五月五日になぜ蓬を挿すか

 ある日、一人の白髪ぼうぼうの老人が杖をついて、ゆっくりと村に向かって歩いていました。しばらく行くと、一人の女の人が五、六才の子を胸に抱き、歩き始めたばかりの小さな子の手をひいて来ました。
 老人は不思議に思って、「お前さん、どうして大きな子を抱いて、小さな子を歩かせているのかね」と聞きました。すると女の人は大きな子は先妻の子で、小さいのはわたしの生んだ子です」と答えました。

 老人は眉間に皺をよせて、心の中で密かに“あの村は悪い人ばかりだと聞いて来たが、この人は心の優しい女の人だ”と思いました。老人は村の方を指さして「お前さんあの村の人かね」と聞きました、女の人が「はい」と言うと、老人は「よくお聞き、あしたの朝、まだ陽が出ないうちにお前さんの家の前と後の軒に蒿(hao −蓬−)を挿しておきなさい」と言っていなくなりました。

 この女の人は家に帰ってから、このことを不思議に思いました。翌日、女の人は朝くらいうちに起きて、老人に言われたように、庭から蒿(蓬)をとってきて家の前と後の軒に蒿(蓬)を挿しました。そして家の中に入りますと、外で大きな風の吹く音が聞こえてきたかと思うと真っ赤な、真っ赤な炎があがりました、外に出てみると村中の家がみんな火に包まれていました。
 不思議なことに、ただこの女の人の家だけは無事でした、女の人は顔をあげて軒に挿した蒿(蓬)を見て、はじめて、あの老人が家の軒に蒿(蓬)を挿させた意味がわかりました、蒿(蓬)はその家にだけ火を回さないしるし、暗号(anhao )だったのです。これから人々は蒿(蓬)を暗号蒿(anhaohao)と呼ぶようになり、だんだん人々は蒿(蓬)を艾蒿(aihao )と呼ぶようになりました。

 火事が起きたこの日が陰暦の五月五日だったので、それから毎年陰暦五月五日に人々はいつも太陽が出る前に家の軒に艾蒿(蓬)を挿すようになりました。これは現在も東北の農村に伝えられている一つの風俗です。

        撫順市巻(上)                                         1993・4・27

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