奇妙な結婚の縁
これは10年動乱の時にあった本当の話です。
あるマッチ工場に楊愛霞という女工がいました。大きくも小さくもなく、太っても痩せてもいません、勿論、可愛くて、利口で上品です。
ある日、現場の王組長が愛霞に会いに来ました、組長はニコニコしながら「愛霞、おめでとう、うちの革命委員会の主任があんたを主任の三番目の息子のお嫁さんにしたいから、わしに話してくれと頼まれてねえ、承知すればあんたをすぐ工員から幹部に昇進させると言うんだが、どうだね」愛霞はそれを聞き怒りで顔が赤くなりました。
この主任の三男の不真面目でいつもブラブラしている男なぞ好きになれるものかと思ったからです、でもまた、この主任は意固地な人だから、機嫌を損なえばひどいめにあわされると考え、咄嗟に「主任がわたしを心にかけて下さるのは有難いのですが、わたしはもう決まっているんです」と答えてしまいました。
組長はびっくりして、それから重々しい口調で「決まっているって、どうして組織の意見を聞かなかったのだ」と言いました。
愛霞は「わたし、組織には大事な思想や仕事の方針があるのに、個人の小さな事は迷惑と思いましたから」と言いました、組長は表情を固くして「なんてことを言うのだ、主任は会議で何回も今は何にでも、政治、思想の方針があると話しているじゃあないか、恋愛、結婚だって政治、思想の問題だ、相手の名前はなんと言うのだ、何処で働いている、職工か農民か兵士かそれともインテリ野郎か、そいつの家に革命の対象になる者はいないか、早く言え、すぐ主任に報告しなきゃあなんない」と組長は一席ぶちあげました。
愛霞ははじめは冷や汗をかきましたが落ち着いて、いかにも恰好よく「わたし、今は言いません、1か月したら一緒に主任の執務室に行って審査の指図を待ちます」と言いました、王組長は愛霞の口振りからきっとその男を連れて来るのだろうと思って、穏やかに「いいだろう、審査の後でもう一度話そう」と言いました。
愛霞は宿舎に帰って、だんだん心配になってきました、恋愛もしていなのにどうしょう。1か月たてば組織を騙した罪になってしまう、こうなったら誰かと見合いをしょう、けれど、もしそれを言いふらされて主任に知られたらもっとまずい、彼女は考えれば考えるほど悲しくなり、ベットの上に倒れて泣きました、泣いたり考えたり一晩中あれこれしましたが、でもいい知恵は生まれません。
翌日、愛霞は出勤してもマッチを包装しながら心は沈んでいました。突然、手の中のマッチを見て、ふとあることを思いつきました。愛霞はその日一つ空のマッチ箱を宿舎に持って帰りました、それから紙をだして“わたしは楊愛霞、今年23歳、マッチ工場の労働者。26歳までの未婚の青年、正直で進歩的な人、労働者、農民、幹部、学生を問わず、わたしと結婚したい人はこのメモと写真を持って、マッチ工場に来て下さい”と書き、写真をこのメモで包み、空のマッチ箱にいれました、そして工場からすぐ出荷するマッチの包みの中にいれておきました。
このマッチ箱が工場から出荷された後、愛霞はずっとビクビクしていました。主任の三男坊よりもっと悪い青年にあたったらどうしよう、こう考えると、どうしてこんな奇妙なことをしてしまったのかと後悔しました、けれどもお椀の水を地面に流したらもう取り返しはできません、ただ願ったりかなったりの良い人にあたるかもしれないと自分で自分を慰めるしかありません。
五日たって、工場の門衛から愛霞に面会人がきていると電話がありました、それを聞いて彼女は急に胸がドキドキしてきました。工場の門に行きますと、門衛のお爺さんは門の外の大きな槐の木の下をさし「あの人だ」と言いました。愛霞が見ますと木の下に農民の恰好をした青年が立っていました。急いで行きますと、青年は「私は李向農と申します、紅旗公社ロケット大隊の農民です、今年26歳、家には病気がちな母と二人の妹がいます、あなたのメモと写真を見て来ました、私でもよろしいでしょうか……」と自己紹介をしました。
愛霞は聞きながら、そっと青年の様子をさぐりました、農民らしいが、服は粗末でやぼったく、頭の髪はボウボウ、けれども、がっちりした体格、整った顔つき、簡潔な言葉づかいは誠実さをうかがわせました。愛霞は顔を紅らめながら「メモにはっきり書いたようにあなたがメモと写真を受け取られたのですから、わたしは勿論いいですが……でも工場に来る時は服を着替えてきて下さい」と言いました、李向は困ったように、「ここ数年“批林批孔”で私たちは一日働いて10銭、食事すらやっとで、服を買う金なぞないのです」と言いました、愛霞はこれを聞いて可哀相になり、財布から20元だして李向農に渡し「これで服を買って下さい、明後日正午にまたここで会いましょう」と言いました、李向農はお金を貰うと喜んでうなずき、帰って行きました。
