兎女房

  

 ずっと昔、長白山の麓の村に、兄は李勇、弟は李勤という兄弟が住んでいました。李勇が十五才の時に父と母が続いて世を去りました。
 それから李勇は父親が残してくれた弓で狩をし弟を養って暮らしました。  年ごとに冬が去り春が来て、やがて李勇は二十三才、李勤は十八才になり、兄も弟も妻を娶る年頃になりました。ある人が李勇に結婚をすすめましたが、李勇は頭を振って「父母が早く世を去り蓄えもありませんでしたが、何年か節約してお金を溜めました。でもまだ一つの所帯を持てるだけしかありません。わたしは兄ですから、弟を先に結婚させてやりたいのです」と言いました。こうして李勇は弟を先に結婚させてやりました。

 李勤の女房は前から人々に怠け者で欲張りと言われていました。結婚してからもよく食べ、よく飲むばかりであまり働きません。李勤はうまれつき人の言うなりで、女房の尻に敷かれていました、はっきり言って李勤の恐妻ぶりは普通ではありません。女房の王桂花ににらまれると、びっくりしてブルブルふるえ、なんでも女房の言いなりでした。
 李勇は実直で器用で、努力家でもあり何でも見ればすぐできました。生まれつき我慢強く手をこまねくような嫌な話も腹の中に納め、本当に見かねることは遠回しに注意しました。李勤の女房はこうした善意がわからず、李勇をけむたがり、李勤に「兄さんを追い出してしまいなさいよ」と言いました。李勤は「それはできないよ、兄貴は俺を小さい時から面倒みてくれたし、所帯も先に持たせてくれた。熱い飯を食べさせくれ、着物を縫ったり、綻びを繕ってくれたりした。その兄貴を追い払えば俺は人から悪い奴だと罵られてしまう」と言いました。
 すると女房は李勤のほっぺたをひっぱり「お前さんは何もわかちゃあいないね、わからないの、兄さんはわたしたちにちゃんと食べさせたり飲ませたりしなで、働かせるばかりで、わたしたちを家畜扱いにしているんだよ。そうして自分の嫁さんにやる金を溜めているんだよ。兄さんは所帯を持ったら、わたしたち夫婦を鷹に追われる小鳥のように追い出すつもりなんだよ。先手をとった方が勝ちだから兄さんを出しちまえばいいんだよ」と言いました。李勤はもともと気が小さく馬鹿な男なので女房の言葉に同意しました。

 その晩、食事がすんだあと李勤は分家の話を持ち出しました。李勇は手を振って「うん、お前の気持ちはわかったよ。俺も早く出ようと思っていたのだが、お前が一家を支え切れないかもしれないと思って言い出せなかったのだ。お前から分家の話を言い出したから言うが、僅かな財産でわけるほどもないから、俺は何もいらないよ」と言いました。王桂花はそばにいて、にんまりしました。
 翌日、李勇は身の回りの物だけを持って家を出て弟の家からあまり遠くない南山の麓に小さな家を作って住むことにしました。
 ある日、李勇は弓矢を持って林に狩りに行きました。林の辺りに来ますと、とても可愛らしい白兎が突然鷹に襲われました。兎は命がけに逃げましたが、鷹は空から荒々しく追いかけます。たちまち鷹は舞い降りて兎を掴もうとしました。李勇は急いで弓をとって鷹をねらい矢を放しました、鷹は矢に当たって死に白兎は李勇の回りを回って林の中に駆け込んで行きました。

 木の葉が黄ばんで散り、雁が北から南に飛び秋がきました。李勇は自分で蒔いた白菜をとって家の角に積んで置きました。何日かたって李勇は白菜が少なくなっているのに気がつき、数日白菜を食べていないのに十個以上少ないので誰が盗んでいったのだろう、ここは人里離れているのに誰がここに来たのだろうと不思議に思っていました。
 ある明るい月夜に、李勇は床に入り、うとうとしながら何かの音を聞きました。目を開けて外を見ますと、白兎が積んである白菜の前に跳びはねて行き、白菜をくわえて逃げて行きました。李勇はやっと白兎が白菜を盗んだのだとわかり、急いで起きて門の外にでると、前を走る白兎を後から追いかけました。あと数歩というところで追いつかず、李勇は息がきれ、白菜を白兎が食べたなら食べたでいいと思い、追いかけるのをやめました。すると白兎もわざとしゃがんで李勇をみつめ、李勇に何故追いかけて来ないのと尋ねているようでした。李勇はこの兎をとても可愛いと思い、またしばらく追いかけて行くと前に林があり中に木の小屋がある所につきました。小屋の中には灯りがついていて、白兎はその門で見えなくなりました。

 李勇は面白くなり、小屋に入れば逃げられないと思い急いで追いかけ、門の前に行くと門を軽く叩いて「家に誰かいますか」と叫びました。「あなたは李勇さんですか」 「そうです」 「門は閉まっていません、自分で門を推して入って来て下さい」李勇が入って行きますと一人の美しい娘がたっていました。李勇はびっくりして、“俺は夜中に人の家に入って、その娘の部屋にきてしまった、これはいけない”と思い、戻ろうとしますと娘は身を翻してたち塞がり、笑いながら「わたしはやっとあなたを連れて来ました、ここに座ってお茶を飲みませんか、それとも帰りますか」と言いました「でもわたしはあなたを知りません」 「アラ、馬鹿な人ね、本当の話をしてあげます、わたしはあなたの家の白菜を食べた兎です」 「あなたは人間なのにどうして兎なのですか」 「わたしは白兎の娘です、何日か前、わたしが鷹に襲われた時、あなたに救われて感謝しています。わたしはわざと白菜を盗んで食べたのにあなたは怒らなかったので、わたしはあなたがいい人でやさしい人だとわかりました。それで今晩は無理にあなたに来て貰い、あなたと夫婦になりたいと思ったのです、あなたはどうですか」と娘姿の白兎は羞かしそうに言いました。

