蛙女房

 昔、ある辺鄙な村に王小という若者が住んでいました。王小は今年十八才になり、結婚しなければなりません。村には若者が十八才になると選婚しなければならない決まりがあったのです。村の東には選婚場があって、選婚をする若者は吉日を選んで選婚場に行き弓をひいて矢を放ち、矢の落ちた所が誰の家であってもその家の娘と結婚するのです。たとえ貧乏、金持ち、醜い人、美しい人であっても結婚して永遠に心を変えてはならないのです。

 吉日に王小は赤い絹を巻き付けた矢を背負い媒酌人の老婆と一緒に選婚場に着きました。村の老若男女がみんな集まっています、王小と媒酌人の老婆は跪いてお線香をあげ、媒酌人の老婆が口の中でおめでたい言葉を唱えました「天の霊、地の霊、縁結びの神、よくお聞きください。王小が今日選婚します、可愛い娘が選べますようお加護ください」言い終わると媒酌人の老婆は立ち上がって、王小に真東に向かって矢を射させました。

 王小は矢の飛んだ方向に胸をドキドキさせて歩いて行きました。心の中で「いま一生で大事な結婚に向かっているのだ、わたしの妻はどんな妻なんだろう」と思っていたからです。あちこち探しているうちに大きな河辺の蓮の花に矢が当たっているのを見つけました、蓮の花の上には青蛙が座っていました。青蛙は王小を見ても水に跳び込まずに、かえって王小にむかって「グワグワグワ」と三回鳴きました。王小は心の中でこれがわたしの妻だとはっきりわかりました。王小は青蛙を優しく懐に抱いて「青蛙の娘さん、安心してください、王小は優しい人間です、白髪になるまで仲のいい夫婦で楽しい月日を過ごしましょう」と言いました。

 青蛙は満足そうにうなずいて家に帰り、式を挙げました。  王小と青蛙は結婚してから青蛙は家の仕事、王小は朝暗いうちに起きて畑仕事に励みました。十五畝の畑に蒔いた粟は何処の家よりもよくできました。秋になると王小は粟を鎌で刈って取り入れをしました。青蛙の妻は夫の王小が畑に行くと、青蛙の皮を脱ぎ体を揺らすと美しい女の姿になりました。そして鎌を持って王小の粟の取り入れを助けに行きました。王小が西に行くと青蛙の妻は東に行き、夜は王小が仕事を終わる前に先に帰り、またもとの青蛙に変わりました。それで王小は粟の取り入れを手伝ってくれる人が誰だかわからず不思議に思っていました。

 翌日、王小は何時ものように粟の取り入れに行き、ひと休みした時、喉が乾いたので家に水を飲みに帰ると、床の上に一枚の青蛙の皮がおいてありました、王小は急いで外に出て見てみると一人の綺麗な娘が粟を刈り取っていました。王小は驚いたり喜んだりして、また家に帰り青蛙の皮を燃やしてしまいました。  王小は女の姿になった青蛙の妻を抱き寄せますと、青蛙の妻は逃げようとしましたが、間に合いませんでした。王小は「お前、帰らないで、青蛙の皮は燃やしてしまったよ」と言いました。青蛙の妻は顔を赤くして王小の胸に抱かれ、「王小、あなたは天下で一番いちばんいい人です、わたしは永遠にあなたから離れません」と言いました。

 こうして王小夫婦はよく働き、僅かの間に炭火の燃えるようによくなって、王小夫婦を褒めない村人はありませんでした。
 村の北に風火山という山がありました。山の上に洞穴があって風火洞と呼ばれていました。洞には一千年も風火妖という妖怪が住んでいました。身の丈二丈、青い顔赤い毛、口はとがり牙が生えていました。三つの頭に六本の手、風を呼び火を吐きました。いつも周りの村人に暴力をふるい、牛や羊を襲い、誰も抵抗できませんでした。

