こんな恋愛
一人の青年が綺麗な恋人を探していた。ある日、青年はバスに乗り女性の車掌に出会った。細い眉、こぼれるような大きな目、可愛い二つの笑くぼ、とても美しい。青年は奥に入って、優しい声で「車掌さん、キップをください」と言った、車掌はニッコリ笑い、丁寧な態度でキップを売ってくれた。これは車掌の当たり前の仕事だが、青年にしてみるとこの車掌の“微笑み”が細い可愛い手で、心の糸にふれられたようで、もしかすると彼女は自分に気があるのではないかと思い、嬉しくなって、急いで紙をとりだすとくねくね曲がった字で二行書き、丸めて手の中に握り、バスが停まり車掌がドア−を開け、乗り降りのお客に声をかけているすきに、素早くキップ売りの台において、恋々とした気持ちで車掌に熱烈な笑みを見せながらバスを降りた。
車掌はキップを売りながら、このメモを見つけた、チラリと見ると“わたしは趙文蓮と申します、梧桐街柳葉巷22号に住んでいます、お暇があったら遊びに来て下さい”と書いてある、“何よこれ”と車掌は心の中で怒り、メモをクシャクシャに丸めてバスの窓から外にほうりだした。
すると丸められたこのメモは、ちょうど自転車で通りかかった男の顔に狙い違わずに当たった、男はすぐ頭を上げて見るとバスに乗っている綺麗な若い娘が自分に向かって投げたのだとわかり急いで自転車をとめ投げられたメモを拾って読み、自分の運命が素晴らしく花開いたように嬉しくなった。この男もすぐ30歳になるが恋人がいないので、趙文蓮と同じように悩んでいたのだ、でも今日、天から授かる良縁があろうとは思ってもいなかったので、まるで古代の娘から愛の印しの絹のくす玉を投げられたようにニコニコした。
自転車の男は家に帰るとメモをとりだして三回読みなおし、読めば読むほど嬉しく、甘い気持ちになり、メモを丁寧に折り畳んで胸のポッケトにしまい、今にでも趙文蓮と言う娘を訪ねたいと思った、でもちょっと心配だ、娘に気持ちがあっても、娘の両親にその気があるかどうかわからない、やり方が悪ければ素晴らしいことがフイになり、失敗するかもしれない、まず先に手紙をだしてだんだんに愛を高めようと思い、メモに書かれた名前と住所へ手紙をだした、勿論あのバスの車掌の所には届くはずはなく、趙文蓮の所にいった。
趙文蓮は狂ったように喜んだ、あのバスの車掌が愛情豊な娘ですぐ返事をくれるとは思わなかったのである、彼は手紙の初めから終わりまで五回も読んだ、手紙には心のこもったことが書いてあり、終わりに「わたしは秋風路流水巷44号に住んでいます、お出で下されば歓迎します。李新珠」と書いてある。不思議だ、“文蓮”と“新珠”“柳”と “流水”家の番号まで続き番号でみんな対句になっている、これは前世から結ばれた縁なのだと思い、彼もまたすぐ手紙に書かれた住所の一目惚れした車掌の家を訪ねたかつたが、娘の家にも体面というものがある、直接訪ねてはでしゃばりすぎると考え、やはりすぐ筆をふるって情熱のあふれる返事を書いた、こうして趙文蓮と李新珠の二人の手紙のやり取りはますます熱烈になった。
たちまち半月すぎて二人は15通の手紙をやり取りした、はじめは、互いに“あなた”と書いていたがだんだん趙、李と書き、そのあとははっきりと“敬愛の人”“親愛の人”“可愛い人”“愛する人”と書くようになった。 これで二人の“恋愛”はできあがった、趙文蓮はじっくり考えてから、防震付き腕時計を買い、金ピカのバンドをつけて郵送した。心の中でこれを彼女が受け取ってくれれば結婚の半分は成功だから、すぐ会いに行こうと思っていた。
さて、李新珠は腕時計を受け取ると自分の頭を叩き、“何ていうことだ、男の俺が先に女からプレゼントされるなんて”ぐずぐずしてはいられないと、急いで母親が残してくれた金の指輪を郵便局から送った。 双方で相手のプレゼントを受け取れば、二人は正式に会うチャンスはできたと思い、日曜日の午前9時に新公園“春意亭”で会う約束をした、約束の日二人は頭の髪をテカテカに光らせ服はピカピカ、それぞれ相手の贈物を身につけ1時間も早く“春意亭”に着いた、8時50分になると二人はもういてもたってもいられなくなって、同時に立ち上がりあたりを見回した。9時になると、趙文蓮は首をのばし、李新珠は爪先だって、あの魅力的なバスの車掌が自分の前に現れるの待った。だが何処にも現れるわけがない、9時半がすぎて10時になった、趙文蓮は伸ばした首がだるくなり、李新珠は爪先が疲れてきた、でもまだあのバスの車掌の姿はない。
この時になって、やっと二人は話し始めた。趙文蓮はとても遠慮深く「あの、あなたはどなたか待っているのですか」と尋ねた、李新珠も礼儀正しく「ええ、本当を言うと、恋人を待っているのですが、あなたは」と答えた、趙文蓮も「ええ、実はわたしも恋人を待っているのです」 「それはいいですね、御成功を祈りますよ」 「どうもどうもそちらの御成功も祈りますよ」と互いに言い合った。
しばらくしてから李新珠はひかえめながら趙文蓮に「あなた恋愛はまず我慢しなければ、彼女の心はしっかりとらえられません、時には彼女は故意にあなたの真心があるかないかを試すのです。わたしも恋人と9時に会う約束をしているのですが、もう10時になるのに……」と言いながら、手をのばして腕時計を見た。
これを見て趙文蓮は心の中で“エッ、これは俺が買ったのじゃないか”と驚いたが、いきなり言うのまずいと思い遠回しに「あなた、その金バンドの腕時計は買ったのですかそれとも借りたのですか」と聞いた、李新珠は得意そうに「いいえ、実を言うとこの時計は恋人がプレゼントしてくれたのです。アレ、あなたのその指輪は……」と趙文蓮の指輪を指して言った、すると趙文蓮も意気揚々と「僕も恋人からプレゼントされたのです」と言った。
それを聞くと李新珠は「違う、その指輪は僕が恋人に贈った物だ、どうして君がそれを嵌めてるのだ」と言うと「でたらめ言うな」と趙文蓮は怒って「お前のしている腕時計だって俺が恋人に上げたものだ、それをどうしてお前がしているのだ」と言った。
二人はああ言えばこう言うで喧嘩になり、それからそれぞれ相手の書いた手紙を証拠に見せた、二人ともそれを見て「アッ」と叫ばずにはいられなかった。そしてがっかりして椅子に座りこみ目をパチパさせて長い間何も言えなかった。
当代流伝故事選 1993・6・28