“蘭花”の女将さん

 撫順と沈陽の境に商店街がある、旅館、料理屋をはじめ煙草屋、酒屋、お茶屋、床屋、自転車屋、洋品屋などがあってたいそう賑やかである。 この商店街に入り口に赤い大きな丸い幌を二つかけ店を新しく塗り変えた個人経営の食堂がある。大きな字で“蘭花酒家”と書いた看板がでている。ここの女将が張蘭花である。

 もともとこの店を始めたのは蘭花の夫の冒富で、はじめは店の名も冒富飯庄だったのだが、ちょっと前に冒富が酒を飲んで酔っ払い、勝手に持ち場を離れたのがもとで火事をおこし焼けてしまった、保険も掛けていなかったからいっぺんに何万元も損をした。蘭花は怒って亭主をやめさせ、自分で店をはじめ、名前も冒富飯庄を蘭花酒家に変えたのだ。

 さてある日の昼、お客がとても多くて蘭花は大忙しだった。お客が大声で「女将、勘定だ」と言うので蘭花は手早く計算して「みんなで36元9角5分です」と言うと、その客の中のふとった男が「わしたちは店に入った時、お茶も飲んだよ」と言う、蘭花は笑いながら「あれはサ−ビスです、お金はいりません」 「魚のス−プに豆腐がはいっていたが」蘭花はまた笑って「ええ、ス−プは豆腐と調味料をいれたのに美味しくできなかったから勘定にいれてありません。ここを通る時またみなさん、うちの店に来てください」と言った。ふとった男は聞き終わると、ポケットから50元の札をだしてテ−ブルの上におくと笑って「釣銭はいらないよ、あんたのサ−ビスの心づけだ、このつぎここを通る時また寄るよ」蘭花は「みなさんまたお出で下さい、でもお釣りは取ってください」と言って釣銭を出した。

 蘭花はこのお客を送り出し、テ−ブルの皿や箸を片付けながら、つまずいたので頭をさげて見てみるとカバンがあった。これはきっとあのお客が忘れたのだと思って、急いでカバンを拾って外にでてみたがもう遅く、1台のトラックが遠くに走り去ったあとだった。蘭花は全身の力をこめて二回叫んだが後の祭りだ。仕方なくカバンを持って店に戻り、大声で「冒富」と呼んだ。
 厨房で忙しくしていた冒富は手をこすりながら急いで出てきた 「何だ」「あんた、あのトラックのお客がカバンを忘れたと前の交番に電話して」冒富はうるさそうに「知ったこちゃあない、ほっておけ、落とした者が探しに来ないわけないだろう」そう言って蘭花の持っているカバンを取り「どれどれ中は何だ、悪い奴がきても渡さなければいい」と言い“サッ”とカバンを開けかまわず中を見て呆然とした………

 急いでカバンの口を閉めると蘭花を引っ張って、小声で「火事の損を誰かが埋めてくれた」蘭花は訳が分からず「あんた何言ってるのさ」と言うと冒富はまたそっと「聞けよ、お前は大儲けしたぞ」と言うと“サッ”とカバンの口を開けた、とたんに蘭花は驚いてしまった、札束がぎっしり詰まっているのだ。蘭花は目を丸くしてカバンを取り返すと、冒富を見つめて「この人たっら、悪いことを考えないで」と言った。
 冒富は慌てて蘭花の口をおさえて「俺の可愛い奥さん、大きな声を出すなよ、どうだい俺たちが黙っていれば、店の客はこんなに沢山いるんだ誰も見ていやしない、神様が探しに来ってわかりっこないよ」蘭花は夫の話を聞いて顔色を変え「あんた、わたしたちは儲けてお金持ちになりたいわよ、でもそれは自分の頭と努力でよ、もしこんなことをすれば、一生道にはずれたことをするのよ」そう言い終わると、急いで外に出ると夫が店の材料を買いにいく時のモ−タ−バイクに乗って交番に行き、警官に「石炭を積んだトラックがここを通りませんでしたか」と聞いた、警官はちょっと考えてから「さっき石炭を積んだトラックが行ったなあ、中にとても太った男がいたよ」 「どのくらいたってますか」 「さっき行ったばかりだ」蘭花は何も言わずにバイクに跨がってすぐ追いかけた。

 モ−タ−バイクは速いが、トラックも速い、蘭花はしばらく追いかけたが追いつかず、疲れてしまって店に帰えるより仕方なかった。
 帰ると冒富は「女雷鋒さん、新聞社に行って賞賛の記事を書いてもらわないのですか」と嫌味を言った、蘭花はこの時、カバンを無くした人の顔を思い浮かべていたから、冒富のことは心になかった。冒富はカバンを取って「俺がまた見てみよう」と言うので蘭花はびっくりしてカバンを取り返した、冒富はヘヘヘと笑いながら「お前、俺がまたお金を見ていると思っているのだろう、俺は中に手掛かりがないかと見ているのだ」蘭花はこれを聞いて“そうだ”カバンの中に何か他の物が入っていないか見てみようと思って、蘭花はカバンを開け中と外をまんべんなく見回してお金のほかに何かないか見てみた。