その日の正午に李向農はまたもとの汚い田舎臭い服を着て大きな槐の木の下に来ました。愛霞はすぐ「どうして着替えて来ないの」と聞きますと、李向農は憂鬱な顔をして「私の母が病気で戴いたお金はみんな母の看病に使ってしまいました」と言いました。
愛霞はすぐ「病気の具合は」と聞きますと李向農は「注射をし薬を飲んで、だいぶよくなりました」と答えました。愛霞はすぐ宿舎へ帰って、また30元を取り出しきて「あなたに30元あげます、20元で服を買い、10元はあなたのお母さんの薬代にして下さい、明後日12時、いつものところで会いましょう」李向農はお金を受け取り、愛をこめた目で愛霞を見つめながら、ゆっくりと帰って行きました。
李向農は3回目に愛霞と会った時、またあの汚いやぼったい服で来ました。愛霞は癪にさわって「どうしてまた着替えて来ないの」と言いますと李向農は「隊で化学肥料を買うお金がたりなくて、肥料を買うお金にあててしまいました」と言いました、愛霞が何も言わず下を向いているので、李向農は「作物の肥料は全部私の家で担当しているんです、化学肥料を買う時期が遅れると農作物に影響するのです、急ぎだったものだから」と言い訳けしました、愛霞はそれを聞くと李向農に「わかったわ」と言うとまた宿舎に帰って50元を持って来ると李向農に渡し「今度は50元あげるから、20元で服を買って、30元は何かのために手もとにおいておくといいわ。日曜日12時、いつもの所で会いましょう」と言い終わると工場に戻って行きました。
日曜日の正午に李向農はまたあの汚い田舎臭い服を着て、マッチ工場の門で愛霞と会いました、愛霞は怒って背中を向け「どうしたの、また服を着替えないで」と聞きました、李向農は笑いながら「何軒か洋服屋に行ったけれど僕はどれが良いかわからないんだ、今日は君も休みだから、君に街に行って見て貰いたいと思って」と言いますと、愛霞も機嫌をなおして李向農と一緒に街に行きました。
李向農と楊愛霞はデパ−トに行きました、愛霞は李向農のために服を選んでやって、お金を払って、出ようとすると李向農は愛霞をとめて「待ってくれ、僕たちは四回会って、君は僕に100元くれた、そして服も贈ってくれた、今日は僕が君にプレゼントする」と言いました。
「あなたがわたしにプレゼント」と愛霞が聞くと李向農はデパ−トの中を巡りながら「君が選んだ物なら、僕は何でも買うよ」と言いました、愛霞は「フフ」と笑って密かに一日働いて10銭の生産隊にいて一年でいくらになるの、それなのにわたしの欲しいものを何でも買うなんて大きいこと言ってるわと思い、またこの人は愛情に飢えていて、わたしの心を促えたいから、こんなことを言うんだわと思いました。愛霞は李向農を困らせないようにケ−スの中をさしながら「わたしこの櫛がいい」と言いました。
李向農が見ると値段は55銭なので「随分みくびったな、二階へ行こう」と言って、愛霞を二階の腕時計売り場に連れて行き、輸入品の時計を指さし店員に「店員さん、この時計を下さい」と言いました、店員は李向農をじっと品定めをしてから冷ややかに「値段をよく見て」と言いました、李向農は品よく「無学じゃないから、500元のアラビヤ数字はわかるよ」と言いますと、店員は困らせてやろうと「お金が先、品物はあと」と言いますと李向農は汚い田舎臭い服のポッケトから一束の新しい人民紙幣をだしました、店員は札を受け取り、数えてみますときっちり10元紙幣50枚。よく見ると連番の紙幣です。店員はお金を見て、李向農を見、また李向農を見て、お金を見ました。店員は今は階級闘争が複雑だから警戒しなけらばならないと感じ、奥へ行ってそっと公安局に電話しました、公安局員が15分引きのばしてくれと言うので店員は時計を包むふりをして時間を引きのばしました。
15分過ぎて店員が李向農に時計を渡しますと、その場で李向農は楊愛霞の手の上にのせました。二人が下に降りて行きますと私服の公安局員もすぐ尾行を始めました。
二人はデパ−トを出ると愛霞は「あなたあんなにたくさんのお金どこから持ってきたの」と問い質すと李向農はおどけた調子で「心配ないよ、まともなお金だよ」と言いました、愛霞は続けて聞こうとすると、先に李向農は「ごめん、僕忙しいから直ぐ帰る、来週の日曜日の正午に槐の木の下で会おう」と言いますと愛霞の返事もまたず急いで行ってしまいました。尾行している公安局員は俗に盗品を追えと言うし、すでに輸入の時計は女の手にあるのだから、女をマ−クしょうと思い、しっかりと愛霞を尾行しました。
