売却して金銭に換えしむるを必要とす。裁判所はこれらの処分をも管理人に命ずることを得るなり。
第28条 管理人が第103条に定めたる権限を超ゆる行為を必要とするときは裁判所の許可を得て之を為すことを得不在者の生死分明ならざる場合に於て其管理人が不在者の定め置きたる権限を超ゆる行為を必要とするとき亦同じ(人272,275)
本条は管理人の権限を定めたる規定なり。この管理人は元来一事仮に不在者の財産を管理する者にしてその権限たるや極めて制限的のものとす。すなわち学者のいわゆる管理行為(actes dadministration)にして本条第103条に規定せる行為のみを為す権限を有す。ただし他の行為を必要と認むるときは特に裁判所の許可を請いもってこれを為すことを得。例えば管理すること困難なる財産を高価をもって買わんと欲する者有る場合においてはこれを売却すること極めて有益にしてあるいは財産保存のため必要なりということを得べし。この如き場合においては裁判所はこれを許可することを得ずんばあるべからず。
右に述ぶるところは主として裁判所において選任したる管理人に付いていえるものなり。しかれども(第一)不在者がその定め置きたる管理人の権限を指示さざりしときは同じく本条の規定を適用すべきものとす。(第二)不在者が管理人の権限を定めて置きたる場合といえどもその不在者の生死が不分明なるときはその権限外の行為にして必要と認むべきものあらんにはまた裁判所の許可を得てこれを為すことを許さずんばあるべからず。何となればもし不在者の生存すること明かにしてその居所判然せば管理人はその許可を得て必要なる行為を為すことを得べきも今本人の生死不分明なるが故にその許可を得ること能わず。故に裁判所の許可を得てその行為を為すことを得るものとしたるなり。
第29条 裁判所は管理人をして財産の管理及び返還に付き相当の担保を供せしむることを得
裁判所は管理人と不在者との関係其他の事情に依り不在者の財産中より相当の報酬を管理人に与ふることを得(人274)
本条は不在者の財産を保護すると同時に管理人の利益をも計りたる規定なり。けだし管理人は相当の注意をもって財産を管理しかつその権限の消滅したるときはその財産を権利者に返還するの義務を負う者なり。故にもし管理人にしてあるいは財産の管理につき過失ありあるいは返還すべき財産を返還せざるが如きことあらんには利害関係人の損害を蒙るべきはもとより言うをまたず。故に裁判所は事情により例えば不在者の財産許多にして滅失の危険多き場合においては特に管理人をして相当の担保を供せしむる必要あり。これ本条第1項の有る所以なり。
管理人は他人の財産を管理ししかも右に述ぶるが如き重大なる責任を負担すべきが故にこれに相当の報酬を与うるはもとより当然の事なり。ただし管理人が不在者の親子その他近親なるか又は相続人,債権者その他の利害関係人にしてその管理を為すは主として自己の利益のためにするものなるか又は管理人は富裕にして不在者は僅少の財産を有する等の場合においては管理人に報酬を与えざるも可なりとせずんばあるべからず。これ本条第2項において裁判所は事情により相当の報酬を管理人に与うることを得るものとしたる所以なり。
第30条 不在者の生死が7年間分明ならざるときは裁判所は利害関係人の請求に因り失踪の宣告を為すことを得
戦地に臨みたる者,沈没したる船舶中に在りたる者其他死亡の原因たるべき危難に遭遇したる者の生死が戦争の止みたる後,船舶の沈没したる後又は其他の危難の去りたる後3年間分明ならざるとき亦同じ(人276)
本条は失踪(absence ,Verschollenheit)の宣告を為すべき条件を定めたるものなり。従来我邦においては36个月の後不在者をもってほとんど既に死したる者と認めたる場合ありといえども交通頻繁にしてますます遠洋航海の盛んならんとする今日に当たりては右の期間は頗る短きに失するが如し。殊に本法においては失踪の宣告ありたる後は断然不在者をもって死者とみ為すが故に到底従来の期間を保存すること能わず。法典調査会においてはドイツ民法その他の例に倣いこれを10年とせしも衆議院においてこれを7年に短縮せり。以上は普通の場合に付いて規定せるものなりといえども戦地に臨みたる者,沈没したる船舶中に在りたる者その他死亡の原因たるべき危難(震災,火災,海嘯,洪水等)に遭遇したる者に付いては死亡の推定を下すべき理由殊に大なるをもって7年の期間は頗る長きに失するの感あり。故にこの場合においては従来の慣習に従い3年の後に失踪の宣告を為すことを得るものとせり。
第31条 失踪の宣告を受けたる者は前条の期間満了の時に死亡したるものと看做す(人280,281,285,286)
本条は失踪宣告の効力を規定したるものなり。すなわち既に述べたるが如く本法においては失踪者は死亡者に均しきものと看做せり。けだし失踪につき二主義あり一は失踪をもって死亡の推定とし(ドイツにおいては明かに死亡の宣告〔Todeserklärung〕といえり)一は未だ死亡を推定せずといえども失踪者の既に死亡せしことあるを慮り特に利害関係人の権利を保護するに過ぎず旧民法はこの第二の主義を執りたりといえども新民法においては第一の主義を執りたり。けだし旧民法の如くんば失踪者はあるいは生者の如くあるいは死者の如くその権利極めて不確定にして他の利害関係人の権利もまた同じく不確定なり。これ実際に不便にして国家の経済上また甚だ不利なるところなり。故に期間は多少これを延長するもその効力に至りては断然失踪者を死亡者とみ為すをもって便利なりとす。これ本法において右の第一の主義を執りたる所以なり。
失踪の宣告の効力に付きなお一の困難なる問題を生ず。宣告の効力の発生すべき時期すなわちこれなり。この問題に付いては外国の立法例を大別して三と為す。一は宣告の日又は宣告の確定したる日よりその効力を生ずべきものとし一は法定の期間満了の時に遡りてその効力を生ずべきものとし一は不在者の最後の音信ありたる日に遡りてその効力を生ずべきものとするに在り。この三主義は各利害,得失ありて容易にその可否を断定すること能わず。又外国の立法例も極めて区々に渉れり。しかりといえども余