 李勇はそれを聞くと悲しそうに「あなたは仙女、わたしは貧乏な凡夫、結婚すればわたしは罰があたります」 「李勇さん、わたしは貧乏も罰も恐れません、あなたがわたしが嫌でなければ私達は今晩結婚しましょう」そう言い終わって手を上げて指さすと木の小屋は石の柱の明るい綺麗な楼閣に変わりました。何処から来たのか大勢の美しい娘たちが歌ったり、踊ったりして李勇と白兎の娘の結婚を祝いました。

 李勇がここに住んでから、毎日白兎の娘は李勇に寄り添って暮らし、月日は過ぎていきました。何日かして白兎の妻は李勇がふさぎこんでいるので「李勇さん、どうしたの、眉をひそめて、何か心配ごとがあるの」と聞きました、李勇は溜め息をして「わたしはここで幸ですが弟たちはどうしているかと思い、家に帰って見たいのです」と言いました、「あなたは少しもあの人たちを恨まないなんて、本当にいい人ね。ここに金と銀があるから少し持って行ってやったら」と言って白兎の妻は一つの部屋に李勇を案内しました。李勇は中には金銀が山のようにあり、ほかにもまだ見たこともない宝物が沢山あるのを見ました。李勇は考えていましたが、小さな瓶を見つけると、まるまるとした大豆をその中にいれました。白兎は「あなたは金銀財宝をとらないで、大豆をとってどうするの」と聞きました、李勇は「弟は百姓だからこんないい大豆の種をありがたがると思います、これを持って行ってやればこれよりいいみやげ物はありません」と言って出かけようとしました。

 すると白兎の妻は笑いながら「馬鹿な人ね、ここは何百里も離れているのよ、あなたは歩いて行けると思っているの」と言い、懐から花の刺繍をした布をだして地面に敷き「あなたはこの上にたって目を閉じて…、わたしが送って上げます」と言いました。李勇が目を閉じると白兎の喊声がして耳の辺りにサ−サ−と風をきる音がしました、風の音が止んで目を開けると、もとの自分の小さな家に戻っていました、ところが庭には蓬がおい茂り、家の中は埃だらけでした。李勇はわたしが行ってから、何日もたっていないのにどうしてこんなに変わったのだろうと、不思議に思いました。李勇はよく考えて白兎のあの仙境の一日はこの世の一年だったのだと気がつきました。

 それから弟の家に行きました。李勤は驚いて「兄さん何年も何しに出かけていたんだい、出かける時に声をかけてくれればよかったのに、羽振りのよさそうな恰好できっと儲けたんだろう」と聞きました。弟の女房も声を聞いて出て来ると、李勇が血色のいい顔をして、絹の上等な着物を着ているの見ると、女房は急いで考えをめぐらし、丁寧に李勇を迎えていくらか金をとってやろうと思い、すぐ李勤を叱り「木偶の坊、自分の兄さんが遠くから帰って来たんじゃないか、早く中で休んで貰いなさいよ。わたしは鶏をつぶしお酒を用意するからね」と言いました。李勇は弟と弟の女房がとても親切にしてくれるのですっかり嬉しくなって、自分が出遇った不思議な出来事をみんな二人に話して聞かせました。初め夫婦は信じませんでしたが、李勇が取り出した大豆の種を見ると口を大きく開けて、暫く声もだしませんでした。その豆は普通の大豆とは違うばかりか、金色にピカピカ輝く金の豆だったのです。

 夜になって李勤夫婦は床に入っても転々として眠れませんでした。李勤は“兄貴は福運をつかんで仙境の女を娶り、そのうえあんなに大儲けしたのに、どうしてこんないい事が俺には来ないのだろう”と考えました。李勤の女房は“兄さんの家は金銀の山だ、これを貰わない手はない”と思い李勤に「明日の晩、兄さんに酒を飲ませて酔わせ、あの花模様の布を盗んで、兄さんの家に行き、白兎の姉さんから金銀財宝を取ってやろう」と言いました。李勤も「それはいい」と言いました。

 翌日の晩、李勤夫婦は李勇を酔わせたあと、盗んだ花模様の布の上に二人でたつと、喊声が起こり、耳もとで風の音がしました、風の音が止んで目をあけると、目の前に木の小屋がありました。二人は木の小屋に入り、跪いて「優しいお姉さん、可哀相なわたしたち夫婦に金銀を恵んで下さい」と哀れそうに頼みました。白兎は首を振りため息をついて夫婦をあの宝の蔵に案内しました。夫婦は大喜びで準備してきた袋を出し詰め込みました、詰め込んだ二つの袋は一生懸命に力をだしても動きません。担いで行こうとしても担げません、どうしたらいいかと、女房はまた悪いことを考え、李勤の耳もとで「姉さんを殺せば、財宝は全部わたし達のものになるわ」と言いました、李勤もうなずいて木の棒を拾い、白兎に殴りかかりました、白兎はサッと身を翻すと手をあげて、大きな山を招きこの悪者を山の下に押し潰しました。
 白兎の妻は李勇を迎えに行き、林の中に戻ってそれから百年も幸せに暮らしました。

       沈陽市巻中                                         1993・5・14

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