思わぬ出来事
昔、耿家屯という村の東に耿老と耿二という兄弟が住んでいた。兄の耿老は大工で二十二才、年の暮れに外の村の娘と所帯を持った。娘は弟の耿二と同じ十九才。
耿二は百姓で年は若いがしっかり者。家には両親が残してくれた畑と二間の土の家があったが、暮らしていくには、“帯に短し、襷に長し”であった。
年も明け氷も解けて、耿老は弟に「天気も暖かくなって、種を蒔く時がきたが俺たちの畑は広くないから一人でいい、お前は家で畑仕事してくれ、それに俺の女房が手伝えば、まあまあだろう。それで俺はまた働きに出よう、すこしでも仕事をして金をため、家を三間に建て替えて、お前が結婚すれば俺も安心できる」と言った。
耿二は“兄貴は結婚したてなのに出稼ぎに行き、嫂さんが家に残って義弟の俺と一緒に畑仕事をするのはやりにくいし、変な噂をされても困る、やはり兄貴は家にいて俺が出稼ぎに行った方がいい”という考えであった。
だが嫂は耿二の考えに同意しないで「あたしは嫁にきたばかりだから、義弟のあんたが出稼ぎに行くことに、とやかくは言えないが、事情を知らない他人はきっとあの嫂は酷い、義弟を邪魔にしたと言うに違いない」と言った。
耿老は“弟はこんな大きな体をしてまだ大人になっていないから、外で働くのは難しい、もし何かがあれば、死んだ父や母に申し訳ない”と考え、「お前たち、俺の言うことを聞いてくれ、昔から“家に千人、主は一人”と言うからやはり俺が働きに行く」と言った。
陰暦二月十六日の朝早く、耿老は大工道具と行李を持って出かけた。村の真ん中の辻で何時も冗談を言う遠縁の叔父に出会い、おしゃべりをした、耿老が出稼ぎに行くと聞くと早速叔父は「お前、村にだって仕事があるのに、どうして出稼ぎにいくのだ」と言った。「叔父さん、村に仕事はあっても、小さい仕事は普通の農家はみんなできるし、それにこの村の年取ったわたしの師匠の飯の種はとりたくないのです、わたしはまだ若いから仕事も沢山とれ、出稼ぎにも馴れているし長い間働けます」 「どうして、弟とお前の女房を家に残すんだ」 「叔父さん、心配ありません、畑仕事はわたしは弟にかないませんし、わたしの女房もいるから、忙しくても大丈夫です」 「ウン、忙しくても、忙しくなくても、若い男と人妻が何時も一緒で、話したり笑ったりする、家に誰もいなければ、仲好くなって……」
話す者は何気なくても聞く者は気にする。耿老は心配になってきて、“まさか弟と俺の女房が馴れ合うなんてできっこない、俺たちの家は二間で、弟の部屋は外側だし俺は奥の部屋だから気にすることもない、二人がそんなになるわけない”と考えたが、またもとに戻り、“風がなければ波はたたないと言うし、まさか叔父は冗談を言って俺をからかっているのではあるまい、何と言っても親戚だしそんなことはない、これは何か起こる前に俺に用心させているのだ、それに生臭い物を食べない猫はいないだろう、二人は一つは薪で一つは烈しい火だ、普通だと思ってはいけない、俺が出かけるとすぐ二人は……”
耿老は歩きながら、ずうっと考え、だんだんまた心配になった。
耿老は大工道具と行李を背負って、ある大工の棟梁の家に行くとすぐ気に入られ、工事場の仕事を終えてからまた家具を作った。晩めしがおわり暗くなって、耿老は棟梁に「わたしは来る時に慌てて着物を家に忘れてきたから、取ってきたい」と言った、棟梁はそれを聞くと「もう暗くなったから、明日にしたらどうだ、手間賃の勘定もあるし」と言ったが耿老はどうしても行くと言うので、棟梁もそれではと言うことになり、「気をつけて行けよ」と言った、耿老も「大丈夫です、わたしはこの斧を持っていますから何も怖くありません」と答えた。
十六夜の月は丸く、昼間のように道を照らしていた。耿老は心に秘めたことがあるので急いで歩き、おおよそ真夜中の三更に家に着いた。耿老は抜き足差し足で部屋の後にまわると、北の窓の紙が何時破られたのか二つ開いていた。耿老は破れた窓から部屋の中を見て、もう少しで怒り狂うところだった。南側の床の上で二人が抱き合っているのだ、耿老は声をあげようと、北の窓に手をかけると、おかしい、何の気配もない、構わず窓を押し開けて中に飛び下りると、床の上の二人がどうするかも待たず、二つの頭を切り捨てた。耿老は一気にカ−テンを引きちぎって二つの頭を包み、それから床の上の二つの頭のないからみあった死体に布団をかぶせて外に出た。
