犬の父ちゃん               

 徐文長という人は頓智者で、五経八伝がすべて読めました。
 ある日、大きな屋敷の門の前に犬が寝ていて、そばに娘が立っていました。そこから遠くない所に何人かの書生がたむろしていましたが書生たちは徐文長が向こうから来ると、近寄って「あなたは何でもできると言いますが、あそこにいる娘をまず笑わせ、そのあとで怒らせることができますか、できればわたしたちはあなたに師の礼を尽くします」と言いました。

 徐文長は頓智者で人が好いから、すぐに「ではやってみましょう」と言いました。  徐文長は前に進むと犬に丁寧に頭をさげ「犬の父ちゃん、ずっとお元気でしたか」と言いました、娘はそれを聞くと、心の中でこの人はただのひょうきん者や馬鹿じゃない、狂ったのか、何かにとりつかれたのかしらと「プッ」と笑いました。
 すると徐文長は娘にすり寄って丁寧にお辞儀をしてから「母ちゃん、なに笑ってるの」と言いました、娘はそれを聞くと、怒って口汚く罵り、門の中に入ってしまいました。

 あまり遠くない所にいた書生たちは、この様子を始めから終わりまで見ていて、すぐに徐文長に丁寧にお辞儀をし、師の礼をとりました。   

       撫順市巻下                                           1993・5・22   

 徐文長(1521−1593)浙江省の人、詩文書画戯曲に通じ、いくつかの頓智話がのこされている。(河出文庫“中国のユ−モア”寺尾善雄著による)さしずめ“彦市ばなし”“吉四六ばなし”というところであろうか。因みに吉四六は大分県の酒造業広田家の初代吉衞門(1655−1704)とされている。(日本昔話事典)    1993年9月                     

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