娘から飴を貰う  

 ある男がいた。工場での働きはあまりよくない、酒を飲んだり、トランプをするのが好きだからである。何人かの女の友達もいたのだが、人からあいつは一緒にいたかと思うとすぐ駄目になる奴だと見られていた、だからみたところ年は30位だがまだ独り者である。
 今日は日曜日、飯を食ってから街にでた、歩いていると人民映画館がある、見ると“永遠の愛”という映画だ、俺には束の間の愛だってないっていうのに、何が“永遠”だ、と思いながら、すこしはまぎれるだろうと、チケットを買って映画館に入った。
 空席をみつけて座り、前を見るとカップルがいちゃいちゃしている、振り返って見ると、そこでもカップルがいちゃついている。俺の隣は空いているがここに綺麗な娘が来て座るといいなと思っていると、プ−ンといい匂いがしてきた、振りかえるとバレリ−ナ−のように綺麗な娘が空いている彼の隣の席に座った。

 映画が始まった、この男、映画を見るどころではない、すきをみては時どき二つの目をねじってチラリと娘を見ていたが、だんだんしきりに見るようになり、チラリの時間が少しづつ長くなてきた。またチラリ、すると今度は娘の手が伸びてきた、手に飴をのせて、小さな声で「どうぞ」と言った。
 男はびっくり、心臓がドキンドキンおどりだし、ドキドキしながら飴をうけとった、娘は男に飴を渡すと一心に映画を見つめている。男はそっと紙を開き飴を口に入れた、“ホウ”本当に甘い、いままでこんな甘い飴を食べたことない、実はこの飴は何も特別な飴ではない極く普通のバタ−飴にすぎない、それが今日こんなに特別に甘いと感じたのは会ったこともない綺麗な娘に貰ったからである。

 男はこの飴を食べると嬉しくなり、すこし図々しくなった。それまで30秒ぐらいに一回頭をひねって娘を見ていのだが、こんどは30秒にもならないうちに見るようになった、しかし娘は映画を見ていて彼を見ようともしない。しばらくするとまた娘が飴をよこした、「あんた、ハイ」今度は男は遠慮せず、待っていましたとばかりうけとり、“パッ”と口に入れた。こうして男は映画をみながら飴にありついた。映画が終わり場内が明るくなると、あの綺麗な娘は男に声もかけず立ち上がりさっさと外に出た、男も急いで娘の後について行った。

 映画館を出ると娘は振りむきもせず南の方へ行く、まるでさっき飴をくれたことなぞ完全に忘れたようである。男はこれを見て、えらぶっていやがると癪にさわった、俺はお前を知らないのにお前は俺に飴をくれた、それなのにもう、もったいぶっている、どういうわけだと心の中で恨んだ。けれどもよく考えてみれば無理もない、このお嬢さんは内気で映画館で彼女が積極的だったのは暗かったからだ、今は街の中で人が往来しているし、まして、これまで知らなかったのだから恥ずかしいのだ、ここは俺がリ−ドしなければいけないと思った。それで男は急いで娘に追いつき娘と肩を並べて歩き出した。

 娘は彼を見ると口を曲げて足を早やめ男を振り切った。男はまた急いで追いつくと娘は怒って「あんたさっきからずっとわたしについてきて、何なの、嫌ね」男は心の中で俺が嫌、それならどうして俺に飴をくれたんだ、あんたが俺に飴をくれなければ追いかけなぞするもんかと思った、しかし初めて会ったのに感情を害してはまずいと気を静め笑顔で機嫌をとりながら「ちょっと、お話したいのですが」 「どんな話があるの」と娘は男を避けながら言った。男はそれにかまわず近づいて「嫌がらないで下さい、あなたが私に飴をくれたわけは分かっています」 「あんた何がわかったの」 「あんた……私が好きなのでしょ」 「え、なに、あなたが好き、ヘッ、あれはあんたが迷惑だったからよ」 「俺が迷惑をかけたって」 「あんた煙草臭い口して公共衛生からも映画館では迷惑だと思わないの」

        当代流伝故事選                                        1993・8・13

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