愛霞は李向農と別れたあと買って貰った外国製腕時計を見ながら、李向農との四回のデ−トを思い出して考えれば考えるほど合点がいきませんでした。特に今度李向農が持っていた500元のこと、さっき突然帰ったことなど疑いが渦巻きました、まさかあのお金盗んできたのでは、愛霞は鳥肌がたって急いで時計をはずしてケ−スにしまいました。
愛霞がマッチ工場に入ると公安局員も入って行きました。そしてこのことをすぐ革命委員会にまとめて通告しました。主任はそれを聞くとすぐ楊愛霞の取調班を作り、早く事件を解決するように公安局に協力しました、そして民兵小分隊にも知らせ、すぐ楊愛霞の行動を監視し始めました。
公安局員と王組長は話しあってまず楊愛霞に事情を聞くことに決めました、そして李向農が紅旗公社ロッケト大隊の者とわかり、公安局員がすぐそこへ調べに行きました。誰に聞いてもロッケト大隊にもともとそんな人はいませんでした。公安局員が工場に戻りましたので、愛霞は愛霞を問い詰めていた王組長から公安局員に引き渡されました。
公安局員に引き渡された愛霞は驚いて泣き出してしまいました。公安局員は厳しい態度で「お前はこの事件の解決に協力しなければいけない。彼と日曜日12時に槐の木の下で会う約束をしたなら、彼と仲間を一網打尽にする方法を考えるのだ、これでお前も仲間かどうか試されるぞ」と言いました。そばにいた工場革命委の主任は冷たく「太陽の光の下を歩かず、一人で丸木橋を渡り、ならず者と交際して泥棒を友達とする、お前どうするつもりだ」と言いました。
日曜日昼12時マッチ工場の門はいつもと同じ様に静かでしたが、実際は密かに見張られていたのです。約束のとうり李向農はやって来ました、今日はまたとても変わっていました、彼は綺麗にした髪を風になびかせ、服装を整えスマ−トで品のいい若者でした。彼は嬉しそうに笑いながら愛霞に「興慶湖公園に行くのはどう」と言いました、愛霞は無理に笑顔を作って「いいわ」と答え、李向農について歩きだしました。
二人が興慶湖公園へ入っていくと、続いて公安局のジ−プも着きました。マッチ工場革命委主任も民兵小分隊を連れて意気揚々とやって来ました。公安局の李所長も自ら配置について周りをすべて囲む配置を展開し、それから公安局員は捜査を開始しました。
それほど行かないうちに湖畔のベンチに腰掛けている三人を見つけました。よくみると一人の白髪の老人の両側の一方に李向農、片側に楊愛霞が座っています。李所長は前に進み取り押さえようとすると、「李所長」と聞き覚えのある声で呼ばれました、顔を上げてみると “アッ”真ん中の白髪の老人は自分の前の上司の省軍区の羅司令官でした。
彼は慌てて笑いながら近づきました。羅司令官は側の李向農に「華、こちらはいつもわしが話している李所長さんだよ」と言い、李所長には「これはわたしの三男の羅華だ」と言い続いて愛霞を指さして「こちらは華の友達の楊愛霞さん、マッチ工場の労働者だが、今日は休みなので公園に遊びに来たのだ」と言いました
。 羅司令官の話を聞いて李所長と公安局員はみな驚きました、うしろにいた工場革命委主任は目を丸くして驚きました。
李所長は容赦のない目で公安局員を睨みながら「司令官殿、お二人はいったいどうしたんですか」と聞きました、司令官はハハハと大笑いしながら「華、お前たちの恋愛の仕方はあまりよくないな、見てごらん、公安局員がみんな驚いているよ。お前のしたことを李所長さんの前で正直に話してごらん」
羅華は顔を赤くして立ちあがり話し始めました「何年か前から人が私に女友達を何人も紹介してくれたのですが、交際しているうちにその人たちは本当の愛を求めるのではなくて、私の父の地位を見ているのだとわかったのです。20日前にマッチを買って開けてみたら中にメモと写真が入っていたのです。メモをみると彼女は金銭や地位を求めているのではないと思いました、これこそ私の捜していた理想の女性だと思ったのです、それで彼女をさぐってみたのです、私はわざと農民のふりをして、名前も李向農と変え……」
愛霞は羅華の言葉の終わらないうちに、工場革命委主任をさして「わたしがそんな事をしたのはみんな彼等に強迫されたからです」と怒って言いました。
そして愛霞は前後の事情を説明しました、工場革命委主任は大勢の人の前で文句を言うわけにもいかず、しょぼしょぼと帰るより仕方ありませんでした。羅司令官は大声で笑い李所長に 「彼等の恋愛は人に奇妙に思わせるが、この二人の若者の真面目な恋愛観を我々は支持し保護してやらねばなあ」と言いました、李所長も恐縮して笑いました。
翌日この奇妙な結婚の縁は電気をつけた羽の様に街の全域に伝わりました。人々はこの楊愛霞を祝福し、工場革命委主任を激しく非難しました。
当代流伝故事選 1993・8・4