耿老は二つの頭を抱え、心の中ですぐ“あいつの両親に自分の娘がしたことを見せてやれ”と思った。耿老は義父の家に入っていくと、義父は「こんな遅くどうしたのだ、娘に聞くと、あんたは出稼ぎに行って、一日も休まないとか」と言った、耿老は何も言わない、義父は「桂蘭や、早く起きておいで、お前の婿さんが来たよ、急いで何か食べるものを作って上げろ」と大きな声で言った。耿老はそれを聞いて思わずびっくり……
すぐ耿老の女房桂蘭が西の部屋から出て来た、みると耿老は顔から汗を流しているので、心配そうに「あら、あたしの母の病気は好くなったわ、なんでこんな真夜中に来てくれたの、頭からこんなに汗を流して」と言いながら耿老の汗を拭いてやった。耿老はボ−として手を放すとあの包みは“ゴトン”と音を立てて落ちた。しばらくしてやっと耿老は「だめだ、俺は人を殺してしまった」と言った。義父と桂蘭は驚いて包みを開けると、桂蘭は二人を知っていた、男は前の屠殺人で女は西隣の女だった。
義父は耿老にすぐ役所に自首するように勧めた。夜が明けて、役人が耿家に来た、ところが耿家の南の床の二つの首のない死体の外に、部屋の仕切りにまだ気を失って倒れている娘がいた。いったい何事が起ったのか娘が気がついて目を開けてから、みんなわかった。
それは耿老が大工道具を背負って出かけたあと、桂蘭の実家から母が病気になったので家に戻って看病してくれという手紙が来た、桂蘭は耿二に「耿老が家に居ないから、わたしは帰れない、耿二さん、耿老に伝えに行ってほしい」と言うと、耿二は「嫂さん行きなさい、兄貴はまだ帰れないと言っていたから、帰ってきてから俺が言っておく」と言った。
こういうわけで桂蘭は実家に帰った。夕方灯のともる頃、桂蘭の従姉妹も伯母の病気を知って桂蘭と一緒に行こうと耿家に来てみると、桂蘭はもういなかったので、慌ててしまった、耿二が「嫂さんは昼過ぎに行った、もう暗いから、一人で行かないで今晩はここに泊り、明日行ったほうがいい。俺は前の家に泊るから」と言うと、娘もそうすることにした。
夕飯のあと耿二は前の屠殺人の張家に泊めてもらうことした、この男は独り者で、耿老も桂蘭もいない耿家で桂蘭の従姉妹が一人で泊まっていると聞いて眠れなくなり、夜中に耿二がグウグウ寝たのみるとこっそりと靴を履いて出た。
ところで、耿家のこの日の出来事を西隣の女がはっきり見ていた。女は“耿老の嫁は嫁いで来たばかりで、家にはきっといい物があるに違いない、今晩は娘一人いるだけだから娘が寝たら盗みに行ってやろう”と考え、女は眠られなくなった、どっちにしても男たちは出かけていないからちょうどいい。そこで女は耿老の家の裏に行って中をうかがってみると、なんの音もしない。それから窓の紙を湿らせて穴を開け手を伸ばして窓の支え棒をはずし窓から部屋の中に入った。
床の娘は未だ寝ないで伯母の病気のことを考えていた。すると突然何かが動いて、北の窓から足が入ってきた、驚いてすぐ戸棚の上の仕切りに這い上がった。西隣の女は真っ直ぐ戸棚にいって、どんな物でも構わずに取って包んだ。仕切りの上に腹這いになっていた娘が声を上げようとすると、また北の窓に足がでて、続いて手に尖った刀をもった男が跳び込んできた、前に住む屠殺人の男である、男は耿老の従姉妹が耿老の女房の物を盗んでいると思い込み、心の中で“お前は泥棒だ、俺はお前を夜這いにきて、お前に苦が瓜を食べさせた……苦くて何も言えまい”と考え、有無を言わせず西隣の女を床に引き込んだ。
西隣の女も品物を盗み、もともと悪いことをしているのだから、耿二が戻って来たのだと思い声をあげない。
二人が抱き合っている時、仕切りの上の娘はまた外から人が跳び込んで来て、二人の頭を切り落とすのを目撃した。そして娘は気を失った。 長官はこの事件に関係した者を呼び集めた。耿老は十六日早く出稼ぎに出て、叔父に会ったことを初めから終わりまですべてを話した。長官は役人を遣わして叔父を呼びだした。
この事件を長官は明快に判決した。西隣の女は夜、他人の家に入って物を盗んだ、屠殺人は刀を持って強姦した証拠がすべてある。死は当然である。耿老は誤って人命を害したが自ら役所に自首して来たから無罪、四十叩きの刑、罰として白サンザシの棺桶に二人の死体を納棺しろ。耿老の叔父は冗談を言い二人の命を損なう事件を起こさせ、家名を汚したから百日の牢。
譚振山故事選 1993・4・18