 風火妖は王小が美しい青蛙の娘を妻にしたと聞いて、ある晩、風を起こし火を吐いて青蛙の娘を洞にさらって結婚しょうとしました。王小の妻は死んでも言うことを聞きませんでしたので、風火妖は毎日王小の妻を折檻しました。王小は妻が妖怪に連れさられ心を痛めて食事もできなくなり妻を救いだし、妖怪をやつけねばならぬと思いました。
 村に九十何才かの一人の老人が住んでいました。年もとり、知恵もあるので、人々は困難な事があるとみんな相談に行きました。王小もこの老人を訪ね、風火妖を倒す方法があるかないかを聞きに行きました。すると老人は「ある先輩から聞いたことだが、遠い遠い東南の方向に高い山があり、山の頂上に蜘蛛洞という洞がある、洞の中に千年修行した蜘蛛の精がいて、ずっと悪者を退治して弱い者を助けてきたので人々は蜘蛛大仙と呼んでいるそうだ。この蜘蛛大仙が持っている宝刀があれば風火妖を倒すことができる、だが今まで誰も見たことがないそうだ」と言いました。王小は「妻のためなら刀の山、火の海でもかまいません」と言いました、老人は「鉄の斧から針を磨きだす決心があればできる」と言いました。

 王小は老人に礼を言い、お金と守り刀を持って出発しました。妻のためならどんな苦労もいといわず、昼も夜も歩き続け、何日も歩いてとうとう蜘蛛洞に着きました。だが洞の中に入ったとたんに蜘蛛の網にひっかかり、蜘蛛大仙に「お前は何者だ」と問いただされました、「わたしは王小と申します」 「何しに来たのだ」 「あなたの宝刀を借りに来ました」 「何に使うのだ」 「わたしの妻が風火妖にさらわれ、わたしは風火妖を倒し妻を救い、そして人々の苦しみを除きたいのです」と王小が言うと、蜘蛛大仙は王小を蜘蛛の網からはずし、喜んで宝刀を貸してくれました。王小は丁寧に頭を下げ礼を言って風火山に急ぎました。
 ちょうどこの頃、王小の妻は結婚に応じないので、風火妖にひどい仕置きを受け、皮が破れ肉がちぎれて今にも死にそうでした。
 最後に王小の妻は洞の前の大きな木に縛られ、風火妖の手下に切り殺されようとした時、王小が来ました、風火妖の手下が猛然と刀で切りかかってきましたが、王小も刀を抜いて戦い、たちまち何十人も手下を倒し妻を救いだしました。
 命からがら逃げた二人の手下が「大王さま、やられました」と高く叫ぶと風火妖は「何事だ、どうしたのだ」と聞きました、「外から来た奴が、おれたちの仲間を殺して、青蛙の娘を助けて逃げていきました」風火妖はそれを聞くや怒ってワア、ワアと叫び、雷のように跳びはねると、手下の妖怪に武器を持ってこさせ、洞の外に出て王小を見ると「生意気な小僧め、何にも知らぬ大胆な奴だ、来い、殺してやる」と言い、刀を振りおとしました、王小は少しも慌てず、「今日こそ、貴様を倒してやる、この人でなしめ、覚悟しろ、お前を殺さなければ、われわれの村の子子孫孫まで太平な日が過ごせないのだ」と言い、二人は五十何回も打ち合いましたが勝負がつきません。

 風火妖は怒って風を起こし火を吐く術を使いました、たちまち大風が吹き、火が天を焦がしました。風火妖はこれで王小の命はないと思ったのでした。けれども王小が宝刀を振ると風は止み火は消えて風火妖の術は霊験を失ってしまいました、風火妖は身を翻して逃げ出しましたが、王小はおいかけて行き、宝刀をつづけて三回振り下ろすと、風火妖は三つの頭を全部切られて倒れてしまいました。王小と妻は喜んで家に帰りました。   

 沈陽市巻中                                                  1993・5・8

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