 蘭花は椅子に座って考え「おかしいな、どうしてこんなに沢山のお金を無くしながら探しに来ないのだろう」と口の中でつぶやいた、側にいた冒富が「このお金から手掛かりを探してみよう」と言いお金を一束ずつ見ていたが、突然、腿を叩いて「あった」と言った、蘭花は急いで「どこに」と聞くと冒富はあかんべえの顔をして「誰に聞いているのだ」と言った、蘭花は怒って睨むと冒富は手の中のお札をいじくりながら「このお金がもし俺の物だったら……」と言うと蘭花をそっと眺め、まるで眠ったような目で蘭花を見ると、冒富はわざと大きな声で「このお金が俺の物だったら、俺は妾を持つ」 「ヘイ、何言ってるのよ」と蘭花は冒富の耳をねじあげ「あんた、また言ってごらん」

 冒富は痛くて口を曲げ耳を手でおおった、お札束が“サッ”と下に散らばり蘭花が頭を下げてみると一枚の紙がある、冒富が急いで拾うと一枚の領収書だった、上に坤山商店と書いてある、ハッとしたがすぐ眉をしかめた“坤山商店”て何処にあるのだ、また蘭花は困ってしまった、冒富は蘭花の手から領収書を取って見ていたが、しばらくしてにこにこした、蘭花は怒って「人が困っているのにあんた何がうれしいの」 「女は髮は長いが見識は短い、坤山を見て泰山を見ない」蘭花はこれを聞いてすぐに「あんた何がわかったの、早く言いなさいよ」冒富は「フウしてくれれば、教えるよ」 「フウってなによ」 「ほっぺでもいいよ」 「何だって」蘭花はフウが何だか分からなかったが、やるならやらせてやろうと思っていると冒富は蘭花の前に来ると “パッ”と蘭花にキッスした。

 「あんたたっら、あんたこれがフウなの」冒富は笑って「小説の中ではこれをフウって言ってるよ」蘭花は癪にさわりながらも笑って「いいでしょう、フウは終わり、早く言って」
 冒富は領収書の下の方に押された大きくはないがはっきりした公印を指さした、蘭花はそこに撫順泰山石炭と印されているのを見たのだった。冒富が「坤山を見て泰山を見ない」と言ったのも無理はない。
 午後、蘭花は撫順市で仕事をしている兄に撫順泰山石炭の場所を調べてくれと電話した、三時にならないうちに返事の電話があった、撫順泰山石炭は撫順の西部にあり、細かい場所を教えてくれた。

 蘭花は晩の食事の支度もしないで、夫と一緒に泰山石炭に急いだ。泰山石炭に着いて聞いてみると、確かにトラックが今日の昼沈陽に荷を送ったがまだ帰って来ないと言う。蘭花夫婦は待つことにした。すると中年の女が出てきて「お前さんたち用事があるなら明日また来たほうがいいよ、厰長は沈陽に荷を送ってから機械を買いに行ったから待たないほうがいいわよ」蘭花は「わたしたちは待っています、このことはどうしても……」言い終わらないうちに中年の女性は不機嫌そうに「お前さんたち本当に待ちたいなら、外で待っててよ、わたしたちはもう仕事が終わって帰るんだから」蘭花はそれを聞いて心の中で怒ったが仕方がないと外で待つことにした。菩薩のような心の人はいないのだ。

 しかし冒富はいらいらして蘭花の手を引っ張り「帰ろう、厰長に蘭花酒家に来てもらうように伝えておけばいい、これで帰ろう」中年の女はこれを聞いて“ハハア、勘定を取りにきたのだ”と思い不機嫌に「厰長は忙しいのよ、やはりお前さんたちが来なさいよ」 「お前さんたちは厰長の所に行かなければ駄目よ」この時うしろで「行かなくていい、私はここにいる」と人の声がした、蘭花はその声で振り向くと何時の間に来たのかあのふとった男だった、男は「あれ、蘭花の女将さんじゃあないか」 「あなたどうして一人なのですか、もう二人の方は」ふとった厰長はゆっくりと「あの二人は仕事があってね」 「あなたたち、わたしの店からでて何事もありませんでしたか」厰長は苦笑いして「アア、何もなかったがね、坤山商店で石炭を下ろすとカバンが無いのに気付いてすぐ警察に届けたが、厰が忙しくて先に帰ったがまたすぐ行かなければならない」蘭花は今までの事を何度も聞いて、確かにカバンが厰長の物だとわかってからカバンをだし「見て下さい、これですか」ふとった厰長はカバンを受け取ると口を開けお金を見て、感動して何と言っていいかわからず、蘭花の手を握り「あなたは、あの…あの…あの雷鋒だ」  

これはまさに『個人の家に咲いた奇特な花、張蘭花に人々は学び、雷鋒精神を万家に伝え、文化と四現代化を達成する』である。                   

        撫順職工故事選                                   1993・6・13

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