小銅羅
昔、ある所に兄弟が一緒に暮らしていた。兄は所帯を持ったが弟はまだ女房がいなかった。兄夫婦はどちらも酷い人で、両親が死んでしまうと財産を一人占めにしようと、だんだん弟の面倒をみなくなった。弟は自分の働きが少ないから兄夫婦が自分を嫌うのだと思い、土を耕す、種を播く、育てる、刈る、実を取るなどの畑仕事をみんなやって、毎日、日の出ないうちから働き、暗くなって家に帰り、鉄で打ったような体の骨も疲れて、バラバラになるまで働いた。それでも兄夫婦はなんだかんだ言って、弟に辛くあたった。
ある晩、弟が畑から帰ってみると、家の部屋に鍵がかかっている。兄夫婦は用事があって出かけたのだろうと窓の下で待っていたが、夜になっても兄夫婦は帰って来ない。仕方なく弟は窓の下で横になって目を閉じた。強風が起こり大木をビュビュ鳴らし始めたので弟が目を覚ますと、家の中で兄夫婦が話しをしている。「弟の奴でて行ったか」 「まだよ」 「どうして行かないのだろう」すると兄嫁が尖った意地悪な声で「行っても行かなくても、驚くことないわ、この家はあたしたちの家なんだから」と言った。
弟は兄嫁のこの言葉を聞いて、やっと兄嫁が自分を追い出したいのだとわかり、五本の指も見えない真っ暗な夜に何処へ行ったらいいかと悲しくなり、目に涙をためて村から遠くない山神さまのお堂に行った。お堂の中に少しばかりの干し草を敷き横になったがまだ眠ないうちに、突然大風が吹いてお堂の破れた窓の戸がバタバタと音を立てた。
頭を上げて見ると、三つの黒い影が入ってきた、驚いて体を起こしそっとお供え物の台の下に隠れ、台に掛けられた布の影から覗くと、アッ、青い顔と牙、人間ではない。見ていると一匹が「人、臭いぞ」と言う、弟は驚いて息も出せない、するともう一匹が「なに、人臭いか、さっき俺が一人食べたからだ。腹が空いたら、早く俺たちの宝の小銅羅を持って来い、今日は何が食べたいのだ」と言うとまた別の一匹が「この小銅羅は天にも地にもない宝物だ、欲しい物はなんでも出してくれる、それに病気も怪我も治す、でも忘れるな、小銅羅は叩くのも話すのも一回だけだ、やたらに叩くな」と言った。
弟は台の下でこれをすっかり聞いていた。するとまた一匹の妖怪が「もういい、食べようぜ」と言い、壁の割れ目から小銅羅を出し、銅羅を一回叩き口の中で「小銅羅、銅羅々々々々、宴席料理を出してくれ」と言い終わると、湯気のたった料理が台の上に並んだ、三匹の妖怪は食べたり飲んだりすると、小銅羅をもとの所にしまった。三匹の妖怪はしゃべたり笑ったりして、また風を起こしていなくなった。
弟は三匹の妖怪が走り去ると、供え物の台の下から出て小銅羅を捜しだした。とても綺麗だ、叩くといい響きがする。弟は腹が空いたので、不思議が起こるかどうか試してみようと、「よし」と声あげると、小銅羅を一回叩いて「小銅羅、銅羅々々々々、肉饅頭と汁を出しておくれ」と言い終わると、本当にあつあつの湯気といい匂いの肉饅頭と汁が出てきた、食べると美味しい、弟は食べながらこの宝物があればもう心配はいらないと思い、小銅羅を持ってお堂から出た。
夜になって、弟は今晩は何処に泊まればいいかと困り、ふと三匹の妖怪が言っていた小銅羅は欲しいものは何でも出すと言っていたことを思い出して、小銅羅を取り出し、叩いてから「小銅羅、鶏、鴨、鵝鳥、犬のいる大きな屋敷を出しておくれ」と言うとアッ言う間に、青い瓦の大きな屋敷と鶏、鴨、鵝鳥、犬が鳴き叫ぶ庭が現れた。弟は大いに喜び、町の中でも裕福な金持ちになり、すぐ仲人の話がきて美しい妻を娶り、幸せに暮らした。
さて、兄嫁は弟が屋敷や土地を持ち、それに妻も娶り、旨いものを食べ、絹やどんすの着物を着ていると聞き、何処からそんな大金を持ってきたのだろうと、弟の所に聞きに行った。弟は真面目な人で、小銅羅の宝物を手に入れたことを一から十まで細かく話し、屋敷も土地もみんな小銅羅が出してくれたことを話した。これを聞いて兄嫁は急いで家に帰り、無理やり夫をお堂に行かせた。その晩、真っ暗になって兄はお堂に着き供え物の台の下にそっと隠れた、何にも聞こえず、全く静かで待ちきれずイライラしたが、そこから離れることもできず、真夜中に疲れて眠くなり台の下で寝てしまった。
するとお堂の外に風が天と地から起こり、青い顔が光り、尖った口、鋭い牙の三匹の妖怪が入ってきた、三匹の妖怪は入ってくるとすぐ、「人臭い、人臭い」と言った、一匹の妖怪が「小銅羅がない。人が隠れているかどうか捜してみよう」 「うん、捜してみよう」 三匹の妖怪はお堂の中を捜し始めた、しばらく捜したが、人はみつからない、別の妖怪が「人臭いのに人がいない、供え物の台の下を見てみよう」と言った、この時もう兄は目を覚ましていて、供え物の台の下を見ようと言う言葉を聞き驚いて糞を垂れ流し、助けてくれと叫んだが、三匹の妖怪は歯を剥き出して怒り、乱暴に兄を台の下からひきずり出した。
「この犬のような奴め、ここにいやがった」と言い、一匹の妖怪が「こいつの首を伸ばせ」と言い「アレ−」と兄が叫ぶと、たちまち兄の首は妖怪に一尺も伸ばされてしまった。また一匹の妖怪が「足を伸ばせ」と言うと、兄の足はたちまち一本は長く、一本は短くなってしまった。
兄は妖怪にお堂からひきずり出され、驚いてボーとしてしまい、痛いのを我慢して頭を揺らし足をひきづってやっと家にたどり着いた。
「早く開けろ、早く開けろ」と言うと、女房は夫の声を聞いて、宝物を取ってきたと思い、起き上がり急いで門を開けると、アッと驚いて座ってしまった、亭主の首は一尺も長く首長の鹿のようで、足は一方が長く一方が短くてチンバな狼のようだ、女房は亭主に「この廃物、宝も取れないで、そんな情け無い恰好で帰って来て…」と罵った。
弟は兄がお堂に行っても宝が取れなく、かえって妖怪に首と足を伸ばされたのを聞き、小銅羅を持って行き「タン」と叩いて「小銅羅、小銅羅、お前の術で兄さんの首を縮めておくれ」と弟が一つ叩くと兄の首が少し縮んだ、兄嫁が弟の叩き方が遅いと、弟の手から小銅羅をひったくり「タンタンタン」と急いで叩くと兄の首がドンドン縮んで体の中に入ってしまい死んでしまった。
兄嫁は自分で亭主を死なせて、面目をなくし、山に行って木に首を吊って死んでしまった。
姜淑珍故事選 93・3・27